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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
772/915

       拾弐


──ァ……ァン…クァン、カァン…カァン、カァン、カァンッ!、カァンッ!!


けたたましく鳴り響く音。

それは警鐘というべき物で緊張と不安を煽るかの様に辺りを呑み込んでゆく。

しかし、そんな中で自分は何処か懐かしさを覚える。



「…これ、踏切の音?…」



思わず呟いてしまったが、仕方が無いと思う。

大多数の日本人が想像する事だろう、その警報音。

類似する音が少ない。

消防車のサイレンは近いが踏切の音よりも高く、早いという印象が有る。

当然の事だけど区別の為に構成は違うのだから。

間違う可能性は低い。

国外では違っているのかもしれないが。


そんな事よりも、だ。

その音を聞いた瞬間から、違和感が半端じゃない。

何しろ、此処は見渡す限り広がっている荒野だ。

その、ど真ん中に居る。

線路や踏切が有るのなら、目立たない訳が無い。


まあ、曹純が俺達と同様に“彼方”から来ているから知識としては有るだろうし“鉄ちゃん”だったなら、詳しくても可笑しくない。

再現出来るかどうかという問題は別にしてもだ。

しかし、現実として再現し運用しているのだとすれば目立たない訳が無い。

絶対に話題に為るだろう。

でも、その可能性は低い。

少なくとも曹魏に行ってる雪蓮や華佗からは、そんな話は聞いていないから。


だとすれば、この音は一体何なのか。

王累に対する威嚇?、否、そんな幼稚な真似を全力で遣るとは思えない。

………あ、あれ?、何でか遣りそうなんですけど。

この“曹操と曹純(夫婦)”だったら、結構全力で。


…いや、まあ、でも、うん──そ、それは兎も角!。

もし、列車──蒸気機関車辺りを製造していたのなら巨壁は“目隠し”の役目も担っていた事になる。

“この場所”が意図された最終決戦地なのだとすれば──それこそ、巨壁の先に存在している可能性は十分考えられる。


ただ、線路が無い。

線路を走らないのであれば列車とは呼べないと思う。

いや、俺に“鉄ちゃん”的哲学は無いんだけど。

…まあ、其処から離れれば済むだけの話ですが。

そうしたら、何か、敗ける気がするんで。

よく解らないんだけどね。


まあ、兎も角だ。

それを加味して考えるなら如何な可能性が有るのか。

増援の兵を乗せて運ぶ?。

それなら待機させるだけで十分だと思う。

…あれ?、運ぶ以外に有効利用って有ったっけ?。

……………………あっ!、一つだけ有った!。



(──って言うか、それが“列車砲”って…)



