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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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刻綴三國史 9


無意識かもしれないが袂を開いてくれている。

そういった印象を意識下に刷り込む様に。

普通はしない様な身近な話題を時々挟む。

そうして、小野寺や賈駆に罠を仕込む。

勿論、その罠に悪意は無い。

それも全て、彼等を試し、見定める為の物。

──と言うより、今更殺り合う理由も無い。

孫策は──孫家は曹魏に従属の意思を示しているに等しい状況に有るのだから。



「子供の話で思い出したが…

仲謀達の末妹・孫尚香は、お前が娶るのか?」


「──っ!?──っぅぐっ!?、ゴホッ!、ぇほっ…」


「ああ、済まなかった、唐突過ぎたな」


「い、いえ、御見苦しい所を…」


「今のは不可抗力だ、気にするな

逆の立場だったら、俺も噎せただろうしな」


「は、はい、有難う御座います…」



俺の質問に噎せた小野寺に謝る。

だが、「……え?…雷華様が」という視線を向ける凪と流琉には「おい」という意味で視線を合わす。

俺にだって噎せる事位は有るんだからな?。

人を何だと思っているんだか。

………いやまあ、自業自得な事は否めないか。



「まあ、一応言って置くが、「俺に嫁がせろ」とか言うつもりは全く無いからな

ただ、仲謀は俺の妻で、孫策は孫家の当主だ

その立場は、姉妹の間には他意が無くとも、色々と面倒事が付き纏う事は避けられない

そういう意味では、お前が娶るのなら問題が無い

──お前は孫策と夫婦になるのだろう?」


『────っ!!』



まだ、公的には発表されてはいない二人の関係。

──とは言え、それを察していない者は少ない。

破談したりする様な可能性が無いから心配している者も少ないのだろう。

ただ、こうして公式な場で、明確に発言をする事は現時点では考えてはいなかった筈。

別に煮え切らない、という訳ではない。

今は二人の婚礼より、孫家の──孫呉の建国こそが最優先課題だからに他ならないのだから。


だからこそ、こういう不意打ちでは素が出る。

現に賈駆は「なっ!?、まさか、その話を此処で…」という感じで動揺を必死に隠しながら考えている。

本人は隠し通しているつもりなんだろうが。

残念だが、俺達の前では児戯にも等しい。

その動揺や思考は氣を読まずともバレバレだ。


一方、当事者である小野寺はというと──ほぉ…。

瞬間的には驚きはしていたが、一息吐いただけで、落ち着きを取り戻している。

──と言うよりも、先程の妊娠・出産の話が多少は活きているのかもしれないな。

真っ直ぐに、揺るぎ無い眼差しを向けている。



「…まだ、そうなるまでには色々と有りますが…

これから先も()は伯符と共に歩んで行きます」



そして、小野寺祐哉(自分)の言葉で明言する。

その姿勢には同じ男として素直に好感を持つ。

加えて、冷静に「先ずは建国からですが」と言外に含んで切り返してくる辺りに成長が窺える。

思わず口角が上がってしまいそうで大変だ。

だが、きっと華琳が此処に居ても同じ様に思う筈。

だからこそ、“なあなあ”での妥協は一切無しだ。

打って、打って、打ち抜いて──鍛え上げる。

その鍛練により、()は強靭に成るのだから。


──とは言うものの、今は素直に褒めるとしよう。

そして孫策(義姉)を愛する未来の義兄に対して敬意を。



「成る程、少なくとも孫家の血が絶える心配だけは無さそうで安心した

まあ、そういう意味では孫尚香の事もだがな」


「……ぇ?、あ、いえ、それは……」


「ふむ…彼女は好みではないのか?」


「い、いえ、そんな事は──ではなくて、その…」


彼方等の(・・・・)常識的な意味での躊躇か?

それとも単純に容姿的な嗜好か?

