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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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       参拾玖


まあ、そういった個人的な二人への印象は兎も角。

この二人、決して見た目の通りという訳ではない。

今は“追い掛けっこ”へと為っているから解らない、というだけで。

単純な戦闘能力は高い。



(二人共思考が未熟だから連携とかが拙いけれど…

それでも、此方等の予想を越える常識に捕らわれない発想力は侮れないわね…)



子供らしい、柔軟な発想。

効率や成功率ではなくて、兎に角遣ってみる、という後先考えない行動力。

様々を知り、経験を重ね、無駄を省く合理的な思考に落ち着いてしまう事の多い“大人”にとっては、中々出来無い事でしょう。

そして、そういった子供の打算の混じらない純粋さは判る者にとっては脅威。

また、子供の純粋さ程に、残酷な事は無いのだから。


ただ、それに臆していては戦いは終わらない。

何処かで、仕掛けなくては流れは引き寄せられない。

その事を私は知っている。



(まあ、そうは言っても、それが難しいのですが…)



胸中で密かに苦笑する。

強がりではない。

如何なる状況であろうとも考える事を止めない。

足掻く事を止めない。

生きる事を止めない。

諦めず、躊躇わず、惑わず──ただただ我武者羅に。

進む事を、踏み出す事を、止めない事を。

私達は芯に刻む。

故に恐れても、臆しても、それは全然構わない。

それすらも糧にして。

私達は更に先へと。


だから──出来る。

常とするからこそ。

私達は、それが出来る。



(…さて、行きますよ?)



胸中で二人に話し掛けると私は左足で地面上を舐める様に滑りながら、反転。

二人へと身体を向ける。

急停止ではないが、速度は確実に減速してしまう。

けれど、構わない。

大弓を構え、弦を引く。

惜しみ無く、氣を糧にして“晶矢”を生み出す。


既に隠す必要は無い。

何故ならば、“目撃者”は居なくなるのだから。

少なくとも、他勢力に宅の秘密が漏れる可能性は低い──と言いますか、派手に“壬津鬼”が遣りましたし今更な気がしますからね。

“手札”として隠す以外は気にしません。

ですから、この戦いでは、大盤振る舞いです。



「──何か来るぞっ!」


「──逃げれない!」



ちょっと楽しそうに笑って叫んだ李鮟に対し、苓鮟は冷静に状況を判断。

ええ、その通りですよ。

逃がしはしません。

全速力で追い掛けるという行為は油断大敵です。

何しろ余程の実力差が無い限りは常に相手に主導権を渡してしまいますからね。

それが如何に危険な事か。

教えて上げましょう。


晶矢を放ち──次の瞬間に一気に分裂させます。

突如、眼前に出現するのは矢雨の一壁。

其処へと突っ込むしかない出来無いのが今の二人。



「──うおおぉぉっ!!!!」



そんな状況で、李鮟の方は迷う事無く飛び込んだ。

一瞬の躊躇も無いままに。

自ら前に踏み込んで。




両腕を重ね頭を守りながら身体を前傾姿勢に保って、晶矢に貫かれる事も恐れず突き抜けて来る。

それだけでも称賛に値する勇猛さだと言えます。

しかし、それ以上に苓鮟に一歩だけ近寄る事により、自分の背後に隠れ易い様に位置を修正した事。

考えての行動ではない。

それは彼の持つ勇敢さ故の当然の行動でしょう。



(それだけに敵で在る事が惜しいですね…)



