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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
83/907

         参


俺が羞恥に胸中で身悶える間も華琳は沈黙。


…もう、やめて下さい。

黙ってる位なら大爆笑してくれた方が増しだ。

一思いに楽にして!。



「…そう…そうなの…」



静かに呟く華琳。

漸く判ってくれたか。



「あ、でも、皆には内緒にして欲しぃ──なあっ!?」



──ぅおっ!?、何事っ!?、俺何かやったっ!?

突如として辺りを支配する強烈な殺気に思わず本気で身構えた。



「…ふふっ…全く…

…本当に仕方が無いわね……ねぇ?、“麗羽”?…」



異常な殺気を身に纏って、華琳が身を起こす。

茫然としている俺には全く気付く様子も無く寝台から下りると、ユラリ…と立ち上がり扉へ向かう。



「…フフっ…フフフッ…

…サテ…イッタイドウシテアゲヨウカシラネェ?…」



暗く、深い、ハイライトの消えた双眸は闇の様になり“洞”の奥に鈍く冴え光る殺意を宿す。

狡猾で、残虐で、冷徹な、血の様に赫い三日月を顔に浮かべながら歩き出す。



「──って、ちょっと待て待て待て待てっ!!

“何”するつもりだっ!?」



慌てて跳ね起きて背後から華琳を羽交い締めの格好で捕まえる。



「──離しなさいっ!

離しなさい雷華っ!!」



駄々っ子所かマジ切れして暴れる華琳。

下手にぶら下げたら金的を躊躇無く蹴られそうだ。

仕方無く後ろから前屈みに体重を掛けて押さえ込む。



「先ずは俺の質問に──」


「殺すっ!!

産まれてきた事すら罪だと思う程徹底的に殺すっ!!

だから離しなさいっ!!」



先読みして答えたのは流石だと言わざるを得ないが、内容が物騒だ。

いや、物騒ってレベルの話じゃないよな。



「阿呆かっ!?

そんな事聞いて離せる訳が無いだろうがっ!!」


「良いから離しなさいっ!!

というか貴男も止めないで手を貸しなさいっ!!

私の夫でしょうがっ!!」


「おまっ──普通、此処で夫婦権限出すかっ!?」


「“誰”の“普通”よっ!?

私の知った事ですかっ!!」



激昂してブチ切れた割りに冷静な切り返し。

実は演技とか──あ、無い全く全然微塵も無いな。


氣の色までも“どす黒く”染まって来てるし。



「離しなさいっ!!

曹家の総力を上げて滅ぼし一族郎党皆殺しにした上で醜く朽ち果てる時まで晒し首にしてあげるわっ!!」



ヤバッ!?。

言ってる事がエスカレートしてきてないかっ!?。

マジでヤバイってっ!!


仕方無く“非常手段”へと行動を移した。




 曹操side──


雷華から頭痛の原因を聞き私の現状の“理由”を知りブツッ…と身体の中から、“何か”が切れる音がした様な気がする。


正確な事は覚えていないし今は正直どうでもいい。


“あの女”を私のこの手で打ち殺す事が大事。

邪魔する者は何だろうと、排除するまで。



「離しなさい雷華っ!!

私は──んんっ!?」



唐突に雷華の重みが消え、私の身体の自由が戻ったと思ったら左腕を引かれて、強引に振り向かされた瞬間唇を塞がれた。


一瞬、頭が真っ白になる。

憤怒も、憎悪も、殺意も、全てを塗り潰して。


抱き寄せられ私を包み込む温もりに自然と身体は力を抜いて身を預ける。

優しく頭を撫で、髪を梳く左手の感触が心地好い。



「…ん…っん…ぅん…」



重なる唇の隙間から漏れる吐息と甘美な水音だけが、静まり返った部屋に響く。

気付けば私から身を寄せて“もっと…”と求める。


何れ位、そうして居たのか定かでは無いが…ゆっくり身体を離した。

同時に閉じていた両の瞼を開ければ雷華の顔。

優しく、苦笑気味の微笑を浮かべてくる。



「…正気に戻ったか?」


「………一応は…」



そう問われても、雷華から離れた瞬間に再燃する心は抑え切れない。

抑え様と試みてはみる。



「………やっぱり無理っ!

