表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫三國史  作者: 桜惡夢
797/915

       参拾漆


──とか、張り切ってみたまでは良いのですが。

現実は非情なんです。



(──冷静なって考えたらやっぱり無理ですっ!!)



勿論、再度“接続”を試み救援を求めようとしました──が、繋がりません。

これは雷華様が仰有る所の“接続拒否”──それ即ち所謂、“接拒”という奴に違い有りません!。

皆して酷いです!。

新手の虐めですかっ?!。

──なんて言ってられない状況なんですがっ!?。

ちょおっ!?、ひゃうっ!?、今掠りましたよっ?!。

ほらっ、この袖口っ!。

スパッ!、って!。

地味に高いんですよっ!?。

防具は雷華様から頂いた物ですが戦装束は基本個人の自由な分、自腹なんです。

だから、経費で落ちないの知らないんですかっ?!。

知らないですよねっ!。

判ってましたけどっ!。



(うぅ〜…綺麗に切れてるみたいですから補修自体は難しいなさそうですけど…

下手に自分で遣っちゃうと目立ちますよね、これ…)



そういう専門技術を要する裁縫師を当然ながら曹家は抱えています。

ですから、補修時間自体は気にしてはいません。

彼等の仕事は完璧で迅速。

特注の夜着だって、朝一で頼んで置けば日没前後には仕上がって来ますので。

其処は心配していません。

ただ、雷華様や華琳様から“超一流”と称賛をされる技量な訳でして。

ええ、お高いんです。

それはまあ?、私も一応は高給取りですけど。

派手な使い方が出来る様な性格と価値観をしていないという事も有ってなのか。

どうしても、貧乏性が抜け切らないんです。

雷華様は気にされませんが私自身は気にしてます。


──て、現実逃避してても状況は変わりませんよね。

出来れば、そうしてる間に好転してて欲しいです。



「──って言うか、それは“後転”ですっ!」



グリンッ!、と後ろ向きに巨躯を揺らして転ぶ針鼠に思わずツッコミます。

…あ〜もう、本当に可愛い──って駄目駄目っ!。

騙──す気とか無いのかもしれませんが。

その可愛さに心を鈍らせて躊躇していては終わらないじゃないですか!。

此処は心を鬼に!。



(大丈夫ですよ、斗詩!

貴女は遣れば出来る女っ!

…“ヤればデキる女”って少し意味深で淫靡だなって思いませんか?)



…いえ、そうではなくて。

それはそれで気にならない訳ではないですけど。

今は置いておいて。


両足で地面を滑る様にして減速しながら、反転。

巨躯の針鼠さんに向かって停止と同時に構えます。



「躾の悪い悪戯っ仔には、飼い主さんに代わって私がお仕置きしますっ!

覚悟しちゃって下さい!

痛ぁ〜いですよっ!」



尤も、その飼い主さん自身華琳様から“お仕置き”をされているでしょうけど。

彼方等は自業自得です。

此方等とは事情が違うので同列には扱えません。

…私よりも、華琳様の方が絶対に苛烈でしょうから。




見た目や仕草に騙されてはいけません。

心の眼で“視る”のです。

そうすれば──ほら。

どういった存在なのかを、理解出来るのですから。

迷いは、消え去ります。


そして、改めて観察。

矢の様に放たれて此方へと向かってくる“刃毛”──針毛を避けながら、冷静に情報を集め、考える。

巨躯では有るけれど動きは然程俊敏ではない。

手足の短さ故に、直接的な戦闘は苦手でしょう。

懐に入れば楽勝。

それをさせない為の対処法としての鋭い針毛であり、身体を丸めている。

他の攻撃方法は攻守一体の体当たりだけの様です。

故に、問題は如何にすれば近付く事が出来るのか。

その一点ですね。

…口から、炎とか毒を吐き出されたりされないのならという前提の上でですが。



(…駆け引きをしたとして崩し切れますかね…)



