表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫三國史  作者: 桜惡夢
774/915

       拾肆


視界には空が広がる。

波打つ白き雲海に向かって飛び込む様に駆け上がる。

その光景を見て嫌な記憶が甦り掛けるが押し止める。


視界の右端に輝く太陽。

その低さは当然でしょう。

現在、午後5時48分。

夏場だから黄昏には今少し早いというだけで、立派な夕方に当たります。

では、何故、そんなに遅い時間帯に開戦なのか。

それも当然だと言えます。

闇が深まる程に“魔性”は力を増すのですから。

日没に近い時間帯を開戦に設定していても可笑しくは有りませんので。

少しでも優位な状況を造り事を運ぶのは戦の基本。


因みに、踊らされていると気付いてはいない劉備達に対しては“戦力差を補う為夕暮れ時に開戦し、奇襲の行い易い夜戦へと持ち込むべきです”みたいな感じで唆せば可能でしょう。

全くの間違いではない為、否定も難しいですから。


──と、思っている間に、視界は青から茶へと変わり眼下に見慣れた色彩が咲き並んでいました。

其処から更に前方に並ぶ、醜く穢らわしい害悪(ゴミ)が撒き散らされている景色に不快感が高まります。

見ているだけでも不快な為手早く済ませましょう。



「氣晶轍路停止準備!

10秒後に設定!

陸用大型外輪(オフロード)起動!

兜侍獅(とうじし)”全機分離準備!

同時に、“兜紫獅”全機は氣晶脚履帯(クローラー)の顕装用意!」


「氣晶轍路、停止了解!

消失まで10秒!」


「陸用大型外輪起動!」


「“兜侍獅”分離準備!

いつでも行けます!」


「“兜侍獅”全機へ通達、氣晶脚履帯顕装用意!」



私の出す指示に流れる様に乗員は連動してゆく。

それは“紫耀龍”も同じ。

普段は収納されているけど使用機会の少ない外輪が、展開している最中。

地表から浮いているが故に切り替え易いという設計は流石だと言えますね。



「進路、左舷2°修正!

主砲“双角吼”用意!

左右5°に照準!」


「主砲、左右5°了解!」


「氣晶轍路、消失まで3、2、1──消失します!」


「外輪駆動開始!」



轍路から地面へと走行する場所が変わった事を感覚で察知する事が出来る。

地面を“噛む”様に廻る、前へ前へと踏み込むが如く突き進んでゆく外輪独特の力強い加速の感覚。

その“小気味よい”揺れに高揚してしまいます。



「“百鬼夜行”開始っ!

主砲っ──発射っ!!」


「“双角吼”発射っ!!」



屯する敵軍の両翼に向けて主砲から放たれる閃光。

高密度の氣を収束・圧縮し生み出す必滅の一撃。

一回撃つのに約半日の間、氣を充填しなくてならない事が課題ですが、威力には何の問題も有りません。

威力が高過ぎようとも全く構いません。

何故なら私達は“壬津鬼”──広域“殲滅”特務部隊なのです。

味方に害が及ばなければ、細かい事は気にしません。

一々気にしていたら切りが有りませんので。




主砲の一撃により、三つに分断された敵軍に向かって“紫耀龍”は加速します。



「“兜侍獅”全機分離!」


「“兜侍獅”分離!」



連結をしていた後部車輌、“兜侍獅”が切り離されて更に一機ずつに分離。

全十機が、氣晶脚履帯にて地面を走行しながら朦々と土煙を舞い上げます。

…後方からの視界の悪化は止むを得ませんね。

尤も、私達や華琳様達には気にする事は無い事の為、問題には為りませんが。



「壱號から伍號は左翼を!

陸號から拾號は右翼を!

