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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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曹奏四季日々 15


 曹操side──


──十月十一日。


雷華が戻って来てから一夜が明けた。

昨夜は言うまでもなく、私達()尽くし。

妊娠していようが、そんな事は関係無いわ。

愛しい事、恋しい事、欲しい事には変わらない。

だから、誰も我慢しようだなんて思わないし。

雷華も平然と受け止め──返り討ちにするもの。

ええ、雷華だからよね。


朝起きた時、久し振りに寝所が大惨事だったもの。

侍女を入れないから、妊娠していない面子から掃除担当者を選ぶ事にはなっているのだけれど…。

流石に今朝の状況には罪悪感が有ったわね…。

私一人ではなく、皆の欲求を満たした結果、だから誰も文句は言えないのだけれど。

今回の担当は貧乏籤(・・・)を引いたわね。


尤も、その辺りの事を後で気遣えるのが雷華。

私達も然り気無く何かしらの御礼はするけれど。

雷華には敵わないし、効果覿面でしょうからね。

私達も必要以上に気にしない様にしないと。

私達にも、そうなる可能性は有るのだから。


まあ、それはそれとして。

雷華の帰りを待っていたのは私達だけではない。

仕事の上では、雷華や私達が不在でも問題無い。

十分に機能するだけの人員と実力を整えてある。

勿論、まだまだ満足して貰っては困るのだけれど。

その辺りは雷華が緩めはしないでしょうしね。

私達としても心配はしていないわ。


けれど、仕事以外の部分での雷華の影響力は広大。

領地の端から端まで日帰り出張(・・・・・)の出来る雷華。

それだけに民からも慕われ、頼りにされている。

依存させる様な事は絶対にしないのだけれど…。

その逆に、引き合いは多いのよね…。

「以前、御指導頂きました桃園が豊作で、是非とも曹純様に見て頂きたいと村の皆が」とか。

「御陰で無事に娘も男の子を出産致しましたので、宜しければ一目見て頂きたく…」とか。

「今年も良い出来ですので御越し下さい」とか。

彼方等此方等から招待の声が届き続けるのよ。

全てに対応は出来無いから、雷華の外交中は不在の情報を流して止めたのだけれど…。

その招待は何れも保留したまま状態。

それを雷華に片付けて貰わなければいけない。

いけないのだけれど……他の娘達が…ねぇ…。


流琉達が一緒に孫家に行っていた事も有るからか、雷華に同行したがって裏で揉めているのよ。

まあ、その程度は日常茶飯事なのだけれど。

効率が落ちても、同行させるべきでしょうね。

何だかんだで雷華と離れていたから甘えたい。

そういう気持ちが有る事は否めないもの。

私自身も含めて、ね。



「──ふぅ…これで漸く一息吐けるわね」



愚痴っている、という訳ではないのだけれど。

つい、そう口にしてしまうのは仕方が無い事。

その保留していた案件を含め、雷華から引き継いだ仕事が漸く終了したのだから。



「雷華様が慕われているのは嬉しい事ですが…」


「それを捌く身になると、嬉しい悲鳴、かしら?」



そう言えば、一緒に仕事をしていた結は苦笑。

声には出さないけれど、否定する気は無いわよね。

そう思うのは私も同じだもの。


事実、今までは雷華自身が対処していた事。

それを雷華の留守中、私と結達数人で分割。

実際に目の当たりにして、改めて感嘆。

──と言うか、よく普通に捌いているわよね。

どう考えても量が可笑しいわ。

…まあ、雷華だから出来るのでしょうし。

それを他の者には求めはしない。

雷華は勿論、雷華に話を持ってくる者達も。

飽く迄も、雷華だから。


それが浸透している事に感心するべきなのか。

或いは呆れるべきなのか。

正直、悩む所よね。


まあ、今の私達にとっては最優先は後継ぎ作り。

私は皇家の、結達は各家のね。

その為、以前よりは必然的に仕事量は抑えているし確実に日々の生活の比重は家庭に傾いているわ。

