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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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       弐拾捌


着地するのと同時に兄骨の身体を覆う様に氣で帯状の円環を形成し、“呪核”の探知を開始する。


直ぐに“当たり”を引けるとは思ってはいません。

しかし、頭の先から尻尾の先まで途切れさせる事無く調べていけば確実に呪核を捕捉出来る筈。

何処かへと、“転移”とかしない限りは、です。

流石に転移させるとなると私達の手には余る相手。

対処が可能な人に交代して貰うしか有りません。

その辺りを判断する為にも先ずは呪核を見つけ出して試してみないと、です。



「──って、当たり前では有りますが、そう簡単には遣らせてくれませんよね」



甲殻みたいな体表が歪み、其処から白骨が起き上がるという光景が彼方此方にて発生しています。

怪談話なんて目じゃない位不気味な光景です。

白骨は骨でできた剣や槍、斧みたいな武器を手にして私を狙っています。

それに加え、柔軟な骨かと思える様な触手っぽい物が幾つも生えています。


モテる女は辛いですね〜♪──って、言っていられるのも時間の問題ですね。



「こつこつ地道に遣る事が大事なんですよ!」



──骨だけに!。

そう胸中で落ちを着けると対剣を振るい群がってくる白骨兵や骨触手を撃退し、移動を開始する。

相手の大きさと密度により走り抜けながら探知する、というのは無理です。

ですから、調べては進み、調べては進み、を繰り返し焦らずに詰めていく。

それしか有りません。


勿論、兄骨が此方の狙いに気付かない筈は無く。

巨躯は左右に蛇行するし、上下に波打つし、白骨兵や骨触手の数は増すし、と。

攻撃の手が緩む事は無く、激化していきます。

尤も、地中へと潜られない事だけが救いですね。

気付いていないと言うより“余裕だから”でしょう。

つまり、呪核を探し出され破壊されたとしても自分は敗ける事は無い。

そう考えているからこその余裕だと考えられます。



(となると、鈴萌ちゃんと合わせて同時進行する形で探知しながら破壊?

…うーん、無理かな〜…

多分、気付かれるし…)



私だけでなく鈴萌ちゃんも探知を始めてしまったら、地中に潜られるか、二体が再び合流するかも。

更に分裂する、なんて事は考えたくはないです。

確実に人手を増やさないと対処出来ませんから。


そう考えながら“纉葉”を使い、繋ぐ。



《鈴萌ちゃん、気付いてるとは思うけど…》


《はい、この二体の呪核の“同時破壊”ですね?》


《うん、でね、今、此方で探知しているんだけど…

兄骨は余裕綽々なの》


《…成る程、“単独撃破”される可能性が無いから、という事ですか…》


《多分、そうだと思うよ

それでもね、鈴萌ちゃんが探知を始めたら気付くから迂闊に出来無いでしょ?》


《…ええ、確かに》


《其処でね、鈴萌ちゃんに提案なんだけど…》



こうして誰にも気付かれず私達は策を練ってゆく。




今に為ってみて思います。

当時は、軍師陣寄りの機能みたいに思っていましたが実際には軍将(私達)寄りの機能なのかもしれません。


軍将同士は勿論、軍師とも常時意志疎通を可能とする機能の効果は絶大です。

それも完璧に秘密裏に話す事が出来ますから。

だからこそ、感じます。

雷華様は恐らく、こういう事態を想定されていたから纉葉に“以心伝心”機能を組み込まれたのだと。

本当に…凄過ぎです。



「──っ!?」



探知を継続しながら兄骨の三分の一程を消化し終えた辺りで、兄骨が動いた。

白骨兵と骨触手を止めて、巨大な掌を幾つも生やして私を捕まえようとする。



「そう簡単に捕まる様では宅の軍将は務まらない位に大変なんだからねっ!」



巨掌を躱し、蹴り飛ばし、断ち斬りながら探知を続け着実に兄骨の呪核へ迫る。

当然だけど、鈴萌ちゃんも私とは違う遣り方で弟骨を追い詰め始めている。

勿論、気付かれてしまうと駄目なので、加減しながら呪核を特定するという事を遣らなくては為らないのは中々に大変です。

けど、主導権は私に有る為弱音や愚痴は吐けません。



(私達にとって唯一の懸念すべき事は、纉葉と同様に兄骨と弟骨が意志疎通する事が出来る可能性かな…

一応、二体を引き離す様に鈴萌ちゃんが誘導している最中なんだけど…

今の所は、そういう様子は見られないかな…)



