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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
82/913

         弐


夜も更け目の前には寝台に横になった華琳。

小さく寝息を立てている。

今なら頬を抓っても起きる事は無い。

単なる“睡眠”中ではなく氣を使用して意識を深くへ沈めているからだ。

…まあ、起きた時に感付きそうだからしないが。

だって、遣り返されそうで怖いじゃない。



「さてと…馬鹿な事は横に置いといて始めるかな」



今更な様に思えるが伯道の一件が無かったら失念して後手になっていただろう。

必ずしも“異常”は見える訳ではないのだから。


取り敢えず、華琳の身体に健康面での異常は無い。

氣に関しても同じ。



「こうなると普通は精神的要因──ストレスなんかを考える所なんだが…」



可能性を取捨選択しながら華琳との会話を思い出す。






「最初に症状が出た時期、或いは自覚した時期は?」


「…そうね、多分七…いえ八年前だと思うわ」


「症状が出る間隔は?

最初と変わらず同じままかそれとも変わった?

ああ、月経時は除いてな」



そう言うと少しだけ照れて睨んできた。

だが、言わないといけない事に溜め息を吐く。



「最初の頃は明確に断定は出来無いけど…年に一度か二度程度だったと思うわ

その後は、少しずつ頻度が増えて間隔は不定期…

最初は短時間や一晩だったけれど次第に長くなって、今は数日に及ぶ事も珍しくなくなったわ…」


「症状はさっき言っていた“頭痛”だけか?

吐き気や嘔吐、発熱や咳、倦怠感や食欲不振は?」


「…直接は無いわ

頭痛の影響に因る不眠からなら有るけどね」



肩を竦めながら疲れた様に苦笑して見せる華琳。

まぁ…うんざりするわな。



「発症は洛陽時代か?」


「ええ」


「なら、洛陽を離れてから悪化したと思うか?」


「…何方らとも言えるわ

抑、一時期洛陽から離れてまた戻ってるし…

その前後で改善や緩和した様には感じなかったもの」



“洛陽”が原因か否かとの真意を汲み取って答える。

俺も“そう”とは思えないからの確認だがな。



「薬の服用や生活の変化で症状に違いは?」


「薬は効いたのかどうかも判らないわね…

生活の変化による影響は…難しい所ね

でも、良い影響は無かった事だけは確かよ」


「そうか…最後に頭痛中に“違和感”を覚えるか?」


「“違和感”?

……そう言われれば普通の頭痛に比べて…何と言うか神経を“逆撫で”する様な苛立ちを感じるかしら…

でも、頭痛で気が立ってるだけかもしれないけどね」




私塾時代の発症となると、尚更にストレス性か。

しかし、その後も悪化する点が引っ掛かる。

偏頭痛を引き起こす類いのストレスを今も感じているのなら何かしらの異常性が見受けられる筈だが。



「…“潜る”しかないか

この場合だと…」



まあ一応、華琳にも可能性として説明してあるから、後で文句は言われない…筈…だと良いなぁ。


一つ溜め息を吐いて意識を切り替えると華琳の額へと右手を置く。


賊徒相手にやる遣り方とは違い緻密な氣の操作を必要とするので雑念は捨てる。


氣を華琳に同調させつつ、自分の意識の一端を繋いだ氣を通じて華琳の精神へと潜入していく。


“精神”と一口に言っても判り難いだろうが此処では記憶や知識の類いではなく心や感情の波・流れの様な物だと言っていい。

虹彩の波の中を進んでゆくイメージだろうか。


潜っている間は現実時間が定かでなくなる。

その為、一定時間毎に判る様に“仕掛け”をするのが上級者の常識。

本来は無防備になる身体を守る護衛を付ける事もだ。


そして、その一度目になる“合図”が来る。



(…もう二時間経ったか)



今回は二時間で一区切り。

夜明け前──午前五時頃を目安にし“四度”の合図を設定してある。

つまり、四度目が来たら、起きなければならない。



(…この調子だと時間内に見付かるのかねぇ…)



愚痴りながらも“作業”は休まず続ける。

今夜中に見付からなければ次の夜に持ち越すだけ。

必ず原因は突き止める。






──と、意気込んでから、既に二度の合図。

つまり、次の合図が最後で残り時間は二時間を切った事になる。



(あーっもうっ!

