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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
819/915

         肆


 賈駆side──


先ずは国としての成立。

其れ無くしては進む未来も定める事は出来無い。


昨日の戦い以前までなら、三つにまで絞られた勢力の覇権争いの行方が見えない事には難しかった。

特に、曹魏の目指す未来が明確ではなかったから。

肝心となる曹魏に、曹操に“大陸を統一する意志”が有るのか、否か。

それが定かではない以上、迂闊に動けなかった。

下手に動いてしまったら、劉備達みたいになるだろう事は目に見えていたしね。

だから、雪蓮はその意志を確かめる為に劉備に協力し決戦へと参加をした。

…まあ、流石に“あんな”状況は想定外でしょうね。

幾ら、非常識な“勘”でも読み切れなかった様だし、少しだけ安心したわ。

ただ、雪蓮の事前の変更が結果的には活きている事は否定出来無いわね。

正直、あの決断が無ければ宅は少なくない混乱を内に招いていた事でしょう。

そういう意味では感謝ね。



(戦いが始まる前の舌戦で曹魏の、曹操の根幹となる考え方は見えたわ…

雪蓮の言っていた通りね

無意味な領土の拡大は行う意思は無いでしょう…)



そういう意味では、私達と共通しているわね。

宅の場合、反乱から侵攻に事を運んではいるけれど、それは孫家の縁地でも有る揚州の地──江東の領土を取り戻すといった大前提が有っての事だから。

領地の拡大とは違うわ。

交州の併合は武力行使にて行われてはいない。

全く荒事が無かった、とは流石に言わないけれど。

それでも、無駄な血を流す事無く話を纏められたから対外的な悪印象は無い筈。

劉備達とは違うもの。


だから、曹魏から国として認めて貰える可能性自体は決して低くはない筈。

雪蓮の妹で小蓮の姉である孫権が曹魏には居る。

勿論、それを理由にしては認められ無いでしょう。

だから、それに甘える事は考えてはいけない。

ただ、宅と曹魏とは色々と縁が深いのも確かなのよ。

月と恋、孫権・馬超・楽進・夏侯淵・典韋、それから黄忠も、でしょうね。

現在、判っているだけで。

だから、もしかしたら更に多いかもしれない。

それ位に、曹魏というのは底が知れないのだから。


しかし、それだからこそ、難しいというのも確か。

劉備と比較すれば、雪蓮は確実に評価されるでしょう事は間違い無いわ。

だけど、それだけで曹魏が雪蓮を、私達を一国として認めてくれるのか、否か。

それは明言は出来無い。


私達に出来る事は唯一つ。

認められる様に努力を重ね結果を以て示す事。

土着の民の支持だけでは、確証には為らない言葉では信頼には足りない。

その為だけでは駄目。

遥か未来(その先)にまで、繋ぐ事が出来るのだと。

それを曹魏に対して私達は証明しなくてはならない。


“国”を築くという事。

それは簡単ではない。

国とは人であり。

地を指しはしない。

王とは背負う者である。

その覚悟を持って。




私達に再確認させる意味で最重要となる事を口にして私達の反応を見てから次に話を進めてゆく。



「さて、それじゃあ順番に問題を片付けましょう

先ずは劉備対策からね

待機させている警備部隊は現状のまま継続ね

加えて、曹魏との領界──江水沿岸域に配備している部隊は大半を移動するわ

劉備達が水上戦が上手いか定かじゃないから水上戦を仕掛けてくるかは不明よ

けど、油断は禁物

だから上流域の警戒だけは怠らない様に継続させて」



そう言った指示に可笑しな点は見当たらない。

寧ろ、先程の馬鹿な真似を遣っていた人物と同じとは思えない位だわ。

…まあ、こういう人だって仕え始めてから嫌に為る位思い知らされているけど。



(…そんな雪蓮(主君)を、好ましく、誇りに思ってる時点で私も同類だわ…)



