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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
81/907

13 病は気から? 壱


※魏郡ギョウ県→業




 郭嘉side──


歳が十二になった頃…

世の行く末が“乱世”へと向かう事に気付いた。

それからは己の才を高め、来るべき時に備えて勉学に励み続ける日々。

加えて、最低限の護身術を身に付ける事にした。

用心に越した事はない。


私にとっての最初の転機は三年前になるだろうか。


何と言う事は無い。

旅の行商人から聞いた話に自分の知らない事が世には溢れている。

そう感じたからだ。


私は直ぐ様身仕度を整え、旅に出た。

とは言っても女の一人旅が如何に危険な事か判らない訳が無い。

私は“戯志才”と名を偽り素性を隠した。

そして一年程は男の振りをしながら旅をしていた。


二度目の転機は旅先の宿で偶々空きが無く、共に一人だった事で相部屋となった女性──趙雲との出逢い。


当時、男装しての旅が染み付いていたにも関わらず、彼女には実にあっさりと、見抜かれた物だ。

何でも私には“男の色気”が感じられないとか。

それを機に男装も止めた。


彼女とは正反対の性格だと互いに思っただろう。

しかし、妙に気が合って、居心地が良かった。

だから、長く共に旅をする事になったのだろう。

互いに真名を預け合う程に心を許して。


三度目の転機は一年後。

賊徒に襲われていた彼女を趙雲──星が助けた事で、知り合う女性──程立との出逢いだ。


奇しくも私達は同じ歳で、女性で、一人旅の身。

意気投合するのは必然だと言えただろう。

程立──風とも真名を預け合い共に旅をした。

風は私と同様に軍師を志し意見を交わす事も旅の中で何度も有った。

考え方・価値観・戦術性…その違いは良い刺激になり私を成長させた。


四度目は三ヶ月程前。

星が幽州は広陽郡・薊県で仕官した事だろう。

相手は新任刺史の公孫賛。

評判は中々の人物だ。

本人は“路銀稼ぎ”だとか言っていたが、実戦経験を積む為だと思う。


五度目は一ヶ月前。

星と別れ、南下した冀州は魏郡・業県での事。

風と行き先が違い別れた。

風は司隷、私は兌州へ。


そして、六度目。

三年の旅の末、私は仕える“主”に出逢った。

いや、正確には方々だ。

現在の豫州刺史・曹操様とその“夫”の曹純様。

…あの容姿で男性なのは、卑怯だと言いたい。

私の男装が幼稚に思える。


曹操様の噂は昔から聞き、知っている。

一度は御目に掛かりたいと思っていた御方だ。

そして曹純様は直に会い、直感した。

この方だと。


我が真名に、曹の御旗に、私は曹家の家臣に恥じない私に成る事を誓う。



──side out



 孔融side──


一夜が明けて、子和様達が無事に戻られた。


特に心配する事は…いえ、一つだけ有りましたね。

子和様の“女招運”とでも言うべき性質。


報告と指示の為の会議へと参集してみれば案の定。

新しい顔が三つ。

子和様の後ろに跪き控えて居るではありませんか。


私以外の皆も“またか”と思った様で溜め息を吐いて整列しています。

ただでさえ難しい事なのに“恋敵”が増える状況は、好ましくないですからね。


皆が揃い、華琳様が入られ先ずは三人が紹介された。

子和様自ら御連れしている時点で臣従は確かですが。


その後、今回の事の顛末を子和様が説明された。

加えて桂花と彩音が各々の立場での報告。

思春や斐羽が同行した中で彩音が話している姿を見て感極まり掛けたが子和様と目が合って微笑まれた事で“まだ早い”と思い笑顔で小さく頭を下げた。



「そう…御苦労様」



一通りの報告が終わると、華琳様が一息吐かれる。

恐らくは、ですが子和様が意図的に“隠された”事に気付かれている為。

子和様の性格を考えると、現時点で話されない以上は追究は無駄でしょうね。



「保護した者達に関してはどうするつもり?」