一体何処に在んだよっ!?

“かくれんぼ”してんじゃねぇんだぞっ!?)



つい、喚き散らす様にして叫んだのも仕方無い。

今夜中見付ける自信が有り可能だと踏んでいた。

というか、これでも万が一見付からないとかになると正体不明という事になる。

どんな偏頭痛だよ!。



(………いや、待てよ?)



自分の思考が引っ掛かる。

“正体不明”…それなのに俺は一体“何”を偏頭痛の原因だと考えているのか。

己の間抜けさに苦笑する。



(やれやれ…“病”として考えるから見落とすんだ

“思い込み”だよなぁ…)



皆に判らないから良いが、偉そうに言えない失態。

外でなくて良かった。




偏頭痛を引き起こす原因は間違いなく内側だろう。

但し“それ”自体が害とは限らない。

だから引っ掛からずに悩む事になった。



(そうなると“異常”では見付からないか…)



探索対象を変更する必要が出て来るが…どうするか。

“何”で探すか、だ。



(…ストレス等の精神的な要素は無いだろうな

やっぱり、氣が妥当か…)



外──身体には直結しない身の内々に存在し精神面と相互関係に有る氣が。


結局は潜る必要が有るから無駄では無かったけど。



(恐らくはだが華琳の氣と同調しているから判らず、異常に見えないんだろう

ただ永続的に存在するとは思えない…)



“外部”から補充されると仮定すると“身近”な所に“犯人”が居る事になる。

しかし、華琳ですら氣には“一般的”な認識程度しか持っていなかった。

曹家内や領民の中に扱える者も見られなかった。



(抑、発症が洛陽時代だ

現環境の中とは考え難い…

“鍵”は洛陽時代か…)



とは言っても華琳から話を詳しく訊いた訳ではないし記憶を覗くのも出来るなら避けておきたい。

バレた後が…なぁ。


軽い“寒気”を感じながら溜め息を吐く。



(…そう言えば…)



華琳は“苛立ち”を感じる気がすると言っていた。


華琳の性格的に考えると、温和とは言い難いが短気と言う訳でもない。

極度の負けず嫌いでは有るけれど無差別ではない。


洛陽で華琳の神経を逆撫でしそうな存在となると…

腑抜けていた皇帝…

好き勝手する宦官共…

低レベルな私塾…

…どれも微妙だな。


苛付きはするだろうが気にし過ぎる事ではない。

其処まで“期待”したりもしていないだろうし。



(……ん?)



考えていると“何”かが、聞こえた気がした。

いや、普通は有り得ない事なんだけどね。

“此処”で、しかも華琳の意識が沈んでいる状況で、“何”か聞こえるなんて。



(しかし、今は渡りに船

本の少しでも“手掛かり”になるなら有難い…)



意識を集中させ、聞こえる方向を探す。

だが、気のせいか空耳か、全く聞こえない。



(…単に俺の勘違いだとは思えないしな…)



これは何か、ラジオとかと同じで特定の周波数の様な特性でも有るのか──とか考えて、遣ってみる価値は有るかと思い、華琳の氣の波長域で変えてみる。


すると、確かに聞こえた。

賑やかな“声”が。




“声”が聞こえた方へ進み“それ”を目にした。

思わず、我が目を疑い手で擦って見直した。



「オ〜ッホッホッホッ!

オ〜〜〜ッホッホッホッ!

オ〜〜ッホッホッホッ!」



マッチョな男達が褌一丁で担ぐ金ピカの御輿の椅子に座って高笑いする女。

華琳より黄みの強い金髪をこれでもかと巻きに巻いた多連装型ドリ──ではなく髪型で、緑色の眼。

パッと見でも伝わってくる残念さ具合だ。


…華琳、ごめんな。

比較例に出して悪かった。


華琳に心から謝ると改めて目の前の“それ”を見る。

…うん、見てるだけで妙に苛立ちが沸いてくるな。



(こんなのが内側に居たら偏頭痛も起きるわな…)



