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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
859/915

刻綴三國史 25


 小野寺side──


突如として始まった疫病騒動。

それは予期する事の出来無いテロの様なもので。

しかも、自分達には抗う術すらないという現実に。

思い返すだけでも無力感と絶望感を禁じ得ない。


──と同時に、自分達は幸運(・・)だと思う。

当初は戸惑ってしまったが。

今は曹純様が来ている時で良かったと心から思う。

もし、後二日、最初の発症者が出るのが遅ければ。

彼等は曹魏へと戻っていた。

そう為ってからでは何れ程の犠牲者が出ていたか。

考えるだけでも、青ざめてしまいそうになる。


…確かに政治的な観点から言えば複雑な所だが。

それよりも、民の命が守られている事が重要。

雪蓮が、皆が、俺自身が、興国を目指す理由。

それこそが、“民の為の国”なのだから。



「それにしても色々と有り過ぎて頭が理解出来ずに置いてけぼりにされてる感じよね~…」


「…実際、置いて行かれても仕方が無いわ

曹魏と私達とでは疫病への対策や意識が段違いで、確実に足を引っ張っているもの…」


「まあ、そうよね…

宅も祐哉が居なかったら当事者なのに蚊帳の外(・・・・)って状況でも可笑しくなかったでしょうしね」



そう言いながら、雪蓮と詠が此方を見る。

二人に苦笑を返したら、俺はベッドの上に仰向けになって天井を見詰めて大きく息を吐く。


取り敢えず、少し整理したいし、気を緩めたい。

…まあ、そういう意図も有るんだろうけどね。

曹純から提案された部屋割りには。

曹純は典韋と二人部屋で、俺達は三人部屋。

一人一人個室、とか男女別とか、五人一緒とか。

そんな選択肢は有り得ません。

曹純と二人きりで一晩?。

雪蓮なら兎も角、チキンハートな俺には無理です。

必要に迫られたり、強制的不可抗力な事態でもない限りは御遠慮させて頂きたいですから。

精神的に、色々と気が休まりません。

だから素直に曹純の提案に乗りました。

雪蓮も詠も、典韋も否は有りませんでしたから。


きっと、典韋は二人きりを堪能中でしょう。

曹純と奥様方の仲睦まじさは見ていて判ります。

ええ、滅茶苦茶イチャラブしてる感じなので。



「……ねえ、祐哉?

“天の国”では平民でも疫病には詳しいの?」


「いや、そんな事は無いと思うよ

勿論、雪蓮達の常識からしたら、その知識の水準や一般的な認知度は上になるんだろうけど…

それでも、初動や初期対応っていう意味じゃあ今と大差無いって言っても間違いじゃないかな」


「…それは……曹純も含めて?」


「あー……其処は特別だろうね

──と言うか、俺達って同じ世界(・・・・)から来たっていう訳じゃないみたいだしね…

正直な話、共通点は有っても差異も有ると思う

だから、「全く同じ」とは言い切れない」


「御免なさい、今のは私の言い方が悪かったわ

訊きたいのは、そういう意味じゃなくてね

疫病に対する危機意識(・・・・)はって事」


「あ、そういう事…」



ちょっとした勘違いで詠と二人、頭を掻く。

普段、雪蓮絡みだと多少言葉足らずでも理解し合う事が出来ているだけに。

今の勘違いは、何故か妙に気恥ずかしい。

──とは言え、照れて恥ずかしがると不味い。

直ぐ傍には面白がって揶揄ってくる雪蓮が居る。

だから俺も詠も直ぐに切り替える。


…その時の二人だけの意識疎通の感じや。

詠の照れてる姿が可愛いと思ったのは内緒。

雪蓮の機嫌が悪くなるだろうからね。



「正直に言うとさ、俺が大きな疫病に巻き込まれる事態を経験するのって、此方に来てからなんだ」


「そうなの?」


「うん、ただまあ、何て言うのか…ほら、疫病って色々有るし、厄介さもピンキリでしょ?