別に自己犠牲の精神に対し感心してはいません。

寧ろ、宅では忌避するべき考えですからね。

それは結局、自己満足で、独善的な行動ですから。

その為、雷華様も華琳様も好まれはしません。

勿論、今の李鮟の様に先に繋げる為には致し方が無い選択という場合には、別の話なのですけど。


李鮟に守られる様に背後に付いていた苓鮟は無傷。

全速力だからこそ、接触は一瞬ですからね。

態々操作したり、追尾する真似はしません。

氣の無駄遣いですから。


滑らせていた左足を軸にし反転して再び駆け出す。

当然ながら減速をした分、全速力のままの二人の方が私よりも速い訳で。

しかも、苓鮟は減速される要因も受けてはない。

つまり、私達三人の中では一番速いという事。


晶矢の雨壁を越えた瞬間に李鮟の後ろから飛び出すと一気に私との距離を詰め、肉薄しようとする。

ただ、体格差が有る。

それを埋めようとするなら更なる加速が不可欠。

限界を超える事が必須。


それ故に──隙が生じる。


大弓を蛇矛へと変化させ、三度反転して苓鮟を迎撃。

軍配型の刃を使い、下から掬い上げる様に一閃。



「──ぁがっ!?」


「苓鮟っ!?──ぐぉっ!?」



回避不可能で直撃し身体を宙に弾かれた苓鮟。

それに気を取られた李鮟の隙を見逃さず、接近すると同じ様に弾き飛ばす。


そして二人と擦れ違う様に入れ替わると振り向いて、再び大弓へと戻すと右手で弦を引き、“必殺”の為に集約させていた氣を一気に注ぎ込み、晶矢を生む。

大きさこそ普通の矢ですが威力は別格です。



「淑穣不惑!、“明妖薙兎(めいようていと)”っ!」



宙に浮いたまま一直線上に重なり合った二人の身体を飲み込む様に奔る閃光。

欠片となる残光が舞う中、二人の姿は無かった。

当然、その気配も。


一息吐きながら先程までの自分の戦いを振り返る。

“苦しませず、一思いに”そう考えてしまった辺り、私も全く彼等に左右さずに戦えた、とは言い切れないでしょうね。

それを悪い事だとは流石に思いはしませんけど。

それが“突け入る隙”だと理解もしています。


今回は相手が子供のまま、その域を出なかった。

だから、問題無かった。

それだけの話です。

もっと王累が狡猾だったら私は隙を突かれていたかもしれませんからね。

そういう意味では王累には感謝しなくては。

私達を軽く見て仕掛けた、その甘さに、です。



──side out。



 典韋side──


私は料理が大好きです。

好きな物・事を挙げるなら雷華様の次が料理です。

雷華様は不動です。

…え?、華琳様や皆さん?…………私は料理が大好きなんです!。


そんな私にとって、料理を作る事も楽しいのですが、やっぱり一番は食べている人が美味しそうで、笑顔を浮かべてくれている様子を見られた時ですね。

そういう意味では季衣には色々と感謝ですね。

元々の切っ掛けは手伝い、季衣のお強請りからです。

それが無かったら今程には料理が大好きになっていた判りませんから。

…それに、雷華様と一緒に料理が出来ますからね。

本当、季衣には感謝です。

今度、料理を作ってあげる機会が有ったら出来る限り沢山季衣の大好物を作ってあげないとね。



「──ゥンンーーーッ!!、美ィイィ味イィィッ!!!!」



──って考えてる様な場合じゃあないですよねっ!?、これってぇーっ!?。


ズッグァアァンッ!!!!、と頭突きをしたと思ったら、地面が凹む──んじゃなくガブガブ・ムシャムシャと盛大に地面を齧りながら、食べてるんですけどっ!!。

大食漢だとか“悪食”って程度の話じゃないです!。

何ですか、この人ぉっ!?。


若干、涙目に為りながら、その人から逃げる様にして全速力で距離を取る。

兎に角、逃げます。

先ずは、逃げてからです。

でないと無理ですから!。


──というのが、現状。

しかし、実は最初は普通の人でした。

…いえ、ごめんなさい。

普通と呼ぶのは無理です。

何かもう、アレです。

貂蝉とかいう人の同類で、褌だけの変態さんです。

何か奇妙な構えをしながら色んな筋肉をビクビクッ!とさせていました。

それだけでも私には十分に“普通”とは思えないので警戒に値しました。


ただ、それ以上に、笑顔が妙に不気味なんです。

常に笑顔なのは悪い事とは思いませんが、どうしてか逆に怖過ぎます。

確かに、“笑顔は威嚇”と言いますが。

実際は、そんなに明らかな感じじゃないんですよ?。

