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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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刻綴三國史 35


──十月十日。


調査を終えた俺達は建業へと戻り、各々の仕事へ。

病状や抗原から開発していた治療薬に調査によって得られた情報を新たに加え──完成。

臨床試験を行い、その効果の有無も確認済み。

無事、発芽病を治療出来る事が判った。


勿論、万が一に備えて俺達が付き添っての実施。

如何に必要な事であろうとも、無暗矢鱈に民の命を犠牲にする様な真似はしない。

それが他国の民(・・・・)だったとしてもだ。

一人の犠牲が、巡り廻って大きな火種と成る。

そういった事態を何れだけ見てきた事か。

同じ様な事を何れだけ人類史は繰り返すのか。

嫌という程に、知っている。

だからこそ、少し想像すれば判る愚行はしない。

長い目で見れば、それが国の為、民の為となる。


目先の利益に飛び付く獣の様な馬鹿ではない。

…いや、それは獣に失礼だな。

獣の方が、人間よりも遥かに学習能力が高い。

同じ過ちを繰り返すのは愚行でしかないが。

ある意味、人間らしいとも言えるのだから。

人間という生き物は本当に業の深い存在だろう。


まあ、そんな事は兎も角として。

発芽病に関する報告書と、関連書類の全てに俺達は署名し、双方で保管・継承していく事に。

あやふやな方が良い利権というのも存在はするが、何かしらの問題が起きた時、責任の所在が不確かな案件というのは無駄に無意味に長引き時間を費やし経費ばかりが嵩んでゆくもの。