胸中で溜め息を吐きながら苦笑を浮かべてしまう。

勿論、悪い意味ではない。

今でも私の月への気持ちは変わらない。

変わってはいない。

もし、月に仕えられるなら仕えて、支えて行きたい。

そう思っている。

叶うのであれば、月を宅に迎えたいとも思う。

私が曹魏に仕えられるとは思わないから、一緒に居る方法としては月に来て貰う事になるでしょうね。

勿論、それ自体可能性の話の域は出ないんだけど。

だから、“たられば”の話だって事なのよ。



「何か意見は有る?」



そんな事を考えている間に私達を見回してから雪蓮は意見を求める。

私達は各々、軍将同士で、軍師同士で顔を見合せると意見の有無を確認し合い、“特には無い”という事で一致すると、雪蓮へと顔を向けて口を閉ざす。


そんな中、一人だけ挙手し私達の視線を集める。

将師ではない。

しかし、この場に置いても発言力を持つ重要な人物。

そう、祐哉だった。

こういう時の祐哉の発言は無視出来無いのよね。

少し馬鹿馬鹿しいと思える話だったとしても。



「はい、祐哉君」


「雪蓮先生、質問です

根本的な話だけど、劉備と事を構えるつもりは?」


「宅からは、無いわね

勿論、彼方から仕掛ければ遠慮無く殺るけど」


「なら、同盟の際の条約は無効って事かな?」


「それは彼方次第ね

少なくとも宅は内容的には守りながら曹魏との関係を構築していけるもの

そういう事が出来る様に、考えてた訳だしね〜」


「じゃあ、宅が間に入って“三国鼎立”の方向で事を運ぶって可能性は?」


「無いわね、絶対に

以前の──“黄巾の乱”で出逢った頃の劉備だったら考える価値は有ったけど…

今は有り得ないわよ

と言うか、祐哉?

判ってて訊かないで頂戴」


「設定(君付け)忘れてる」



“……あ…”と祐哉からの指摘を受けてから気付き、拗ねた様に頬を膨らませて祐哉を睨み付ける雪蓮。

仲が良いのは結構だけど、他所で遣って頂戴。

苛々して仕方が無いわ。

あと、遊ばないで頂戴。




“…コホンッ…”と一つ、咳払いをする雪蓮。

集中の切れていた顔を再びキリッ!、と引き締める。


それを見て、祐哉は質問の続きを話し始める。



「つまり、宅から劉備への働き掛けはしないし、態々宅から仲良くして遣る気は全く無い、という事?」


「ええ、その通りよ」



迷い無く肯定をする雪蓮に私達は静かに同意の意思を首肯して示す。

示した相手は雪蓮と祐哉。

何方等かと言えば祐哉への意思表示という意味の方が強いんでしょうけど。


ただ、態々訊かなくもいい質問だったと思う。

思うんだけど──こうして再確認するから気付く事も有るから私達は無駄だとは言わない。

そのお陰で、認識や解釈・想像している事等にズレが生じている事に気付いた事が何度も有るから。

だから侮れないのよ。



「まあ、そうだよな…

だったら、尚更かな

警備部隊を置く事自体には異論は無いんだけどさ…

その場合、該当者は長期間の任務になるよね?」


「ええ、勿論そうね」


「うん、長期間に為るって判ってる訳だけど、状況を此方から動かす事をしない訳だから、解決もしない

しかも、今の劉備の戦力を考えてみると、攻めてくる可能性は低いよね?

そうすると、警備部隊って士気や緊張感を保ち続ける事が困難だと思うんだ

極端な言い方をするなら、毎日毎日見張りばっかりで飽きてくると思う」


「それは……まあ、確かにそうかもしれないわね…」


「もしも、雪蓮だったら、“あーもうっ!、何時までこんな事遣らせるのよっ!