年齢に関しては…まあ、此方等の社会的な認識上は全く問題は無いと思うが?」


「…えぇ~と……それはその…」


「…曹純様、その、私共も居りますので…」


「ああ、そうだったな、配慮が欠けていたな

いや、済まなかった」


「いえ、御懸念は当然の事で御座いますから

御理解して頂ければ──」


「──孫尚香より先に賈駆達の方が子を成さねば、孫家の屋台骨も揺らいでしまうからな

しっかりと頑張って励めよ、二人共な」


「────んナアッ!?」



猫が脚や尻尾を踏まれたかの様な声を上げる賈駆。

その顔は見事な瞬間沸騰を見せ、身体は硬直。

餌を強請る鯉の様な、声に為らない動く口。

それを見た葉香が、手元の御菓子を千切って丸め、放り込もうとしているので凪に止めさせる。

何をしているんだ、お前は。

……遣りたくなる気持ちは判らなくはないが。

流石に今、賈駆を相手には拙いから止めなさい。


それは兎も角として。

此処暫くは隠密にも敢えて距離を置かせていたが…賈駆の反応を見る限りでは、まだみたいだな。

………いや、それが普通だよな、うん。

大体、北郷みたいに躊躇無く淫欲に溺れられる輩は現実的な思考は放棄しているからだろうしな。

俺もそうだったし、小野寺もそうだろう。

如何に美女・美少女に囲まれていても無責任に手を出しまくれるのは、ある意味では異常だからな。

正面な神経をしていれば、責任感が有るもの。

それが無いから、好き放題に遣るのだから。


……ただ、何気に俺も染められているという事か。

昔の、皆の気持ちを知りながら距離を取っていた、あの頃の自分が今になって清らかに思える。

…いや、まあ、男だから好きなのは否定しないが。

此処の価値観に馴染んだ事を喜ぶべきなのか…。

嗚呼、時の流れというのは、時として無情だな。


──という、揶揄おうとして自爆する俺。

華琳が居なくて本当に良かった。

尚、凪達には今夜、口封じを行わなければな。

絶対に華琳達の耳には入れさせぬ。


──と、そんな俺の事は置いておいて。

当の二人は、もじもじと初々しいです。

俺の言葉より、賈駆の反応に小野寺も気付いた様で「…え?、もしかして…え?、そうなの?」という感じで賈駆を見詰めていた。

今にも「うぅっ…此方見るなぁっ、馬鹿っ!」とか言い出しそうな真っ赤な賈駆さん。

良い感じに甘酸っぱい空気が漂っています。

あー……御茶が美味しい。



「……………っ!?…あ、いえ、それは…その…」



だが、小野寺は意外と早く此方に帰ってきた。

まあ、色々と心当たりも有るだろうしな。

完全に否定する事は出来無いだろう。

その発言は後々にも少なからず影響するしな。

しかし、だからと言って胸を張って、「えと、実はそうなんです、俺が孫家の種馬です」みたいな事を言う様な性格ではない小野寺だ。

けれど、賈駆の手前、完全否定は拒絶と同義。

賈駆の気持ちに気付いた以上、それは出来無い。

だから小野寺は言葉に詰まり、困っている。


本当なら、もう暫く楽しみたいのだが。

凪と流琉が「雷華様、意地悪です…」という抗議の視線を向けているから、この辺りで止めておく。



「まあ、俺達の様な立場だと子作りも大事な務めだ

其処の三人も実は俺の妻だからな」


「そ、そうなのですか?」



そう話題を変えれば小野寺は直ぐに飛び乗る。

御客様、飛び乗り・駆け込みは御控え下さい。

──なんて事を思わず言いたくなる。

何だかんだで、彼方の話は出来無いからな。

話せない訳ではない。

単純に話が通じないからだ。

だから実は小野寺とはプライベートな時間を取り、そういった話を多少はしないとは思っている。



「宅にしても孫家にしても直系は僅かだ

将師にしても、代々続く臣家の出身者は少ない

何より、生まれ生きる時代が時代だ

無名や在野から現在の立場に成った者は多い

その者達の家を、血を、意志を繋いで行く事こそ、国としての基盤を支える要柱の一つだからな」


「……そうですね、それは…理解出来ます」


「まあ、最初は一夫多妻に抵抗感が有るだろうから中々自分を納得させるのは大変だがな…」


「それは…曹純様でも、でしょうか?」


「ああ、最初は俺も色々とな…

孟徳とは相思相愛だから問題は無かったが…

