表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫三國史  作者: 桜惡夢
823/907

曹奏四季日々 3


 孫権side──


──八月六日。


“次代を成す”為に、私達第一陣が優先的に雷華様と閨を共にし始めて数日。

改めて雷華様の底無しさを実感していたりする。


今までにも複数で、という事は無かった訳ではない。

妻の人数が人数だもの。

そうする事の必要性は十分理解をしているわ。

だから、異論は無い。

尤も、如何に妻同士でも、基本的に恥ずかしいものは恥ずかしいのだけど。

…まあ、それは事の最中は忘れてしまえるから増しな方でしょうね。

ただ、雷華様は出来る限り“二人きりで…”といった気持ちを大事にしてくれるので私達としても嬉しい。

……こほんっ…兎に角!、そういう状況自体は私達は慣れているとは言えるの。


ただね、それでも連日で、という事は無かったわ。

最低でも中一日は開けて。

それは当然ながら雷華様の負担や体調を考えての事。

尤も、私達、妻からすれば“出来れば、平等に機会が欲しい”というのが本音。

流石に時間的には、平等は不可能でしょうから。

……だって、10分程度で次の人と交代とか、一緒に街も歩けないもの。

だから、その辺りは私達も妥協すべき点なのよ。

華琳様一途な雷華様に対し“一夫多妻”を望んだ以上譲歩しなくては。


──いえ、それは関係無く──はないけど、雷華様が色んな意味で底無しな事を私達は知る事に為った。

とまあ、そういう事ね。



「はぁ〜…何だかなぁ〜…

いや、元々“其方”の方も凄いのは知ってるけど…」


「最早、流石を通り越して存在自体を神格化されても可笑しいとは思いません

寧ろ、そういう宗教団体が現れそうですね…」


「それは無いでしょう

そんな真似をする様な輩を雷華様が見逃す筈無いわ

抑、隠密衆が表に出る前に“摘み取る”わよ」


「あー…確かになぁ〜…」



そう話す相手は翠と稟。

第一陣に入った私とは違い二人は第二陣の予定。

因みに、第一陣は私の他は紫苑・冥琳・雪那・斐羽・愛紗・月に、結の七名。

…え?、少ない?。

そんな事は無いわ。

これは将師の内では。

それに加えて“壬津鬼”の面々からも第一陣が居る。

総勢四十名にもなる。


過去(歴史)を紐解けば時に数多の女性を侍らせていた男は少なくない。

それは一種の自己顕示欲。

“これだけの女達を自分は好きな様に出来るぞ!”と他者に見せ付け、その力を示す為でも有る。

勿論、単純に女好きというだけの者も居たとは思うが詳細は関係無い。

その事実が重要だから。


そして、雷華様の凄い所は女達──つまりは、私達が対立しない事。

“色衰えて愛緩む”という言葉が有る様に一夫多妻は男側に主導権が有る場合が殆んどだと言える。

だから女達が対立する事は珍しくはない。

私達が違うのは、華琳様が統括するからこそ。

狭量な男には出来無い事。

しかし、それにより初めて“共有”は成される。




まあ、そうは言ってても、私達にも独占欲は有る。

それを上手く満たしてくれ調和を円滑に出来るのは…やはり、雷華様の手腕。

華琳様を第一としながらも決して、私達を蔑ろにする事は無いから。

だから私達も安心出来る。

その結果、私達の一夫多妻(夫婦関係)は円満と成る。



「あ、そう言えば、蓮華

お前、孫策の所との関係はどうするつもりなんだ?」



唐突に話題を変える翠。

雷華様曰く、“女性の話は脈絡無く変化する、対して男性の話は理屈が多い”と聞いた事が有る。

ただ、それは比率的な物で絶対ではない。

だから、女性でも理屈的な話し方を好む者も居る。

私も、そんな一人だ。

勿論、そうだからと言って嫌うという訳ではない。

飽く迄も、話し方の好みの問題というだけだから。


──とまあ、それは兎も角翠からの質問に付いて。

その意図は二つに絞られ、しかし、断定は出来無い。



「それは私個人の話?