そんな風に考えながらも、半分を探知し終える。

流石に、余裕を見せるのは拙いという意識は有る様で兄骨は暴れ方が激しくなり私への攻撃も厳しくなる。


──と、そんな中での事、巨掌とは別に体表が隆起し何かが新たに出現する。



「──ぅげっ…」



思わず漏れた拒絶反応。

そう為る事も無理も無い事だと思います。

だって、大人一人分程度の体長の骨百足がワラワラと出て来る訳ですから。

普通に、嫌な光景です。

背筋なんて、ゾワゾワでは済まない位に嫌悪感が駆け回っています。


だから、こういう場合には手早く視界から消すという対応が望ましいですね。



「──って、吐いたっ!?

しかも溶けたあっ!?

毒液っ!?、酸液っ!?」



物理的には止められないと思ったのでしょうか。

此処に来て搦め手とは。

それも自身を構成している白骨が溶ける事も構わずに攻撃して来るだなんて。

──余程、私に“窮地”と錯覚させたい様ですね。


では、御期待に御応えして“終幕”と行きましょう。

もう三分の一を残した所で対剣の柄を繋ぎ合わせると双頭剣へと変化させる。



「裂き踊れ!、“典戔芙鰐(てんざんふがく)”っ!」



典戔芙鰐は白い輝きを刃に生み纏ってゆく。

その刃で巨躯を両断すると呪核の有る筈の後身部分を瞬間的に切り離す。

同時に、抑えていた探知の精度を一気に上げて残った後身部分を手早く調べ上げ──呪核を捉えた。



──side out。



 満寵side──


冥琳さんの応援に向かった珀花さんが窮地に為って、それを援護に合流。


其処までは良いのですが…改めて見ると嫌悪感が凄い姿をしていますね。

大の苦手、と言う程の後は有りませんが、決して平気という訳でも有りません。

飽く迄も、対処出来る程度には大丈夫なだけです。



(…にしても厄介ですね)



遠目に見ていたので一応は二体が分裂したという事は理解してはいますが。

私の相手である珀花さんが命名したのだろう弟骨は、珀花さんが相手をしている──多分、兄骨かな?──とは違って、かなり慎重な動きを見せている。

それだけに、兄骨の方へと合流しようとする。


分断しておきたい此方等の考えとしては、気付かせず引き離さなくては為らないという中々の難しさ。

こういう時には攻撃的で、挑発に乗り易い単純な方が好ましく思えますね。

扱い易く、楽なので。


その上、あの二本の牛角が鬱陶しいです。

飾りかと思っていたのに、白煙を撒き散らすんです。

しかも、普通の煙じゃなく微細な粉末です。

恐らくは、骨灰かと。

吸い込んだら、どうなるか解らないのも怖いですが、探知の役割もしている様で私達は互いに攻撃と回避を繰り返している状態。


それでも、珀花さん達とは引き離せているので現状は悪くはない筈。

作戦上、珀花さんが兄骨の呪核を特定するまでは私は仕掛けられませんからね。



「──っと、危ないですね

視界が利かないのは…」



そうは言ってはいますが、実際は視覚が奪われた位で私達は困りません。

雷華様は鬼ですから。

五感が奪われている状態で鍛練をする事も有ります。

なので、言う程に焦ったり困ってはいません。


これも相手に気付かせない為の小細工ですね。

意外と重要なんですよ。



《鈴萌ちゃん、お待たせ!

いつでも行けるよ!》


《了解です、では此方等も仕掛けます》


《秒読みは?》


《…1分丁度では?》


《無問題、それじゃあ──1分前っ!》



珀花さんの声を合図にして纉葉の完全同調機能による秒読みが始まります。

待っていた開始の瞬間に、自然と口角が上がります。

短い間ですが、鬱憤という物は溜まりますので。



「震貫せよ!、“舞葉穿蜂(ぶようせんほう)”っ!」



その声に三叉尖刀の刀身に螺旋状に氣が渦巻く。

そして白煙の中を突き抜け弟骨に肉薄すると、一閃。

更に其処から動きの鈍った方を無視して、反対側へと次撃を放つ。

珀花さんからの情報として“呪核の無い方は鈍る”と聞いていますから。

後は、それを繰り返す事で一気に捉えるだけです。



──side out。



 周瑜side──


珀花一人では荷が重いか。

──と思っていた所に直ぐ鈴萌が援護に加わった。

その機転の早さに胸中にて感謝の言葉を送りながら、私は私の相手に集中する。



「──面白ぇ武器だなっ!

