表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫三國史  作者: 桜惡夢
853/907

刻綴三國史 19


特に問題も出ず、滞り無く馬岱との会談を終えて、親族として(・・・・・)親睦を深めるべく食事へ。

特に深い意味は無いのだが、客観的に見た場合には色々と勝手な想像や憶測が生じる事だろう。

それを一々気にしていたら切りが無いので無視。

寧ろ、変に意識している方が怪しく見えるもので、有りもしない事が有る様に見えてしまう。

だから堂々としている方が意外と良かったりする。

勿論、自然体で居られれば、それが一番なのだが。

それは出来そうで出来難い事。

それよりも、開き直る方が簡単な対処方法だ。


そんな馬岱と街へと出掛ける途中、偶々(・・)、遭遇した小野寺と周泰を拉致。

──否、同行者(パーティー)に加え、いざ街へ。

そう、偶々で、偶然で、珍しくもはない事。

決して、狙った訳ではない。


それはさて置き、この面子に護衛は要らない。

体裁上は必要かもしれないが、今は馬岱との会談の延長みたいなものである。

よって、無粋な護衛は要らない、という訳だ。

小野寺達は「いや、でも…いいのか?…」と揃って悩んでいたが、考えるだけ時間の無駄。

──という事で、さっさと街に向かう。

そうすると俺を無視出来無いので追うしかない。

これに限っては確信犯である。




「ああ、そうだ、今まで話す機会が無かったがな、幼平、御前の事を仲謀が気にしていたぞ」


「──っ!…っ…仲謀様は御元気でしょうか?」


「ああ、元気だ、聞いているとは思うが俺との子を身籠っているから、その分は大変な時期だがな

それも暫くすれば落ち着く

…まあ、男には解らない苦労だがな」


「それは…えっと、仕方が無い事かと…」



反応に、言葉に困る周泰。

揶揄うつもりは無い………事も無いが。

やはり、こういう娘が相手だと遣り難いものだな。

勿論、遣ろうと思えば出来るが。

帰った後、蓮華に睨まれるだろうから自重する。


夫婦円満の秘訣の一つは家庭外での自制心。

調子に乗っても良い事なんて殆んど無いのだから。

寧ろ、弾けるなら家庭内の方が良いだろう。

家族に白い目で見られても、それだけで済む。

社会的な評価に影響は無く、自分を知れる。

調子に乗った自分が如何に愚かなのかを。

最小限の傷で理解出来るのだから。

逆を思えば、その違いが判る事だろう。

解らないのなら、それだけの事。

軈て、取り返しの付かない過ちを以て、判る事。

自分が如何に愚かだったのかが。

絶望・失意・破滅・後悔・挫折等々。

そういった痛傷(いたみ)を伴ってな。


そんな話は兎も角として。

周泰にも確認して置かなければならない事が有る。

影響は然程大きくはないが、小さい訳でもない。

微妙に面倒な話なので回りくどい真似はしない。



「周泰、曹魏()に来る気は有るか?」


「「「──っ!!!???」」」



そう率直に訊ねれば周泰は勿論、小野寺達も驚く。

当然と言えば当然だが、これだけを切り取ったなら間違い無く引き抜き(ヘッドハンティング)なのだから。

その反応は必然的だと言えるだろう。


ただ、少々気を抜き過ぎている事も否めない。

「気を許している」と言えば聞こえはいいのだが、言い方を変えれば、「根拠の無い勝手な妄想だ」と切り返す事も出来無い訳ではない。

勿論、信頼というのは眼には見えないものであり、何れ程に美辞麗句を並べようとも、金銀財宝を貢ぎ政略結婚等で血縁関係を深めようとも。

それらが絶対の確証に至る事は無い。


そういう意味では、結局は当事者同士の心持ち次第としか言えないのが実情だろう。

だから、小野寺達が間違っている訳ではない。

ただ、少しだけ、油断している事も確かだろう。

それを自覚させる為に態と率直に言っただけ。

本気で口説こうとは思ってはいない。



「まあ、そうは言っても今直ぐにという話ではなく将来的な可能性としての話だ

御前の孫策──孫家への忠誠心や恩返しをしたい

そういう思いが有る事は理解している

