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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
84/914

14 健康診断


賊討伐から戻って三日目。

今日は、初顔合わせとなる面々が許昌に居る。

荀公達・周子魚・朱君理の母親組三名だ。

故に“既知”の間柄の者も居る訳だが。

因みに、三人は俺が迎えに行き連れてきた。

表向きは数日の私用。

加えて、此処は城の奥側に隣接する曹家の私邸。

御義母様も居る。



「先ずは、皆にはこれから健康診断を受けて貰う」


「…あの、子和様?

その“健康診断”とは?」



皆が顔を見合せ戸惑う中、仲達が挙手して訊ねる。



「文字通り、各自の健康を診断する事だな」


「健康、ですか?

この場には病人が居るとは思えないのですが…」



公瑾が皆を見ながら言う。

己が大病を患ったからこそ皆の健康には人一倍敏感になっているしな。

疑問も当然だろう。



「肉体的にも氣的にも今は異常が有る者は居ない」


「それでしたら…」


「…私の持病の“頭痛”が特殊だったからよ」



少し不機嫌そうに腕組みしながら言う華琳。

まだ引き摺ってるのか。

中々根深いな、これは。



「特殊というのは?」



訊ねたのは御義母様。

娘の事だし、当然か。



「華琳の頭痛は少々特異な氣の影響による物でした

直接的に生命を脅かす事が無いので“異常”としては現れず、発見も困難…

という様な事が有ったので一通り診る事にした訳だ

因みに、隠密衆に始まり、侍女・文官・武官・兵士と既に終了している

残すは重鎮となるお前達、という訳だ」



そう言うと一様に納得して頷いている。

その中で華琳が此方を見て“聞いてないわよ?”的に睨んでくる。

だって、説明面倒だし。


その俺の思考を察した様で華琳が溜め息を吐いた。



「それで、具体的には何をするのかしら?」


「身体と氣の状態の診断、病歴や持病の問診…ああ、加えて生活状態や悩み事も訊くからな?

他言はしないから多少言い難い事でも正直にな」



その言葉に苦笑を見せる。

仕方無い事か。



「それから、身長・体重、あと胸・腰・尻の大きさも測定するからな」


『断固反対っ!!』



一子乱れず拒否したな。

つか、華琳、お前も其方に回るんだな。



「当たり前でしょっ!

何でそんな測定をしないといけないのよっ!?」


「身長は骨格や神経の病、体重や胸等は内臓系の病の予兆に繋がってくる

身体の“変化”というのは成長と共に病の目安だ

さて、反論を聞こうか?」


『…くっ…』



“良い”笑顔で問うと皆が苦虫を噛み潰した様に顔を顰めて沈黙した。




測定は一人一人個別に呼び一対一で行う。

個人情報として厳重に扱い管理・秘匿する為。

因みに測定には“向こう”から持ち込んだ機材を使い行っている。



「──曹孟徳さ〜ん

中にどうぞ〜」



室内から外へ声を掛けると戸が開けられ患者が入室。

…看護士が欲しいな。



「貴男にそう呼ばれるのは妙な感じだわ…」


「真名か字でだしな

姓を付けて“呼ぶ”事とか滅多にないだろうし」


「そうね…で?

これ等で計測するの?」



華琳は目敏く──という訳でもないが見慣れない故に機材に興味を示す。



「其方のが身長を測る奴で此方のが体重を量る奴…

それで、胸等は“これ”を使って測る」



そう言って俺は右手に持つメジャー──巻き尺を端を左手で摘まみ帯を引っ張り出して見せる。



「…裸になる訳?」



“身体に巻き付けて”使う物だと一目見て気付いて、じと目で訊ねる華琳。

“嫉妬”と“侮蔑”を含む視線に苦笑を返す。



「衣服程度の誤差は此方で修正するよ

勿論、体重の方もな」


「…そう、なら良いわ」



此処で“何が?”とは絶対追及してはならない。

配慮に欠ける事だ。



「それじゃ、身長からな」


「…はぁ…判ったわよ」



最後に諦めの溜め息を吐き計測を始める華琳。

体重計に恐る恐る乗ったり胸囲を測る際に拗ねる様に睨んできたりした。

やっぱり“女の子”だね。

“悪戯”したくなったが、まだ後が有るので我慢。

揶揄いたかったなぁ。






母親組から始めて、華琳、武官組と順に診察終了。

皆、健康状態に問題無くて一安心だった。

ただなぁ…“悩み事”で、“恋愛相談”をするのってどうなんだ。

その“相手”に。



(漢升は相変わらず露骨に──というか積極的過ぎていつか押し倒されそうにも感じるんだが…)



…気のせいだよね?

