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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
85/913

15 三人寄れば… 壱


 曹嵩side──


今日から三泊四日の日程で荀攸殿達が滞在する。

明日からは今後の方針等の会議を行う予定。


私達“母親”組は優先的に順番を早めて頂いたらしく華琳より先に終えた。

今は四人で卓を囲み御茶を飲みながら談笑中。

既に真名も交換し、年齢や未亡人等の共通点も多く、直ぐに打ち解けた。

四人とも親友の様に感じ、接している。



「でも、子和様には本当に驚かされますね

“当日は迎えに行く”とは仰有られてはいましたが、まさか、ああいう方法とは思いもしませんでした」


「確かに…年甲斐も無く、思わず悲鳴を上げて身体に抱き付いてましたね」


「り、李珀っ!?

それは言わない約束だったでしょうっ!」


「あら、私は自分の事を、言っただけよ?」


「──っ!?」



明花の言葉に李珀が苦笑をしながら言うと勘違いした冥夜が怒って自滅。

揶揄う様な眼差しの李珀と苦笑する明花、そして私の視線を受けて真っ赤になる冥夜は可愛らしい。



「〜〜っ、そうです!

子和様に抱き付きました!

仕方無いでしょうっ!?

あんな風に移動するなんて考えもしないわよっ!」



開き直った冥夜。

普段の──立場上の顔とは違う気を許した相手にしか見せない“素顔”で愚痴る様に言う。


娘達とは逆に、母親同士は李珀の方が主導権を握っているみたいね。



「まあ、子和様の移動方法には私も驚きましたが…」


「そうでしょっ?!」


「…ふふっ…」



明花の賛同とも取れる言に食い付く冥夜。

つい、笑いが溢れてしまうのは仕方無いでしょう。

照れと拗ねの混じった眼で見てくる冥夜には苦笑。



「ごめんなさい、つい…

他意は無いのよ?

