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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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       肆拾壱


 徐晃side──


“結界”を敷く為に桂花と門扉の護衛をしている中で一番邪魔だったのが巨躯の“莫髑魑”なのよね。

兎に角、鬱陶しい。

さっさと倒したいんだけど必要だろう一撃を放ったら色々と被害が出る。

だから我慢していた。


──で、結界が敷かれて、漸く殺れると思っていたら──何かね、実は向こうも手加減したっぽいの。

これでもかと気合いを入れ一刀両断にしてやろう、と思いっきり攻撃したらね、真剣白羽取りされたの。


いやまあ…うん、実際には単純に私を左右から狙って攻撃したら、偶々そういう形に為ったってだけ。

偶発的に挟まれたんだって判ってはいるんだけど。

…え?、何でかって?。

それはほら、右の第一腕と左の第三腕だもん。

普通、そんな歪んだ格好で真剣白羽取り遣ろうなんて思わないじゃない。

遣るなら左右を合わせ易い格好に決まってるでしょ。

あと、平手じゃなかった。

グーだよ、グー。

十文字形の四本指爪なのに器用に折り畳んで拳作って真剣白羽取りする?。

私だったら遣らないし。

グーじゃあ狙わない。

力量差が有れば出来るけど一歩間違ったら怪我して、泉里に怒られるもん。

だから、私なら遣らない。


…まあ、それは兎も角。

莫髑魑が手加減してたって理由は有るんだから。

下半身?っぽい雲みたいな渦巻いていた黒煙の塊。

それが、結界を敷いた直後から蛇みたいに変化をして襲ってくる様に為った。

ね?、漸く、“危機感”を感じて本気に為ったって、思える反応でしょ。

腹が立つでしょ?。

本当、ムカつくよね!。



「──で、ウザいっ!」



柄を最大まで伸ばし切り、両腕を伸ばして自分を軸に身体を大きく回転させて、近寄ってくる雲煙の蛇共を一掃する。

但し、抑が煙だからなのか幾ら斬っても復活する。

散らしても、放置してたら本体──だと思う骸骨へと戻り集まっていく。

それなのに、攻撃する時は此方に有効なんだから。

巫山戯てると思う。

…まあ、散らしてから氣で完全に消滅させれば確実に減らせはするんだけど。

再生させないんだけど。

そうなんだけどっ!。

チビチビ削るのって私には向いてないのっ!。

こう一気に!、爽快に!、一撃で仕留めたいの!。



「…………はぁ…判った

私が“後始末”をするから好きに遣れ…」


「そう来なくっちゃっ♪

大好きだよ、御姉様っ!」


「だ、誰が御姉様だ!」



照れる愛紗を他所に、私は気合いを増す。

じっくり視線と雰囲気で、お強請りした甲斐が有って愛紗から言質を取った。

これで鬱憤を晴らせる。


因みに、普段は愛紗の事を“御姉様”とは呼ばない。

愛紗は私より歳上だから、私達の間では“姉”だけどそれを言い出すと私達には姉妹が多くて面倒。

だけど、裏では愛紗の事をそう呼んで慕ってる女性が宅には結構居る。

本人が知らないだけでね。




“動物的な勘”って表現を聞く事が有ると思う。

私自身も、そういう直感が働く方だから同意するけど説明は出来無い。

だって、言葉にしようにも何て言えば正しいのか。

それが判らないから。

それは“私の感覚”による事でしかない。

だから、“誰かの感覚”で共通理解させられる事は、私には出来無い。

雷華様は別だけどね。


そんな“動物的な勘”を、莫髑魑が見せた。

まあ、私が愛紗から言質を取ったのを聴いていたなら“何か仕掛けてくる”って判るんだけどね。

それでも、莫髑魑の反応は素早かったと言える。


黒煙の蛇を使うのを止め、まるで衣服を着るみたいに──ううん、朽ち逝く様を逆に見ているみたいに。

黒煙が剥き出しだった骸を覆ってゆく。

全身の骨が見えなくなり、現れたのは鶏の様な感じの印象を受ける身体。

但し、羽毛は一切何処にも生えてはいない。

