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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
78/907

        弐


 孫権side──


馬超の話を聞いて他人事に思えなかった。

私達に違いが有るとすれば“劣等感”の有無か。

尤も、それも私個人の事で関係は無いけれど。



「子和様が所有されている物が“そう”なら大丈夫

大切にされてるわ」


「そうだと良いけど…

なんか、実感が籠った様に聞こえるな…」



そう苦笑しながら言うが、その通りだったりするから笑うに笑えない。



「でしょうね…

母様の槍を持っているのは子和様なのよ」


「……は?、いや、え?、ちょっ、ちょっと待った!

さっき、見付かったって…言ってた…よな?」



驚くのも無理は無い。

私だって最初は驚いたし、訳が解らなかった。

でも、直に触れたから。

子和様を知ったから。

今は受け入れられている。


当事者ではない他の皆も、今の彼女と同じで直ぐには信じられなかったのだから仕方無いと思う。



「母様の槍は少し特別でね

自ら“主”を選ぶのよ

母様が亡くなった後行方が判らなくなっていたけれど新たな“主”には子和様を選んだ、という訳よ」


「……正直、武器が自分で持ち主を選ぶなんて話…

普通は信じられないな…」


「そうね…私も初めて話を聞いた時は耳を疑ったし、信じられなかったわ…

でも、実際に手にしてみて“今の”私には無理だって解ったの…」



正確には子和様に諭されてだけど…其処は見栄ね。

あんな風に泣いた事だけは誰にも言えない。



「…諦めたのか?」


「まさか」



その問いに私はクスッ…と笑みを浮かべ否定する。


私は“前”へ進む。

まだ“後ろ”を振り返り、懐かしむには早い。

今は愚痴な迄に一途に。

ただ一心に歩む。



「子和様から槍を引き継ぎ“主”となる事が目標…

母様の形見としてではなく“意志”を継ぐ証として、私の“意志”の証として」


「…“意志”の…証…」



迷わず、躊躇わず、言葉に出来るのは子和様のお陰。

子和様に出逢わなければ、私は今も“闇”の中。

何よりも“恋”を知る事はなかっただろう。



(…ああ、でも“目標”は他にも有るわね…)



子和様に娶って貰う事や、子供を成す事とか…ね。

それも私の“意志”の証と言える事だから。



「…凄いな

そんな風に考えた事なんかアタシは無かったな…」


「私もそうだったわ

子和様に出逢い、御仕えし教わった事の一つよ」



何気無く、惚気るかの様にそう言ってから気付いた。

少し“喋り”過ぎた事に。



──side out



 張任side──


蓮華が似た境遇である為、馬超に色々と話をしている様子を灯璃と見ていた。

まあ、灯璃は私に比べると警戒心が低いが。


珀花が居たら更に気が気で無い状況だったかも。

そう思うと今は増しか。

蓮華が口を滑らせる可能性は低いだろうし。



(…まあ、だから子和様も私達を残し離れる際に特に“合図”はなさらなかったのでしょうから…)



“ある程度”なら話しても構わないと言う事。

仮に話しても“禁止事項”には触れない筈。

蓮華なら大丈夫。


──その考えが甘かったと思い知ったのは、馬超との会話が一段落着いた時。


蓮華も“しまった”という視線を私に向ける。



(私にどうしろとっ!?)



その一心を込めて見返すと“お願い、助けてっ!!”と訴え返す蓮華の眼差し。


チラッ…と、右隣の灯璃を見るとゆらゆらと舟を漕ぎ使い物にならない状態。

下手に起こして話が拗れる事態は避けよう。


となると、結局は私か。

気が滅入ってしまう。



(子和様、お早く…お早く戻って来て下さいっ…)



それを切に願いながらも、出来る事はする。


取り敢えず“禁止事項”に入っている事では──


一つ、槍を含む氣に関する情報は秘匿する事。


二つ、子和様が“男”だと口外しない事。


三つ、曹家の害と成り得る情報は秘匿する事。


──この三つだろう。

先ず二つ目だが、明言した訳ではない。

蓮華も惚気はしたが主従の信頼関係だと受け取る事も出来る。

多分、大丈夫。


次に一つ目は槍に関しては蓮華が子和様が居た時点で話を出していた。

氣の事にも一切触れてない内容だった。

杞憂は“自ら主を選ぶ”と言った点だろう。

ただ、馬超は“博識”とは御世辞にも見えない。

寧ろ、灯璃達に近いか。

恐らくは…大丈夫。


問題は三つ目だ。

曹家の害──蓮華が言った“子和様に仕えた”という事実の部分。

曹家内では“二君”体制も公然の事だが、曹家外にはまだ秘密にしている。

一部には華琳様の御成婚の話を流してはいるが。



(彼女が考え事をしながら聞いていた状態だったから理解していない事を…

願うしかないわね…)