それとも私が興す事に為る“曹魏の孫家”の話?」


「後者の方だな

前者に関しては別に私達も曹魏も関係無いんだから」


「関係無くは無いですが…

まあ、姉妹が姉妹で有る事自体は変わりませんから…

その点は雷華様も華琳様も気に為さらないでしょう」



私の問いに答えた翠。

その答えに呆れた様に稟は溜め息を吐きながら一言。

翠らしい、さっぱりとした割り切った考えは個人的に好ましいのだけど。

稟の気持ちも理解出来る。

事実、私が孫家を離れる際雷華様に言われている。

ただ、無関係ではない事は理解して貰いたい。

色々と面倒な話だけど。



「で、どうするんだ?」


「縁戚関係は否定出来無いというのが実情ね…

でも、姉様が私との関係を政治的に利用してくる事は先ず無いと思うわ」


「効果抜群の一手をか?」


「だからこそ、よ」



そう言って私は稟を見る。

そんな私の意図を察して、“…仕方有りませんね”と言う様に稟は苦笑する。

理解しているから自分でも説明は出来るけど、自分で話すのは恥ずかしいもの。

だから稟に頼む。



「孫策は連合の集結の際に御二人と顔を合わせており人柄の一端に触れています

ですから、そういう方法で交渉を持ち掛けると不評や反感を買う事が判っている以上は遣りません

仮に、蓮華が孫家に居れば雷華様の側室として嫁がすという可能性は有ったかもしれませんが」


「なら、末妹の孫尚香は?

そういう意味の“駒”には使えるだろ?」


「それは有り得ませんよ

既に蓮華が傍に居る以上、下手な梃子入れは二人共に立場等を悪くする可能性が高いですからね

私が孫家の軍師であれば、考えるのは将来的な両国の孫家の婚姻関係です

無理に縁を繋ごうと考えて曹家との関係を崩すよりも建設的ですから」


「面倒な話だな〜…」


「貴女も馬家と一族復興が有る以上他人事ではないと思いますけどね…」





翠達と別れ、私一人で街を散策している。


仕事が無い訳ではない。

ただ、大半が既に後任へと引き継がれている。

特に現場仕事は優先的に。

珀花達ではないけど部屋に籠って書類仕事ばかりだと気が滅入ってしまう。

そういう時は、優先順位の高い物だけを手早く済ませ残りを後回しにしてしまい気分転換をするべき。

遣る気も集中力も無いまま仕事をしても効率が悪いし失敗もし易いもの。

何事も減り張りが大事よ。


そんな感じで翠達と出逢い御茶を楽しんでいた。

それが少し前の状況。

しかし、私と違って二人は現場仕事も少なくない。

非番でも無い、休憩時間に偶然会っただけ。

でも、そういう偶然が時に予期せぬ転機にも為る。

人生とは本当に不思議だ。


ぼんやりと、そんな戯れ言を悟った様な体で考えつつ適当に歩いて回る。

“目的も無く”というのは昔の私なら考え難い事。

どうしても、理由や効率を求めてしまったから。

それは悪い事ではないけど“偶然を楽しむ”程度には心に余裕を持たなくては、大事な物を見失う。

その事を身を以て知った。

だから今は抵抗は無い。



(…姉様達との縁、ね…)



