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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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曹奏四季日々 9


 劉曄side──


──八月二十七日。


私達、第一陣が優先的に雷華様と閨を共にする様に為ってから一ヶ月近くになります。

飽く迄も優先的に、な訳なのですが。

実は、雷華様は普段は“避妊”されているそうで。

それを止めているのが私達第一陣だけで。

他の皆様との際には今も避妊をされています。

その事実は華琳様と私達第一陣の面々以外には一切知らされていませんから私達も厳守しています。



「……うん、結、おめでとう」


「……それでは?」


「ああ、妊娠しているよ」



雷華様の言葉に聞き返す声は、自然と震えました。

それは不安ではなく、期待と歓喜から。

そして、はっきりと雷華様に伝えられたと同時に、その両腕に優しく抱き締められる。

ふわり、と鼻孔を擽るのは優しい雷華様の香。

応える様に抱き締め返すだけで言葉は要りません。

感じ合える温もりと鼓動が有れば十分ですから。



「ただ、嬉しくても一ヶ月は気を付けてな?

妊娠はしているが、まだ不安定な時期でもある

当然だが、これから出産までは“無し”だぞ?」


「…それはそれで悩ましい悩みですね」



歓喜に冷静さを欠きそうになるのを見透かした様に雷華様は注意をし、その上で私を揶揄います。

ですが、それは本当に悩ましい事でして。

女としての歓喜を知ってしまっているが故に。



「まあ、一緒に寝るだけなら構わないんだが…」


「ふふっ…私達が独占していましたからね

“半年後”の第二陣の開始までは大変ですね」


「寧ろ、此処からの一ヶ月だろうけどな…」



そう言って苦笑される雷華様。

今、どの様な情景を思い浮かべられたのか。

それが手に取る様に判ってしまいました。

ですから、私も自然と苦笑を浮かべていました。

雷華様の気持ちも、彼女達の気持ちも。

何方等も理解出来ますから言葉には出来ませんが。




雷華様の診察を終え、私達は資質の談話室に集まり各々に懐妊を祝福し合っていました。

誰一人として欠ける事無く雷華様との子供を御腹に宿す事が出来たのは素直に喜ぶべき事です。

「同じ様に優先的に雷華様との夜を過ごしながらも授かる事が無かったとしたら…」という不安は常に誰の頭の片隅にも有った事でしょうから。

そういう意味でも雷華様は凄いと言えますね。


私達の妊娠は確かな事ですが、公に発表されるのは今暫く先の事になるでしょう。

今後一ヶ月は私達も大事な時期でも有りますから。

何より華琳様の御懐妊の発売が先に為りますから。



「随分と賑やかね、その様子だと皆問題無い様ね」



そう声を掛けられたのは、思春さんと稟さんに付き添われて談話室に入って来られた華琳様。

私達が立ち上がろうとする前に、右手で牽制され、大きめの“ソファー”に腰を下ろされました。

以前とは違い、ゆったりとした服装をされている為数字以上に御身体が大きく感じますが、これからは私達にとっても他人事ではないので言いません。

当然ながら、その辺りは女性として配慮致します。


そんな私達の視線が自然と向かうのは御腹です。

一ヶ月前までは目立たなかった華琳様の御腹ですが今は胸の膨らみと同じ様に衣服の上からでも判る程大きく成っておられます。

それを見て、無意識に手を自分の御腹に当てたのは私だけではない事でしょう。

雷華様から妊娠を告げられても、まだ悪阻も未経験という状態なのは私だけではない筈です。

それ故に、まだ妊娠しているという実感が伴わないという気持ちを懐いているのは。


一方、華琳様はというと背凭れに深く身を御預けになられて大きく息を吐かれました。

この様な言い方は適切ではないかもしれませんが、御年寄りが「よっこいしょお~」と言うかの様に。

華琳様は気怠さと身体の重さ・鈍さを感じる言動を私達の前で為されています。