蓮華には“慌てないで”と目で合図する。

此方の意図を覚って蓮華も気付かれない様に首肯。


此処で余計な質問をしたり話題を振るよりも“流す”方が得策だと判断した。



──side out



 馬超side──


孫権の話には色々と驚くがそれ以上に考えさせられる事が有った。



(“意志”を継ぐ、か…)



孫権の──正確には曹純の言葉らしいが、私にとって大きな衝撃だった。

そんな風に考えた事なんて唯の一度も無い。



(母さんの“意志”か…)



果たして母さん──馬騰の“意志”とは何だろうか。


取り敢えず記憶を手繰って思い出してみる。

生前の口癖は──


「全く…どうしてこうも、じゃじゃ馬なのかねぇ…

そんなんじゃあ、いつまで経っても“嫁”の貰い手が無いだろうに…」


「早く“孫”の顔を見せて安心させとくれ」


──とか、結婚関連の話が殆どだった。



(…私だって出来るなら…その…したい、けどさ…)



誰でも良い訳じゃない。

というか、嫌だ。

政略結婚は御免だ。



(…まあ、今の“状況”を考えると“それ”も否定は出来無いんだよなぁ…)



馬一族で生き残った者は、私を含めて二人。

馬姓の者が全て一族と言う訳ではない。

馬一族は“西涼”と共に、生きて来たのだから。



(…一族の復興には数代は掛かるだろうしな…)



仮に私が十人子供を産んだとしても私の代は二人──いや、私達が夫を迎えれば最低でも四人か。

だが、どの道少ない。



(それは現実的に一代では無理だっての…)



そうなると、槍を見付けて手にする事だろうか。

…何か違う気がする。



(…やっぱ、結婚かぁ…)



それ位しか思い付かない。

だがしかし、私には今一つ想像出来無い。

…試しに訊いてみようか。



「あのさ、三に──二人は“結婚”って、どんな風に考えてる?」



長く考え事をしていたから気付かなかったが…徐晃が舟を漕いでいた。

起こすのは忍びないので、そっとして置こう。



「け、結婚っ!?

