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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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       肆拾


そんなこんなで取り敢えず逃げている訳ですが。

倒さなくてはならない事に変わりは有りません。

正直、近付くだけでも十分危険ですし、遠距離攻撃も掴まれたら終わりです。

こういう時には純粋な飛び道具の有難みを感じます。



(…球鎚で地面を破壊して石礫を矢の代わりしても…

多分、食べられて終わりな気がしますし…)



なので、倒す方法は一つ。

文字通りの、一撃必殺。

威力だけなら愛器の特性も合わさって、宅でも五指に入りますから。

可能な事は可能です。

勿論、司氣を使える場合は除外しますが。

アレは反則ですよね。


…それは兎も角として。

物理的な威力は大丈夫だと思います。

ですが、一撃必殺を成功に至らせる為には、相手側の能力も加味しなくては。

そうなると…不安です。

先程までの戦いから考えて升輅さんは近接戦に特化し剛力により敵を叩き伏せる戦い方のみでしょう。

近接戦自体は私も得意な事ですから構いませんけど、あの強靭な筋肉(鎧)を打ち砕けるのか、です。

飽く迄も私の私見ですが、あの貂蝉・卑弥呼の二人を凌駕していると思います。

下手な鋼鉄の鎧なんかより遥かに厄介な代物かと。


はっきり言って怖いです。

迂闊に近寄って捕まれば、パクッ、ムシャムシャッ、ゴックンッ!──な自分の未来が脳裏に浮かびます。

…考えたくはないですが、戦い方を考えているだけで浮かんでしまいますので、気分的には最悪です。



(真正面からの力比べでは先ず勝てないですよね…)



控え目に見ても、厳しい。

愛紗さん・恋さんだったら確実に升輅さんが相手でも勝てるとは思いますが。

私には荷が重いです。

氣の総量や技量的な面で、という訳ではなくて。

総合的に考えて、です。

だから、それ以外の方法を考えるべきですよね。



(──って、頭では判っているんですけど、ね…)



そう、普通なら避けるべき選択肢なんですよね。

“それを承知の上で敢えて真っ向勝負をしよう”とか考えている時点で、きっと軍師の皆さんからは呆れと小言を頂く事でしょう。

多分、少し前の私だったら考えなかった筈です。


でも、知ってしまった。

季衣との闘いを通して私は得てしまったんです。

超える事の、歓喜を。

挑む事への、甘美を。

試行錯誤の、感嘆を。


だから──私は望みます。

現時点では私よりも確実に上に有る升輅さん。

彼を真っ向から打ち破って更なる高みに至る事を。

この戦いを糧として。

更に一歩、進み昇る事を。


それが私情に走る事だって判ってはいても。

止められないんです。

だって、そうでなければ、辿り着けないですから。

雷華様(愛する人)の立つ、その隣(高み)には。

何よりも──私は自分でも思う以上に“負けず嫌い”なんです。

“敵わないから別の方法”には逃げたくない。

子供っぽい理屈だけど。

嫌なんです、単純に。




距離を取り、逃げながらも一撃勝負の為に備える。

可能な限り──ではなく、今の自分の限界を超えて。

氣を収束させてゆく。

制御可能な領域を越えれば氣は溢れ出す。

同時に、自分の意思下から逃れて関係無く暴れる。

静止して、制御だけに集中出来る状況でも難しいのに升輅さんから逃げながら、攻撃等にも備えつつ。

更には倒す為の“一撃”の模索と選択を迫られる。

思わず笑いそうになる程に難易度は跳ね上がる。


自分で自分を難しい方向に追い込んでいるというのは自覚している。

もっと簡単に勝てる方法は有るのだから。

だけど、それでは駄目。

そんな遣り方では今の私は満たされない。

納得が出来ません。

それが、どんなに不器用で無駄が多い事だとしても。

そうでなくては、勝っても嬉しくなんてないんです。

意味も価値も無いんです。


でも、一つだけ。

これは大事な事です。

決して私は“戦狂い”では有りませんから。

其処は御間違え無く。



「──ゥウンンーーーッ!!

御オォ前ヲォ喰ウゥッ!、福ウウゥーーッッ!!!!!!」


「私は美味しくは──有るかもしれませんけどっ!