それは、ある種の信頼の証な訳ですが。

それ以上に今は、「…華琳様でも?」という驚きが勝ってしまい、思わず息を飲んでしまいます。


そんな私達の様子に、華琳様は苦笑されました。



「…ふぅ……聞いていたよりも大変なものだわ…

悪阻も大変なのは一ヶ月前後と出産前の一ヶ月だと聞いていたし、実際その通りだったけれど…

御腹が大きくなり始めてからは、また違うわね」


「……その、華琳様、やはり痛むのでしょうか?」



教えて下さる様に御話して下さる華琳様に対して、私達を代表して月さんが御訊ねになられました。

経験者が居ないが故に、自然と緊張感を懐きます。

御義母様達に御訊ねすれば良い事なのですが。

其処は、やはり“同じ雷華様の妻として”は先輩の華琳様に御訊きしてみたいのが本音です。



「痛むと言えば痛むわね…

まあ、腰痛・肩凝りという感じでだけれど」


「それは氣での治療は出来無いのですか?」


「緩和・軽減は出来るけど、根本的には無理ね

原因の有る病気とは違うのだから

…まあ、御腹の子を諦めれば治るでしょうけれど」


『──────っっっ!!!!!!』



華琳様の一言に私達全員が反射的に御腹を押さえて護る様に庇ったのは当然と言えば当然でしょう。

何しろ、待望の雷華様との子供なのですから。


そんな私達を見詰めて華琳様は苦笑される。

言葉にこそ成いませんが、華琳様の眼差しは言外に「そういう事よ、解るでしょう?」と。

私達に優しく語り掛けられていました。



「これも、ある意味では“産みの苦しみ”と言えるのでしょうけれどね…」



そう言って左手を添え、右手で大きくなられている御腹を愛おしそうに撫でながら微笑む華琳様。

その御姿を見ただけで、不安は可笑しな程に綺麗に消え去ってしまいました。

代わって胸中に照らす様に灯る想いは慈しみと愛。

言葉にはしなくても、通じ合える想い。

だから、私達も自然と同じ様に御腹を撫で。

そして、飾る事無く、微笑んでいます。



「…………私達は御邪魔でしょうか?」



“雷華様の子供を身籠った妻同士”の雰囲気の中、そうではない御二人を代表して呟かれた稟さん。

華琳様が「他意は無いのよ、御免なさいね」という苦笑を浮かべると私達も揃って小さく頭を下げる。


その後は華琳様に各々に色々と質問をしました。

実際に訊いてみなければ判らない事も本当に多く、後日御義母様達に訊きに行った人も多かった様で。

私が御訊ねした際には、「一度、勉強会を開くか、講義でもしましょうか…」と仰有っていました。

確かに、その方が良いのかもしれませんね。




その日の夜、毎日の様に雷華様と御一緒でしたから自室に戻ると、一人が切なくて寝付けません。

ですが、布団に入っていても眠れる気がしないので身体を冷やさない様にして中庭に出てみました。

すると、其処には蓮華さん達、第一陣の半数近くが揃っていて、皆さん苦笑されていました。

つまり、考える事は同じ、という訳ですね。



「これで将師の方は全員揃った、という訳ね…」


「はぁ~…今夜だけは珀花(アイツ)の性格が羨ましい…」


「私達は年長者なのだけど…ね?」


「年齢で、どうにかなる物でも有りませんから…

こういう事は経験を積むか、性格でしょうね…」



そう言いながら蓮華さんが苦笑し、冥琳さんが深い溜め息混じりに愚痴を溢し、紫苑さんと雪那さんが然り気無く自虐的な話題から冥琳さんに同意。

その点に関しては私も、他の皆さんも頷けます。

ですが、雪那さん?。

肯定も否定も難しい冗談は笑えません。

ですから、出来れば止めて下さい。



「──思った以上に集まってるな…

思い切って夜の御茶会でも開くか?」



──と言って中庭に遣って来られたのは雷華様。

その声に振り向けば苦笑を浮かべられていました。

…私が雷華様の立場でも同じかもしれませんね。

客観的に見ると少し可笑しな状況でしょうから。



「…夜の御茶会ですか…良いかもしれませんね」


「尤も、遣るにしても今からは駄目だがな」



雷華様の言葉に「名案ですね」という雰囲気で返す冥琳さんに雷華様は苦笑したまま否定された。