そうでなくても、時代が進めば記録が失われたり、後々改竄される事も珍しくはない。

そういった事態を引き起こさない為にも。

こうした書類を作り、後世に引き継ぐ事も政治。


自分達に都合の良い方向になる様にしか考えない。

そういった輩は政治家ではない。

単なる独裁者。

或いは、自分勝手な支配者だろう。

そして、得てして消えてゆく宿命。

そんな輩を野放しにする程、世界は甘くはない。

不特定多数にとって害悪である以上は、必ず。

悪は滅ぼされるものなのだから。



「此方等の事情に巻き込む形となり、随分と予定を超えてしまい申し訳有りません」


「今回の事は御前達の責任ではない

偶々、そうなってしまっただけだ

不可抗力である以上、気にするな」


「有難う御座います」



社交辞令として、ではなく。

「仕方が無かった」とは絶対に言えない。

言ってはならない。

それが外交上では厳守しなくてはならない事。

どんな理由であれ、巻き込む形になった事実自体は間違い無い事なのだから。

その辺りは責任を負わなければならない。


ただ、だからこそ、俺は孫策の謝罪を受け、赦す。

きちんと筋を通し、責任の所在を明らかにした事で今回の一件での彼我の立場は明確になる。

それが出来る孫策達だから、赦す価値が有る。


もしも、これが上辺だけで、蓮華と姉妹である事を利用して「形式的には謝るから赦してね」みたいな事を考えていれば、それっきりだったがな。

その心配は必要無かったとは思うが…。

人は自分に甘く、都合の良い様に考えるもの。

まあ、だから今回の一件で深く(・・)見えた。

それが宅にとっては一番の収穫だと言える。


──とは言え、それで満足されては困るからな。

“上げて、落とす”は成長促進の基本。

まだまだ成長の余地が有るのだから。



「まあ、今後は(・・・)御前達の責任になるがな

その辺りの事は言われずとも判っているだろう」


「はい、曹純様や皆様が御滞在中であったからこそ事態は拡大せず、早く収める事が出来ました

ですが、それに甘えてばかりでは居られません

私達も教わった事を活かし、発展させて参ります」


期待している(・・・・・・)ぞ」


「「「──────っっっ!!!!!!」」」



俺の言葉の真意を、その先に有る可能性を。

しっかりと感じ取り、身を強張らせた。


まあ、全員ではなかったが。

それは大して気にする事ではない。

必要最低限の人物達は理解したのだから。

後は、孫家の中で拡大し、浸透すればいい事。

この場で俺が必要以上に諭し、示す必要は無い。

それは遣るべき者、背負うべき者の役目。

少なくとも、それは俺ではない。

俺は曹魏の(・・・)曹純なのだから。



「次、こういった機会が有れば、ゆっくりと観光し楽しみたいものだな

さて、そろそろ失礼させて貰うとしよう

孫策、そして、孫家の者達よ、世話になった」


「また御越し頂ける様に頑張って参ります

曹純様、皆様、本当に有難う御座いました

曹操様、他の皆様にも宜しく御伝え下さい」


「ああ、確と伝えておこう」



そう締め括り、俺達は迎えに来た曹魏の船に乗る。


孫家側の船ではないのは、まだ完全には往来封鎖を解除してはいない為。

曹魏から迎えが来る事で、両側の民にも示す。

如何に政治的な立場であろうとも、例外は無い。

寧ろ、そういう立場に有るからこそ。

自分達が厳守し、しっかりと民にも示す。

それが出来無い様な輩に人の上に立つ資格は無い。

尤も、そんな無責任な輩は採用すらしないがな。


遠ざかってゆく孫策達の姿と港を眺めながら。

流琉達と帰りの船旅を楽しむ事にする。

俺達にとっては1分と掛からずに駆け渡れる(・・・・・)距離だが、それは流石に遣る訳にはいかない。

船だけ残して帰ればいい話にも思えるが。

曹魏の港にも孫家の民は居るからな。

だから、船と共に彼等に姿を見せる事も必要。

信憑性や説得力を持たせる、という意味でもだ。


それにしても…かなり予想外の外交になったな。

ゆっくり出来ていた様で、忙しくもあった。

…尤も、退屈だけはしなかったのは確かだ。

流石に孫策達や民には言えないがな。






「御帰りなさい、御苦労様」



そう言って出迎えてくれた華琳を抱き寄せる。


港に着き、一通りの手続き等を済ませれば、帰宅は最短最速で遣っても問題は無い。

だから、真っ直ぐ帰宅しましたとも。


仕方が無い事だとは判ってはいるが。

それでも何日も顔を見ず、触れ合えもしないのは、精神的に良い事ではない。

依存している、という訳ではないのだが。

やはり、愛し恋しいものは欲してしまうのが性。

例え、妊娠中で求め合えないとしても。

その温もりや存在を感じたいとは思うのだから。


──と、ゆっくりと浸りたい所なんだが、そういう訳にもいかないのが一夫多妻の悩ましい所で。

他の皆とも抱き合い、暫し離れていた時間を埋める様に御互いの温もりを確かめ合う。

…飽く迄も抱擁までですけど。

それ以上は今夜から(・・・・)の俺の頑張り次第。

夫婦円満の為にも必要不可欠な事ですから。


場所を移し、改めて一通りの説明を行う。

事前に報告はしているが、それはそれ。

他にも各部署の責任者や担当者も揃っているしな。


今後の孫家との遣り取りは彼等彼女等の仕事。