気のせいだと思いたい。


…最近、他の皆も積極的になってきてるしな。

俺、祝言目前の身だって事忘れられてないか。



「…はぁ…次に行こう

郭奉孝さ〜ん、どうぞ〜」



一つ溜め息を吐き、思考を元に戻して診察を再開。

因みに、五十音順で呼んでいたりする。



「し、失礼します!」


「そんなに緊張しなくても大丈夫だって…」


「そ、そうですか?」



妙に堅い奉孝に苦笑しつつ気を楽する様に促す。

“何か吹き込まれたか?”とか勘繰りたくなるな。

…実際、遣ってそうだ。




さて、実はこの健康診断の真の標的は奉孝だったり。


“歴史”的に見た場合には“郭嘉”は病死する。

華琳や公瑾は“史実”等に伴う要因を持っていた。

まあ、子揚・伯道・文挙の様な例も有るから必ずしも要因を持つとは限らない。

だから、念の為だ。

勿論、他の者も。


一通り計測を終え、奉孝と卓を挟んで椅子に座る。



「問診に移る訳だが…

士載と令明にも訊いたけど此処での生活はどうだ?

困っている事等は?」


「いえ、特には…

皆さんも不慣れな私達には良くしてくれますし多少の習慣や規則の違いは仕方の無い事ですので」



此方に変に気を遣っている訳でもない様だし、内容も尤もな所だ。

この辺は問題無いな。



「それなら良い…

何か有れば遠慮せず誰かに相談なり頼ったりする事

一人で抱え込まない様に、気を付けてな」


「判りました」



互いに笑顔で頷き合う。

変に“緊張”させない様に左手のカルテ擬きに視線を落として記入するかの様に右手に筆を取る。



「生活習慣に関してだけど飲酒・間食・夜食は?」


「御酒は飲みはしますが、毎日では有りません

間食は御茶等の際にする為定期的では有りませんが、してはいますね

夜食は殆んど有りません」


「月経の不順や便秘は?

嘔吐・腹痛・下痢をし易い事は有るか?」


「……っ、その…月経…は大丈夫です

…べ、便秘…は偶には…

それと嘔吐は有りませんが腹痛等は体調が悪い時には有ります」



何れが恥ずかしかったのか追及する必要が無い位に、判り易い反応だな。

まあ、何れも“異性”には言い難い事だが。



「体調が悪い、というのは定期的に有る事か?」


「あ、いえ、風邪だったり…月経や便秘…の時に…」



羞恥に堪える奉孝を見ない様にしながら、秘密にしていないかを窺う。

…これも無さそうだな。



「これまで大きな病気──命に関わる病を患ったり、怪我をした事は?」


「…私が記憶している限りでは無かったかと…

…あ、でも私が二歳になる前位の事ですが崖の上から落下した事が有ると生前の母から聞かされました

その時は、“旅の医者”が“無償”で私の治療をして下さったとか…」



奉孝の口から出て来たのは個人的に“縁”の深い事と感じている存在を示唆するキーワードだった。




意外な所で出て来た存在に内心で驚いているが顔には出しはしない。



「旅の医者?、名前は?」


「いえ、それが理由は定かでは有りませんが其の方は名乗られなかったと…

ただ、流派の様な名前だけ聞いた者が居たとかで…

私もはっきり覚えている訳では有りませんので、少し変わっていたとしか…」


「…五斗米道、か?」


「そ、そうです!