思い浮かんだんだけど。

その場合、あの巨壁の上か内側に別に線路が存在する前提じゃないと無理だし。

少なくとも、目立たないで建設・試験走行等の諸々の必要作業が出来るとは到底思えないんですが。

如何に曹魏と言えどもね。


だから、困惑している。

何を意味するのか判らない不安を懐いて。





「…何だ?、この耳障りな喧しい騒音は?」



耳を押さえる事は無いが、聞き慣れない音に対しては警戒心よりも不快感の方が先に立つらしく、苛立ちを露にしている。

その顰めっ面が今の心情を雄弁に物語っていた。


そんな王累を見据えながら曹操は態度を変えない。

余裕が全く崩れない様子は“深読み”し過ぎたのなら“虚勢”という可能性へと行き着く事も可笑しくないのだと思える。

…そういう風に考えさせる狙いかもしれないのだから本当に曹操達は怖いよな。

一瞬も気を抜けない。

そういう意味では個人的に王累の方が“対峙し易い”相手なのかもしれない。

勿論、目の前の王累軍には敵わないだろうけど。



「“彼方”では、一般的な“警告音”だそうよ」


「警告音?」


「危険を報せる、という事らしいわよ

“危ないから近付くな”と警告する意味でね」



曹操の言ってる事自体は、間違いだとは思わない。

一般的な認識としては大体そんな感じだと思うから。

それは、可笑しくない。


ただ、そんな親切と言える説明ですら挑発に利用する曹操さんってば、超弩級のサディストっすね。

いやもう、神ってますね。

“Sの女神様”ですね。


息を吐く様に挑発をされた王累はというと、正面には相手にしない様にしながら静かに耳を澄ましている。

その気持ちは理解出来る。

何故なら、鳴り響いている踏切──警告音が何処から聴こえてくるのか。

それが判らないからだ。

見渡す限り、開けた荒野に隠れられる様な場所は無いのだから当然の疑問。

一番可能性が高い場所は、巨壁の向こう側だが。

それは確かめられないし、理解も出来無い。

それが余計に悩ませる。



「…疑う訳じゃないけど…

…そういう意味なの?…」



傍に居る雪蓮は俺とは違い曹操の話の真偽を訊ねる。

警告音が“何であるか”を理解している俺からすれば出所の方が気になるけど、それが解らない雪蓮達には警告音自体の意味の方が、気になるんだろうな。



「…間違いじゃないかな…

…多分、北郷も俺と同様の認識だとは思うよ…」



“──ただ…”と、口から出そうになるのを呑み込み言葉を切ってしまう。

其処から先は多分言っても無駄だろうから。



(北郷が踏切だと思って、周囲を見回したとしても…

見付けられる訳が無い

警告音が意味する物が何か理解出来るとも思わない

だから、それは無駄な事…

今、重要視し考えるべきは其処じゃない…)



もし、本当に“列車”物が存在しているのなら。

それは現在(此処)ではなく未来の事が重要になる。

凡そ1700年先の技術を先取りする事になる訳で。

その脅威は拭えない。


勿論、一番の問題は此処で生き残れるか否かだけど。

それは自力では難しいから委ねるしかない。

曹操達の、意志と手に。




警告音が鳴り響いている中──ノイズが混じった。

それは“放送”をする際に生じる事の多いノイズと、かなり酷似していた。


その為、と言うか。

“発着の案内”が頭の中で再生されてしまった自分は可笑しくはないと思う。

寧ろ、“彼方”を知るなら当然の反応だと思う。

そういう連想は人各々違う物だから、絶対的ではないのだけれど。


そう考えていると、警告音とは違う音が鳴り響いた。

───ピンッポンッパンッポ〜ンッ♪、と。

期待を裏切らない音が。



[只今より“百鬼夜行”を開始致します

曹魏の皆様、巻き込まれる可能性が有りますので前に出る事は非常に危険です

どうか御止め下さい

また、余波が及ぶ可能性も高いと思われます

集中を切らさずに備えて、十分に御気を付け下さい]



綺麗な、鶯嬢の様な明朗な女性の声による注意喚起の放送内容は、やはり何処か懐かしさを覚える物で。

目の前に線路が走っていて軈て電車が入ってくる様な気になってしまう。

同時に、その周囲に見える景色は“曾ての日常”へと意識を向けさてしまう。


未練が有る訳ではないし、今に不満が有るという様な訳でもないけれど。

“異世界”という非日常に身を置いた者としては一つ思う事が有る訳で。

それは、如何に“彼方”の現代社会が“技術基盤”の社会構造をしているのか、という事を思い知る事。


極普通の、一般的な学生が突如として“異世界”へと放り出されてしまったら、先ず正面な生活は出来ずに死んでしまうという事。

食料品や家電は勿論だし、医薬品も無い訳で。

それまでは“当たり前に”存在していた物が無くなる訳だから、当然の事だ。

勿論、適応・順応出来れば問題の無い話ではあるし、必ずしも“異世界”全てが生き難いとは限らない。

その逆だって有り得る。

だから、飽く迄も可能性の一つとして、の域から出る事は出来無いと言える。


ただ、自分の場合で言えば技術的には未発達過ぎて、不便が多い“異世界”へと遣って来たというだけで。

決して、そうなった事への悔恨や憤怒は感じない。

“慣れてしまったから”と言えば、それまでだけど。

今が幸せだからね。

それでも、懐古の念が無いという訳ではないから。

“失った日常(過去)”へと思いを馳せてしまうのは、仕方が無い事だと思う。



(──って、何を暢気に、回想してるんだかな…)