ふと、思い出したのは翠が振ってきた話の事。

実際問題、私だけでなく、翠と秋蘭を始めとして宅は意外と孫家の勢力と縁深い面々が揃っている。

そういう意味では将来的な婚姻関係の可能性は十分に考えられる事。

特に、雷華様の血筋を迎え入れる事が出来る孫家側は是が非でも結びたい話。

──とは言うものの姉様も暗愚ではない。

当然ながら、家格等の点はきっちりさせる筈。

仮に、私の娘が嫁ぐのなら相手は姉様が産む嫡男以外有り得ないでしょう。

小蓮が男児を産むとしても婚姻は無い。

小蓮には悪いけど、子供の立場が違い過ぎるもの。

まあ、例外としては姉様が子供を産まない場合ね。

その場合は仕方が無いから小蓮の子供が世継ぎと為るでしょうから。


尤も、雷華様が政略結婚を認められるとは思わない。

それ自体が悪いとは私とて思いはしない。

そういう事も時には必要。

それが政治という物。

けど、それを理解出来ずに結婚してしまうと最終的に不幸に為ってしまう。

だから覚悟が不可欠ね。

その上でなくては。

…まあ、恋愛結婚の私達が子供達に政略結婚を強いるというのは考え難いから、飽く迄も可能性の話よね。

宅は必要性も低いから。





「──あっ…ま、待って、お願い…其所だけは…」



上目遣いで懇願する。

時には羞恥心を捨ててでも攻めに出る必要は有るが、そうでなければ大抵の場合羞恥心が勝るでしょう。



「そんな事を言って…

蓮華の此処は準備万端って言ってるみたいだけど?」


「──っ…そ、それは…」



意地悪ながらも、強者たる笑みを浮かべる雷華様。

その獲物を仕留める瞬間を思わせる鋭い眼差しに私は思わず息を飲む。

無意識に逸らしそうになる顔を気合いで堪える。

しかし、雷華様が攻め手を緩める筈が無かった。



「嘘吐きには罰が必要だと思わないか?」



寧ろ、活き活きとする。

基本的に、悪役気質を好む雷華様にとって、今の私は格好の獲物だと言える。

捕食される身でありながら歓喜を懐いてしまう。

そんな“美悪”を前にして私は胸を高鳴らせる。


それでも負けず嫌いな故に堕ち掛けた心に喝を入れ、最後の抵抗を試みる。

“女の涙”は飾りではなく武器であるのだと。

今此処で実証に挑む。



「…ぃやっ…せ、せめて、部屋に入るまで待って?」


「いいや、駄目だ

もう俺も我慢が出来無い」


「あっ!、そんなっ…」



しかし、無慈悲にも抵抗は意味を為さずに、雷華様の指が私に止めを差す為に、私の最後の守りを奪い去り雷華様の物を掴み上げて、私へと打ち込んできた。



「──王手だ」



──パチンッ!、と綺麗な音を響かせて打たれた駒は容赦無く私を追い込む。

そして──詰んだ。

打つだけなら出来るけど、雷華様が読み違えるなんて考え難いもの。

だから素直に投了する。



「参りました」


「有難う御座いました」



互いに一礼し、終了。

頭を上げ、盤上を見詰めて対局を振り返ってみる。



(む〜…あと少しで穴熊に持っていけたのに…

やっぱり、途中から穴熊に切り替えたのが不味かったのかしら…)



雷華様に真っ向勝負しても勝てないから途中で戦法を切り替えてみようと考えて打ってはみたけど。

これは手番が交互だから、どうしても手間が掛かる。

そういった意味では戦法の組み合わせが悪かったかもしれないわね。

……本当、悔しいわ。




未だに誰一人勝者の居ない雷華様との勝負。

それは武でも智でも。

だから、当初の公約もまた今も有効だったりする。

勝てば、雷華様に出来得る限りの範囲で、どんな事も一つ叶えてくれる。


夫婦という事で大抵の事は叶えて貰えているのだけど勝つ事自体に意味が有る。

だから誰も止めない。

時間が有れば、挑戦する。

………結果は全敗だけど。


因みに、叶えて貰いたい事自体は私達にも有るわ。

大抵の事は叶えて貰えても普通には不可能な事。

例えば──“二人きりで、一ヶ月間の旅行”とか。

ええ、雷華様は勿論、私達自身の立場等を考えると、先ず出来無い事なのよ。

それは華琳様でも同じ。

もし、華琳様が権力を使い雷華様と二人きりで旅行に出掛けようとすれば私達は反対するし、当の雷華様が叱責するでしょう。

……まあ、全部放り投げて戻るつもりのない旅になら反対されないでしょうね。

それが、華琳様の選択なら尊重されるでしょうから。


──とまあ、そういう訳で一ヶ月は厳しいにしても、二週間位だったら可能。

だから、勝ちたいのよ。

あと、“華琳様も含めて”未勝利な訳だから。

勝てば名実共に“一番”を名乗れるという訳よ。

華琳様が正妻だろうとも。

それはそれ、これはこれ。

女としての闘いなのよ。



「蓮華、この後は?」


「今日は何も無いわ」


「そうか…だったら、もう一勝負するか?」


「ええ、喜んで」



片付けられた将棋盤と駒に代わり、用意された碁盤と碁石を見て、承諾。

人生の時間で言えば私達はまだまだ先が有る。

でも、時間は有限だもの。

だから使い方は大事よ。

絶対に無駄遣いはしない。

後悔しない為にもね。



──side out。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