こう…“ほら、笑って?”という感じで、泣いている子供をあやすみたいに。

悪意の無い笑顔なんです。

でも、その人の──名前を“升輅(しょうらく)”さんというそうですが──顔は見ていたら子供は泣き出す感じなんです!。

…いえ、地が怖いとかってではなくて。

笑顔でなければ、優し気な温厚そうな人でしたよ。

それは兎も角として。

まあ、勿論、実際に子供に見せた訳ではないですから飽く迄も私の私見の域から出ないのも確かです。

ですが、正直、子供達には笑顔を見せたくないです。

子供達が可哀想です。

一生物の“傷”を心に刻む事に為りそうですから。




そんな感じの升輅さんとの戦いは最初は可笑しな事は無かったんです。

明らかな剛腕・剛脚型だと判る見た目の通りに物凄い破壊力の一撃を繰り出し、接近戦を仕掛けてきたのは想定内でした。

実際、その時は正面からの殴り合い的な感じでした。


あ、勿論、比喩ですよ?、本当に殴り合ってはいないですからね?。

殴り合いは季衣との闘いで十分過ぎる程に遣りましたから当分は遠慮します。

痛い物は痛いですから。


そういう訳で、実際の所は私は球鎚で打撃を繰り出し升輅さんは格闘にて応戦、という感じでしたね。

…卑怯じゃないですから。

仕方が無いだけです。


升輅さんとの戦いは周囲を容赦無く破壊します。

お互いに、気にしていては本領を発揮出来無いので、気にしませんから。

それはもう、凄いです。

最初は周囲に居た土塊兵が綺麗さっぱり“退避”して居なくなりましたから。

…まあ、それ位だったら、可笑しくは有りません。

よく有る事ですから。


それが一変したのは戦いを始めて暫くしてから。

とは言うものの、その時は小さな異変程度でした。

升輅さんが、何かを堪え、意識から振り払うみたいに頭を左右に振っていたり、自分で顔を殴ったり。

その程度でしたので。

集中しようとしているのか眠気に負けそうな時の様な感じの意識を必死に保とうとしているのか。

そんな印象でしたので。


それが、はっきりと変わる切っ掛けは宅の“結界”が敷かれた事でしょうか。

勿論、そうなのか定かでは有りませんが。

その直後の事でした。

升輅さんが頭を抱えながらのたうちまわり、言葉には為らない奇声を上げ始めて戦いが中断したのは。

流石に、私も理解出来ずに困ってて、見ている事しか出来ずに佇んでいたら──急に止まったんです。

まるで、事切れたかの様にピクリとも動かずに。

呼吸している様子でさえも感じない様に静かに。




その瞬間は、死んだのかと思いました。

ですが、升輅さんは直ぐに静かに立ち上がりました。


ただ、それまでの健康的で暑苦しい程だった筋肉体が萎んでいたんです。

正確には、無駄に肥大化し強調されていた筋肉が凝縮された感じに、です。


そして──コレです。

文字通り人が変わった様に急に暴飲暴食をし始めて、何でもかんでも口の中へと入れ始めたんです。

土を、石を、砂を、岩を、木を、草を、鉄を。

兎に角、手が届く範囲内に有る物なら、どんな物でも構わないという感じで。

ゴリゴリッ、ガリゴリッ、ムグムグッ、バクバクッ、味も食感も関係無しに。

ただただ食べているだけ。

それだけだったので、私も茫然と見ていました。

訳が判りませんでしたし。


しかし、辺りに手で掴める物が無くなった瞬間です。

まるで、次の食べ物(餌)を見付けた猛獣の様に。

升輅さんは私を見て、眼をギラつかせました。

血走っている、という様な程度では有りません。

それはもう、“兎に角今は拉麺が食べたい!”と言い他の物では幾ら食べようが納得しない季衣みたいに。

異常な飢餓と執着を宿した眼をしていたんです。


それを見た瞬間に、即座に私は逃げ出しました。

倒さなくてはいけない事は頭では判っていますが。

直ぐには無理でした。

本能的に“…あっ、これは本気で駄目な奴ですね”と感じ取ったんです。


──というのが、今に至る此処までの経緯です。

はい、訳が判りません。

これは本当に二重人格的な事なんでしょうか。

誰か、教えて下さい。

割りと本気で思います。


そして、一番大事な事は。

私を“食べて”もいいのは雷華様だけですから!。

其処は譲れません。

口には出せませんが。

恥ずかしいですから。




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