コロコロと犬みてぇに形を変えやがって!」



麋蛇羅の鋸鉈を変化させた鋼棍で受け止め、お互いが入れ替わる様に受け流す。

直に撃ち合って見て判る。

此奴の膂力は甘く見ていい物ではない。

流石に、宅の力自慢達には及びはしないが。

それでも私の様な平均的な身体能力をしている者には遣り難い相手だろう。

“力押し”で局面を強引に破壊してくるからな。


加えて、頭の回る曲者だ。

主導権を握らせてしまえば一気に持っていかれる事も十分に考えられる。



「犬は形を変えんぞ

仔犬はコロコロとしていて可愛らしいがな」


「ああっ、そうかよっ!

生憎と犬は嫌ぇなんだよ!

まあ、この麋蛇羅様の傍に相応しい愛玩物なんてのは居ねぇが、なっ!」


「それは、そうだろう!

貴様の様な輩は他の存在を愛でる事はしない

ただただ己と、己の作品を愛でるだけだろう」


「ハハッ!、確かにな!」



挑発し合う様な会話。

それと同時に行われている攻防は、体力・気力を共に容赦無く消耗させる。


麋蛇羅達が、生者(私達)と同じ様に疲労を感じたり、するのかは判らないが。

都合の良い期待はしない。

何にしても、私達の選択は短期決戦の一択だ。


偶には雷華様(主役)抜きで舞台を閉めてしまうのも、悪くはないからな。

どの様な反応をされるか。

それを見てみたいが為に、短期決戦を選ぶというのも私達にしてみれば、十分に遣る価値が有るのだから。



「そういう訳だから貴様は蜈弉蛇蚣(貴様の作品)同様骸(死に体)と為れ!」


「ハッ、上等だ!

手前ぇ等纏めて麋蛇羅達が骸(作品)にして遣らあ!」





幾度も形状を変化させつつ攻防を繰り返す中。

一瞬の隙を私は狙う。

左薙に振り抜かれた瞬間、鋸鉈を鋼棍で下から上へと弾き上げる。



「──っ!?」


「──爆ぜろっ!」



鋼棍は回転させ──初めて見せる双頭尖槍へと変化。

今、がら空きとなっている麋蛇羅の胴体へと突き刺し──爆発させる。



「──なんてなあっ!」


「──っ!?」


「“切り札”ってのはな、こう使うんだよっ!」



四散した筈の麋蛇羅の顔が私の正面に、“逆さま”で唐突に出現した。

視界が塞がれてしまう。


近距離の為、双頭尖槍では対処が間に合わないと考え即座に鋼鞭へと切り替え、麋蛇羅の奇襲を凌ぐ。

──が、その鋼鞭を右手で掴まれて引っ張られた事で瞬間的に体勢を崩される。

其処を狙い振り上げられた鋸鉈の凶輝を閃く。


──のを見て、嗤う。



「──爆ぜろっ!」


「────っ!!??」



鋼鞭が、爆発する。

握っていた麋蛇羅の右手を腕は勿論、右上半身丸ごと持っていった。

その隙を逃しはしない。

崩れた様に見せた体勢から一歩、踏み込む。

鋼鞭から──薙刀へ。

此方も、初めて見せる。



「がはっ…手…ぇ──」


「奇幾艶妖!、“九耀白狐(くようびゃっこ)”っ!」



赤みを帯びた黒耀石の如き絶刃を振り抜き、擦れ違う様に駆け抜ける。

麋蛇羅を脳天から真っ直ぐ真っ二つに切り裂く。

そして──爆破。

断末魔さえ飲み込みながら麋蛇羅を“死散”させる。



「…ふぅ…少々焦ったな」



麋蛇羅の切り札が何か。

それは解らないままだが…致し方無い事だ。

好奇心の為に機を逃すなど出来無いからな。


一息吐き、振り向いた先で珀花と鈴萌も蜈弉・蛇蚣を無事に撃破したのを見て、自然と笑みが浮かんだ。



──side out。



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