だから、こうして早めに引き継ぐ事も重要。

下手に引き延ばすと逆に説明や移行が長引く事も。

そうならない為にも早期に引き継ぐ。

この手の案件は十年単位で任期を考えないとな。

新任には引き継げない為、二~三年以内には後任の候補者を選抜し、育てながら遣ってゆく。

そういう長期的な仕事になる為だ。



「…そう…取り敢えずは、一段落、で良いのね?」


「ああ、此処で発芽病の病原を壊滅させるよりも、残して広く浸透させた方が後々には良い結果になる

医療の原点にして極致は自己治癒(・・・・)だからな

民に免疫や抗体が出来る方が将来的な被害の減少に繋がる事は間違い無い」



──とは言え、それは氣を扱える宅だからの話。

他所で真似しようとすると犠牲者は避けられない。

少なくとも孫家側では暫くは犠牲者も出る可能性は否めないし、仕方が無い話でもある。

それでも、そうするしかない。

此処で宅が干渉し過ぎると、孫策達の求心力を削ぐ事にもなってしまうからだ。

そういう意味でも、これ以上は不用意には関わらず政治的に適度な距離を取って協力・連携する。

その為には俺達夫婦は近付き過ぎるからな。

その事を、この場に居る全員が理解している。


蓮華を始め、縁や繋がりの有る者達からすれば色々思う事は有るだろうが。

それでも、一時の感情には流されず、大局を見て、それを飲み込み、納得する。

割り切るのとは少し似ている様でも違うがな。


説明と基本方針の確認が終われば、大半が退室。

残ったのは留守中の事で俺に報告が有る者達。

華琳達も半数は退室している。

既に産休に等しい状況である事も理由だが。

敢えて知らない者を作り、客観的な意見を得られる環境や状況を確保する為だったりする。


情報化社会では、社会的な透明性という理由から、情報公開を良い事とする風潮が有る。

しかし、何でもかんでも兎に角、情報を公開すれば良いという訳ではなく。

情報を公開する事の意味を考えなくてはならない。

逆に、公開すべき情報は隠す事により発生する問題というものを考えて伏せなくてはならない。


その辺りを見極め、判断・指示するのが政治。

それが出来無いからと対応マニュアルを作成すると応用というのは出来難くなる。

最低限の判断基準を設ける事は悪くはない。

しかし、それが法的な根拠や責任転嫁に繋がる様な可能性が有るなら、それも加味しなくてならない。

それを軽視したり、無視すると社会問題の温床に。


また情報を共有する事にもメリット・デメリットが有るという事を決して忘れてはならない。

どんな情報であろうとも、それを見る者・聞く者が必ずしも取捨選択出来る能力を持つとは限らない。

その上、情報の真偽を確認したり、規制する方法が確立されていないのなら。

どの様な事態を引き起こすのか。

それを想像しなくてはならない。




一通りの仕事を終え、漸く、今回の外交が完了。

「家に戻るまでが遠足」と言うのと同じ。

明日からの仕事に通常通り(・・・・)出来て、だ。

…まあ、普段の日帰り出張も同じ様なものだが。

それは自分から(・・・・)遣ってる事だからな。

それだけでも地味に大きな違いだったりする。

特に気分的・精神的にだ。



「御疲れ様、雷華」


「有難う、華琳」



華琳の淹れてくれた御茶を飲み、一息吐く。

この一杯で、漸く落ち着けた気がする。

大袈裟ではなく、やはり、特別なんだと思う。

勿論、他の皆の事も愛してはいるが。

それはそれ、これはこれ、という事。

其処だけは俺としては譲れない。



「期待していた御土産(・・・)は無かったわね」


「──っ…あのなぁ…出来る訳無いだろう…」


「あら、一人位なら大丈夫でしょう?

御持ち帰り(・・・・・)出来そうな娘は居た筈よ?」



これが浮気を疑う妻の遠回しな追及だったら、俺は真正面から受けて立ち、身の潔白を証明する。

しかし、現実には、そうではない。

寧ろ、愛妻は推奨(・・)している。

まあ、浮気ではなく、本気を(・・・)だが。

この価値観だけは我が妻達と言えど相容れない。

何故、そんなに俺に妻を増やしたがるのか…。



「貴男の血を引く子を一人でも多く残す為よ」


「五十歳でも産んで貰うから、それで良いだろ?」


「それはそれよ、言われなくても産むつもりよ

その上で一人でも妻が多ければ大きく増えるもの

だから、()を付けた娘は居ないの?

華雄とは良さそうな雰囲気だったみたいね?」


「良さそうも何も無いって…

華雄は純粋に俺の指導に感心していただけだ」


「其処から始まる恋も有るでしょう?」



そういう事に心当たりが無い訳ではないから困る。

──と言うか、宅の妻達の三割位が該当する。

思春や蓮華、愛紗とか。

否定出来無いから質が悪い。

…自業自得と言われれば、それまでの事なんだが。



「まあ、焦らずとも何かしらの切っ掛けが出来れば向こうから動くでしょうからね

楽しみに待って置くとしましょう」



出来れば忘れ去って欲しいものだが…。

無理な話だろうな。


取り敢えず、この傷付いた心を癒して貰おう。

刃を突き刺し、グリグリと抉ったのだから。

その責任は、しっかりと取って貰いましょう。

御腹の子供に影響はさせません。




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