確か、そんな名前だったと──って、あの、もしや、子和様は御存知の方で?」



一瞬、興奮していた奉孝が可能性に行き当たり自然と冷静になった。

此方は少し頭が痛いが。



「…いや、多分だがお前を助けたのは“先代”だ

俺は弟子の“当代”としか面識は無い…

ああ、文挙が“先代”とは面識が有るそうだ」


「…其の方は一体?」



俺や文挙と関わりが有ると聞いて“只者”ではないと考えたんだろうな。

間違ってはいないが。



「流派・五斗米道を継ぎし放浪の名医…華佗だ」


「あの高名な…」


「“華佗”は継名で当代の証でも有るから代替わりはしているけどな」



肩を竦めながら苦笑して、左手のカルテ擬きを視界で動かして意識を誘導し話を元に戻させる。



「その幼少期の怪我だが、後遺症は無いだろう

直接の面識は無くても腕は推し量れる

まだ“若輩”の当代よりも優れていた事はな…」



“経験”に因る実力差。

それは否めない事だ。


そして、そんな“先代”が治療ミスをしているとは、俺には考え難い。

“悪影響”は無いだろう。



「…そうですか」



俺の言葉に安堵する奉孝。

多少なりとも不安を抱いていたのかもしれないな。



「最後の質問になるが…

持病の類いは?

“病”と断定されなくても定期・不定期問わず身体に起きる変調だったり…

気になる様な体質とかでも何か有れば言ってくれ」



そう言うと奉孝は思う所が有った様で口を開いて──言い掛けて閉じて俯く。


暫し静かに待つと顔を上げ意を決した眼差しで見詰め──顔を真っ赤にして口をパクパクさせる。

…金魚か、お前は。

そのまま何も言わずに再び俯いてしまう。


そんな感じで、二度三度と繰り返す事…約三十分。


流石に俺も焦れてしまって奉孝を促す為に奉孝の頭に右手を伸ばして撫でる。



「色々と、言い難い理由は有るだろうが他言はしない

だから信じて言ってくれ」



顔を上げ奉孝の目を見詰め笑顔で頷くと彼女も小さく頷き返してくれた。




漸く、言ってくれるか。

というか、それはどれだけ恥ずかしい事なんだ。

聞く方も緊張するだろ。



「………実は…その…私……は、鼻血が出易くて…」


「…鼻血?」



出て来た答えは意外な物。

そんなに羞恥心を悩む事に思えないが…“女心”故の葛藤だろうな。

“私、鼻血ブーです”とは流石に言い辛いか。


しかし、鼻血ねえ。

逆上せ易い体質なのか。



「まだ出逢ってから一度も見た事は無いな?

どういう状況でだ?」



湯上がりや暑い日の昼夜に起こるなら体質だろう。

改善は難しくない。



「ぅ…そ、それは…ですね

その…何と言いますか…」


「治療や改善には状況等の正確な情報が必要だ

奉孝、判るな?」


「…うぅ…判り、ました…

…はぁ〜…その、ですね…

…い、厭らしい事を考えてしまうと、です…」



深呼吸して口にした言葉は予想の斜め上を行った。



(…“厭らしい事”って、“エロ妄想”か?

え?、何?、稀代の軍師が妄想で鼻血出す訳?

何だよ、それは…)



本人の手前、口には勿論、顔や雰囲気にも出さないがシリアスさは消えた。

羞恥心から縮こまっている奉孝が可愛いのが救いか。



「出易い、と言うが単純に出るだけか?

一度出ると止まり難いとか出血量が多いとかは?

出る鼻血は粘液質か?」


「は、はい、そうですね…出ると血溜まりが出来る程出ますし、止まりません

粘りは…多分無い方かと」


「…今までどうしてた?

出血多量で死んでいても、可笑しくないが…」


「風──程立という仲間がこう…首をトントンすると止まっていたので…

出始めたのも此処一年程の事ですので…」



手刀で首筋を叩いて見せる奉孝だが…“迷信だ”とは言い難い。

実際に止まっていたと言うのだから。



「今、妄想出来るか?」


「い、今っ!?

こっ、こここ此処でするのですかっ!?」


「そうだ」


「で、ですが…」


「論より証拠だ

実際に見た方が早そうだ

心配するな、死なせる様な事は絶対無いから

さあ、奉孝…」


「し、しし子和様!?

い、いけません、華琳様が…で、でも、子和様になら…ああっ、そんな──」




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