表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫三國史  作者: 桜惡夢
775/915

       拾伍


 Extra side──

  /小野寺


その姿を露にした秘中の秘だという特務部隊。

しかも、それが列車だから驚かない訳が無い。

“光輝く梯子”の上を駆け王累軍へと向かって行く。

まるで、ロボットアニメに登場してきそうな程、見事過ぎる造形の先頭車輌は、龍頭を模しているらしい。

其処から続く後部車輌群も龍の身体を再現していると見受けられる造りだ。

かなり、“遊んでいる”と察する事が出来る。


そんな龍型列車が地を這う様に駆ける訳だ。

しかも、人類の敵と言える王累軍に向かって。

その様は、正に龍の逆鱗。

息を飲みながらも見る者の視線を、心を掴み取るのは当然の事だと言えた。


その上にだ。

龍角の様に為っている所がリフトアップし、左右へと僅かに開いたと思ったら、“ビーム”を撃ち放った。

もしかしたら、主砲的な物なのかもしれないが。

その威力は桁違いだ。

少なくとも、“彼方”では実現の出来てはいない技術である事には間違い無い。

その“ビーム”によって、消し飛ばされた王累軍には綺麗な二筋の道が生まれ、それにより王累軍は大きく三つに分断された状態に。

多分、“ビーム”だけでも五分の一は消えたと思う。


それだけでも凄まじいのに今度は後部車輌が分離し、更に一輌ずつに分離するとキャタピラっぽい物を装着したら、十輌が個々に動き行動し始めた。

その姿を見て思ったのが、“戦車”だった。

ただ、自分の知る戦車とは大きく異なる点が二つ。

一つは形状が甲蟹みたいでUFOっぽい事。

現実よりは漫画やアニメ、SF映画等に登場しそうな姿をしている事。

そして、砲身は長くはなくリング状の台座っぽい部分と一緒に360°回転するという所だろう。

普通の戦車が上部が丸ごと回転しているのに対して、目の前の戦車は砲身だけが移動しているのだ。

構造が理解出来無い。

それでも凄い事は確かだ。


更に更に、その後部車輌を分離していた先頭車輌──本体だろう龍頭は王累軍の中央本隊に突進していき、食い散らすかの様に敵兵を一方的に蹂躙してゆく。

しかも、後部からは多数の大砲らしき物が顔を出し、砲撃を行っているとか。

本当に列車と呼ぶべきかを本気で悩んでしまう。


“何なんだ、アレは!?”と王累が困惑し、叫んでいる姿が思い浮かんでしまうが可笑しくはないだろう。

反応すら出来無いままで、“ビーム”で撃ち滅ぼされ立ち尽くす間に蹂躙され、漸く攻撃をしてみたものの掠り傷すら付かないままに圧倒されてゆく。


更に更に更に、だ。

分離した十輌の戦車達も、五輌ずつに分かれて両翼に襲い掛かっていた。

異常な程に連射性能の高い砲撃で敵兵を爆砕しつつ、縦横無尽に駆け回りながら草刈り機の様な鋭利な装甲を活かした突進でも攻撃し撃滅してゆく。


蹂躙に次ぐ蹂躙。

正しく、“チート”過ぎる戦力だと言えた。




そんな蹂躙劇──女性曰く“百鬼夜行”は、2分にも満たない時間で終わった。

再び流れたアナウンスにて終了が告げられ──同時に“戦いは終わっていない”事を理解させられた。

“御早い御帰り”だなんて態々言わないからな。



(──と言うか、アレって曹操達への激励なのか?)