風邪だって“他人に移る”って意味じゃ疫病だし

昼間にも少し話に出たけど、食中毒だってそう

原因や症状、治療法や予防法は違ってるけど…

どう分けるのか、どう定義するのか…

それによって疫病の認識も変わってくるから」


「まあ、確かにそうよね…

だったら、今回みたいな未知の疫病って事なら?」


「それこそ、直接は関係無かったよ

勿論、世界規模でなら他国で未知の疫病が発生して大変だったっていう事は有ったけど…

結局、その時は“他人事”だったからね…

でも、それは俺だけじゃないと思う

俺の周りに居た人達、俺の国の大半の人達が同じで危機感を懐いてはいなかったと思うよ

話題としては注目されてはいたけど…

「今後、そういった事態が起きた時に備えて」って具体的な方法や国家対策が講じられていたって話は聞いた事が無かったから…

勿論、俺が知らないだけかもしれないけど…

俺みたいな一般人は、皆似たような感じだと思う

それに…それは国としても言えると思う

曹魏みたいな国は存在してなかったよ」


「……つまり、危機意識は大差無いって事?」


「いや、多分、此方の人達の方が危機感は強いよ

彼方──天の国だと、色々な技術や学術が進んで、未知への恐怖心が薄れてる分、鈍いと思う

曹魏みたいな国にしようとしたら………

多分、百年じゃ足りないと思うよ」


「………マジで?」


「常識や認識って簡単には覆せないからね

長い歴史の中で人類は幾多の疫病の危機を越えて、様々な疫病や病気を克服してきた

その結果生じた「我々は勝って来たんだっ!」的な思い上がり(・・・・・)を嘲笑う様な事が起きても…

中々、染み付いた意識は変えられないよ」


「そうね…そうかもしれないわね…」


「詠もそう思うの?」


誰かさん(・・・・)が反省しないのと同じよ」


「ぅぐっ…」



詠の的確な指摘に雪蓮が顔を背けた。

「全く…」と睨む詠の冷たい視線を見つつ苦笑。


ただ、自分で言っていて、改めて思う。

「平和ボケ」って、戦争の有無だけじゃない。

そういう疫病や自然災害や大事故が世界の何処かで起きていたとしても。

結局は他人事でしかなかった。

本気で危機感を懐き、真剣に考え、備える。

そういう意識は微塵も無かった。

だって「そんな状況に自分が置かれる筈が無い」と思って安全性を疑いもしなかった。

絶対ではない可能性を。

安易な思考で自分から切り捨ててしまっていた。


そんな、曾ての自分を今、客観的に見たなら。

はっきり言って、「お前っ、馬鹿だろっ?!」だ。

いやもう本当にね、マジで頭悪過ぎでしょ。

何を根拠に「自分は大丈夫だ」なんて思うのか。

過去の自分に会えるなら、殴り飛ばしたい。

空に光る星になる位に、遥か彼方まで。



(…けど、それが普通(・・)だったんだよなぁ…)



本来、疫病等の危険は常に側に在るもので。

だからこそ、日々の生活の中で気を付ける必要性が有るんだけど。

情報化社会になるに連れて、其処(・・)が歪み始めて。

デマや噂に踊らされ、振り回される人々を見て。

「馬鹿な奴等だな、そんなのに騙されるなんてさ。ちょっと考えれば子供でも判る事だろ…」と。

「情報の真偽も大事だけどさ、取捨選択しろよな。その判断は自分自身にしか出来無いんだから」と。

他人事として思っていたんだけど。

結局は自分も、そんな中の一人だったんだと。

違う環境に置かれてみて、漸く気付けた。

それ程に、多くの人達が自分の思考を疑わない。


誰かが意図していたのなら凄まじい所業。

文字通り、“神業”と言っても過言ではない。

しかし、そうではない。

発達する技術に対し、人類の成長が伴わない。

その結果、誰に意図されるでもなく──歪む(・・)

それ故に、誰も気付かないまま、拡大する。

食い止める防波堤も無く。

駄々漏れする濁流の様に人々を飲み込みながら。

誤った認識という汚水の中に浸らせて。

気付かないまま、溺れさせる。


気付いてしまうと、心身が恐怖に震えそうだ。

考えない様にしたいが、考えなくてはならない。

その相反する状況が悩ましい。

勿論、考えないという選択肢は有り得ないけど。



「はぁ~…つまり、曹魏が凄過ぎるって事よね…」


「うん、まあ…それは間違い無いね、今更だけど」


「本当、今更よね」


「もうっ、二人して同じ事言わないで頂戴っ」


「はいはい…でも、それも曹純が居てこそよね?

