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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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       弐拾漆


四者の中、真っ先に痺れを切らして動き出したのは、意外にも蜈弉蛇蚣だった。

咆哮の様に奇声を上げると珀花に向かって突進する。



「──ちょっ!?、もうっ!

女の子には優しくしなさいって習わなかったのっ!」



そう叫びながら受け流し、私達から離れていく珀花。

言いたい事は理解出来るが蜈弉蛇蚣は自立していても“造り物(非生物)”だ。

そんな人間の、しかもだ、限られた極一部でしか浸透していない価値観を其奴に求めるのは可笑しいぞ。

百歩譲って求めるのならば創造者である麋蛇羅の方に言うべき苦情だ。


あと、何故“女の子”だ。

其処は“女性”だろう。

別に悪いとは言わないが…逆に違和感が有るぞ。

まあ、頭の中は子供っぽいのだから全くの間違いとは私も思わなくはないが。



「──これ終わったら後で話し合うからねーっ?!」



──と、察したのか。

離れていきながら、珀花が此方に向かって叫んだ。

それはいいから集中しろ。

戦いの最中なのだからな。



「…フンッ…あれだな…

やっぱ、手前ぇ等は、気に食わねぇな…」


「それは当然だろう

貴様に気に入られたいとは我等は微塵も思っていないのだからな」


「ああ、そりゃそうだ」


「…だが、貴様の力量には素直に感心した」


「何だ、ご機嫌取りか?」


「いいや、単なる事実だ

アレが独立型だとはな…

まんまと騙されたぞ」


「へぇー…」


「趣味は兎も角としてな」


「何だ、判んねぇのかよ」


「価値観の違いだからな

それは仕方が無い事だ

貴様に答える必要性は無い話だが…一応、訊こう

アレは貴様を倒せば止まる類いの物か?」



蜈弉蛇蚣を珀花に任せたが唯一の懸念は不死性を持つ可能性だろう。

普通に考えれば創造者たる麋蛇羅が死ねば蜈弉蛇蚣は停止、或いは消滅するのが妥当な所なのだが。

独立型だというのが、頭に引っ掛かる。



「──ってぇ、嘘おっ!?」


「──なっ!?」



珀花の驚声を聞いた瞬間、思わず視線を向けた。

其処には、二体に分離した蜈弉蛇蚣が珀花に襲い迫る光景が有った。


──が、直ぐに視線を戻し不意打ちを仕掛けてきた、麋蛇羅を睨み付ける。

交錯する鋼鞭と、鋸の様な形状をした鉈。

鋸程には刃の山は細かくは出来てはいない。

鋸の刃を一部だけ拡大した様な感じだと言える。



「…本当、可愛くねぇな」


「やれやれ…何度同じ事を言わせるつもりだ?」


「ハッ、それもそうだな

まあ、いい手向けだ

“蜈弉・蛇蚣”は最初から二対一体なんだよ

でもって、この麋蛇羅様が死んでも関係無ぇな!

一度動き出しちまったら、止まらねぇんだよ!

だからよーっ!、手前ぇは先に逝ってろやっ!」


「なに、遠慮は要らん

“年功序列”だ

貴様が先に逝け」



それならば、判り易い。

私は私の、珀花は珀花の、敵を倒すだけだ。



──side out。



 朱然side──


突進してきた骨百足。

その攻撃を受け流しながら冥琳達から離れてゆく。

流石に、こんな大きいのと狭い範囲内で戦おうなんて思いませんからね。

広々空間で伸び伸びと。

でないと、影響を気にして気楽に遣れませんから。


それは兎も角として。

生意気にも私に喧嘩を売るだなんて──遣りますね。

見る目が有ります。

──ああいえ、白骨だから眼球は無いですけど。

見えてはいるんでしょう。

睨み付けられてる(視線)をはっきりと感じますから。

でも、趣味じゃないんで。

出来れば、私よりも冥琳を指名して欲しかったです。

まだ、人型と戦ってる方が遣る気が出ますから。


と言うか、虫ですから。

人骨が多く使われていても形は虫ですから。

嫌な物は嫌なんです。

少なくとも私は虫が好きな質では有りません。

別に虫の存在を否定しようとは思いませんよ。

自然界に措いては、昆虫の存在は重要ですから。

あと、色々と学ぶべき事も多い存在ですからね。

…まあ、雷華様の受け売りなんですけど。


──なんて考えながらも、戦うのに十分な距離(広さ)を確保したのを確認すると同時に──反転。

両腕を交差させて腰に佩く対剣の柄を各々に掴む。

そして、骨百足に向かって踏み込み一気に肉薄する。

それを察知したのだろう。

骨百足は身体を波打たせ、反動で頭を振り上げる。

私を叩き潰す気らしい。



「──取り敢えず!

