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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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曹奏四季日々 8


 荀或side──


──八月十九日。


軍将とは違い、軍師という要職は年齢を重ねる程に深みと強かさを増して老獪と成って行くもの。

それは宛ら、寝かせる事により味わいを増してゆく御酒に例えられる事が有る様にだ。


だから、四十半ばを過ぎれば現役引退を考え始める軍将とは違い、長く仕える事が多いのが軍師。

その者が有能であれば尚更に主君は重用するもの。

それが世間一般の“普通”である。



「──無理いぃっ!、無理ですってばぁアァっ?!」


「──しょ、蒋宮ぅうぅぅっ!!」


「──お前の犠牲は無駄にはしないっ…

皆っ!、今の内だ逃げ切るぞっ!!」


「蒋宮が餌──いや、犠牲と為ってくれたんだっ!

俺達は最後まで生き残ってみせるっ!」


「ちょっ!?、お前等、そういう事言うなよっ!」


「そうだぞっ!、そういう前振りをしたら──」


「…………お、おい、趙駿?、冗談は止せって…

今は笑えない──って、い、居ないっ!?」


「「「………………ま、まさかっ!!!???……」」」



唐突に訪れた静寂の中、頭に直接響くかの様にして澄んだ鈴の音が鳴った。

それを聞いた瞬間に一斉に顔を青ざめさせた男達は其処で意識を刈り取られてしまった。

言い表せぬ恐怖に染まったまま、彼等は敗北した。



「──全滅した罰として“強化無し・負荷三倍”で山裾まで全力疾走で往復十本、制限時間は一時間

それでは──始めっ!」



鬼軍将──いえ、思春の掛け声で走り出す兵士達。

男女混合で、愚痴や罵り合いをしながらも指示通り全力疾走で山を掛け下って行く約三百名。

かなり無茶な──いいえ、普通なら不可能な内容の罰鍛練を“出来無い”とは思わずに開始する。

その時点で、彼等が如何に可笑しいのかが判る。

……まあ、それが曹家では“普通”なんだけれど。

こうして、客観的に見ていると熟、“非常識”だと思わずには居られないわね。



「やれやれ……たった一時間で全滅するとはな…

あの決戦から一ヶ月と経ってはいないと言うのに…

これは雷華様直々に対策案を提示して戴くか…」


「それは流石に止めてあげなさいよ

折角鍛えた兵士達が確実に死ぬわよ」


「……それもそうか」



流石に雷華様の考える内容は不味いと理解した様で憤慨していた思春が一息吐いて考えを改めた。


私達が何をしているのかと言えば、今や曹家の名物訓練と化している特別合宿。

平たく言えば、十日間の山籠りよ。

参加人数は私達将師を除いて千人。

…え?、残りの七百人?、ああ、それはね──



『──やっぱ無理だったああぁーーっっ!!!!!!!!』



──と、叫びを上げながら山景の空を舞う人、人、更に人の影は、まるで落ち葉の様ね。

風情は微塵も感じられないけど。

その人落葉の中、悠然と佇む一人の人物。

普段なら「もう少し上手く遣りなさい」と注意する場面だけれど、今回は言わない。

これは兵士達だけでなく、私達の為でも有るから。



「…………御免なさい……間違えた…」


「いえっ!、自分達の不甲斐無さが悪いんです!」


「そうですよ!、奉先様は悪く有りませんっ!」


「その通りです!、ですがら遠慮せずに、ビシビシ興奮する位に強く激しく御願いしますっ!!」


「はい!、もっと………ん?、今何か──」


「……ん、判った、次、行く…」


『ぬぐわあァあアァあぁァーーーっっっ!!!!!!!!』



まだ元気な二百人程が落ち込む恋を励まし、そして新たな人落葉が空を舞った。

だから、ちゃんと手加減しなさいって……全く。

…まあ、来たばかりの頃に比べたら雲泥の差だし、兵士達も何だかんだで生きてはいるもの。

そういう意味では心配は要らないのだけど。


そんな感じで恋の指導を受けているのが約六百名。

残りはというと今日の食事の為に狩猟や採取の為、山中に散らばっている。

…一番楽そう?、残念ね、それは普通ならの話よ。