ただ、それと同じ位に仲謀個人に対する恩も大きい事も間違い無いのだろう?」


「…っ……はい、仰有る通りです

正直な気持ちを言えば、仲謀様が曹魏に居られると知った時には直ぐにでも向かいたかったです

ですが、伯符様や孫家の皆様への御恩も有ります

その事で悩んでいた事は事実です」



そう言った周泰を見詰め、小野寺達は沈黙する。

何かを言ったとしても、それは所詮は他人事。

周泰の苦悩を、本当の意味では理解出来無い。

馬岱は、立場的には近い状況なのかもしれないが、本人の性格等の違いも有る。

それらを考えれば無責任な発言は出来無い。

だから沈黙してしまうのは可笑しくはない。

冷静に、客観的に、状況を見て考えたなら。

ある意味では、それが最善と言えるのだから。



「今は目の前の事を考えればいい

時間が立てば状況や立場も変わる

その上で、仲謀に仕えたいと思うなら歓迎しよう

無理に曹魏に属す必要も無い

何年か仲謀に仕えた後、此方等に戻ってもいい

今は(・・)独身でも未来の事は判らないからな」


「はぅっ!?…そ、それは…そのっ…えぇっと…」



そう、少々意味深な言い回しをして遣れば、周泰は顔を赤くして俯いてしまう。

その純朴な反応を可愛いと思いながら、彼女の頭を伸ばした右手で撫でる。


幼平(あの娘)は真面目だし、純朴だから」と。

出発前に俺に念押ししていた蓮華の顔が浮かぶ。

実妹の孫尚香よりも、妹の様に思っていた周泰への蓮華の“お姉さん”振りに自然と笑みが浮かぶ。


まあ、この質問は飽く迄も可能性の話に過ぎない。

現実的には、現時点で周泰を引き抜きはしない。

勿論、周泰自身が孫家を見限ったり、蓮華に対する想いを重視して決断したならば、話は別だが。

無闇矢鱈に孫家の力を削ぐ真似はしない。


それと、今はまだ周泰自身に想い人が居なくても、少しは自身の未来や幸せを意識して欲しい。

そんな蓮華の意思を尊重する為の、切っ掛け作り。

これで一気に動き出す訳ではないだろうが。

何もしないよりかは少しは動きが生じると信じて。


尚、俺が口説いて娶るという可能性は有りません。

もう既に妻なら十二分に居ますので。




そんなこんなが有ったが、周泰に案内された御店で小野寺達と談笑しながら昼食を済ませた。

御店の前に着いた時、周泰が「実は此処は御猫様の長老様に御聞きしました!」といった発言が有り、正直、不思議で仕方が無かったが。

いや、動物との意志疎通は可能性だ。

それは俺達自身が知っている事だからな。

但し、それは氣が有って出来る事なのだが…。

どうやら、周泰は猫への常軌を逸した愛情と尊敬で意志疎通が可能性ならしい。

まあ、全ての猫と、という訳ではない様だが。

それでも十分凄い事だと言える。

人間の可能性の一端を垣間見た気がしたな。


御店を出て、少しばかり散策をする。

小野寺達は案内役兼護衛役だ。

本当は不要だが…それが政治の面倒臭い所だ。

──とは言え、愚痴っても気にしても仕方が無い。

それなら、気にせずに楽しんだ方が良い。

そういう風に考える事が出来れば、物事の見え方や受ける印象というのも変わってくる。

心の余裕は、視野や思考に柔軟性を生む。

故に、人の上に立つ者には欠かせない事だろう。

一杯で、余裕の無い者が他者を気遣ったり慮ったり出来る訳が無く、良い結果にも繋がらない。

心や雰囲気に余裕の無い組織は綱渡りと同じ。

小さな狂いが、組織全体を崩壊へと瞬く間に導く。

ドミノ倒しの様に、負の連鎖は止まらずに。


逆に多少の失敗や誤算を許容出来る組織は強い。

勿論、それに甘える様では組織には不要だが。

反省し、繰り返さない為に自らが成長する。

それが出来るなら、組織も個人も強く成れる。


尤も、効率と利益ばかり考えていると出来無い事。

それが悩ましい部分では有るのだが。

それを打破・解決する事が。

一つの挑戦であり、面白さ・醍醐味でもある。



「──ん?、何だか騒がしいな」


「……え?」


「…あ、本当ですね」


「彼方の方みたいだね~」



俺の言葉に、キョトンとする小野寺。