相手は獣なんです。

“怪異”の類いで有っても行動や反応を見る限りでは普通の獣と変わりません。

如何に異常な程の巨躯で、特異な能力を有していても獣なんですよ。

つまり、本来の防衛本能や生存本能が強く残っている倒し難い相手な訳です。

人が相手の思考をしている様では倒せません。



「──それだったら此処は攻め有るのみですよね!」



彼是考えていても、時間を費やしてしまうだけ。

こういう相手には可能性を考慮しつつも仕掛けないと何も始まらない。

そう結論付けて、動く。


刃毛の雨の中を左右に躱し潜り抜けながら、接近。

躱せない物は右手の突槍で弾き退け、疾駆する。


すると、身の危険を察知し針鼠は巨躯を丸める。

その場で、縦に回転を始め──球が転がる様にして、私に突進して来た。



「──ええっ!?」



真っ正面から、というのが選択肢を削ぐ。

私は突槍を地面に突き刺し槍刃と柄を即座に伸ばし、迫ってきた針鼠を飛び越え入れ替わって回避。

着地と同時に背後を取る。


それを察知したのか。

針鼠は回転を縦から横へ、螺旋を描く様に変えた。

その上で針鼠は自分自身を巨大な突槍の様に尖らせて私に向け、低く跳んだ。



「──受けて立ちます!」



突槍を構えながら、槍刃を螺旋衝槍へと変化。

回転を始め、空気が啼く。

更に、私は加速する。

彼我の距離が一気に詰まり眼前に巨躯が迫る。



「悉墜しろ!、“天破旋蠍(てんぱせんかつ)”っ!」



私の声に応え、その回転は高く高く高く音域を上げ、耳鳴りの様に大気が哭く。


そして──交差一閃。

全てを貫く螺旋は、一切の抵抗を許さずに穿つ。

生を貫き、死へと。

真っ直ぐに道を刻んだ。


伊達に、幾多の土木工事を熟してはいません。

私の螺旋に貫けない物は、そうは有りません。

ですから、苦しまなかった筈です。

…もし、出来てなかったら赦して下さい。

振り返り、塵と化して逝く針鼠さんを見詰め、静かに冥福を祈りました。



──side out。



 紀霊side──


“結界”は敷かれましたが攻め切れずにいるのが私の現状だったりします。

対峙している相手は猊乱。

濮族の長の男です。

無口で、情報が少ない故に謎の多い事で知られておりその風貌から本人だろうと考えられてはいるのですが確たる証拠は有りません。

それ故に別人説も存在する奇怪な人物なのです。


そういう意味では雷華様に近いのかもしれませんが。

勿論、比較対象に雷華様を挙げる事は出来ません。

雷華様は至高ですので。



「──くっ!?」


「…………」



振り抜かれた赤黒い爪。

それを鉄棍で防ぎながら、受け崩しを狙います。

ですが、最初から一撃しか撃ち込んで来ない事の多い猊乱は体勢を崩し難くて、直ぐに自分から飛び退いて距離を開けられます。

追撃しようと迂闊に距離を詰めれば“合わせ”に来て一撃を狙われます。

中距離が得意な私としては結構戦い難い相手です。


ですが、それ以上に。

何よりも厄介なのは猊乱を“殺せる気がしない”事と言えるでしょう。

ただ、決して攻撃出来無い理由が有るといった様な訳では有りません。

それは、文字通りです。

この猊乱は“不死者”ではないのでしょうか?、と。

そう思わされてしまう程に奇怪な存在なのです。



(…確かに人と同じ姿形をしているからと言っても、必ずしも身体の構造が人と同じであるとは限らないのでしょうが…

それにしても不可解です

何故か手応えが有ったり、無かったりしますから…)