此処は曹家の──雷華様の直轄地の一つ。

“臥龍岳”と名付けられた特別管理地区の一つ。

許可無く立ち入る事は固く禁止されていて、破れば厳しく罰せられる事になる。

まあ、好き好んで自分から入る馬鹿は居ないけど。

此処は“巨大化且つ凶暴化”した野生動物が多く、油断すると人間の方が餌食にされる様な場所よ。

“死なない程度には手加減してくれる”思春達とは違って動物達は本気で()りに来るもの。

何方等が増しかなんて、考えるまでも無いわ。


今回私達が鍛えている兵士達は、新しく築いている幽州東部の防衛拠点となる都市に派遣される。

同時に、数少ない実戦経験の場として次代を鍛える意図も有る為、参加しているのは有望な面々。

各地の要職に必要な人材の数は不足している。

人材自体は居ない訳ではないのだけど。

如何せん、曹家の基準に届くまでには時間が必要。

その為、まだまだ不足している、という訳よ。

特に私達の後任と、全体の若返りを継続する為にも次代の育成は不可欠な事なのだから。




日中の訓練が終わり、夕食を楽しむ。

合宿地は幾つも有るのだけれど基本的には二種類。

安全圏が用意されている地と、全域が戦場の地。

此処は前者だから、安心して気を緩められる。

──その隙を、意図的に作り出して狙う為だったり利用する為なのは言わずもがな。

それは、その都度“指導者”次第なので異なるが。

日没から夜明けまで、夜間戦を行ったりもする。

中でも雷華様の────いえ、止めましょう。

考えるだけでも血の気が引いてしまうもの、ええ。


──とまあ、そんな訳だけど、今日は夜戦は無し。

…ん?、ああまあ、そういう事よ。

終盤に唐突に遣るから緊張感も出たりするしね。

そういった事前の“仕込み”が大事なのよ。


食事が終わり、この合宿地で一番の楽しみの時間。

天然温泉での入浴時間が遣ってきた。

男女別で入浴時間は違うが同性は同じ時間に入る。

千人の内、女性は四百人弱。

流石に全員で、とは行かないが。

一度に二百人が利用出来る広さを誇る雷華様特製の露天風呂は最高の一言。

「此処を利用出来るのなら、通いたい」とまで言う者が結構居たりする位だからね。

そんな状況で、私達だけが別に入る事は無い。

同じ物を食べ、同じ湯に浸かり、理解を深める。

それが雷華様の理念の一つなのだから。



「……文若様、少し育ちましたか?」


「──えぇっ!?、嘘っ!?」


「この裏切り者ぉーっ!

者共出合えっ、出合え出合えーっ!」


「やっぱり子和様?!、子和様の手なの?!」


「ちょっ!?、こらっ、止めっ、触らない──って、揉むんじゃないわよっ!」



いきなり群がって来た“同志”達を怒鳴り付ける。

しかも、どさくさに紛れて背後から両手で鷲掴みにしてくれている犯人を睨み付けようと振り向く。



「…………微妙……」


「0.7cm大きくなったわよっ!」



──と、其処に居たのは恋だった。

「何をしているのよっ、貴女はっ?!」と怒鳴らずに呆れてしまうのは彼女特有の雰囲気の為でしょう。

──と言うか、揉むのは止めなさい。

私の胸は雷華様の専用なんだからね!。



「……れ、0.7cmっ…」

「……ば、馬鹿なっ……そんな筈がっ……」


「…くっ……ぅぐぅっ……あっ、頭があっ……」


「たたっ、高がれれれ0.7cmじャナいノっ…」


「……そんなっ……0.7cmもだなんてっ…」


「…言うなっ、言うんじゃないよっ!

女の価値は胸の大きさじゃないんだっ…」


「…………でも、泣いてる…」


『ぅぅうわぁあぁあああぁぁあぁんんっっ!!!!!!』



止めを刺す様に呟いた恋の容赦の無い一言で最後の維持という砦を破壊され同志達は抱き合って泣く。

……恋、恐ろしい娘……と言うかね、態となの?、ネェ、態トナノカシラ?。

その豊満な胸を背中に押し付けてくれてるのは?。

喧嘩売ってる訳?、今だけは買うわよ?。



「…はぁ……静かに入れ、馬鹿共…」


「興覇様には解りませんよっ!」


「そうだそうだっ!、幾ら姐さんでも、アタシ等の悩みだけは理解出来無いっすよっ!」


「こればっかりは有る(もの)には解りませんっ!」


「大体、興覇様だって昔は奉先様よりも無かった筈じゃないですかぁーっ!

