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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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曹奏四季日々 11


 曹操side──


──九月八日。


第一陣となる面々の妊娠によって一段落した事で、少しばかり気持ちが楽になった。

最初に雷華の子供を産むのは私の特権で義務よ。

けれど、皆の事を考えると夜が寂しくもある。

だから、雷華と共に過ごせる時間は素直に嬉しい。

まあ、それを口にする事は無いのだけれども。



「孟徳様、今日は護衛は無しですか?」


「あら、これ以上の護衛は居ないでしょう?」


「それもそうですね」



出された茶杯を口に運べば、懐かしい匂い。

高級嗜好な需要によって急速に生産者が減った事で茶畑自体が消えてしまった銘柄“閭香”。

曹魏では雷華により再生産されているのだけれど。

一度消えてしまっただけに市場に出回っている品は以前に比べると稀少価値が付いて高くなっている。

まあ、当然と言えば当然なのだけれども。

雷華としては、生産者の為にも以前よりは高値で、しかし庶民でも手軽に買える値段に落ち着かせたいみたいなのだけれど。

如何せん再生産開始から間も無い。

だから今暫くは仕方が無い事でしょうね。


そう言えば季玉達には馴染み深い茶葉だったわね。

雷華が“試作品”と称して譲ったのかもね。



「沙霧達は元気にしているのかしら?」


「はい、此方等に来てからは友人も多く出来た様で以前よりも活き活きとしています

…仕方が無い事だとは言え、以前は子供には窮屈な環境だった事は否めませんね…

やはり、子供は子供らしく在るのが一番です」


「“大きな子供”に成らないといいわね?」


「ぅぐっ…」



「良い事言ったよね、俺」という雰囲気を覗かせた季玉を揶揄う意図も含めて一刺し。

この場に霧葉が居れば同じ様に言ったでしょう。

季玉が優秀なのは確かなのだけれど。

珀花と同じで、その優秀さを差し引き零にする位、子供っぽいのが困りものなのよね。

まあ、それで大きな問題は起きていないから特には私達も厳しい事は言いはしないのだけれど。


季玉の娘である沙霧と和葉。

二人共に次々代の主要人物の一角として期待をする人材であり、雷華の妻候補者でもある。

現時点では、二人共に望む意思を持っている。

まあ、当の雷華は渋っているけれど。

その二人は曹家が主導して建設した私塾──学校の初等部の第一期生徒として入学している。


学校は、初等部・中等部・高等部に分かれており、初等部は九歳以下の子供達を対象として三年間を、中等部は初等部の教育を修めた十二歳以下の子供を対象として三年間を、高等部は中等部までを修めた希望者を対象にしている。

