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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
769/915

       玖


脳裏に浮かぶ記憶(情景)に胸中で苦笑を漏らす。

本当に、人心を読ませたら並ぶ者は居ないと思うわ。

勿論、それだけではなく、利用し、操り、誘導出来るという所が有ってこそでは有るのだけれど。



(全く…(ひと)に任せて本人は旅行気分で出張とかいい気な物のよね…)



そうは思いながらも実際は結構楽しんでもいる。

だって、そうでしょう。

こんな機会は望んでいても手にする事は出来無い。

生涯に一度、という所にも確率的には届かない。

数百年に一度、と言うべき確率の事なのだから。

心が躍らない訳が無い。

何一つ知らされてはいない皆には悪いのだけれど。


“敵味方(観客)全てを欺き引き込む”だなんて真似は滅多に出来無い。

遣ろうとしても、その時の状況等様々な要因によって対象の“全員”というのは限り無く不可能に近い。

舞台を見に来る観客相手に引き込むのとは訳が違う。

自ら楽しもうと歩み寄る、舞台の観客とは違う。

“疑念”を懐いている者を引き込むのだから。

その難しさは段違い。


それが出来ると言われれば──遣るしかないわよ。

少なくとも、宅の将師なら間違い無く遣るわ。

そんな体験、望んで出来る事ではないのだから。

遣らない理由の方が見付け難い位でしょう。

…まあ、目立ちたくはないのであれば、遣らない事は考えられるでしょうけど。

宅の娘達なら…ね。


そういう訳で、色々と気を配らないといけないけど、遣り甲斐は有った訳よ。



「あら?、どうしたの?

そんな呆けた顔をして」


「──っ…」



私の反応が予想外過ぎたのでしょうね。

“災厄”──王累は此方を呆然と見詰めていた。

私が声を掛けて漸く、我に返るという状態。

そう為ってしまうのも当然と言えば当然でしょうね。

誰だって、自分が主導権を握って場を、流れを支配し思い通りに出来ている。

そう思っていた矢先に急に告げられる事実が、真逆の事だったとすれば。

その思考も停止・混乱して然るべきなのだから。

認め難く、受け入れ難い物なのだから当然よね。

自分にとって不都合な現実という物は。



「さっきまでの得意気で、“滑稽(流暢)な”話し方は止めたのかしら?

まあ、似合っていないから正しい判断では有るわね」


「フン…口の減らぬ奴よ…

だが、貴様こそ、強がりは止めたらどうなのだ?

彼奴は既に“この世界”に存在してはいない

その事実は誰よりも貴様が知っている筈だが?」



私の挑発的な言葉と態度に表情を顰め、苛立ちを抑え面白くなさそうな顔をする王累だけれど、直ぐに私に事実という覆せない矛先を突き付け返してくる。

その辺の切り替える早さ、しぶとさは流石ね。

伊達に、気の遠くなる様な時を存在し続けてはいないという事でしょう。


尤も、だったら、もう少し学習しなさいと言いたくも為るのだけれど。





「ええ、その通りね

誰よりも、私が知っている事は間違い無いわ

ただ、強がりではないわ

そんな必要は無いもの

防げる筈の術を態々受けて“自分から”退場しようだなんて普通は考えないわ

そうは思わない?」


「……何だと?」



私の言葉が信じられないのでしょうね。

王は眉根を顰めながら私を睨み付けてくる。

私に訊いた所で無駄な事を理解していないのかしら。

…いえ、私でも同じ立場で話を聞いていれば同じ様に訊ねているでしょうね。

理解が出来無いからこそ、本当に僅かでも知っている可能性が有るのなら。

無意味ではないから。

まあ、だからと言って私が親切・丁寧に教えてあげる必要は無いけれど。



「あら、聞こえなかった?

確かに目論み通りに子和を“この世界”から弾き出す事には成功しているわ

それは事実ね

けれど、勘違いしているのだとしたら滑稽だわ

子和は自分の意思で外へと“出掛けた”のよ

まあ、そんな真似が出来るだなんて考えもしないから“自分の思い通り”なんて勘違いするのだけれど…

フフッ…愉快よね?」


「〜〜〜っ…」



私が言いたい事を理解した証拠でしょうね。

王累の表情が険しくなる。

苦虫を噛み潰した様に渋く苛立ちを抑え切れない様に怒気を滲ませる眼差しが、私を射殺す様に見据える。

並の胆力なら、その眼光と殺気・怒気の鋭さにより、気絶している事でしょう。

私にとっては児戯に等しい程度しかないけれど。

だって、雷華の其れの方が遥かに怖いもの。



「抑、その術を発動させる為の犠牲にした者達の命を救えるのよ?、子和は

その子和が“防げない”筈無いでしょう?」


「…貴様の言葉が本当だとするのなら、奴は何の為に自ら外へ出たのだ?

それが出来る以上、それが何を意味するのか理解しておらぬ訳ではなかろう?」


「ああ、その事ね…

“天の御遣い”の召喚は、一方通行で、“此方”から“彼方”には戻れない…

それはつまり“この世界”から弾き出されてしまえば何処でもない虚無空間──“世界の狭間”に一人放り出されてしまう…

しかも、其処は人が生身で存在出来る場所ではない

そういう事でしょ?」


「そうだ、我でさえ其処で存在する事は出来ぬ!