嫌いな物は嫌いなんでっ!

チョッ、キンッなーっ!!」



更に一歩、踏み込み加速。

骨百足の頭部が私を捉えるよりも早く駆け抜けると、波打った胴体の下に潜って真ん中辺りにて対剣を抜き放ち、断ち斬った。


下敷きに為らない様に直ぐ右側へと飛び退く。

そして、身体を反転させて骨百足の様子を見ながら、距離を取る様に後ろ向きに飛び退いていた──時だ。

右から骨百足の“尻尾”が私に向かってきた。

しかも──バカァッ!、と大きく顎を開いて。

“…え?、何で口が?”と思って反対側を見る。

それと同時だった。

空振り、地面を叩いた筈の頭部は地中へと潜っていて──私の左から地面を突き破って現れた。



「──ってぇ、嘘おっ!?」



思わず叫んでしまったのは仕方が無い筈です。

まさかの分裂ですもん。

流石に、こんな展開は予想していませんでした。

と言うか、あの状況ならば私が華麗に決めて、巨躯を維持出来無く為って白骨がバラバラと崩れ落ちながら消滅──するかは判らない所ですが、勝負は着くのが“定番”だと思います。

それを分裂するだなんて。



「──空気を読めーっ!」



思わず心境を吐露しつつ、左右から襲い掛かってきた双子の骨百足を対剣で受け捌きながら身体を回転させ攻撃を凌ぐ。

二体が入れ替わる様にして離れていった隙を逃さずに距離を取る為に駆け出す。




──が、そう簡単に相手も逃がしてはくれない。

中間に位置しない様に、と片側に寄り気味に位置取る私に対して、まるで二体は同じ意思下で動く別体かと思う様な絶妙な同調を見せ私を中間に置いてくる。



(うぅ〜…面倒臭い〜…)



操作型ではないのだから、当然と言えば当然だけど。

独立型にしても思っていたよりも頭が回ると思う。

もっと、獣っぽい動きなら遣り易かったのに。

人と獣を混ぜた様な感じの動きを見せている事から、短期決着は難しそう。

…凄く腹が立つけどね。


だけど、一番重要な問題は其処ではない。

この二体が──分裂前には前身部分だった三本触角の頭を持った方を“兄骨”、後身部分だった二本触角・二本牛角の方を“弟骨”と呼んで区別するとして──完全に独立しているのか、そうではないのか。

其処が、大きな問題。



(…あの二体が別々の個体だったとすれば、一体ずつ仕留めれば良いけど…

もし、二対一体の存在なら“同時に”仕留めないと、倒し切れない──っていう可能性が有るよね…)



そう考えたただけで既に、うんざりしてしまう。

多分、冥琳も“呪核”には気付いてるとは思うけど、探知が難しいから操者──あの男を倒そうとしてたのだとは思う。

そして、独立型という事で此方は私に任せて、冥琳は彼方を片付けた後は本来の役目に戻っていく筈。

彼方を倒したら、此方のも消滅、若しくは停止すると嬉しいのですが。

…先ず、無理っぽいです。

何と言うか、骨百足兄弟は“望映鏡書”的な存在かもしれないので。

やはり、呪核を探し出して破壊するしかないですね。



(とは言うものの、流石に一人だと厳しいです!

冥琳っ、助けてーっ!

丸投げし(見捨て)ちゃうの止めてーっ!)



こんな悪趣味な存在だから絶対に正面な相手ではない気がしますし。

一対一ならば兎も角。

二対一では、探りながらは大変過ぎます。

…それはまあ、冥琳よりは私の方が遣り易い事だとは思いますけどね。

これでも軍将ですから。

でも、そうだからと言って好んで遣りたいとは少しも思いませんから。


──なんて考えている間も当然の様に骨兄弟は私へと攻撃して来ていて、普通の手合いの様な、休憩(間)を挟む事もしない。

もう一回言いますが、私は女の子なんですからね!、優しくしなさい!。

──其方等に性別が有るかなんて判りませんけど。



「──義封さん!