それを不満に思いはしないし、自分が望んだ事。

勿論、雷華も望んでくれている事なのだから。

夫婦仲に問題が生じるという事も無いわ。


ただね、こうして普段は報告として受け取っていた雷華の仕事を実際に遣ってみたから判る。

これは私達が総出で協力し、矯正する必要が有る。



「…私達は兎も角、子供達が可哀想過ぎるわ…」


「雷華様と比較される事は無いでしょうけれど…

やはり、何処かに期待や慣れ(・・)は生まれますから…」



ええ、結の言う通りよね。

寧ろ、そうしない様にしている私達が雷華の普段の仕事量や遣り方に慣れ過ぎ(・・・・)てしまっているわね。

…まあ、私は雷華の事を言えないのだけれど。


何だかんだで雷華と再会するまでは遣り過ぎている自覚は無かったもの。

その辺りを雷華に指摘されて漸く気付いた。

「別に出来るんだから良いじゃない」と。

最初は不満に思い、反論もしたしね。

だけど、そんな私を基準(・・)にしたなら。

後継ぎとなる子供達や孫や曾孫の苦労は確か。

私は(・・)出来たから」は通じない。

事実としては、確かに、その通りなのだけれど。

それは私個人の言い分でしかない訳で。

私以外の者達からすれば、横暴な理屈に等しい事。

それを気付かされ、以降、意識的に改善してきた。


勿論、それを言っていたのが雷華なのだから。

当然、その辺りは本人も理解しているわ。


ただ…ええ、ある意味、これは不可抗力よね。

流石に雷華の責任と言う訳にはいかないわ。

雷華は飽く迄も、仕事をしていただけ。

それも、私達の負担を軽くしたり、他の者達の為に些事・雑事を纏めて熟していた、というだけ。


しかし、それに私達も皆も雷華も慣れ過ぎた。

それが、こういう結果に繋がってしまっている。

だから、誰が悪いという話ではないのよね。



「雷華が個人的に関わった件や一過性の事であれば本人に任せて置けば良いわ

問題は既に恒例化・定期化している件ね」


「継続する事自体は難しくは有りませんが…」


雷華に(・・・)来て欲しい、という事よね…」



皇帝の伴侶だから、ではないし。

曹家当主の伴侶だから、という訳でもない。

飽く迄も、雷華個人を慕っての事。

…まあ、多少は下心も有るでしょうけれど。

それは誰にでも、何処にでも有る話よ。

極論を言えば、私達だって同じだもの。

だから、其処は然程、気にする様な事ではない。


論点は、雷華が行かないと意味が無いという事。

私達が同伴(・・)する事に問題は無いけれど。

雷華が行けない、というのは問題になる。

勿論、絶対に、という訳ではないのだから、雷華も体調を崩したり、政務の関係上、難しい事も有る。

………いえ、雷華なのよね。

そうよね…雷華なのだから。

そんな事を考える事自体が馬鹿馬鹿しい話よね…。



「夫が有能過ぎて悩むなんて有り得無い話だわ…」



同じ様に思ってはいても、結は口にはしない。

立場云々、という事ではなくて。

何だかんだ言っても愛している事には変わらない。

変わらないから、口にしても意味が無い。

それは私にしても同じなのだけれど…。

まあ、こうして口にする事で意志疎通・意思確認を結を始め、他の皆としている、というだけ。

平気で口に出来る娘も居るけれど。

それはそれ、これはこれ。

向き不向きというのは誰にでも有るもの。

結は特に愚痴ったりするのが苦手な娘だしね。

それでも、雷華にだけは愚痴れる。

それは夫婦ならではの関係性で。

私達には私達の、妻同士ならではの関係性が有る。

逆に雷華には言えない事、というのも有るもの。


尤も、私達の夫は勘が良いし、変化にも敏感。

だから、余程どうでもいい(・・・・・・)事ではない限り。

気付かない、察しない、という事も無い。

気遣いが出来る、という訳ではなく。

本当に、ただただ私達を愛し、見ているから。

だから、些細な変化にも直ぐに気付くのよ。

…気にして欲しくない事には触れないしね。

ある意味、其処が一番凄い所かもしれないわね。

私達が言うのも何だけれど。

天下統一より、女心を察する方が難しい事だもの。


そういう意味でも、世の流れの中心は雷華よね。