溜め息を吐き、同情する。


しかし、これは一体何だと言うのだろう。

引き連れている男達は凡そ百人は居るだろうか。

“此処”で独立して動き、非常識とさえ言える大声で練り歩く一行。

見た感じ“寄生”している様にも思えるが悪さをしている様には──



「さあ〜て、皆さん

“ちんちくりん”で貧相な“華琳さん”に私の美しく豊満な身体を、御見せしてあげますわよっ!」



……何故だろうな。

たったそれだけの事なのに合点が行ってしまった。



(…はぁ〜…“面倒事”は起こすなとあれだけ言って置いた筈なのになぁ…)



これの“正体”が判ると、自然と経緯も見えた。

思わず溜め息を吐きながら起きた時にどう説明するか頭を悩ませる。



(…取り敢えず、目の前の問題から片付けるか…)



これは氣の塊。

なら、その対処法は一つ。

氣を打付けての相殺。

同調させた自身の氣を集め右手に収束していく。


今更ながらに思うが華佗が診察してなくて良かった。

華佗では見付けられないし下手したら斬首だ。

仮に見付けられたとしても華佗の氣の量では相殺には届かない。

命を賭しても、だ。

それ程に大きな氣の塊。

流石に子揚には届かない。

また華琳の氣に紛れている事も“隠れ蓑”になって、認識し辛い。

“誤診”しても可笑しくはないだろう。

だがまあ、お陰で“色々”納得する事が出来た。



(病と何方が良かったかは比べられない、か…)



個人的には良かったが。

華琳にしてみれば…なぁ。


高笑いする“それ”に向け右手の氣を放った。




身体へと戻ると、心無しか安らいだ様な華琳の寝顔に苦笑しつつ、隣に横になり腕枕して顔を見詰めながら短い眠りに就いた。




腕の中で身動ぎする感覚に意識が揺り起こされる。

瞼を開ければ粗同時に同じ状態の華琳。

此方を認識すると寝惚けた表情で両腕を首へと伸ばし甘える様にキスしてくる。

一緒に寝ると大体起こる事なので互いに慣れた。

最初の慌て具合や照れ方が少し懐かしい。



「…んっ…御早う、雷華」


「おはよ、華琳」



挨拶時に真名を呼び合って確認するのは拭い切れない“不安”の為。

そして共に在る事に安堵し喜びを感じ合う。

一種の儀式の様な物か。



「身体の感じは?」


「そうね…上手く言えないけれど“すっきり”とした様に感じるわ」


「それは良かった」



そう笑顔で言う華琳に俺も笑顔で返す。

まあ、“憑き物”が取れた訳だから当然か。



「結局何だったの?」


「あ〜…なんだ…

“呪い”って解るか?」



華琳の問いに少し躊躇うが覚悟を決める。



「…私を呪殺しようと?」


「それなら頭痛程度で済む訳がないだろ?」



理解が早いのは良い事だが早とちりし易くも有る。

呪殺じゃないからな。



「…だったら?」


「“呪い”にも色々有るが“此処”だと氣を用いてと思っていい…

でだ、世の中には時として“生き霊”が生じる」


「“生き霊”?」


「平たく言えば生物の心…

情念が氣に因り“幽霊”に成った物だな」



“幽霊”の一言に僅かだが華琳が反応した。

もしかして怖いのか?。

呪いは大丈夫で幽霊は駄目とか可愛過ぎだろ。

揶揄いたいが…我慢我慢。



「で、お前に憑いていた訳なんだが…

殺意や悪意・害意は無い

ただ、一つだけ…

お前の“成長”を疎んで、邪魔してた」


「………………もう一度、言ってくれるかしら?」



思わず、呆然とした華琳が再度説明を求めたので少し詳しく教える事にする。



「お前の“身体の成長”を邪魔・阻害してた

だから、年齢より成長度が遅れてたんだな

本来なら仲謀位の背丈には成ってる筈だから」


「…その“生き霊”の主は誰なのかしら?」


「会った事の無い顔だが、歳は三十位、これでもかと巻き巻きにした長い金髪に緑の眼の女性だ…

一番の特徴は──

“オ〜ッホッホッホッ!”って感じの高笑いだな」



そう俺が言ったら、静かに俯いた華琳。

いや、俺も真似するのは、恥ずかしかったからな?。




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