寧ろ、捌かれる前の羽毛を毟られた状態の鶏かな。

鳥肌は立ってないけど。


そして、浮遊していた筈の身体が自重で落下した。

それを背骨から伸びていた腕の内の四本が地面を踏み身体を支えた。



「あ、やっぱり、あの雲が浮かせてたんだ」


「成る程な…それを肉体の構成に回した事で浮遊する事が出来無くなったか

…にしても、妙な姿だな」


「本当、変な姿だよね…」



下半身は無い。

尻尾とかも無い。

だから、余計に鶏っぽさが出てるんだけど。

丁度、頭の位置に有るのが大きな毬栗みたいなの。

ずっと、頭っぽい感じには見えてはいたけど。

本当に頭かは怪しい。

と言うか、着地した姿勢は人間だと俯せになる格好。

だから、その頭っぽい所も俯く様な格好に──



『──────え?』



思わず、声が重なる。

グンッ!、と仰け反る様に頭っぽい所が天を仰いだらバカッ!、と割れた。

それはもう、蕾が開く様に──ううん、無花果が熟し割れているみたいに。

それは開いた。

そして、その中央。

花弁の様な“鬣”に囲まれ髑髏が鎮座していた。

…其処は肉付けされないで剥き出しのままなんだね。



「…あの花弁?、が邪魔をしているのか?…」


「あ〜…そっか〜…

あれ?、って事は、髑髏は弱点じゃないのかな?」


「どうだろうな…

如何せん、情報が少ない」



確かに…考えようにも情報不足で判らないよね。

まあ、もし弱点だとしたら間抜け過ぎるけど。

だって、自分で弱点晒して守れないとか…ね〜。



「んー…まあ、いっか

全部纏めて殺っちゃえば、関係無いでしょ!」


「はぁ…“好きにしろ”と言った以上、止めはしない

だが、“程々”にな?」


「善処しますっ!」



そう元気良く返事をしたら愛紗が泉里みたいに深々と溜め息を吐いた。

…愛紗?、後で、お説教は無しだからね?。

其処、忘れないでよ?。

言質は取ったんだから。

取ってから遣るんだから。




莫髑魑は地面を掴む感じで四本の腕で“踏ん張る”と髑髏の口を開いた。



『──っ!?』



その直前に、私達は左右に別れて飛び退いた。

次の瞬間、先程まで私達が居た場所を閃光が穿った。

それは宅の“天穹”陣形に匹敵しようかという威力で地面を綺麗に消し裂いた。



「…しっかりと遣れ」


「くぅっ!、こんな隠し玉持ってるなんてーっ!

もっと早く遣れーっ!」



愛紗に“言い出したんだ、お前が責任を持って一人で殺って来い”と言われて、八つ当たり気味に莫髑魑に向かって走り出す。

しかし、自棄ではない。

宅でも、連発は大変。

単体で遣る以上、莫髑魑は溜めを必要とする筈。

現に、私でも判る程に氣の量が激減している。

その威力は凄かったけど、使い方・使い所が下手。

だから、私達に回避されて大きな隙を生んだ。


勿論、それ位で諦める様な相手ではない。

巨躯を揺らして後退しつつ残る四腕で迎撃。

更に更に、花弁鬣の外側に生えていた角を発射。

私の接近を阻もうと残った手札を惜しまず使う。

その判断は正しい。

此処で私の接近を許せば、確実に殺られる。

そう悟っているのだから。


けど、それは少し違う。

何故なら、既に私の一撃の間合いの内だから。

飛角を躱し、高々と跳躍。

当初は10m以上も有った頭頂部も、今は半分以下。

容易く眼下に映る。

空中で無防備となる私へと一番前の両腕を伸ばす。

私までは約13m。

ギリギリで、届かない。


私の大剣は柄を含め最大で約24mにまで達する。

その巨大さでありながら、決して重くはない。

重心に関しては、慣れ。

能力的には意外と地味。

けど、活かすも殺すも私の力量次第だって事。

刃自体は伸びないけれど、それを繋ぐ鋼帯は私の氣で刃も同様に変化する。


最長にて“抜き放たれた”愛剣を氣が包み込む事で、一振りの巨剣と化す。



「軋撓せよ!、“巴砕澄蛇(はさいちょうだ)”っ!」



雷華様により“城断ち”と称された私の一撃。

21mを越える大氣刃。

間合いなんて関係無い。

莫髑魑も、地面も、纏めて一撃で両断する。



「…全く…轟吼しろ!