殺しに行くわっ!」


「駄目だって」



振り向き様に走り出そうとしたが、あっさりと捕まり後ろから抱き締められる。



「離してっ!

お願いだから離してっ!!

殺しに行かせてっ!!」


「華琳」


「──っ!」



感情のままに訴えていたが雷華に真名を呼ばれた瞬間血の気が引いた様に思考が冷めていく。

あまりにも静かで穏やかな声音は逆に畏怖を覚えた。



「一応、人避けもしてるし“防音”もしてるが物騒な事を大声で連呼するなよ?

俺と違ってお前は“当主”なんだからな?」



恐らく苦笑しながらだろう諭す様に言う雷華の言葉は実に正しい。

私の立場を考えれば曹家を戦争に巻き込む様な真似はしてはならない。

私個人の感情で戦争をする事など言語道断だ。


何も言い返す言葉が無くて俯いた私を見て力を抜き、右手を腰に回して抱き寄せ左手で頭を撫でる雷華。

端から誰かに見られたなら恥ずかしい格好。

でも、邪魔は入らない。

だから嬉しく思う事を私も認められる。

素直に甘えられる。



──side out



どうにか落ち着いた様だ。

まさか再び──いや、逃走してまで行こうとするとは思わなかった。

其処までの事なのか。

…まあ、コンプレックスが有ったのは確かだが。

身長との比較だと十分な程整ってるんだけどな。

女心は難しい。



「予想は付いてるけど…

一応、確認しておくな?

“あれ”は誰だ?」


「…………………袁紹…」



名前を口にするだけなのに溜めに溜め躊躇した挙げ句ボソッ…と呟く。

そんなに嫌か。


しかし、予想通り“袁紹”だったか。

“歴史”では“曹操”とは若き日に交友を結んだ仲で群雄割拠でも北側の覇権を争う敵になる。

互いに認め合う好敵手──だった筈だが…なんでこう険悪なのかねぇ。

…あ、真名の件が有るから開き直れないのか。

難儀な風習だな。



「嫌う理由は大体は判るが自業自得だからな?」


「……どうしてよ?」



肩越しに此方を不満そうな拗ね顔で睨む華琳。

“何で私が悪いのよ?”や“彼奴の味方をする訳?”とか目が訴える。

それに小さく苦笑。



「順に説明するが…

“生き霊”は大概“負”の感情から生じる…

“呪い”もある意味では、同じ様なものだ

憎悪・悔恨・嫉妬・憤怒・悲哀などが要因だな

当然、それに伴う存在故に“対象”には危害が及ぶ

だが、今回は違う」


「…何が違うのよ?

私の成長を阻害していたのでしょう?」


「そうだな、事実だ

しかし、お前に対し危害を加える意志は無かった」


「……矛盾してない?」



少しは冷静──いや、元の多角的な思考に戻りつつは有る様だな。



「“表面上”で見ればな

だが、矛盾はしていない

何故なら“敵意”から生じお前に憑いた訳ではない

“劣等感”と“自尊心”の“生き霊”だからだ」


「………どういう事?」



今一要領を得ないか。

まあ、華琳には無縁な事と言えるから仕方無いか。



「袁紹はな、真名を交換し交友を持ったお前に対して日に日に劣等感を抱く…

当然、お前に勝てる要素を探す訳だが…

知も武も敵わず大抵の事はお前は一流以上に熟すか、熟せる様になる…

なら、残るのは?」


「……家柄や財力に年齢、それに“背骨の長さ”…」



棘を通り越して悪意全開の言い回しだな。

自分で認めたくない部分も有るんだろうけど。



「だったら判るな?」


「………っ〜〜〜ぅうぅ…でもぉ〜…」



納得しようとしてはみたが出来無い様で、涙を目尻に浮かべながら、駄々っ子の様にする華琳。

ああ、もう可愛いな。




 曹操side──


理由は判った。

確かに自業自得と言っても仕方無い事だろう。

言われていたにも関わらず無駄に目立ち“面倒事”を気付かない内に作った私の責任なのだから。


しかし、だからと言って、納得は出来無い。


雷華に会った時見惚れる程綺麗になって驚かせたいと思って頑張っていた。

その努力を“そんな事”で邪魔されていた。



(ええ、そうね──なんてそう簡単に納得出来る訳がないでしょっ!?)