貴男に食べられるつもりは有りませんからーっ!」



“美味しくはない”、とは何故か言えませんでした。

と言うか、言いたくはないというのが本音です。

例え雷華様以外に対しては有り得ない事だとしても。

“女としての自尊心”が、私に言う事を拒絶させた。

“なら、無視したら?”と思われるかもしれませんが其処も女心の複雑さです。


因みに、“空腹”と掛けた駄洒落の可能性は脳裏には思い浮かびましたが敢えて触れずに放置します。

興味有りませんから。


叫びながらも、猿みたいな動きで追走する升輅さんに胸中で罵倒を飛ばす。

獣染みた能動的な動きは、先が読み辛いんです。

ただ、その一方で困難な程楽しんでいる私が居る事も感じています。


氣を溜め、道を誘導し──全てが整った所で、反転。

真後ろに居る升輅さんへと向き直り──そのまま私は左足を軸に回転。

球鎚の柄を最大まで伸ばし遠心力を乗せます。

但し、鉄球は基本のままの最小の大きさで。

面が大きいと破壊力が分散してしますから。


その間にも、升輅さんとの距離は縮まる。

二回、四回、八回…高速で回転しながらも、仕掛ける間合いは見失わない。



「暴れ狂え!、“轟坡哲犀(ごうはてっさい)”っ!」



回転から流れる様にして、前に踏み込む。

そして限界を超えて至った“今新”にして渾身の力を込めた一撃を、升輅さんの胸元へと叩き込む。

骨が、筋肉が、血管が。

生命を構成する全てが。

その一撃の下に砕けて逝く感触が伝わってくる。

死を、はっきりと感じる。


振り抜く球鎚が升輅さんを弾き飛ばす事は無い。

抉り喰らったかの様に。

灰塵の如く粉砕し。

破壊し切った。



──side out。



 呂布side──


次から次へ涌き出してくる土塊兵を、土を捏ねる様に潰して、混ぜて、合わせて──新しい形に造り替えて再び動き出す土塊達。


一般的な大人の男の人の、三倍位の大きさの巨人。

頭が幾つも有って絡み合うモジャモジャの大蛇。

何方が前で後ろか判らない双頭の大猪。

見た目は可愛いんだけど、触れると泥みたいになって粘り付いてくる小鼠。

脚が普通の倍以上有るけど増えている意味が判らない妙に脚が細長い大蜘蛛。

地面の中に結構深く潜って隠れてから飛び出してくる掌位の大きさの蟻。

十本の腕に槍や剣を持って襲い掛かってきた二本足で立って動く獅子。

水が無いのに、蛇みたいに身体を動かして地面を這い泳ぎながら進む大きな口を広げていた魚。

…種類は判らない。

他にも強い弱いに関わらず色んなのが襲ってきた。


大半を占める土塊兵の姿は見飽きていた事も有って、その光景は不可思議であり面白くて、新鮮だった。

例え、それが自分に対して向かってきて攻撃しようと飽きてきていた私にとって遣る気を出すのには十分な理由(刺激)に為った。



「──やれやれだね〜…

まさか、君みたいな相手を引いてしまうなんてね〜…

ボクは不運みたいだね〜…

…まあ、昔から“引き”は弱かったから仕方が無いのかもしれないけどね〜…」



そう言って肩を竦めるのは土塊達の奥に姿を隠す様に立つ“壤吽(じょううん)”という名の男。

“普通”という表現が一番しっくりとくる感じ。

これと言って目立つ特徴は特には無かったりする。

溜め息を吐いているけど、それ程に残念がっていると思えなかったりするのは…何か、態とらしいから。

…あ、胡散臭い感じが特徴かもしれない。


──で、この壤吽が土塊兵を使って色々な土塊を造り出して差し向けている。

だけど、私達が探している土塊兵を生み出している者ではなかった。

つまり、“ハズレ”だ。

面白いけど、残念。

目的の敵じゃない。

勿論、敵だから倒すけど。



「…ん?、もしかして今、失礼な事考えたよね〜?」


「…ん、ハズレたって…」


「言っちゃうんだね〜…

傷付いちゃったね〜…」


「……?……だから?…」



訊かれたから答えたのに、残念がられた。

それに、敵なんだから別に気を遣う理由が判らない。

だって、“どうせ殺すから意味が無い”んだから。