全てで基礎学力を求める入学試験が行われている。

但し、この学校は次代の文武官の育成の為の物。

識字率を上げる為の条件の無い基礎教育は別。

子供は勿論、大人を対象としても実施している。


現役の文武官を父母に持つ子供が多いのは必然。

けれど、それ以外からも入学者が出ている。

それは人材の発掘が上手く行っている証拠ね。

そして、沙霧達の様に親い子供達を通して、学校の実地検証も同時に行っている。

問題の中には実際に実施したり、年数が経たないと表面化しない事も少なくはないもの。

教育問題に終わりは無いのよ。


そんな感じで季玉と世間話をしていると部屋の扉がノックされ、季玉の返事で侍女により扉が開く。

部屋に入ってきたのは雷華と霧葉。

座った二人の前に茶杯を置くと侍女達は退室する。



「どうだったのかしら?」


「ああ、問題無い、賓伯は妊娠している」


「おっしゃあぁあーーーっ!!」



そう雷華が言うと季玉は立ち上がって拳を頭上へと突き上げて歓喜の咆哮を上げた。

然り気無く、雷華が結界を張っているから外部には会話や物音は漏れはしないのだけれど。

少しは自重して欲しい所だわ。

まあ、そうなる季玉の気持ち自体は理解が出来無い訳ではないから口にはしないけれど。

「騒がしくて申し訳有りません」と頭を下げている沙霧に気付きなさい、季玉。


私も雷華も苦笑しながらも小さく頭を横に振って、沙霧に「気にしなくていい」と言外に示す。

それから場の空気を読んで話を戻す。



「おめでとう、霧葉

沙霧達も“弟”が出来て喜ぶでしょうね

貴女は三人目だけれど、身体には気を付けなさい」


「有難う御座います、華琳様

初めての男の子という事で私達も期待しています

それに──これで沙霧達は嫁がせられますから」


「ふふっ、ええそうね」



家の後継ぎが出来る事で沙霧達を嫁に出せる。

二人の望む様に雷華の妻として、ね。

それが判っているから雷華は口を挟まず知らん顔。

聞こえていない振りをしているわ。

今更二人三人増えても変わらないでしょうに。

相変わらず、変な所で生娘みたいなんだから。


そんな自分に不利な空気を察して咳払いをすると、今度は雷華が話を戻す。



「さて、改めて言って置くが…

その産まれてくる子に関しては四人だけの秘密だ

例え家族であろうとも他言無用だからな?」


「はい、勿論です

今度は自分達が護る番ですから」


「何より、私達の子供である事には変わりません

ですから、親として当然の事です」



季玉達の返事に雷華は笑顔を見せる。

客観的に見れば可笑しな会話だと言えるでしょう。

邪推するなら、まるで霧葉の身籠った子供が雷華の子供みたいに考えられるかもしれないわ。

そんな事は先ず有り得無いのだけれど。


沙霧の身籠った子供は正真正銘、季玉との子供よ。

ただ、その魂に重大な秘密が有ったりする。

何しろ、その魂とは王累──“災厄”の器であった“仮人格”として存在していた人物。

季玉の幼馴染みで親友だった男の物なのだから。


本来であれば、消失してしまっている筈の存在。

けれど、誰かさんへの点数稼ぎの意味も含めてか、“世界”は彼の人格を一つの魂として認めた上で、消えない様に保護をしていた。

そして、この魂こそが雷華が態々“外”に出てまで回収しようとした“探し物”だった訳よ。


回収した魂の事を季玉達に話し、二人の子供として“再生”させる意志が有るかを雷華は訊ねた。

二人は最初こそ信じられずに戸惑いはしていたが、その決断自体は大して悩みはしなかった。

希望こそすれ、断る理由は無いのだから。


再生させる遣り方は至って単純。

彼の魂を霧葉の御腹に宿し、その状態で子作り。

受精卵が出来、着床すれば成功となる。

後は流産等が無い様に注意するだけ。


産まれてくる子供に前世の記憶は無い。

けれど、嘗ての絆は親子という絆へと変わるだけ。

互いに大事な存在である事は変わりはしない。

尚、産まれてくる子供が男子である事は魂に肉体が引っ張られるからなのだそうよ。

でも、容姿が前世の姿に似る事は無いらしいわ。

その辺りは私達には専門外だから判らないけれど。




季玉の屋敷を後にして雷華と街中を歩く。

最近は護衛無しでは出歩けないし、雷華と二人で、という事も少なかった為、素直に嬉しいわ。

勿論、私達の妊娠に伴い雷華が表に立つ事が増え、その関係で一緒に居られる時間が減ってしまう事は仕方の無い事だから割り切ってはいるわ。

ただ、それでも一緒に居たいとは思うもの。

その辺りの欲求の限界を上手く見極めるのが雷華。

「これ以上は我慢すると…」という所で消化させる様に何かしら動いてくれる。


だから、つい甘えてしまい──失念し掛ける。

自分達の事ばかりで、雷華自身の事を。



「季玉達、本当に嬉しそうだったわね」


「ああ、俺の自己満足(偽善)だったが…

それでも、喜ばれれば嬉しい事だからな」



素直な様で、変に斜に構える癖の有る雷華。

そういう価値観を持って今まで生きて来ているから簡単には変えられないのでしょうね。

変えるつもりも無いでしょうけど。

まあ、変える必要性も無いのだから構わない。

ただ、「素直じゃないわね」と笑顔で伝える。

「お互い様だ」と返す雷華と笑い合う。


何だかんだで、私達は似た者同士よね。

だから、雷華の価値観の殆んどは理解が出来る。

一部、異なる事も有るけれど、其処は個人差ね。

全てが同じだったら、私達は惹かれ合わない。

異なるからこそ、重なる事に価値を見出だす。



「産まれてくる子は、この子達と近い立場だから、嘗ての季玉達と似た関係に成るわね

それとも、甥姪と叔父の関係かしら?」


「…はぁ…そんなに必要無いだろうに…

華琳達だって一人しか産まない訳じゃないだろ?」


「それはそれ、これはこれよ

貴男も親になれば娘の幸せを願うと思うわよ?」


「あー……俺の場合、どうなんだろうな…

幸せになっては欲しいのは確かなんだけどな

それは“与えられる”事じゃないだろ?