同じ考えに至った為だろう華琳様は捕虜となっていた十五歳以上の女性三十名と十四歳以下の子供十三名の扱いの話に進む。



「十歳以下の子供達八人は“健緑庵(けんろくあん)”に入れて任せる」


「…まあ、それが妥当ね」



“健緑庵”とは曹家の営む“孤児院”の名称。

この許昌に有り、子和様達自らも時折赴かれる。

戦や匪賊で身寄りを失った子供達を身請けして育てる世にも珍しい施設。

子和様の価値観には本当に驚かされます。



「十一歳以上の内十二人は侍女として、七人は文官、十六人は兵として仕える事を希望している

当主殿、どう致します?」



揶揄う様に笑みを浮かべて訊ねる子和様に、華琳様は少しだけ拗ねる様に睨む。



「物になるかは別としても無下にはしないわよ

その希望、聞き入れたわ」


「御寛大な御心に、民草に代わり感謝致します」



態とらしい子和様の言動に“後で覚えてなさい!”と華琳様が視線で訴える。

実に仲の宜しい事で。


ただ“当てられる”此方の身にもなって頂きたい。

私だけでなく、皆の殆どが“羨望”と“嫉妬”に心を騒つかせて居ますからね。



──side out



 満寵side──


新しく臣下に加わった内の一人である郭嘉──稟さんの事は知っていた。

正確には彼女の名と評判をでは有るけれど。



「潁川郡内でも特に将来を嘱望された才女の貴女に、こうして御会いする事など夢にも思いませんでした

確か…三年程前に単身旅へ出られたと風の噂で御聞きしましたが…」


「ええ、確かにそうです

ただ評判や期待程の成果は出せていませんが…」



そう言って苦笑されるが、謙遜からでは無いだろう。

恐らくは子和様が原因か。


卓を囲み御茶を飲むのは、私達と彩音と螢。

顔触れとしては珍しい様に思えるが稟さんを除けば、近い時期に加入した仲。

話をする事も多い。



「成果は“これから”出し残せば良いでしょう

御二人方の下でなら自らも磨く事も出来ます」


「…そうですね

有難うございます、彩音」



躊躇無く言い切った彩音に稟さんは笑みを浮かべる。

私には寧ろ、彩音の発言の方が驚きですが。



(彼女も日々の中で確かに変わっていますね…)



彼女だけでは無い。

元々、子和様に惹かれたり心酔して仕える者は勿論、私自身も変わっている。

特別な“馴れ初め”が有る訳では無いけれど主として素晴らしい方だと思う。

“異性”として意識するか否かは別としても。



「稟さんは旅の中で仕える事を考えた方は居なかったのですか?」


「稟で構いませんよ

私も貴女を鈴萌と呼ばせて貰いますから」


「…判りました、稟」



稟さ──稟に言われて私もそう呼ぶ事にする。

勿論、相手に対する礼節は蔑ろにしない。



「華琳様には昔から一度は御会いしたいと思っていはしましたが…そうですね…

仕えたいと思う程の方とは縁が有りませんでした

まあ、友人が仕官した時も特に何も感じませんでしたからね」


「友人、と言うと旅の?」


「ええ、連れです

彼女が辞めていなければ、公孫賛殿の下に」


「幽州の刺史ですか…」



仕える主が違えば戦場にて対峙する事も有るだろう。

私には辛い事に思える。


私の気持ちを察してか稟は苦笑を見せる。



「大丈夫です

乱世となれば相見える事も有るでしょうが…その時は遠慮はしません

友で有るからこそ」



その迷いの無い眼差しには“高み”で競い合う事への喜びが有る。


“仲間”でも“同胞”でもなかったとしても。

きっと“友情”は成り立つのだろう。



──side out



 司馬懿side──


会議を終えて解散した私は紫苑と一緒に華琳様と共に廊下を歩いている。



「そんな顔をしていると、折角の美人が台無しよ?」


「ですが…うぅ〜…」



そう華琳様に言われるが、この気持ちだけは簡単には切り替えられず持て余す。

そんな私の様子に華琳様は溜め息を吐き、紫苑は苦笑している。



「華琳様、貴女は平気なのでしょうか?」



不意に紫苑が華琳様に訊き私も回答に興味を抱く。

呆れた様に肩を竦めるが、きちんと答えて下さる。



「今更でしょ?