清影黎獅っ!」



そして、真っ二つに為った莫髑魑を逃がす事は無く、愛紗が仕留めてくれる。

…ん?、折角なのに自分で仕留めないのか?。

別に留めには拘らないし、相性が悪いんだもん。

それを意地に為って倒して無駄に疲れたくない。

何より、そんな事をしたら泉里にお説教される。

頑張って疲れ切ってる所に小言を貰うなんて最悪。

そんなの嫌だもん。

だから、これで良いの。



──side out。



 関羽side──


…やれやれ、だな。

決して、私達の仲が悪い、という事は無い。

まあ、二大問題娘な事には変わりないのだが。

それは私的な場合の話。

軍将としては何方等も優秀なのだからな。

其処に文句は無い。

…小言は別にしてもだ。



(…まあ、他の皆も各々に決着した様だな…)



私達でも感知出来ていた、結界内の大物は粗消滅。

残っているのは中央に有る一つだけとなった。

それが王累である事は態々言うまでもない。

そして、その相手は私達の担当ではない。

──と言うより、私達には務まらない、だな。

華琳様から直々に王累には“手出しは無用よ”と通達されている。

それだけの相手である事は私達も理解している。


…まあ、“女心”としては複雑な所ではあるが。

それは仕方が無い。

今回は“そういう物だ”と割り切るしかない。



(それは兎も角として…

一向に土塊兵が減る様子が見られない所を見ると…

私達の仕留めた敵の中には居なかったという事か…)



そう考え、思わず溜め息を吐いてしまう。

だが、無理も無いと思う。

灯璃の一撃は結界に触れる事無く放たれていた。

それはつまり、この結界がそれだけ巨大な事を示し、同時に私達は、その巨大な結界内を蝨潰しに探し回り今も尚、土塊兵を生み出し続けている元凶を見付けて排除しなくてはならない。

砂浜から一粒の砂を見付け出していた探知術の鍛練を思えば楽なのだが。

決して、楽ではない。

何より──地道過ぎる。



(動いていれば鼬ごっこに為るだけだからな…)



そうなる可能性が高い様な気がしてしまう。

外れていて欲しいが。


そう考えると結界の維持で“御役御免”となっている軍師陣が妬ましい。

今頃は確実に繋いで雑談に花を咲かせているだろう。


尤も、愚痴った所で勝手に進展してくれる訳ではない以上は遣るしかない。

土塊兵が鬱陶しいがな。

これも軍将陣(私達)の担う役目なのだから。



──side out。



 曹操side──


王累の壁となる様に次々と涌き出てくる土塊兵。

それを大鎌に変化させて、舞い踊る様に薙ぎ払う。

殲滅が前提の対多戦闘だと大鎌の方が楽よね。

乱戦・混戦は小回りが利く細剣の方が良いけれど。



(…それにしても、一向に減る気配が無いわね…)



うんざりしながら考える。

結界内に有った王累以外のめぼしい敵は消えた事から土塊兵を生み出す施術者は巧妙に隠されている。

そう思って間違い無い。

本当、面倒な事よね。


まあ、雷華が無い事を前提条件としているのだから、消耗を強いり持久戦に持ち込むというのは悪くはない策と言えるでしょう。

但し、雷華が戻ってくると判った以上は効果は有限。

ただ、その雷華が戻るのが“何時なのか”が判らない以上は王累としては動く時でしょうに。

余裕綽々みたいね。

その余裕を崩したくなる。

それは仕方が無い事よね。


だから、仕込んでいた。

思春も出来る様になった、私達の武具の“裏技”。

大鎌を振り抜いて土塊兵を排除しながら──瞬間的に王累の視界から消える。

同時に気配を絶つ。



「──っ!?」



王累が私を見失った瞬間、細剣へと戻して鞘中に。

そして、細剣に極限にまで鞘中にて密かに高めていた“司天”を纏わせる。

そのままに土塊兵共を逆に利用して王累の死角を突き一気に肉薄する。



「仆僞万象、无天を衝き、顕生させよ!、“蒼覇煌隼(そうはこうじゅん)”!」


「────っ!!」



私の声に王累が反応するが既に遅い。

抜き放った刃は紫に染まり光を超えて閃く。

断ち音さえ残さず。

防御する暇すら与えずに、王累の右腰から左肩に掛け斬り裂いて、駆け抜ける。




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