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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
805/907

       肆拾伍


 関羽side──


私達軍将陣は“結界”内に分散をして各々に土塊兵を駆逐しながら、その大元を断とうと奮闘していた。

しかし、彼方等此方等へと移動しても、その大元には辿り着けないでいた。

其処で私達は一旦一ヵ所に集まる事にしたのだ。

このまま探索を継続しても良い結果が得られるとは、思えなかったしな。


そういった経緯で集まった皆の表情は──渋い。

まあ、当然だろう。

私も自制してはいるつもりではあるが、出来ているか自信は持てない。

それ位に、その大元の探索には手古摺らされているのだからな。

また、軍師陣が担う役目を熟している事も大きい。

役割は違うとは言っても、其処は私達も意地が有る。

負けず嫌いだしな。


そんな中、何処から持って入って来たのか知らないが机と椅子を用意し、其処に座って机上に両肘を付いて手を組み、口元を隠す様に俯き加減の姿勢で、珀花は静かに声を出した。



「それでは只今より軍将陣による緊急会議・第十七回“犯人(ほし)を探せ!”を開催したいと思います」


「いや、その前の十六回は何時遣ったのよっ?!

私、全然知らないけど?!」


「私の心の中で、です」


「解る訳無いでしょ?!」


「けれども、それは貴女の心の中でも有るのです」


「えっ!?、そうなのっ?!」


「ええ、そうなのです…

そして、それこそが私達を真の“心融(親友)”の極地へと誘う鍵なのです」


「──さて、馬鹿は放って置くとして…」


『無視だけは止めてっ!』



珀花と、それに乗っていた灯璃を全力で放置して話を進めようとしたが、二人にしがみつかれる。

“構ってっ!”と戯れ付く仔犬みたいな態度なのだが二人共に大人である。

せめて、昔の流琉位ならば可愛いげが有るのだが。

今は鬱陶しいだけだ。


しかし、無視したままでは離れはしないだろうという事も理解している。

その辺りは必死だ。

こういう状況で無視されるという事程、“痛い”事は無いのだろうからな。

まあ、そういう意味でなら冥琳や泉里が無視するのは“お仕置き”なのだろう。

放置され、一人で羞恥心に身悶えさせるという方法で反省を促す為に。

…効果は微妙だがな。



「…はあ〜…、だったら、小道具(それ)を片付けろ

と言うか、私達に子和様の様な反応を求めるな

私達には壁が高過ぎる」



雷華様は…まあ、アレだ。

普段から、そうなのだし、男女としての価値観も有り許容されている筈。

だから、構わないだろうが私達は女同士だから。

その辺りの価値観は違い、鬱陶しさしか残らない。

私も皆が皆とは言わないが少なくとも、この状況では笑って許して遣ろうという気には為らないな。


──と言うか、珀花。

お前は何時から、土塊兵の作製技術の真似が出来る程器用に為ったんだ?。

机も椅子も土塊だったとは誰も思わなかったぞ。

…冥琳が怒るな、これは。




──そんな訳で少々無駄な時間を要したが、軍将陣が集まっての対応策の検討を始める事が出来る。

尚、軍師陣へ助言を求めるというのは最終手段。

遣る前から、敗北を認める事など出来はしない。

私達は負けず嫌いなのだ。



「──で、どうするんだ?

私等の探知じゃ無理なのは判ってるんだ、っよ!