こんな下らない命令をした上司(馬鹿)なんて要らないでしょっ?!、今直ぐにでも殺して遣ろうかしらっ!”とか言う気がする」


『…………』



その一言に全員が納得し、“あー…確かに…”と思い雪蓮を見詰めた。

普通だったら“ちょっと、幾ら何でも其処までは…”なんて言う場面なんだけど言われた雪蓮(本人)ですら私達と同じ意見だもの。

反論出来ずに頷いている。

本当、よく判ってるわ。



「だからさ、ずっと部隊や面子を固定したりせずに、一定期間で入れ替える事を前提にするべきだと思う

それに皆だって引退をする時が来るんだから、上手く将師の後任を育てるのにも役立てられると思うんだ

色々考えながらじゃないと務まらない任務だからね」



…まあ、そうよね。

私達は不老不死ではない。

人間なんだから世代交代は必要不可欠な事。

ギリギリの、瀬戸際に為り育てようとしても無理。

だったら、こういう状況を上手く活用するべきよね。

そういう思考の柔軟さには本当に感心するわ。



──side out。



 黄蓋side──


相変わらず、細かい部分に気が回る奴じゃな。

そう感心してしまう。

だが、祐哉の様に一般的な兵達や民に近い感覚を持ち意見してくれるというのは中々に得難い存在。

恐らく探しても、育てても祐哉の様には成らん。

これは生来の気質も有るが“異世界(天の国)”という価値観も環境も異なる地で生まれ育っているから。

そう考える事も出来る。

…まあ、当たり外れの有る事は否定はせんがのぅ。



(曹操と策殿は当たりを、劉備は外れを引いた…

言葉にすれば、それだけの事なんじゃがな…)



その違いは決定的だ。

勿論、“たられば”の話に意味は無いのじゃが。

恐らくは、昨日の戦場へと立って居った者であれば、誰しもが一度は必ず考える事じゃろう。

当然じゃが、宅と曹魏では北郷(外れ)を引かずに済み“良かった”と思った者が大半じゃろうがな。

まあ、好奇心から言えば、策殿が曹純を引いて居たらどうなっていたのか。

それには興味は有るのぅ。

飽く迄も興味じゃがな。


祐哉の意見を取り入れて、その場にて修正案が出され当初の指示よりは細かいが“大枠”が決定する。

その際には祐哉は口を出す事は滅多にしない。

それは自身の能力が将師を上回る事は無いという事を理解しておるから。

“もう少し自信を持て”と言いたくも為るが、其処が祐哉の強みでも有る。

謙虚故に、己の未熟さから目を逸らしはしない。

そして、足りないからこそ積み重ねる努力を怠らず、焦らず、己を見失わない。

曹純(他)とは比べられぬが祐哉も稀有な人物じゃ。

そう自信を持って言える。


だから、祐哉の代わりなど何処にも居りはせん。

昨日の戦場で曹操が盛大に惚気ておったが、儂らにも同じ事が言える。

祐哉でなくてはならん。

例え、曹純の方が祐哉より優れてはいるのだとしても祐哉ではないのじゃから。

策殿が、儂が、皆が。

選んだのは祐哉じゃ。

故に、代わりは居らん。

…絶対に言わんがな。




そんな感じで次々と議題は話し合われていった。



「それじゃ、次が最後ね

曹魏との交渉よ」



一番最初に提示されながら一番最後に回された。

その理由は単純。

それを先に決めてしまうと優先順位の関係から内容に妥協してしまうから。

最優先では有るのじゃが、他を犠牲(蔑ろ)にしてまで優先して良い訳ではない。

だからこそ、最後にした。

そういう何気無い部分にも策殿の成長が窺える。

尤も、会議の前での一件も有るからのぅ。

感動したりはせん。



「先ず、私の名代としての使者なんだけど…祭

貴女に頼みたいの」


「…儂で宜しいか?」


「ええ、孫家の将師の中で最古参なのは貴女よ

他には考えられないわ」


「…確と承りました」



一瞬、視線を祐哉に向けて策殿に言外に訊ねた。

それでも名代に儂を選んだ理由は有るのじゃろう。



「次に、曹魏との実質的な交渉役に──雛里」


「はっ、はいっ!」


「貴女に任せるわ」


「う、承りましゅた!」



ふむ…雛里を選ぶとは。

詠は董卓絡みで暴走をする可能性が有る為仕方が無い事なんじゃろうがな。

…敢えて穏を外して、か。

亞莎でもないしのぅ。

何かしらの考えが有っての事なんじゃろうが。

策殿も食えぬのぅ。


そう思いながら、胸中にて楽しむ様に笑う。



「私自身実際に行った事が有るから言えるんだけど、護衛は必要は無いわ

だから兵や文武官も無し

ただ、一応の形で…明命

貴女に護衛を任せるわ」


「はい!、頑張ります!」



さて、可能な限りの範疇で早く動いて貰う事に為るのじゃろうな。

また暫くは酒を愉しむ暇は無くなりそうじゃのぅ。

その分、楽しめるがな。



──side out。



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