本艦は中央です!」


『了解っ!!!!!!』



“兜侍獅”は突撃戦闘車輌──通称・戦車と呼ばれ、“甲蟹”の様な姿型をした独特した兵器です。

単独では最高113km/hが現状の限界という事も有り連結して運搬しています。

しかし、その連結も単純に引っ張っているという訳は有りません。

“兜侍獅”の原動機を全て直結させる事により、本体である本艦への供給氣量を大増幅させる事によって、“紫耀龍”の驚異的速度を生み出しています。

つまり、連結する事自体が利に為る訳です。

…まあ、全長が長くなる為小回りが利かない、という事は仕方が有りません。


そんな“兜侍獅”十機には五人ずつ搭乗しています。

無人で動かす案も出るには出ていましたが、雷華様が即却下されました。

“人の命(意志)の通わない兵器に成り下がる様なら、造り出す必要は無い”と。

そう仰有った時の雷華様の憎悪と憤怒、悲哀を孕んだ眼差しは印象的でした。


その意味も、開発が進めば理解する事が出来ました。

武器と兵器。

その違いであり、それらは似て非なる物であると。

人が自らの命を賭すが故に戦は価値を持ちます。

ですが、己の命を晒さずに行われる戦には何の価値も生まれません。

それは単なる暴力であり、破綻している行いです。

故に、雷華様は戦に対して“人間性”を求めます。

戦によって流される血が、失われる命が、決して無駄ではない事を知るが故に。


その犠牲からこそ、人々は本当に学ぶべきなのです。

戦の本質と価値を。

その在るべき姿を。


尤も、“人外”が相手では関係有りませんけど。

意味?、価値?、そんな物一切有りませんよ。

だからこその“殲滅”部隊なのですから。



「両舷、“咆呀(ほうが)”全門展開!

照準、各砲門正面!」


「“咆呀”、全門展開!

照準、砲門正面!」



止まる事無く“紫耀龍”は駆け続けます。

敵を切り裂き、引き潰し、撥ね飛ばし、蹂躙して。

前へ前へ進み続けます。



「──“咆呀”発射!」


「“咆呀”発射ーっ!!」



そして、斬り込んだ場所で両舷正面に向かっての一斉砲撃を行います。

方側十八門、両舷合わせて三十六門ですからね。

そこそこ減らせた筈です。



──side out。



 厳顔side──


開発に関わっておる期間は他の皆と比べると、格段に短くはなる。

加入自体が、遅いのだから仕方が無い事だ。

それでも、この“兜侍獅”開発には携わっておる。

特に此奴等が装備しておる65mm氣晶弾生成装填型砲──“貫羅(かんら)”は、大半の稼働試験を担当した思い入れの深い兵装だ。


本艦の主砲“双角吼”にも惹かれる所は有るのだが、如何せん彼奴は一回撃つと暫くは撃てぬからな。

正直、もどかしい。

自身が弓士として長く慣れ親しんでいる事にも理由は有るのだろうが。

兎に角、連射の出来ぬ事に対する不満は拭えない。

その威力が如何に破格でも一撃のみ、というのは己の武の在り方に反する。

──いや、一撃必殺という意味でならば、相応しいと言えるのだがな。


それは兎も角としてだ。

氣を結晶化して“砲弾”を生み出し、撃ち放つ。

その画期的な兵装は他では実現不可能であろう。

何故なら氣の結晶化自体が雷華様の指導を無くしては不可能だからだ。

その技法を汎用兵装として転用した物が“貫羅”だ。

同型の85mm砲“咆呀”も悪くはないのだが、威力に特化し過ぎて味気無い。

そういう意味では、威力も連射速度も高い“貫羅”は自分の好みである。

──と言うか、自分好みに仕上がってしまったのだ。

何しろ、私が稼働試験担当だったのだからな。

当然と言えば当然だろう。


その一方で、だが。

開発に携わってはおるが、はっきりと言って原理等はさっぱり理解出来ておらんというのが本音だな。

雷華様も“理解しろ”とは仰有られぬからな。

恐らくは、自分で結晶化が出来る者でなければ正確な理解は出来ぬであろうな。

まあ、“今は”構わぬ。

将来的に理解が出来る様に己を磨いて行けばな。


さて、そんな訳で自分から“砲手”を希望し、今回の“兜侍獅”搭乗が決定。

本来は“双角吼”の担当に名を挙げられたのだがな。

其方等は自ら辞した。

雷華様に直接“貫羅”への熱意(思い入れ)を伝えて。


そして──現在に至る。

“兜侍獅”の“砲手”席に座って、照準器(サイト)を覗きながら敵に狙いを定め引き(トリガー)を引く。

すると、砲弾が撃ち出され敵軍を爆砕する。



「〜〜っ、ふははははっ!!

見たか、焔耶よっ!

あの異形(木偶)共が容易く木っ端微塵に為ったわっ!