何で、そう成れるんですぅーっ?!」


「嘘っ!?、そうなんですかっ?!

やっぱり子和様?!、子和様の手なんですかっ?!」


「ええいっ、寄るなっ!、っ!?、おいっ、誰だっ!

どさくさに紛れて揉むなっ!」



私から思春へと標的が代わり周囲が静かになる。

普通なら有り得無い事だけど、“裸の付き合い”に立場を持ち込むのは極力遣らないのが雷華様流。

だからこその、こんなにも気安い関係が築ける。

……しかし、そう言われてみると、確かに思春って昔より格段に大きくなったわよね。



「………………」



自分の物を両手で触って確かめてみる。

確かに昔よりは私の物も膨らんではいる。

しかし、それは埋めた種が土を盛り上げて芽吹こうとしている時の盛り上がり程度には。

……考えてしまうと虚しくなってしまうわね。

いえ、雷華様は沢山可愛がって下さるけれど。

嘘じゃないわよ?、合宿の前日の夜には私達三人を招かれて、それはもう………っと、危ない危ない。

思い出しただけで、堕ちそうになったわ。

まあ、そういう訳だから、それは問題無いのよ。



「……けど、もう少し位は、ねぇ……」



泉里達みたいな異次元の領域は望まないけれど。

……いえ、手に入るなら欲しいのは本音だけどね。

せめて、恋と同じ位は欲しいわ。

……流琉には追い越されたし、何よ、あの成長力。

少しは先輩の顔を立てなさいよね!。

どう遣ったら、一気に成長するのよっ?!。


まあ、そんな事を言っても仕方が無いのだけど。

“叶わぬ願い”だからこそ、人は望み、焦がれる。

話の内容は違ったけど、そう雷華様が例えられた。

正に、その通りだと思います。

(おに)達にとっては永遠の美の追求の一つ。

……本当に華琳様が羨ましいわね。

あんな風に芸術品と言える美しさが欲しいわ。




湯から上がって、身体を拭いたら夜着に着替える。

──前に、腰に手を当てて牛乳を一気飲みしている同志達の姿を眺めて、思う。

泉里は胸ばかりに効果が出ているのは、何故?。

雷華様でも「そればっかりはなぁ~…」と苦笑して困ってしまう始末。

しかも未だに成長しているとか……一体何なの?。



「…………桂花、要らない?」


「要るに決まってるわよ」



同じ様にして飲んでいた恋が自分の分を飲み終えて私の持ったままの牛乳を欲しそうに見ている。

効果が全く無いという訳でもないから継続が大事。

それとは関係無く、健康面でも栄養摂取は大切。



「……興覇様の、搾ったら出ないかしら?」


「いや、幾ら何でも出る訳無いでしょうが…」


「──と言うか、出たら出たで問題でしょ?

子和様が気付かなかったって事なんだし…」


「あ、でも、そういうの関係無しに、出る体質って人も居るみたいだよ?」


「え?、そうなの?」


「へぇ~、知らなかったわ」


「…………もし、興覇様が出る体質だったとして、頂いて飲んだら御利益無いかな?」


『………………………………………………っ……』


「────っ!!??」



馬鹿馬鹿しい内容の会話だけれど、飢える者達には美味そうにしか見えなくなる。

ギラついた視線と不気味な気配に悪寒を感じたのか思春が身震いして急に身構えた。

愛器まで取り出しての本気の構えで。



「嘘っ!?、気付かれたっ!?」


「流石は姐さんっ!」


「こうなったら真っ向勝負っ!!」


「者共掛かれえぇーっ!!」


「なっ!?、何のつもりだ貴様等っ!」


「問答無用なんでーすっ!」


「何卒恵まれない貧しい娘達に御協力をっ!!」


「言わないでっ!?

本当の事だけど痛いから言わないでぇえぇーっ!!」



自虐ネタを言うのは勝手だけど、それは同志達にも同じ事が言えるって、気付きなさいよっ?!。

此方まで抉られたじゃないの!。

今夜はまだ雷華様に慰めても貰えないのよっ!。

しかも、貴女の襲ってる思春と一緒なんだから!。

本当、最悪っ!。



──side out



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