自分に呆れ、苦笑する。

結局、色々と解らないから思考は“仮定(もしも)”が多く為ってしまう。

それは考えれば考える程に現実から離れてしまう事に為ってしまう可能性が高く見失ってしまう事に繋がる危うい事でも有る。

だから、こういった時には考えない事も選択肢の一つだったりする。





「何か仕掛ける気か?」



警告音だけではなくなった事により、王累は警戒心を垣間見せた。


まあ、“百鬼夜行”という一言だけを取って見ても、穏やかではないだろう。

その後の注意喚起にしても物騒としか思えない。

──と言うか、曹魏以外に注意する気は無いのか。

…まあ、義理は無いんだし普通は態々しないか。

俺達自身、“自己責任”で此処に立っているんだから文句を言うのは筋違い。

“死にたくなければ素直に大人しくしている事です”という様な所だろうな。

宅よりは劉備の方に対する牽制にも聴こえるけど。

関係無いから無視する。



「ええ、聞いた通りよ

但し、私達は動かないわ

百鬼夜行に巻き込まれては堪らないもの」


「…それは策の名称か?」


「半分は正解、かしらね

“百鬼夜行”とは、一種の特定行動の総称よ

尤も、その総称自体ですら此処に居る宅の者達の中で知る者自体、私を除いては殆んど居ないのだけれど」


「…“敵を欺くには、先ず味方から”、という訳か」


「そうではないわ

単純に関わりが無いのよ

その特殊性が故に、ね」



そう言った瞬間だった。

ファアァーーーンッ!!、と汽笛の様に一際甲高い音が響き渡った。


同時に、曹操が嗤う。

“待ってました!”という見せ場を得た芸人の様に。

もう喋りたくて喋りたくてウズウズしていた御喋りな人が漸く喋れる様に。

待てと御預けで我慢し続け抑えに抑えた欲求を解放し本能の命じるままに行動し満たしていく獣の様に。


そして、曹操は告げる。



「曹純直属・広域殲滅特務部隊・“壬津鬼(みづき)

この私でさえ、その全容を把握し切れてはいない程の曹魏の秘中の秘…

曹子和にのみ服従し生きる百匹の悪鬼餓狼の群れ…

それを止められる物ならば止めてみなさい」



“不可能でしょうけどね”という挑発的な態度。

其処に有る絶対の自信に、思わず息を飲んだ。




一体、何が起きるのか。

未知数過ぎる事に恐怖など薄れ去ってしまう。

ただ、即座に行動が出来る状態を保って身構える。

それしか出来無いから。


曹操の言葉から、数秒。

気付いた事が有る。

警告音が大きく為っているという事だった。

それが意味する事は恐らく一つしかないだろう。


──“近付いて来ている”という事だ。



「壬津鬼と戦う事に臆し、怯え、危ぶむのであれば、今、動くしかないわよ?」



そう挑発する曹操。

それが“時間稼ぎ”なのは俺にでも理解出来た。

そして、その“動く”事が曹操達へと攻撃を仕掛ける事を指している事も。

要するにだ、“勝てないと思うのならば、ヒーローが変身する前に攻撃をして、倒してしまえ”理論だ。

確かにそれは有効だ。

但し、ヒーローとは違って曹操達が“弱い”のかは、はっきりとは判らない。

…個人的には、何方等でも詰む様に思える。

だって、曹操なんだし。



「フン…無駄な事はせん

もう“来る”のだろう?」



曹操の挑発を受け流す様に鼻で笑って見せる王累。

その言葉を肯定する様に、再び汽笛が鳴り響いた。

先程よりも遥かに大きく。


その次の瞬間。

“巨壁”から天に向かって昇る様に“光輝く梯子”が現れるのを目にした。

それが、遊園地のジェットコースターのレールの様に山なりに波打つ。



「…レール…?──って、まさかっ!?」



思わず声を上げてしまう。

抑え切れなかった。

そんな俺へと視線が集まる──事は無かった。


“光輝く梯子”を駆け昇り天を斬り裂くが如く現れた剣の如き巨影。

それが、此方へと向かって駆け下って来ている光景に視線も意識も奪われるのは当然だからだ。



──side out。



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