い、いきなりな質問ね…」


「突然で悪いな

いや、生前に母さんが私に早く結婚しろって言ってたからさ、気になって…」



そう言うと二人は安堵した様に一息吐く。

ちょっと唐突過ぎたな。



「私は自分の決めた方以外とは有り得ません」



きっぱりと断言する張任に逡巡や躊躇いは無い。

何か…格好良いな。



「私は…少しだけど貴女の気持ちも判るわ…

選ぶ“自由”は無い…

“家”や一族に生まれたら一度は考える事よね」



苦笑しながら寂しそうに、でも何処か晴れやかな顔で孫権は言った。




やはり孫権にも少なからず似た事は有った様だ。

ただ、既に“過去”の事になっているみたいだが。



「でも、自分を殺してまで“そう”しないといけない程度なら、有り続ける事に“意味”はないと思うわ」


「…それも学んだ事か?」


「…そうね…」



孫権の言葉には賛否両論が有るだろう。

私自身は賛成だが。

政略結婚も“無意味”では無いとは思う。

しかし、そうまでして繋ぐ“価値”は無いだろう。

所詮は地位や権力に対する“執着”でしかない。



「…私は一体“何”の為に結婚するんだろうな…」


「“自分”の為でしょう」



不意に呟いた本音に返ったのは飾り気の無い言葉。

しかし、心に響く。

振り向けば曹純が居た。



「結婚は生も血も違う者が生涯を共にする誓い…

“家族”と成って、築いて行く事の、ね…」


「…“家族”か…」



多分、主従や仲間とかとは違う意味でだろう。

でも、何と無く判る。



「さて、それでは…

御待たせしましたね

此方が話していた槍です」



そう言って手に持つ白布を剥ぎ取ると──露になる。

その姿を忘れる事は無い。

見間違う事も無い。

母さんの槍だ。

思わず、涙が溢れた。



「わ、悪い…」


「胸中、御察します」



涙を拭う私の目の前に槍を突き立てる曹純。

その行動に違和感を感じ、小首を傾げる。



「仲謀から“槍”に関して御聞きになりましたね?」


「え?…ああ、主を〜って話の事だろ?、それが何か──って、まさかっ!?」


「この子も同じです

引き抜く事が出来たなら、“主”と認められた証…

そうでなければ御渡しする事は出来ません」



きっぱりと曹純に言われて槍を見詰める。


私が“主”に足るか否か。


態々問うまでもない。

“今は”無理だろう。


それは孫権も同じ。

だから、彼女は“此処”に居るのだろう。

己を磨く為、高める為に。


私は曹純に向かって跪き、抱拳礼の構えを取る。



「…試すまでも無いと?」


「彼女達と話しただけでも己の未熟は判ります

“今は”まだ、相応しくは有りません」


「…ふふっ…成る程…

貴女の“意志”は確と…」



その言葉を“了承”と取り頭を下げる。



「姓名は馬超、字は孟起、真名は翠…

至らぬ事も多々有りますが宜しく御願いします」



──side out



馬超を臣下に迎え、皆への紹介も無事に終えた。

男だと明かした時の馬超の反応は良かった。

そうでなくてはね。


また午前中の事だったので午後は俺との手合い。

勝敗は…まあ、言わぬが華だとして置こう。


槍術に関しては図抜けてはいるのだが…

無手・体術は悲惨な結果が待っていた。

あまりのギャップに此方が呆気に取られた位だ。

槍に慣れ過ぎている事で、動きが極端。

無手の時がぎこちない。


戦術的には細かい戦略性は窺えなかった。

典型的な力押しタイプ。

槍を使ってる時の技巧性は何処に消えたのか。

反映出来る様に教えるのは大変そうだ。


だがまあ、才能も資質も、可能性に満ちている。

楽しみでも有る。



「臣下にしたのは良いけど馬騰の事はどうするの?」


「孰れは話すが…まだ早い

“復讐”に走る事を馬騰は喜びはしないだろうしな」


「…貴男にしては珍しく、感傷的ね?

蓮華の時も“そう”だったのかしら?」



少し“嫉妬”している様で言葉に棘が有る。

いつもの様に寝台に並んで腰掛けて話しているから、機嫌を害うと抓ってくる。

地味に痛いから困る。



「そういう訳じゃないさ

ただ“復讐”する事自体は否定はしない

そうしないと“進めない”者も居るからな…」


「…そうね」



“憎悪”を糧に生きる者は最後に己が身を焼く。

それを判っていたとしても“そう”するしかなくて。


そして少なからず、理解も出来るから悩む。

確固たる“悪”だとは誰も言えない故に。



「…儘ならない物ね

人の心や“想い”は…」


「だから、価値が有るんだ

“交わす”事、通わす事、重ねる事に、な…」


「…そうね」



俺の左肩に凭れ掛かり頭を預けてくる華琳。

昔は“甘え下手”だったが成長したなぁ…って痛!?、痛いっ、痛いってっ!?。



「…ばか…」



左腕を抓ったかと思えば、両腕で抱き締めて来る。

…男って現金だよな。



「気に掛けるのは良いけどだからと言って他を蔑ろにしたら駄目よ?」


「判ってるって…

女の“勘”と嫉妬と涙程、男の“天敵”は無いしな」


「ふふっ…なら良いわ

勿論、私の事もね?」


「誠心誠意、御相手させて頂きます」



誘う様に瞼を閉じた華琳を抱き寄せてキスをする。

“越え”そうになる欲求を抑えながら、夜は更ける。





姓名字:馬 超 孟起

真名:翠

年齢:21歳(登場時)

身長:168cm

愛馬:紫燕(しえん)

   栗毛/牝/四歳

備考:

母・馬騰…前西涼太守。

父・王平…元扶風太守。

馬騰は羌族の姫を母持ち、王平は柢族(テイは別字)の姫を祖母に持つ。

“西戎”の主要血統の為、“錦馬超”と漢民も含めて呼び称えられる。


半年前、母が死去。

しかも戦場だった事も有り馬一族は壊滅した。

馬騰の弟妹の叔父や叔母、従兄弟の馬休・馬鉄も死に残ったのは、従妹の馬岱と彼女だけ。


三ヶ月程は西涼に留まって皆を弔っていた。

戦乱の最中で行方知れずの亡き母の愛槍を探し求めて二ヶ月前、旅へ出た。

将来的には、馬一族を復興させたいと思っている。


馬術の腕は超一流。

十字槍を扱い、腕も良い。

但し、戦術的には突撃型の単純な傾向が強い。

一対一なら、ある程度冷静なのだけれど。


家事能力は料理以外ならば平均並み。

料理は基本“丸焼き”しか出来無い。




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