何かしら考えが無いんなら訊くしかないぞ?、っと」


「確かにっ、そうですね」



翠の言葉に葵が頷く。

正確には複数が、だが。

葵以外は同意の首肯のみで手を休めてはいない。

一ヵ所に集まってはいるが土塊兵は消えてはいない。

つまり周囲を囲まれているという状況だったりする。

その為、会話をしながらも戦闘は継続中だ。

まあ、大して難しい事ではないから問題は無いがな。

土塊兵共の動きとしては、華琳様と王累の周囲からは遠ざかっている様だ。

邪魔に為らない為か。

そうなると土塊兵の行動は結界を破れる力は無い為、必然的に私達に群がるのは当然だと言えるだろう。

…若干、苛立つがな。



「勿論、判ってはいる

だが、考えてもみろ

私達が結界内に各々散って移動しながら探知をしても全く引っ掛からなかった…

幾ら何でも、可笑しいとは思わないか?」


「…それは私も思ったけど実際に見付けられないのも事実でしょう?」



そう答える紫苑の言葉にも数名が首肯してみせる。

実際に、疑問に思ったのは間違い無いだろう。

ただ、それを解決する為に移動し、確かめてもいる。

それでも見付からないから困っているのだからな。



「そうだ、見付からない

少なくとも移動していると考えて間違い無いだろう

問題は、“何処を”だ」


「何処って…」


「……ああ、成る程な

其処は探ってはいないな」



私の言葉に対し眉根を顰め“だから、それが判らないって言ってるんだけど?”等と言いた気な不満そうな顔を見せる灯璃、他数名。

それに対して、意図を察し納得する秋蘭、他数名。

取り敢えず、話を聞きつつ土塊兵を倒す事だけに専念している恋、他数名。



「む〜…勿体振ってないで早く教えてよ」


「勿体振ってはいないが…

判ったから睨むな」



拗ねた子供みたいな表情で私を睨んでくる灯璃達。

意地悪をしているつもりは全く無いのだがな。

私はただ、雷華様の教えに従っているだけだ。

“先ずは考えさせる事”。

それが一番大事なのだ。

鍛練も同じ事を繰り返して続ければ良い訳ではない。

成長する為には“変化”は必要不可欠なのだ。

それを得る為にも、考えるという事は重要な訳だ。

まあ、全ては雷華様の受け売りなのだがな。


そう思いながらも、小さく苦笑を浮かべて答える。



「結界内には居るが私達は探知も目視も出来無い…

ならば、答えは単純だ

“地上”には居ない

つまり、本命は“地下”を移動しているという事だ」





人間は土竜や蚯蚓ではない為に地中には潜れない。

しかし、土を掘り起こし、岩を削り穴を開ける。

そう遣って路を造る技術は持ち得ている。

但し、そうだからと言って簡単に地下へと向かう事は普通は困難な事だ。

──そう、“普通”なら。



「…うぅぅ〜…どうして、私、こういう出番ばっかりなんですか〜…

いい加減泣きますよ?」


「え、え〜と…そ、その…

お、終わったら斗詩さんの好きな物沢山作ります!