小野寺は敵わないでしょうし、北郷は論外。

現状()の各々の立場が物語っているわ。



「まあ、此処で二人で考えていても仕方が無いわ

他の皆と近い内に話し合いましょう」


「雷華様には後から?」


「そうね…別に一緒に話し合っても雷華の事だから構わないでしょうけれど…

雷華が居たら居たで私達も妥協し過ぎるでしょう」


「…そうかもしれませんね」



その状況を想像し、納得した結は苦笑。

雷華が居て、「それは問題無い」と言えば、私達の大半は引き下がってしまうでしょうからね。

別に、それが悪い訳ではないのだけれど。

その積む重ねが、こういう結果に成っている以上、此処で修正し、変えていかなくてはならない。



「何より、雷華は現場主義(・・・・)だもの…

雷華の判断に合わせていたら何も変わらないわ」


「子供みたいな方ですからね」


「子供みたいな可愛気は無いけれどね」



「それは私も同じだけれど」と。

続けそうになる言葉は飲み込む。

言えば結を困らせてしまうし、その事を言うのなら然るべき相手に対して言う方が良いもの。


まあ、それは兎も角として。

結が言いたいのは雷華が子供っぽいのではなく。

「じっとしているのが苦手ですからね」と。

そういう意味での比喩。

実際には、のんびりするのが好きだし、温厚。

ただ、仕事に関しては部屋の中よりも現場が好き。

書き仕事も重要だと判ってはいるでしょうが。

それでも、現場で動いていたい質なのよねぇ…。


……今考えると、それが根本的な問題なんだわ。



「…華琳様?」



気付いた瞬間、思わず頭を抱えてしまった私を見て結が心配そうに声を掛ける。

昔とは違い、結達にも弱さを見せる事は出来る。

それは私自身が強くなり、余裕の出来たからこそ。

──なのだけれど、こういうのは嫌ね。

つい、だから仕方が無いのだけれど。

…取り敢えず、話をして誤魔化す事にしましょう。



「その雷華の現場主義が事の一番の問題点ね」


「………あ…」



自分で言った筈の結ですら、言われて気付く。

それ程に雷華の現場主義は周知されている訳で。

それが、巡り廻って、彼方等此方等に影響しているという当たり前の事実に、今になって気付く。

私が思わず頭を抱えてしまうのも当然の様に。

結も反射的に口元を隠した。



「話し合いには雷華は絶対に不参加よ

居ても役に立たなそうな面子を同伴させて何処かに行かせている間に具体的に話を詰めて纏めるわ

幸い、行き先には困らない状況だもの」


「それでは直ぐにでも?」


「いいえ、取り敢えず、冥琳と雪那を呼んで頂戴

他は出易い(・・・)から雷華に悟られるわ」



根回しをするという訳ではないのだけれど。

…いえ、それも丸っきり否定も出来無いわね。

雷華に感付かれてしまっては話し合いも出来無い。

現場主義の雷華だからこそ、抵抗するでしょう。

反論するだけなら幾らでも言わせてあげるけれど。

雷華の場合、其処に実績が伴うから厄介なのよ。

それに、確実に外堀を埋めて潰しに掛かる筈。

何しろ、「大人しく部屋で仕事をしていなさい」と外に遊びに行きたい子供に対して勉強をさせようとするのも同じなのだから。


それでも素直に従う子供なら困らないのだけれど。

質が悪い事に、その子供は可愛気が無いのよ。


きっちりと勉強を終わらせてから外に遊びに行く。

「遣る事は遣ってるから文句無いよね?」と。

揚げ足を取る様に、正面突破を遣ってくる。

そういう質なのが雷華。


勿論、勉強させる事が目的なら、それでもいいわ。

けれど、外に行かせない(・・・・・・・)事が目的の場合。

そういう正面突破が可能な方法は使えない。


だからこそ、雷華に感付かれてしまえば終わり。

本の僅かな隙も許されない。

その為には此方等も神経質な位に慎重に。

けれど、普段と変わらぬ様に過ごす必要も有る。

そういう意味でも雷華の目を誤魔化す囮役は大事。

ある意味、事の成否の鍵を握るのだから。



──side out



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