これが“貫羅”よっ!」


「おーい、桔梗さーん?、焔耶っちは参號車輌だから此処には居ないよー?」


「おおっ、そうであったな

つい、今までの癖で其処に居ると思っておったわ」


「それよりも他から此方に“前に出過ぎ!”と苦情が来てましてぇ…」


「む…そうだったか…

仕方が無い、下がるぞ」


「…うぅ〜…私が“車長”なのにぃ…」



まあ、初陣としては十分に“貫羅”を味わえたしな。

良しとして置くか。



──side out。



 禰衡side──


“百鬼夜行”──それは、“壬津鬼”の殲滅戦闘。

目標を駆逐する為に持てる戦力を存分に振るう事。


“その後には草一本残さず死だけを齎せ”が雷華様の訓示なのですが──ええ、現実とは無情ですね。



「艦長!、残り20秒!」


「“兜侍獅”全機合流!

“咆呀”全門砲撃用意!」


「“兜侍獅”全機に対して合流、連結を通達!」


「“咆呀”全門用意!」


「艦長!、“兜侍獅”全機から返信!

“えぇーっ!?、もうっ?!”“暴れ足りないってっ!”“まだだ…まだ殺れる!”──だそうです!」


「寝言は寝て言いなさい!

従わない馬鹿の言動の件は全て報告しますからね!」


「──全機合流します!

“だから言わないでっ!”との事です」


「最初から従いなさい…」



呆れながら溜め息を吐く。

こんな時にでも、普段通り巫山戯られる辺りは私達の強みなのでしょうけど。

それを統括する身としては問題児が多いと大変です。

華琳様は勿論、その全員を妻とし、纏めてもおられる雷華様には敬服します。

………まあ、その雷華様も問題児の一角に挙げられる訳なのですが。

考えたら負けでしょうね。



「“兜侍獅”壱號から伍號連結完了!」


「右舷転進90°!

右“咆呀”全門発射!」


「右舷転進90°!」


「右“咆呀”発射っ!」



直角な急転進であろうとも“紫耀龍”は転倒しない。

急転進と同時に発射された“咆呀”の反動で蛇が身を屈曲させながら進む様に、“紫耀龍”は蛇行する。



「陸號から拾號連結!」


「左“咆呀”全門発射!

氣晶轍路、生成開始!

外輪収納用意!」


「左“咆呀”発射っ!」


「氣晶轍路、生成開始!

顕現まで5秒!」


「外輪収納、了解!

6秒後に収納開始!」





──敵に背を向ける。


それは屈辱的な行為だと。

そう考える武人というのは決して少なくはない。

それは確かなのでしょう。

ですが、私から言わせれば“無駄死にするよりは増しだと思いますよ?”です。

勿論、敵前逃亡というのは軍事組織として誉められた事では有りませんが。

必要が有れば逃亡する事も選択肢の一つです。

背を向ける事は恥ずかしい行為では有りませんので。



「氣晶轍路、顕現!

車輪、正常に走行!」


「後撃砲“燐雨(りんう)”一斉砲撃!」


「“燐雨”一斉砲撃!」



“紫耀龍”の一回限定兵装は一つでは有りません。

“双角吼”の後方部分。

上部装甲が起き上がる様に展開すると其処には後方に向いた蜂の巣の様な形状の兵装が搭載されています。

それが、多連装式灼焔弾砲“燐雨”です。

一門で百発、八門八百発が降り注ぐ訳です。

この“燐雨”は後方にのみ砲撃可能な“追撃封じ”の兵装では有りますが、要は使い方次第です。

“後ろ向き”で使用すれば通常の砲撃と同じです。

そして一回限定使用という制約次の兵装ですからね。

相応の威力を誇ります。

“燐雨”という名に反して砲撃地点一帯を焼き尽くし灰塵と化してしまいます。


雷華様曰く、“振り向いて火を吹く龍っていうのも、面白いだろ?”との事。

正面から攻撃する、という印象が強いですからね。

背を向けた事に油断をした相手に止めを刺す訳です。


そして、最後に一仕事。

外部放送を準備して貰い、任務終了を通告します。



[──只今を持ちまして、“百鬼夜行”全行程を終了致しました

曹魏の皆様、終戦するまで御気を付け下さい

それでは“祝宴”の準備を整えて“御早い御帰り”を御待ちしております]




──side out。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