私も加勢しますっ!」



──と、其処に見計らった様に華麗に登場したのは、本舞台の主役である王子様──ではなく、戦う美女・鈴萌ちゃん。

まあ、そう言っている私も此処に居る“戦う美女”の一人ですけどね。





「──ありがとーっ!

スーちゃん愛してるーっ!

右の二本触角・二本牛角の“弟骨”お願いねーっ!」


「ちょっ!?、スーちゃんは止めて下さいっ!

右の奴ですねっ!

──止めて下さいねっ?!」



あらあら?、まあまあ♪。

私の指定した方を確認して直ぐに応戦する体勢に入る──んだけど、念を押して止める様に言ってくる。

余程“スーちゃん”呼びが恥ずかしかったのか。

場違いな程に顔を赤くして慌てている鈴萌ちゃん。

普段、真面目で冷静沈着な彼女にしては珍しい反応。

可愛らしい反応ですね。

ふっふっふっ♪…これは、雷華様に良い“土産話”が出来ました。



「言っちゃ駄目ですよっ!

言ったら──義封さんにも絶対に“道連れ”に為って貰いますからねっ?!」



──と思っていたら、直ぐ察知して叫んできました。

むぅ…流石に皆、雷華様に鍛えられていますね。

こういった時の察知能力が格段に上がっています。

雷華様、恐るべし。


因みに、この場合には私は“ハーちゃん”と呼ばれる訳ですよね?。

……別に、私としては特に気に為りませんね。

これなら──



「──もしも言ったら!、“花陽葵(はなひまり)”の件をバラしますよ!」


「──ぅなあっ!?」



ちょっ、其方ですかっ!?。

それは駄目ですっ!。

それだけは絶対に駄目っ!──と言うか、今、そんな大声で言わないでっ?!。

冥琳が聞こえる位の場所に居るんだからーっ!。


──と、慌てはするものの鈴萌ちゃんも無闇矢鱈には秘密は暴露していません。

飽く迄も私にだけ聞こえる位置まで態々近付いてから叫んでくれています。

折角の気遣いを、無駄には出来ません。

ええ、非常に残念ですが、“スーちゃん”は永久的に封印確定ですね。

…そう、“あの件”だけは闇に葬り去らなくては。

もし世に出てしまったら…私は身の破滅です。




──さて、嫌な事は忘れてお仕事を頑張りましょう。

…まあ、その仕事の相手が嫌な訳ですけど。

何方等かを、選ばなくてはならない以上は、選ぶしか有りませんからね。

現実とは非情な物です。



(取り敢えず、一度兄骨の呪核を探して攻撃してみて確かめないとね〜…)



それで単独撃破出来たら、それはそれで良し。

其処で片付く訳だから。

そういう意味で言うのなら鈴萌ちゃんが弟骨の呪核を攻撃するのを待ってから、動くという手も有るけど。

流石に、手伝って貰ってる身としては丸投げする事は出来ませんからね。

…冥琳?、一応は創造者を相手にしてますからね〜。

丸投げとは言えません。



(──という訳で、兎に角仕掛けてみますか!)



頭に血が上った賊徒の様な単調な攻撃をしては来ない兄骨の様子を窺いながら、取り付く箇所を探す。

百足という形を真似ているだけだったら背中──特に頭の真後ろ辺りを狙うのが手っ取り早いけど。

流石に、そんな迂闊な事は出来ません。

…いっそ、頭から順に全部潰して行くという方法も、有りかもしれません。

まあ、切り離して逃げたり潰した箇所が再生した所に逃げ移られたりする場合を考えると無駄でしょうね。


一番確実なのは“一撃で”丸ごと消滅させる事。

しかし、残念な事に私達にその手段は有りません。

なので、地道に、ですね。

楽をしたいのは確かですが“残業”は嫌です。



(…先ずは、無難な所から攻めてみるべきですね)



そう決めると直ぐに反転し兄骨に対して接近する。

先程までの攻防から学習し地面から離れず低い姿勢で突進して迎撃しようとする兄骨の目の前で、跳躍。

真っ直ぐに突っ込んで来る猪を躱すみたいに飛び越え──兄骨の後頭部に当たる位置に着地する。




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