自分で掴める、見出だせる様には育てはするけど、其処から先は本人達次第だからな…」


「まあ、そうでしょうね…

貴男が季玉みたいな感じになるとは思えないわ」


「そう言う華琳は、どうなんだ?

教育熱心で過保護な母親に成りそうだとか?」


「それは私よりも蓮華や愛紗辺りが成りそうね

遣り過ぎなければ、悪い事ではないのだけれど

自分の夢や理想を子供に押し付ける(託す)親というのは、少なからず存在しているし、成り易い一例だもの

だけど、貴男がそうはさせないでしょう?」


「まあな」



親が子供の可能性を潰し、道を決める。

そんな真似を雷華が赦す訳が無いもの。

だから私達は親に成る事の心配は意外と少ない。

妻──母親という立場で見ても一人ではないし。



「私は……そうね、取り敢えず、子供達に自然体で惚気られる様に成りましょうか」


「……それはどうなんだ?

俺が子供の立場だったら、微妙だけどな」


「飽く迄も幼少期は、という事よ

流石に十歳を過ぎた子供達には惚気はしないわよ」



ええ、飽く迄も十歳未満の子供達にだけよ。

そう遣って色々と教育していくのよ、色々とね。



「………一年後には一気に賑やかになるな」


「ふふっ、貴男は色々と大変ね

私達は母親の数だけ居るけど、父親は一人だもの

頑張って頂戴ね、“御父さん”?」


「…御父さん、か…

そう言えば、どう呼ばせるつもりなんだ?

全員、揃えてくれると俺も楽なんだけどな…」


「私の場合は、男の子は父上・母上が無難ね

女の子は御父様・御母様でしょう

立場上、砕け過ぎる訳にはいかないもの

皆も各々に考えてはいるでしょうけど…

貴男はどうなの?、具体的な希望が有る訳?」


「いや、特には無いけどな

……あー、でも、息子からは“親父”と呼ばれたい気持ちは少なからず有るな」


「…それは口が悪い印象が強いのだけれど?」


「そういう印象が有るのは否定しないけどな

親しみや敬愛を込めた呼び方でも有るんだよ」


「それは女性には理解し難い事かもしれないわね」


「あー…まあ、そうだろうな」



“御袋”なら構わないけど、頭に“糞”が付く方の呼び方をした日には……ネェ?。

尤も、私達の子供で面と向かって言えるのならば、その度胸を認めて本気で殺ってあげるわ。

エエ、誤字デハナイワヨ。



「そういう意味だと、息子との殴り合いもか」


「…流石に、それは物騒ではないかしら?」


「まあ、息子が問題児か、親子関係が悪い、という前提条件が無いと単なる暴力沙汰だからな

父親を知らない分、変な父親像が有るのかもな」


「それはそれで良い事なんじゃないかしら?

貴男は貴男らしく、父親に成ればいいのだから」


「まあ、それ以外には出来無いしな」



そう言って何事も無かった様に笑う雷華。

だけどね、そういう微妙な危うさが有るからこそ、私は一人でも多く貴男に妻を娶らせたいのよ。

他の皆は貴男の昔話は知らないでしょうけど。

気付いている者も幾らかはいる。

私が御母様達との関係さえ手段に考慮しているのも貴男を歪ませない為だもの。


尤も、其処まで心配しなくても大丈夫でしょう。

貴男は自分を見失いはしないでしょうからね。

ただ、それでも親に成ると判らないのも事実。

親馬鹿に成る可能性も否定は出来無いもの。

………似合わないけれど、見て見たくもあるわね。

興味としては。


──side out



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