それって裏を返せば、そういう経験を曹純はして、色々と考えたり学んだりしてたって事よね?」


「それは………ちょっと難しいかな」


「どうして?」


同じ(・・)じゃないから判らないんだけど…

多分、曹純は備えてたんだと思う

勿論、その可能性は否定出来無いんだけど…

少なくとも俺達とは違う戦場(・・)を知ってる

だから、あの大決戦でも主導権を握れてた

曹操が言っていた様に、全てを欺ける程にね

だったら、あらゆる状況に対し備えてたって考える方が納得出来る気がするんだ」


「………そうね、決して一部ではないわね」


「……こういう事は考えたくはないけど…

全てを見透かしている様で怖くなってくるわ…」


「詠達の立場や性質的には特にそうでしょうね」


「こういう時は誰かさん達(・・・・・)が羨ましいわ

考え過ぎず、そのまま受け入れられる所がね」


「その誰かさんって?」


「さあ、誰かしらね」



そう言って睨む雪蓮を揶揄う詠。

普段とは立場が逆転している構図が面白い。

──とは言え、声を出して笑えば飛び火する。

だから、可笑しくて笑うのは心の中でだけ。


そうして少しだけ肩の力が抜けてから、考える。

今の自分達に何が出来るのかを。


曹純と曹魏を頼るしかないのが現実だけど。

出来無い事が何も無いという訳じゃない。

ただ、“何をしたらいいのかが判らない”だけ。

そういう意味でも曹純達の指示からは学べる。


人から人への感染が殆んど無くて。

水や食事等からの感染も可能性は低い。

そういう意味では感染の拡大率は低いと思う。

勿論、油断は出来無いけど。


その上で原因の究明は必須で、最優先事項。

なら、その次に来るのは?。

後々の事を考えての経済対策?。

根絶する為の徹底した浄化作戦?。

………いや、そうじゃないな。



「…あのさ、雪蓮、詠、相談なんだけど…」


「何?、面白い事?」


「…あんまり良い話な気がしないんだけど?」



正反対な反応をする二人を見て、思わず苦笑。

詠が「面白がるなっ!」と雪蓮を睨み付ければ。

「えーっ、何でよー」と拗ねる様に頬を膨らませ、無言で抗議する雪蓮。

その普段通りの遣り取りが心地好い。

だから、守りたいと思う。

この日常が、皆の日常が、崩れてしまわない様に。



「今回の件が片付いたら、華佗を探そうと思う」


「それって宅に招き入れるって事?」


「可能なら、それが一番良いんだけどね

でも、そうじゃなくて華佗に教えを請おうと思う」


「………それはつまり、祐哉がって事?」


「うん、他の事は兎も角、疫病に限定して考えれば俺が一番適役なんじゃないかと思うんだ

曹純までは無理でも、多少の知識は有るし…

疫病に絞って教われば、俺でも学べると思う

それで、学んだ事を軸にして孫家主導の疫病対策の専門部署を作って、将来的には研究も始めたい

何時までも曹魏に頼る訳にはいかないんだから」


「祐哉…」


「……っ…言ってる事は判ったけど、大変よ?

少なくとも、今遣ってる仕事と両立出来る?」


「…正直、其処は難しいかな

だから、遣るなら専念する事になると思う」


「他の人材を育てるのは?」


「将来的には必要な事だと思うよ

でも、最初は俺が始めた方が良いと思うんだ

雪蓮や詠にしても、曹純の説明とかは解らない点が多々有って直ぐには飲み込めないよね?」


「あー…まあ、そうね~…」


「確かにね…そういう意味では祐哉が適任ね」


「それと、可能なら曹魏にも行って学びたい」


「………アンタ、馬鹿じゃないの?」


「それは流石に酷くない?」


「思わず、そう言いたくもなるわよ…

まあ、華佗に学んでから、という辺りが冷静だし、ちゃんと考えてるって判るけど…

それ、私達が交渉するのよね?」


「…あ、あー……あはは…」



そう言って睨まれてから気付いた。

前みたいには出来無い事に。



──side out



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