耳を澄まし、直ぐに気付いた周泰と馬岱とは違い、小野寺の身体能力は然程高くはない。

勿論、比較する相手が悪いのも確かだが。

周泰は隠密任務の性質上、馬岱は馬一族の性質上、共に耳の良さと瞬間的な選り分け技術が高い。

騒音・雑音等の多い社会で生まれ育った小野寺には身に付けたくても難しい技術の一つだと言える。

絶対音感でも有れば話は違うのだが。

そういう才能が有る様には思えない。


──とまあ、それは置いとくとして。

騒ぎの方へと向かってみる。

普通なら小野寺達も止めるべき場面なのだが。

主君が孫策(アレ)だからな。

こういう時、現場に向かう事自体を否定する思考が働き難くなってしまっているらしい。

ある意味、鈍くなり、慣れてしまっている訳だ。

賈駆が知れば、間違い無く説教()ものだな。



「誰かっ!、手を貸して頂戴っ!」


「──って、雪蓮っ!?」


「祐哉っ!?、いい所に来たわね!、手伝ってっ!」



二重三重に出来た人垣を抜けた先に居たのは孫策。

思わず声を出した小野寺を見付け、即座に巻き込む辺りは彼女らしいと言える。

それに疑わずに従う小野寺も小野寺だが。


そんな騒ぎの中心──現場には孫策以外にも地面に倒れ伏している人影が有る。

孫策に斬られた賊徒や不埒者ではない様だが。

地面には真新しい染みと、辺りに漂う生臭さ。

それは明らかに鮮血(・・)による物だった。



「雪れ──」


「──待て、近付くな」


「──っ!?」



小野寺に続いて、俺の傍に居た周泰達が近付こうと人垣から出掛けたが、即座に抑える。

経験から、その状況が異常だと感じ取る。


孫策と小野寺が居る現場に横たわる人数は七人。

青年男性二人、中年の男性二人に女性一人、子供の男女が一人ずつ。

そんな彼等の周囲に広がる血の量が問題だった。

負傷した出血ならば、それは可笑しくはない。

だが、見た限りでは負傷した様子は無い。

その上、七人に意識が有る様子も見られない。

つまり、その出血は吐血(・・)の可能性が高い。



「出来る限り、迅速に人垣を解体(・・)し、遠ざけろ

それから此処を中心に立ち入り禁止に」


「──っ!、判りました」


「はいはーいっ!、皆さーん、注ーっ目ーっ!」



俺からの指示を受け、事態の深刻さを理解。

周泰は現場を飛び越して反対側に、その場で馬岱は声を上げて大きく手を振り注目を集める。

こういう時、対処慣れしているのが頼もしい。

…まあ、本人達からすれば、誰かさん(・・・・)の尻拭いから身に付いた事だけに複雑だろうが。


そんな事は今は関係無い。

遣るべき事は目の前に有るのだから。



「伯符、迂闊に動かすな」


「なっ!?、どうして此処にっ?!」


「小野寺達と食事をした後、散策していた所だ

──で、何が有って、こうなった?」


「…っ、私が通り掛かった時には其処の二人が既に倒れてて、それから続く様に側に居た人が…」


「は?、ちょっ、それって…感染病、なんじゃ…」


「えっ!?、それじゃあ…私達も?!」


「………いや、飛沫感染等の可能性は低いな

もし、その手の感染病なら、もっと発症者が出る

それは小野寺なら判るだろう?」


「──っ!、そう言われれば…確かに…」


「それじゃあ、疫病の可能性は低いのね?」


「…人から人への感染の可能性はな

だが、原因も感染経路も判ってはいない

取り敢えず、人気の無い市街地に場所を確保しろ

詳しい話は其処に運び込んでからだ」


「判ったわ、けど…今、華佗が何処に居るか…」


「見付ける必要は無い、患者は俺が診る

御前達も準管理対象(・・・・・)

幼平達は近付かせず、関わらせる兵士は若い独身を数名隔離を前提にして選出しろ」


「──っ、その…有難いけど…いいの?」


「こうして関わっている時点で今更だろう?

時間が惜しい、小野寺、御前は此方を手伝え」



そう言って作業に取り掛かる。

死者を生き返らせる事は出来無いのだからな。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