それは取り様に因っては、“これだけ下準備をされて手間取りませんよね?”と挑発的に言われている様に聞こえない事もないから。


ただ、端から見ている俺が何故だか、“曹魏らしい”気がする辺り、その程度は許容範囲なんだろうな。

決して、曹魏軍の雰囲気が悪くなってはいないし。

寧ろ、“言ってくれるな”といった様な感じで士気が高まった気がする位だ。


しかし、疑問は残る。

何故、あれだけの大戦力が僅かな活動時間だけで引き上げてしまったのか。

普通に考えると、よく有るエネルギー的な問題か。

だから、搭載している兵器全部を使い切ってからの、あっさりとした引き際。

可笑しくはないと思う。



「…ねえ、祐哉?…

…“天の国”には、あんな恐ろしい物が有る訳?…」


「…いや、彼処までの物は実在はしないと思う…

…ただ、架空の物としてはアレ以上の物は有るかな…

…実際には造れてはいない物だから微妙だけど…」


「…そういう物を想像でも考えられる事が凄いわよ…

…改めて“この世界”とは色々違うんだって事を思い知らされた気がするわ…」



そう言った雪蓮の気持ちは理解出来る気がする。

本当は恐ろしい事なんだ。


以前なら、“想像物だ”と何も考えずに流していた事なんだろうけど。

実際に“殺戮(戦争)”へと身を投じて初めて解る。

如何に自分達が平和な世に生まれて生きていたのか。

如何に“暴力(兵器)”への警戒心が薄かったのか。

自分の身近な事に為って、漸く、正しく理解出来る。

“想像するだけでも”十分恐ろしい事なんだと。

目の当たりにしなければ、気付かない程に鈍感に為り無防備に為っていると。

“彼方”の人々は気付かず考えずに生きている。

その危うさに今だからこそ恐怖してしまう。

気付いた時には“手遅れ”なんだという事実に。



「…だけど、人の鈍さって強さでも有るわね…」


「…それって?…」


「…劉備達よ、見て…

…今の攻撃の間に紛れて、逃げ出してるわ…」



雪蓮に言われて顔を向けた先には遠ざかって行ってる緑色の一団が有った。

先程まで劉備軍が居た所に人影は存在しない。

素晴らしい“逃げ足”には唖然とするしかない。



「…全く、清々しいまでの下衆な行動よね…」



自軍の兵士達の──即ち、自領の民達を犠牲にされて“仇討ち”の意志も見せず迷わずに逃亡を選んだ事に雪蓮は憤慨する。

その気持ちも解る。

同時に、今後は劉備達とは相容れないという事も。




そんな劉備達は放っておく事にして。

大打撃を受けているだろう王累軍へと顔を向ける。

戦いが終わっていない以上生きている事は確かだ。

まあ、不動を貫いたままの曹操と曹魏軍が不気味だと感じてしまうけど。


土煙が晴れると、其処には静かに佇む王累が居た。

その周囲に土煙に浮かんだ複数の人影が有る。

はっきりと姿が見えると、援軍として加わった三族の長達だと判る。

他にも数人、見覚えの無い人物が脇に控えている。

王累の部下──なのかは、定かではないが、そういう立場だろう者だとは判る。

あと、多分、人間ではないだろうという事も。


それよりも重要な事実は、あれだけ居た屍人達は全く姿が見えないという事。

序でに兵馬俑っぽい連中も綺麗さっぱりと消えた。

“百鬼夜行”、恐るべし。

ただ、気になる事は有る。

それは屍人は兎も角として兵馬俑は地面から出現した存在だという事。

つまり、“創造者”が居る限りは、再び造り出す事が出来るのではないか。

その可能性は捨て切れない事だと言える。



「…遣ってくれたな」


「あら?、ちゃんと言って上げた筈よ?

親切に忠告してあげたのに無視したのは誰かしら?

それを忘れたの?

逆恨みも甚だしいわね…

それとも、何?

その程度の覚悟で、私達の前に立っているのかしら?