ただ、ちょっとね…」


「何か思う所が?」



李珀の言葉に笑顔を浮かべ三人を見て首肯する。



「娘達に“後事”を託して後は隠居生活──と思って居たのだけど…

貴女達とこうして居ると、自分も娘達と同じ歳の様に錯覚してしまって、ね…」



そう言うと三人も納得した様に表情を綻ばせる。



「あの子が…雷華が以前に言っていたのよ

“老け込む”にはまだ早い

私達にしか出来無い事は、幾らでも有る、と…

こうして居ると良く判るわ

“心”まで老いてしまう事こそが終わりなのだと…

だから、まだまだ娘達には負けないつもりです」



私の言葉に三人も楽し気な笑顔を浮かべて頷く。

私達の人生はまだ有る。

ならば、進もう。

より、先を目指して。



──side out



 荀攸side──


健康診断を終え、夕食には私達の歓迎の宴。

子和様が直々に調理された料理には女として自尊心が少し挫けそうだった。

美味し過ぎです。


平静を装っていた華琳様も子和様から見えない所では溜め息を吐かれていた。

好きな相手が子和様の様な方だと大変ですね。



「二人共、此方での生活はどうですか?」



そして今は私に用意された客室で桂花と鈴萌の三人で話をしている。

今夜は此処で一緒に過ごす事が出来る三人部屋なのは子和様の配慮でしょう。

心憎い気遣いですね。



「臣従した経緯が特殊では有りましたが、初めて会い感じた通り素晴らしい主を得られたと思います」


「今は見習いとして鍛練や勉学をしていますが…

自分の成長を実感出来て、とても充実しています」


「そう…」



嘘偽りの無い言葉。

二人の家臣としての意識の充足感が窺えて喜ばしい。

ただ、それ以外の部分では問題が有るだろう。



「…桂花、子和様は特別と考えても他の男性に対する対応はどうですか?」


「──っ!?」



驚き、目を見開く桂花。

しかし、真っ直ぐに見詰め私の真摯な“想い”を込め桂花に、娘に伝える。


私の眼差しに感じる何かが有ったのか、桂花が姿勢を正して向き合う。



「…子和様に言われました

私の“男嫌い”は、見方に因っては“差別”だと…

接する全ての者が私の事を理解・許容している訳ではないのだと…

正直、その言葉は私自身の“認識の甘さ”を痛感させ改めさせてくれました」



本心、でしょうね。

けれど、肝心の“現状”に関する部分が無い。

なので、無言のまま桂花を見詰め続ける。


スッ…と視線を逸らして、外方を向く桂花。

敢えて、何も言わず静かに見詰めるだけ。


桂花の左隣に座った鈴萌が戸惑っているが今は我慢をしてもらうしかない。



「……い、一応、ですが…

普段の仕事や日常生活では問題は無い…かと…」



誤魔化し切れないと判って俯き加減に答える桂花。

まあ、進歩だと言えるので焦りは禁物ですね。



「そうですか…

桂花、鈴萌…二人に覚えて置いて欲しい事が有ります

貴女達は“女”です

いつかは男性と恋愛をして結婚し妻となり、子を成し母親となるでしょう…

女も男も、一人では生命を成す事は出来ません

裡に芽生える“想い”から目を逸らさぬ様に…」



──side out



 周異side──


李珀と共に四人部屋を用意されていたのですが…成る程こういう事でしたか。

室内には冥琳と珀花が居て就寝の準備もしている。

子和様の配慮だろう。



「こうして改めて見ても、顔色が良くなったわね」


「ええ、本当に…

本当に…良かったわ…」



李珀の言葉に改めて実感し感極まってしまう。

頬を伝う涙を堪え切れず、つい袖口で拭おうとしたら右隣に座る李珀から手巾を差し出され受け取る。



「…大袈裟です、と以前の私なら言ったのでしょうが今は御母様の気持ちも判る気がします…」



少し申し訳無さそうに言う冥琳だが、表情は穏やかで揺るぎもない。

逞しくなったと感じる。



「出逢った時、子和様から言われました…

“それで、お前は死を受け入れたのか?”と…

華佗に不可能だと言われて私は意気消沈して自暴自棄になって居ました…」



独白の様な冥琳の言葉。

けれど、伝わってくる。

この娘が一人で、どれ程の恐怖と不安を裡に抱え込み過ごして居たのか。



「子和様は私の心を見抜き“生きる可能性が有るならどんな事でもするか?”と問われて、“人の道を踏み外してまで、生きたいとは思わない…そんな事をする位なら死を選ぶ”…と私は答えました

ですが、子和様は珀花や、御母様ならと言われ…

その“想い”を間違いだと否定出来ませんでした」



冥琳は珀花を見て苦笑。

当時を思い出したのか。



「“他の誰でもない…

諦めているのは、お前だ”

そう言われて、初めて私は自分の心と向き合えた…

“死を恐れる心は恥じる事ではない、生命の必然…

しかし、死から目を逸らし日々を惰性に生きたとして本当に“生きている”と、言えるか?”…

私の答えは“否”でした

子和様は私に生きる意味を生きる事の喜びを諭され、導いて下さいました

今なら、病も“縁”へ至る必然だったと言えます

私が“生命の尊さ”を知り“生きる”為にも」



一言一言、噛み締める様に冥琳は話す。

それだけ、強く、深く心に刻まれているのでしょう。



「この身が、血や泥に塗れ様とも全てを受け入れて、生命在る限り生きる…

それが今の私の“生きる”事への覚悟です」



真っ直ぐに私を見詰めて、己の“意志”を言葉にする冥琳を見て思う。


子和様との出逢いに心から感謝致します。

そして、これからも娘共々誠心誠意御仕えすると心に誓います。



──side out



 朱治side──


冥夜と冥琳の良い話。

聞いている此方まで感動を覚えてしまう。

冥夜の冥琳を思う気持ちを知っているが故に。

殊更に感慨深い。


しかし、だ。

その冥琳の横で貰い泣きをしている宅の愚娘を見て、胸中で嘆息する。



(貴女も少しは冥琳の事を見習いなさい…)



そう思いながら、じと目で見ていると視線に気付いた様で此方を見た。

視線が合って感じ取ったのだろう頬を膨らませながら拗ねた様に睨み返す。



「私だって覚悟してます」


「甘味を絶つと?」


「無理ですっ!

というか、何で私の場合は其方なのっ!?