何を言われても無理。

どんな正論だろうと止まる理由にはならない。

女の怒りは深いのよ!。


でも、止まらないと雷華を本気で怒らせる事になる。

それは怖い、怖過ぎる。


憤怒と畏怖の板挟みになり私の感情は揺れに揺れて、不安定極まりない。

今の自分は宛ら幼子の様な駄々を捏ねている状態。

情けないとは判っていても自分ではどうしようもなく雷華に縋るしかない。



「…頭では理解出来ても、心では納得出来無いか?」



そう訊かれ、雷華から顔を背け小さく首肯。

少しだけ、気不味い。



「氣の影響で成長が遅れ、“色々”と思う所が有るんだろうが…」



無い訳が無い、大有りだ。

宥め様としているが雷華も私の憤怒の一端。

私自身の為とは言っても、雷華が“対象”だから。

だからと言って八つ当たりしたりはしないけれど。

だから、困ってもいる。



「俺個人としたら本当なら見る事の出来無い筈だった華琳の姿を見る事が出来て嬉しいし…

何より、多分、今の華琳は俺と同い年位の成長具合…

寿命こそ違うが、それでも“一緒に”成長出来るかと思うと幸せだな」


「──っ!?」



狡い、本当に狡い。

そんな風に心から嬉しさを込めて言われてしまうと、私の抱く憤怒なんて簡単に薄まってしまった。

憤怒の一部が、その事への必然性を受け入れた為に、“赦して”しまう。

そして、一度、そうなると再び憤怒を抱いたとしても我を忘れて憤怒に狂う事は起きないだろう。


先程の言葉に嘘偽りは全く無いだろうけれど、多少の“計算”は有った筈。



「…この女誑し…」


「華琳が相手なら何度でも誑して魅せるさ」


「…ばかっ…」



抵抗も馬鹿らしくなれば、力を抜いて肩越しに雷華へ顔を向けて目を瞑る。

重なり合う唇を求めて。



──side out



どうにかこうにか、華琳を思い止まらせた。

今は鍛練の前に身仕度する為に私室に戻っている。



「しかし、ああいう華琳も新鮮だな……怖いが…」



過去の幾多の死線よりも、違う意味で怖かったな。

矛先が自分に向いてない分今回は冷静だったが。



「…“生き霊”か」



袁紹本人と面識は無いが、氣は自らを反映する。

“ああ”成ったのは華琳に対する“劣等感”からだ。

だが“自尊心”を保つ為の一心から生まれたのが氣の“生き霊”擬き。



「…家柄や財力はいつかは変わる可能性が有る…

年齢は女にとって気にする事だから論外…

残った容姿…まあスタイルだけが心の拠り所だったんだろうな…」



だが、それも成長する事で無くなるかもしれない。

その可能性が高い。

だから、祈った。

だから、願った。

強く、強く、強く深く。



「その結果、生まれたのが華琳の成長しない事を願う“生き霊”だったと…」



効果としては阻害していた訳だが、袁紹自身は自分が華琳に“勝って居られる”事だけを願っていた。

だから害意や悪意は無い。

一風変わった事象だ。


男の俺からしたら笑い話に思える所も有るが当事者にとっては違う。

華琳にも、袁紹にも。



「しかし…そんな理由でも無意識に氣の効果を生んだ辺りは“好敵手”故か…」



“歴史”に違わず“曹操”とは戦う宿命なのか。

まあ、孰れは殺り合う事になるだろうが。



(それとも…互いに真名を預けた事に因って両者共に意識し合ったからか?)



万が一の為、声には出さず思考に止めるが。

可能性としては有り得る。

袁紹も“英傑”の器に足る者だと仮定すればだが。


傑出した者同士が“強く”互いを意識した結果として擬似的な“同調”が起きたとも考えられる。



(華琳が“路傍の石”だと捨て置けば違ったかもな)



真名を預けた事によって、出来た“繋がり”…

“それ”を“汚点”とし、消し去りたい程に嫌悪する事で“強く”意識した。


気にも止めない相手でも…いや、だからこそ消したい程に意識した結果だろう。

何とも皮肉な物だな。



「二度は無いだろうが…」



小さく溜め息を吐き思う。

人の“情念”が如何に強く深く恐ろしい物かと。




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