だとしたら、滑稽ね

そんな“ごっこ遊び”では到底届きはしないわよ

子和は勿論、私達にもね」



一切振れる事無く、曹操は王累に“上から”言い放ち挑発してみせる。

大胆不敵と言うか、うん。

曹操の胆って、大きいってレベルじゃないよね。

絶対に、人類の有史以後で五指に入ると思う。

それ位に不敵だもん。



「…それも曹純への絶対の信頼が有るからよね…」



──と、然り気無く雪蓮が心を読んで言ってくる。

完璧なポーカーフェイスが出来てる自信は無いけど、現状、一応は扮装中だから顔は見えない筈。

それなのに何故判るのか。



「…それ位は判るわよ…

…それに、この状況で他の事に気を取られてる様なら私達は今の様に通じ合えていないでしょうからね…」



そう自然に言う雪蓮。

言いたい事は判るんだけど──照れ臭いんですが。

いや、嬉しいんだけどね。

同じ位、擽ったいんです。


まあ、自分から踏み込んで炎上したくはないんで。

触れずに流しますが。

…ヘタレだ?、構うか。

こんな風に衆人環視の中でイチャイチャ出来る度胸は俺には有りません。

イチャつき始めれば周囲の事なんて気に為らない?。

そんなのは日常だからの話でしょうね。

此処は戦場なんです。

そんな気に為れません。



──side out。



 曹操side──


“壬津鬼”の“百鬼夜行”という物が何なのか。

それは私も知っていた。

その名が示している通りに“壬津鬼”は殲滅戦専門の特化した部隊。

故に、その保有する戦力は曹魏の軍部を凌駕する。

そうなるのも当然の事。

“対人外”が、創設された理由なのだから。

だからこそ、雷華が全権を有している部隊であって、私に詳細を説明する理由は無いのだけれど。



(──それでもよっ!

雷華(あの御馬鹿)ったら、何て物造ってるのよっ!

自重しなさいよねっ?!)



どんなに胸中で怒鳴っても愚痴っても仕方が無いし、手遅れなのだけれど。

言わずには居られない。

もしも今、深火斗と繋いで話をしていたら当然の様に八つ当たりしていても全く可笑しくはないでしょう。

深火斗に全く非は無くても彼女は“壬津鬼”を束ねる“鬼麟(きりん)”だから。

責任は存在するのよ。


因みに絶対主である雷華の事は“麒羅(きら)”と呼ぶらしいのだけれど。

何気に“麒麟”と雌雄とが掛かっているのよね。

其処に嫉妬してしまうのは仕方が無いでしょう。

私だって、女ですからね。


それはまあ、この場では、置いておくとして。

あの雷華が彼処まで派手に遣らかすとは思わなかったというのが正直な感想。

目立つ事を嫌う暗躍気質の超秘密主義者が、自分から目立つ真似をするだなんて想像し難いもの。


ただ、理解も出来る。

抑、この時点で既に周囲に雷華の正体は──特異性は知られてしまっている。

それなのに出し惜しみして痛い目を見る位だったら、最初から遣ってしまう方が良いでしょうからね。

そういう意味では、雷華が“壬津鬼”に初陣を派手に遣らせた意図も判る。

後々の“抑止力”として、孫策──序でに劉備達にも見せ付ける為でしょう。


世の中に兵器が蔓延する事自体には反対していても、そういう存在の有無により大規模な戦争を避けられる事も事実だから。

後の世の中の為に、ね。




まあ、そうは言っていても“彼方”の兵器とは違って“壬津鬼”の戦力は他所が真似は出来無いし、簡単に扱う事も出来無い技術だし製造自体が不可能だから、大きな心配は無い。

どの道、技術が発展すれば兵器という物は否応無しに世の中に出て来てしまう。

人間が人間として在る限り避けられない問題な以上、深刻に考え過ぎはしない。

寧ろ、重要なのは世の中に兵器を容認させない意識を強く持ち続けさせる事。

兵器の齎す悲劇(恐ろしさ)という物を如何に理解し、否定させられるか。

それが一番の課題であり、難しさだと言えるわ。


尤も、宅みたいに根幹から根付かせていけるのなら、其処までの心配は無い事は言うまでも無いわね。

けれど、普通に考えるなら数十年・数百年を掛けての超長期政策になる事。

民の、人々の意識改革とはそれ程に難しい事だから。



(そういう意味でも雷華の“先見”は凄いのよ…)



単純に、“歴史”としての知識が有るからではない。

それらを知っていながらも同じ過ちを繰り返すのが、人間の愚かしさ。

本の一握りの愚かな者達の私利私欲(悪意)によって、取り返しの付かない大過の引き金は引かれてしまう。


何故、剣や槍・弓ではなく“銃”が例えられるのか。

それは老若男女問う事無く技術や覚悟も必要とせず、容易く行えるから。

大切な筈の生命の価値を、安価で無意味な物へと自ら人々は変えてしまうから。

だから、気付かない。

その意味を、一体何れ程の人々が考えるのか。

だから、無くならない。

人々は自らが抑止力と為り正さなくては為らない事を自覚しない限り。

兵器(暴力)と戦争(欺瞞)は有り続けるでしょう。


何しろ、それが出来るのは雷華しか居ないのだから。

当然でしょうね。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