他にも有るよねっ!?」



ガタッ!と音を立てて立ち上がって反論する珀花。

急な雰囲気の変化に冥夜は目を丸くして呆然。

…反射的にか、無意識か、私の服の裾を右手が掴んでいる事は内緒。

気付かない振りをする。

ちょっとだけ昔を思い出し懐かしく思うけれど。


冥琳?、珀花の隣で溜め息吐き、額を右手で押さえて頭を振っている。

苦労を掛けるわね。

でも、これからも宜しく、お願いね。



「ちょっとお母さんっ!

聞いてるっ!?」


「聞いていますよ?

貴女ではないのだから」


「酷くないっ!?

ねえ、冥琳っ!

お母さん酷いよねっ!?」



私との一対一は分が悪いと感じて冥琳を味方に付ける作戦に出る珀花。

…成長しないわね。



「李珀様が正しい

お前も少しは学習しろ」


「私馬鹿じゃないよ!?

何よ冥琳までぇ…

冥琳の裏切り者ーっ!」


「それで、お前が成長するなら易いものだ」



母娘喧嘩から友人喧嘩へ。

子和様も仰有って居られたけれど“いつも”の事。

…まあ、親離れしていると思えば良いのか。

娘離れ出来ていない母親が隣に居る事だしね。



「冥琳、序でに珀花も」


「実の娘が序でなのっ!?」



喚く珀花は無視。

冥琳を見て真面目な話だと言外に含める。



「貴女達が子和様との間に子供を成したいという事は聞きました

その気持ちに偽り変わりは有りませんか?」


「はい、私が身も心も全て捧げる方は唯一人…

子和様だけです」


「私も子和様だけ…ううん子和様じゃないと嫌」



二人の瞳に宿る“想い”を見定め、静かに笑む。



「二人共、頑張りなさい」


『はい!』



二人の笑顔の返事に孫達を抱く楽しみに心を馳せる。

そう遠くはないだろう。



「…あれ?、私一人空気になってない?」



冥夜の呟きには気付かない振りをして置く。

主に本人の尊厳の為に。



──side out



今夜は久し振りに一人。

その理由としては公達達に対しての“建前”だ。

今更だと思うがな。

寝酒を茶杯に注ぎ一杯だけ飲んで寝台に横になる。

未成年?、此方は無法だ。

尤も、それ以前に“彼方”でも飲んでたけどな。



「…しかし、奉孝の件には驚かされたな…」



実演──いや、実際に件の症状を見る為に誘発させる様に仕掛けたが…

少し“振った”だけで後は自ら“入って”行った。

ちょっと吃驚した。

どんな妄想かは見えないが口から出る言葉には何とも言い難い。

僅かとは言え“診る”事を忘れた位だからな。


結果としては奉孝は見事に鼻血を“噴射”した。

…うん、出るってレベルの話じゃなかったな。

文字通りに噴き出した。

一応、俺と奉孝、室内には氣の膜を張って塗れたり、汚れない様にはしていた為被害は無かったが。


一種のアドレナリンの様な物だろうか。

無意識下での氣の活性化が起きていた。

頭──思考の強化だ。

しかし、抑、奉孝は扱える訳ではない。

また伯道と違って自己防衛本能が働いていないので、際限が無い。

つまりは“暴走”状態。


奉孝の場合、活性化した後限界を迎えた結果、鼻血を吹き出し“歯止め”が無い為に氣の枯渇か“乱れ”が無い限り止まらない。


恐らくだが、程立の首への刺激が氣の働きを乱す事に繋がり治まっていたと見て良いだろう。

程立が氣を使えた可能性は低いと言える。

使えたのなら奉孝に教えて改善させていた筈。



「…程立、か…」



“日輪を支えて立つ”夢を見た事で名を改めた逸話が有名だろうか。

“歴史”では“曹操”へと仕える事になるが…

“此処”では判らない。

勿論、可能性は有る。

ただ“今は”縁が無かったという事だ。



「まあ、趙雲も一緒だとか面白い面子だよなぁ…」



奉孝が曹操、趙雲が劉備、これで孫策に程立が仕える状況になれば三者三様。

奇縁も良い所だな。

“縁”が有れば見定めて、口説いても良いが。



「…宅の面子を見る限りは全く判らない事だな…」



取り敢えず、孫策には家を頑張って復権して貰いたい事だけは確かだ。

仲謀も曹家の臣とは言えど姉妹だからな。




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