まあ、皆の想いを知りながらも、応えられるまでに時間が掛かった事は…その辺りの価値観故にだ

一夫一妻が自分の中での常識だったからな」


「今は…平気なのでしょうか?」


「平気と言うと少々意味合いが違うだろうな

結局、俺の場合は孟徳以外の女を愛する事に対する罪悪感や背信的な不安感が理由だっただけだ

だから、覚悟さえ出来れば、後は…意外とな」


「その覚悟というのは……いえ、そうですね

結局は自分次第、という事ですね」



具体的な“答え”を訊こうとして、止める小野寺。

小野寺が孫策以外とも関係を持ちながら、今も尚、一夫多妻に抵抗感が有る理由。

それは単純に体力的な理由だけではない。

自分が真剣に向き合い続けられるのか、否か。

その事を第一に考えているからこそ。

その責任感が、ある意味では自身の最大の壁。


俺自身、蓮華が二人目だった訳だが。

最もらしい理由が出来るまで、踏み切れなかった。

その一番の理由が、それだったからな。

皆の想いを知り、皆を想ってはいた。

だが、それでも華琳が最優先。

その意識が、躊躇わせていた。

…まあ、結局は蓮華を抱いた時、理解したけどな。

これ以上は皆を待たせられないし、逃げもしない。

全員纏めて愛し抜く、と。

言葉にすれば、たったそれだけなのだが。

其処に至るまでが、本当に大変だったりする。


だから、こうして自分で考えようとする小野寺には個人的に手助けして遣りたくなる。

勿論、実際には余計な真似はしない。

折角の成長の機会なのだから。



「…ただまあ、俺も愛する妻から「他の女を抱け」みたいな事を言われると困るがな」


「あー…やっぱり、そういう価値観でしょうか?」


「男は()を撒き、女は抱え育む

孟徳や仲謀もだが、そういう義務が当然だと考える立場の女性は躊躇が無いからな

少しは男心(・・)を汲んで欲しくは有るな…

勿論、必要な事は理解はしているが…」


「言い方って有りますよね、そういう時には…」



話を逸らす意味で少しばかり愚痴る。

凪達が静かに視線を逸らしたが、追及はしない。

俺も嫌でないし、理解はしている。

ただ、小野寺が言った様に言い方は有ると思う。

見方によれば、俺を愛し、信じる理解有る妻だが。

もう少し、華琳にも独占欲を出して貰いたい。

………まあ、その分、二人きりの時には激しいし、御互いに貪る様には為るんだけど。

………………あれ?、もしかして、華琳の計算?。

そう遣って御互いに昂らせてる?。

……………………ウン、忘レマショウ。




そんな感じで、後は他愛無い雑談を楽しむ。

途中からは凪達と賈駆、俺と小野寺と分かれて。

やっぱり、男同士って気楽で良いよねー。


そして、のんびりとした暫しの船旅は終了。

船は港に着き、下船の準備が始まる。

直ぐに降りられない辺りは公務としての面倒しさ。

この二千年先の未来でも変わらない遣り方だ。


それはつまり、人類の政治能力は進化しない証明。

そう考えると数多の偉人も愚かに思えてしまう。

勿論、専門分野(ジャンル)が違うのだが。

やはり、意志の継承が無いと、そうなるのだろう。

俺達は壮大な失敗の実例(歴史と現実)を知っている。

それを忘れず、間違わなければ。

遥かに増しな二千年後を実現出来る。

…他の国の事は知らないけどな。



「御待たせ致しました、曹純様

どうぞ、此方等から御降り下さい」


「良い船旅だった、有難う、船長、船員諸君」


「──っ!、光栄の極みに御座います」



船に残り俺達を見送る船長達に一言感謝を伝える。

予期してはいなかっただろう言葉。

だが、小野寺が教えたのだろう。

船長達は揃って敬礼をして、返礼とする。


その様子に笑みを浮かべながら木製の降船橋(タラップ)を進み──久し振りの再会を果たす。



「ようこそ、曹純様、我等、孫呉の民が貴男様方の御来訪を心より御歓迎致します」



そう言って恭しく跪き、出迎えたのは孫策。

その普段の彼女からは想像出来無い態度に、彼女の本気具合を否応無しに感じさせられる。

だが、同時に楽しみで、口元が緩む。




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