久し振りに会ったと思えば見知らぬ娘を何人も侍らせ旅をしていたのよ?」



そう言われると私達に返す言葉は無い。

紫苑も、少しだけ申し訳が無さそうにしている。



「まあ、あの子は基本的に見る目は確かだから臣下が充実するのは良い事よ

多過ぎても困るけど配慮はしているでしょうしね」



確かにそうですが。

“女”としては複雑です。



「別に一切気にしていないという事はないわよ?

私にだって独占欲は有るし自分だけを見ていて欲しい時も有る、嫉妬もするわ」


「…ですが、その…私達の事も認めて下さると?」


「ええ、そうよ

洛陽でも言った通り雷華を“その気”にさせるのなら何の問題無いわ」


「御寛大ですね

やはり“初恋”の御相手で“最愛”だからですか?」



華琳様の言葉に紫苑が少し“棘”の有る言葉を返す。

…ちょっと意外ですね。


でも、“挑発”とも取れる言葉に華琳様は楽しそうに微笑まれる。



「お互いに“初恋”なのは否定しないわ…

でもね、雷華の“想い”に胡座を掻く気は無いの

もし、他の娘に“一番”を取られたのならば、それは私の女としての怠慢よ

だから、より女を磨き上げ雷華を魅了して私に夢中にさせれば良いだけの事…

“一番”で有る事だけは、譲るつもりは無いわ」



その言葉に偽りも躊躇いも微塵も感じない。

感じさせない。

その“想い”が。



「…御無礼の数々、どうか御赦し下さい…」


「あの子の受け売りだけど“恋愛は究極の我が儘”と言っていたわ」



一時の“不満”に心を乱し働いた非礼を跪いて詫びる紫苑に対し華琳様は微笑みながら肩を叩かれた。



「“意味”は各々が自分で考えなさい」



“意味”…ですか。

どんな事なのでしょうね。



──side out



夜は殆んどが華琳と一緒に寝ている。

勿論、各々の私室も用意はされているが。



「“究極の我が儘”か…

また懐かしい言葉だな」



そう仲達と漢升に言ったと華琳から聞かされた。

どういう経緯からの話かは訊かないのがマナーだ。

…後が怖いしな。



「貴男も私も“当然”だと思う事だから“一般的”と言えない事を忘れ勝ちね」


「まあ…そうかもな…」



華琳との関係は勿論だが、価値観や思想の多くの事に俺の影響は出ている。

悪い事ではないが。



「…ああ、そうだ

飛び回ってたから訊くのが遅くなったが、文若が前に仕えていた“袁紹”の事は聞いてるな?」


「…ええ、聞いたわ」



“袁紹”の名にピクッ…と反応を見せながらも平静を装う華琳。

…何か有ったな。



「私塾時代か?」


「……………はぁぁぁ〜…本当に厄介な“読み”ね」



暫し見詰め合った後、長く大きな溜め息を吐き諦めて話す気になった。



「“若気の至り”よ…

貴男という“師”を持てば他の者が“ごっこ遊び”に思えるのよ?

当然、同じ“塾生”なんて“相手”にならないわ」


「で、一回りも歳上の同窓だった袁紹が“正面”だと感じた、と…」


「……ええ、そうよ」



余程認めたく無いらしく、まるで“汚点”扱いだ。

本人を知らないから俺には判断出来無いが。



「真名は?」


「………交換したわ…」



成る程、だから必要以上に嫌悪しているのか。

苦笑しながら左手で華琳の頭を撫でて慰める。



「まぁ、追々手を打って、打開してやるから」


「………本当?…」


「本当、だから元気出せ」



半泣き状態の華琳を慰め、笑みを返す。

滅多に見ない姿に思わず、保護欲が擽られる。

というか、其処まで嫌か。



「それと、もう一つ訊くが何か“持病”は有るか?」


「…“病”なのかどうか、定かではないけど…

“頭痛”が有るわ

酷い時は数日の間続いて…夜も眠れない事も有るわ

でも、貴男が現時点で何も言わないのだから“病”に入らないのでしょ?」


「身体の異常や症状が常に有るなら判るが断続的だと判り難いんだよ

まあ、後で“診て”おく」


「治るなら治して欲しいわ

お願いね」


「了解」




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