どうして、そんな風にするのかが理解出来無い。



「…君、人だよね〜?…」


「…ん、私は人…」


「うん、そうだよね〜…」



一人で納得している壤吽。

何が訊きたいのか。

今一理解出来無い。

まあ、どうでもいいけど。




壤吽の“芸”は面白かった──けど、もう十分。

私は目的の敵を探さないといけないから、遊ぶ時間は終わりにしないと。

…あ、一応訊いてみよう。



「…土塊兵、造ってる奴、何処か知ってる?…」


「…ん?、ああ、奴等ね〜

まあ、知ってるって言えば一応は知ってるんけどね〜

一方で知らないって言えば知らないって感じだね〜」



勿体振ってる態度。

確か、こういう時は大体が正しい情報は持っていない場合が多い──って、皆が言ってた気がする。

その中でも、胡散臭いって感じた場合には、可能性が跳ね上がるんだって。

雷華様も言ってた。

つまり、壤吽とは話すだけ無駄って事。



「…そう…」


「いやいや、“そう”ってそれだけの反応だとね〜…

え?、本当にそれだけしか思ってないって事は流石に無いよね〜?…」


「……?…それだけ…」


「…有り得ないね〜…」



何がしたいのだろうか。

ガックリと肩を落としたら壤吽は地面に両手・両膝を付いて項垂れた。

………あっ、成る程。

そういう事だったんだ。



「…ん、一思いに刎ねる…

…苦しまない様に一撃で…

…だから、安心する…」


「いやいや!、この流れで何でそうなるのかね〜?!

ちゃんと空気読んで流れに乗ってくれないかね〜?!」


「………ん、理解不能…」


「努力しようね〜?!

もうちょっと歩み寄る姿勢見せるべきたよね〜?!」


「……………どうして?…

…私と壤吽、敵、理解する必要が有る?…」


「ぐはっ!?…いや、君ね〜

そ、それはだね〜…」



壤吽の言ってる事の意味がやっぱり判らない。

まあ、それが判らなくても特に私が困る事は無いから気にしない。

私には壤吽を倒して目的の敵を探し出して倒す。

それが大事なんだから。


──と思っていたら。

何か、視界が悪くなった。

真っ白な、濃霧の中に迷い込んだみたいに。

辺り一面が白に覆われた。




視界は…真っ白。

鼻は…利かない。

肌は…近場だけ。

耳は…今は判らない。

氣は…感知出来無い。

つまり、壤吽を見失った。

そういう事になる。



『フッフッフッ…だね〜

今の君はボクの掌の中って訳なんだよね〜』



壤吽の声が聴こえる。

けど、彼方此方から響いてはっきりとは判らない。

まるで、洞窟の中みたい。



『さあ、見るんだね〜

君が懐いてる恐怖をね〜』



壤吽が何か言ってる。

でも、関係無い。

私は小さく息を吐いたら、静かに構える。

右手に握るのは方天戟。

それは以前に使っていた物とは違っている。

方天戟という事で基本的な形だけは似ているけど。

朱を基調として刃身までも朱に染まっている。

其処に白と黒の絡み合った蛇と蔦とが組み合わさった様な装飾が刻まれている。

それが私を表している事を一目見て判った。

とても嬉しかった。

雷華様が造ってくれた物。

私の為だけの爪牙(刃)。

私を映す魂魄(半身)。



「…餓え軍め、“帝嶄辜豹(たいざんこひょう)”…」



私に応え、重なる鼓動。

躊躇無く全力で振り抜けば──白は朱に染まる。

血花を舞い散らせながら、壤吽が姿を現して仰向けに倒れていった。


氣を喰らい、その刃に生み纏うは“朱天”の絶刃。

それが虚空(そら)でさえも斬り裂く、万死の刃。

故に──我が朱刃に絶てぬ存在(もの)は無し。



「…馬…な……君…は……恐…も…無……ね…?…」


「………?…判らない…

…だけど、子和様が居る…

…それで、私は大丈夫…」


「…あ……だ…ね………」



壤吽は小さく苦笑しながら塵と化して消えて逝く。

よく判らなかったけど。

おやすみなさい。



──side out。



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