「まあ、そうですよね…」という冥琳さん。

私達も同じ思いで苦笑したり、溜め息を吐きます。


私達の傍に来られた雷華様は静かに見回されます。

怒られる訳ではないのでしょうけど…緊張します。



「…妊娠・出産、そして育児と…色々と不安だろう事は俺にも察しは付く

ただ、俺は男だからな…

そういう意味では本当に理解は出来無い

お前達に寄り添う事は出来てもだ」



それは突き放したり、窘める様な意味ではなくて。

「解って遣れずに済まないな…」という意味で。

そう雷華様に言わせてしまった事が情けないです。

勿論、それを口にすれば逆に怒られるでしょう。

「お前達と俺との子供だ、一人で背負うな」と。

そういった感じで仰有る事でしょうね。


──と、そう考えていて、不意に気付きました。

先程までの不安感が大きく薄らいでいます。



(……ああ、成る程、そういう事なのですね…)



結局の所、不安感の多くは“気負い”だった様で。

独りではない、と感じられた事で薄らいで。

こうして私達が集まっているのも同じ様な理由。

不安な気持ちを共感し、感じて貰いたいから。

だから、今の様に雷華様に察して頂いたからこそ、私は不安が薄らいだのでしょうね。



「女性は己が血肉を分け与えて子を育むものだ

対して男は種馬みたいな物で子種を提供する以外、産まれて来るまでは直接は子供には何も出来無い…

そういう意味では男は女性に比べて不安感が弱くて期待感が強く、何処か無意識に他人事の様に感じる部分も有るから女性への配慮も欠けるんだろう

だからな、不安な時は素直に言ってくれ

今は、夫として、父親として妻子にして遣れる事がそれ位しかないからな」


「…雷華様…」



誰が呟いたのかは判りませんが。

その声音は私達全員の気持ちを代弁していました。


華琳様が仰有っていましたけど、本当に然り気無く人心を誑し込まれますね。

それが嫌でも引っ掛かるという訳でも有りません。

だから、また惹かれてしまうという訳です。

ええ、本当に私達が雷華様を“嫌いになる”という事が想像でさえ出来ません。

尤も、望みもしませんし、考えもしませんけれど。


その雷華様は少し間を開けて言葉を続けられる。



「…皆、各々が子を身籠り、軈て産む事になる

ただ、親には“為る”のでなく、“成る”という事だけは覚えて置いて欲しい

最初から十全に出来はしないし、自身の考えている親としての理想像が、必ずしも実際に育てる子供に合うとは限らないだろう

だから、子供に“親”を押し付けたり、考え過ぎて不安に呑まれてしまわない様に、一緒に歩もう

皆が一人一人違う様に、子供も一人一人が異なる

それは親としても同じであり、個人としても違う

“自分が、こうだったから”と自分の子供に当て嵌める事は親の傲慢だとも言えるからな

だから、きちんと一緒に子供と向き合って行こう

子を成し、子が産まれたから親に成る訳ではなく、子と共に俺達も親として成長してゆこう…

何より、俺達が親として正しかったのかは…孰れ、子供達が示してくれる事なんだからな」



真っ直ぐで、受け取り様に因っては当たり前過ぎる事の様にも思えるのでしょう。

しかし、実際には難しい事だと私達も思います。

だからこそ、色々な不安が思い浮かぶ訳です。

けれど、それは「親として、しっかりしなければ」という意識が強過ぎる事も理由の一つでしょう。


ただ、それが本当に子供達の為なのか。

或いは、“親である自分の為”なのか。

私達は冷静に考えてみるべきなのでしょうね。

そうすれば、本当に親としてすべき事が何か。

それが、はっきりと見えてくるでしょうから。


それでも、それを世の中の人々全てが出来るという訳ではなく、出来無い人の方が多いでしょう。

それを「貴方は間違っています」とは言いません。

子供達には可哀想ですが、“他人事”ですから。


だからこそ、私達は結果で示して変えて行きます。

子供達への教育等を問題視する前に。

自らの親としての在り方を教育をすべきだと。



──side out



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