私も頑張りますから!」



掘削機(愛槍)を手にして、項垂れている斗詩を懸命に励ます流琉。

だが、そういう励まし方が通じるのは極一部だ。

そして、斗詩は通用しない部類に入る。

まあ、それが流琉ではなく“雷華様が”だったなら、間違い無く遣る気を出すのだろうがな。

…いや、それは斗詩だけに限らない事か。

恐らくは華琳様でも、だ。

…恐るべし、雷華様。


それは兎も角として。

今、敷かれている結界とは軍師陣の八人を基柱として真球型に展開されている。

そう、地上だけではなく、地下に対しても、だ。

私達は地上、或いは上空を隈無く探知していた。

地下に関しても3〜4mの深さまでは、である。

つまり、私達は無意識下で除外してしまっていた。

より深い地下の範囲を。


それに、その可能性を元に考えてみれば、有り得ない話ではないだろう。

王累は土塊兵共を主戦力の一つとしていた筈だ。

当然、その大元を守る為に存在を隠す事を重んじても何も可笑しくはない。

勿論、完全に気付かれない等とは思ってはいない筈。

だとすれば、気付かれても“手出しが出来無い”様な状態にしてしまえばいい。

そう考えたのだろう。

私達が相手をしていた中に地中に潜る存在が居た事は既に確認済みだ。

であるならば、土塊兵共を生み出す大元にも同じ様な能力を持たせているのか、或いは、そういった能力を持った守護者の様な存在を付けているのだと。

こう考えれば筋が通る。


抑の話としてだ。

まさか、王累だとて私達が地下を“掘り進む”等とは想像もしていないだろう。

それは私達にも言える。

“其処は無いだろう”と。

そう思っていたのだから。

常識的に考えてしまえば、有り得ない事なのだ。

だから、生じてしまう。

常識的な思考の死角が。

王累は其処を突いてきた。

しかし、雷華様の読みには敵わなかった様だ。

こういう事態すらも想定し雷華様は斗詩に、私達へと与えられたのだろう。

実際、私達の武具は様々な状況に対応出来るのだ。

一人ではなく。

私達が力を合わせる事で。

如何なる場合にも、活路を切り開ける様にだ。




作戦としてはこうだ。

斗詩が愛槍にて地面を掘り進んで地下へと潜って行き目標を探し出すという物。

…まあ、それ以外に方法は無いのだが。


内容としては単純なのだが現実的には大変だ。

地下に限定しているのだが決して範囲は狭くはない。

その為に先ずは結界内での最深部──中心点に向けて真っ直ぐに掘り進む。

其処から90°に左折して結界に沿う格好で地上へと向かって掘り進む。

再び地下に潜って、掘った掘削坑同士を繋ぐ様にして三本程の横穴を掘る。

その後、掘削坑に探知力の高い面子が潜って、一定の間隔を取って探知。

そうして、探し出す。

四分の一ずつ、潰す訳だ。

これでも確実性自体は結構高い方法なのだからな。

あと、安全性も重要だ。

其処は忘れない様にな。


…“地道過ぎる”?、なら代案を出してみろ。

其処の視線を逸らした奴、此方を向け、私を見ろ。



「ゆ、赦して下せぇ…

出来心だったんでさぁ…」


「喧しい、伝えるからな」


「お、鬼ぃ…うぅ…」



しくしく…と、泣き真似をしている珀花を放置して、斗詩達が掘り入って行った掘削坑の入り口を見る。


掘削班は斗詩一人ではなく三人で向かっている。

前方からの襲撃は一人でも問題無く対応が出来るが、後方からの場合は厳しい。

其処で三人で隊列を組んで潜って貰っている。

掘削する斗詩を先頭にして最後尾には流琉を置く。

崩落した際は流琉の球鎚が役に立つだろうからな。

中衛には前後に対応出来る凪に入って貰った。

──と言うより、他の者は狭い坑道内での戦闘は大体不向きだからだ。

私を含めてな。



「──なあ、作戦自体には納得したんだけどさ…

これって、時間的は何れ位掛かるんだ?」


「……頑張るのみだ」


「…はぁ…マジかよ…」



当然の事だと言える疑問を訊いてきた翠から私は顔を逸らして答える。

そう、頑張るしかない。

確率は四分の一。

当たりを引けるか否か。

後は私達の“運”頼みだ。



──side out。



 顔良side──


グギュイイィィグイィィイヂュイィンッッ!!!!!!!!!!──と、狭い坑道の内部に響き渡る騒音。

しかし、私達は氣を利用し騒音から耳を保護する。

同時に、お互いの声は全く問題無く聴こえる。

まあ、この技術自体が私に雷華様が教えて下さった事なんですけどね。

…掘削仕事に必要だから。

…本当に泣きますよ?。



「──何処までも廻る〜よ

世界〜は廻っている〜…

運命〜という名の〜歯車を廻し〜ながら〜…

軈て〜、辿り着く果てに〜

私達は〜、何を運ぶ〜の〜

夕闇に〜、消え逝く〜

今日と〜いう〜時〜を〜…

貴方は〜、何を想って〜…

見送〜りますか〜…

こ〜の〜胸の中に〜有る〜

大切な〜(ともしび)を〜

貴方の〜瞳に〜…

映す事が出来ますか〜…」


『…………』



何気無く口から零れるのは誰かの歌ではない。

今、私が思っている事を、私の今の気持ちを。

思い付くままに声にして、言葉にして歌っている。

ただそれだけの物。

だから、決して披露したり出来る様な物ではない。

そう、そんなに大それた物ではないんですよ。



「………っ……あ、あの、お疲れでは有りませんか?

少し休みながらでも──」


「大丈夫ですよ

これ位の事でしたら“遣り慣れて”いますからね

アハハハ…」


「──っ、と、斗詩さん!

その、斗詩さん以外の方は出来ませんから…

斗詩さんが頼りなんです!

だから、無理をしない様に気を付けて下さい!」


「そ、そうです!

この作戦は斗詩さんにしか出来無いんです!」


「凪ちゃん…流琉ちゃん…

…そう、ですよね…

うん…有難うね、二人共

よし、頑張りましょう!」





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