猊乱との戦いを始めてから私は幾度も決定的な攻撃を猊乱へと放っている。

鉄棍で頸を圧し折り。

鉄棍で心臓・腹部を貫き。

左腕・右脚を捻り砕き。

普通なら死んでいても何も可笑しくはない状態を。

戦えなくなる状態を。

幾度も与えてきた。

それなのに、です。

猊乱は私の前に立ち続け、攻撃を繰り返します。


勿論、その様子から考えて“目の前に有るのは猊乱の傀儡であるという可能性が高いでしょう”と。

その様に思って周囲を探り何処かに潜んでいる本体を見付けようとしましたが…無駄でした。

と言うよりも、そんな物は最初から存在していないと言うべきでしょうね。

私の目の前に居る猊乱は、間違い無く本人ですから。

傀儡などではなく。

本人であるのだから、他に居る筈も有りません。


そうだとすれば、次に私が考えるのは擬似的な不死を可能としている。

その可能性です。

つまり、何かしらの能力や術等により、身体再生して戦い続けている。

そう考えられる訳です。

普通なら有り得ない事も、氣な事を知っているが故に私達には判る訳です。

そういう可能性が有ると。




しかし、そうだとしても、可笑しいのです。

口元は赤黒い布で覆われて判りませんし、見えている目元も変化が窺えない。

挑発を兼ねて話し掛けても反応は乏しい。

猊乱の様子には変化が無さ過ぎます。

まるで人形の様な印象さえ懐いてしまう程に。



(人格を奪われている様な感じでは有りませんから…

少なくとも、そういう様な性格なのでしょうね…)



そう結論付けて置く。

其処に拘っても意味が無い気がしますから。

それよりもです。

どうすれば、猊乱を倒せるのかが重要です。



(…まあ、存在である以上“完全消滅”されられれば問題無い訳ですが…)



手段が無い訳ではない。

しかし、それは諸刃の剣。

それ以降に影響を来すのは出来れば避けたい。

ただ、その他には良い手が思い付かないのも事実。

…覚悟を決めましょう。


私は猊乱から距離を取って目蓋を閉じる。

そして、小さく深呼吸して──己が裡の“扉”を開け“私”を解放する。

ゆっくりと眼を開いた時、私の双眸は変化する。

あの“龍瞳”へと。



「──っ!?」



それを見た直後だった。

猊乱が始めて見せる動きで私に肉薄して──続け様に攻撃を仕掛けてきた。

それを凌ぎきり、力任せに猊乱を弾き飛ばして距離を取って体勢を整える。

あまりに唐突な事も有り、僅かにだが動揺するけれど焦ってはいない。

冷静に猊乱の様子を──



「──涅邪!、涅邪ッ!、涅邪ノ血!、本物ッ!」


「──なっ!?」



それは明らかな興奮。

しかし、本物の涅邪族との出会いに感動しているとは思えません。

何方等かと言えば、宝物や獲物を見付けた時に覚える衝動的な欲求。

それに近いでしょうね。



「欲シイ!、涅邪ノ血ッ!

欲シイ欲シイ欲シイッ!

喰ウ!、肉喰ウッ!

啜ル!、血啜ルッ!

俺!、強ク為ルッ!

ダカラ──オ前死ネッ!」



見開いた両眼を血走らせ、大きく開く“口”の回りを長い舌で舐めながら。

猊乱は突進してきた。




豹変、という言葉が似合う程に判り易く。

猊乱は本性を見せると共に今まで避けていた接近戦を仕掛けて来ようとする。

それは歓迎すべき事です。

──本来であれば。



(何ですか、アレは…)



ドロッ…とした。

赤黒い粘液の様な何かが、猊乱の口元から、身体から滴る様に流れ落ちる。

まるで唾液の様な感じ。

しかし、それは赤黒い。

まるで──血液の様に。


此方が考え事をしていても気にする必要も無い猊乱は当然、襲い掛かって来る。

それを捌きながら、可能な限りに距離を取る。

そして、観察する。



「──っ!」



其処で、気付いた。

赤黒い血液の様な粘液は、地面には落ちていない。

否、そうではない。

地面には触れている。

しかし、染み込む事は無く“生き物であるかの様に”猊乱の身体に纏わり付く。


その様子を見て、脳裏には雷華様の言葉が浮かぶ。

“宿躰の儀式”──獣等の人ではない生物の血や肉を儀式を通じて摂取する事で対象となる存在の力を得るという思想の下に行われる奇祭の類いだそうです。

しかし、そういった思想は珍しい物ではないそうで、涅邪族の伝統的な格好等も同様の思想から来ている事なのだそうです。

そんな思想の中、逸脱した狂気により生まれた思想が“喰人”思想だそうです。

つまり、獣ではなく。

力や知恵を持つ人間を喰う事により、その人物の力や知恵を得る、という考えで人間を食べる訳です。


人間を供物として捧げて、殺してしまう、というのは珍しくない話ですが。

それは異常な思想です。

その為、印象的でしたが…まさか現実に存在していて対峙する事に為るとは。

思いもしませんでした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