それを…彼奴は自ら其処に行ったの言うのかっ?!」


「だから、そう言っているでしょう?

ああ、“どう遣って”とか訊かないで頂戴

それは無駄な事だから」


「…どういう意味だ?」


「そのままの意味よ

私は、知らないわ

その辺りの事は全て専門家でもある子和任せだもの

だから、説明は出来無い

私が言える事は一つだけ…

子和は自分を嵌める策謀を利用して、自分の意思では出る事が出来無い外側へと出掛けて行っている

だから、“この世界”には今現在は存在していない、という事だけよ」






「…奴は、“世界の狭間”から自力で戻れると…

そう言いたいのか?」


「言いたいも何も無いわ

“戻ってくる事が出来無い事が判っている”状態で、“出掛けている”だなんて言うと思うの?

それとも、何?

人間を辞めた時点で正面な知性も一緒に棄てたの?

──ああ、だから劉備達と気が合ったのね

愚者(類)は愚者(友)を呼ぶという位だもの

可笑しな事ではないわね」



そう言って、傍観と化した劉備達への挑発も行う。

一見無駄に思える挑発も、長期的な視野で見たならば必要な事なのよね。

後世の曹魏の為にも。


だから、必要な事。

“世界の危機だから過去の事は水に流して今は一緒に協力して戦いましょう!”なんて有り得ないわ。

彼方が頭を下げて来ようと私達には不要だもの。

劉備達には宅に助けを請う理由が有るでしょうけど、宅には全く無いもの。


最初から、宅だけで戦い、終わらせる様に考えられた準備をして来ている。

だから、元より他者の事を宛にしてはいないのよ。

寧ろ、参戦されてしまった方が宅としては困るわね。

邪魔に為る事は勿論だけど後々の予定が狂うから。

一応は、修正用の代替案は用意してあるのだけど。

余計な手間が掛かる事態は避けたいのは本音ね。

面倒な物は面倒だから。


そういう意味では身の程を弁えてくれる孫策達は良い“隣人”でしょうね。

今後も永く、その在り方を保って貰いたいものだわ。



「…あの様な愚かな者共と一緒にされる事は不愉快…

しかし、踊らせ(扱い)易いという意味でならば…

確かに気が合った、と言う事も出来無くはないな」



そんな私の挑発に対して、王累は感情を飲み込む様に静かに肯定してみせる事で切り返してくる。

勿論、劉備達と同じ評価は心外だという反論を含めた言葉を以てだが。

中々に手強い相手ね。


けど、感情は有る訳ね。

今は抑え込んでいるだけで消失してはいない。

つまり、しっかりと心中に積み重っている。

それが判るだけでも十分。

仕掛ける意味は有る。

何気に劉備達を挑発して、反意を煽ってくれたしね。


そう考えている私を見て、王累は不敵に嗤った。

一度は消え去った余裕を、取り戻したかの様に。



「…奴が戻って来ようが、“今は”居ない訳だ

それならば、我の勝利には揺らぐ可能性は無い

それを貴様程の傑物ならば理解しておらぬ筈が無い…

となれば、その挑発も含め時間稼ぎが目的か?」


「──っ!?」


その一言を聞いて、身体を小さく跳ねさせる。

そんな私の様子を見ると、王累は笑みを深める。

牙を剥く様に口角を上げ、今にも舌舐め擦りしそうな腹を空かせた獣の様に。

獰猛な笑みを浮かべる。




得意気な笑みを浮かべて、自信満々に語る王累。


──を見ながら、胸中では腹を抱えて嗤う。

多分、この場に居る者では私一人だけでしょうけど。

緊張感なんて全く無い。

必死に“動揺した振り”を頑張って装い続ける。


ただ、それでも、よ。

何故、こうも思い通りだと可笑しくなるのかしら。

真面目に遣らないと駄目な場面なのに、そのあまりの“ドヤ顔”っぷりに思わず吹き出しそうになる。

自然な反応に見せ掛けて、顔を逸らし損ねたのは私の失敗だったわね。

お陰で、目を逸らせなくて見続ける事に為ったもの。


その一方で、感心する。

本当に、“見えない”事は恐ろしいものね。

こんなにも容易く、見事に操られ、踊らされる。

熟、自分が惚れている男の凄さを思い知らされるわ。



「どうした?

図星で声も出ぬか?」


「…………」



ああっ、止めて頂戴!。

腹筋も引き攣りそうだし、それ以上は堪え切る自信が私でも無いわ。

もう私の耐久値は限界よ。

だから、黙って頂戴。

お願いだから、馬鹿な顔を彼方に向けてくれない?。

ちょっとの間で良いから。



「クククッ、そうよな…

如何に貴様が傑物と言えど奴無しでは我に抗う事すら出来ぬとい──」


「──フッ…フ、フフッ…フクッ…も、もう駄目っ、我慢の限界よっ…ククッ…アハッ、アハハハハハハハッッッッッ!!!!!!!!!!!!」


「──なっ!?」



堪え切れず、大爆笑。

皆の前でも滅多に見せない私の大爆笑する姿。

晒してしまう事自体に対し色々と思う事は有る。

でも、仕方が無いわよね。

これはもう、どう頑張ってみても無理だし。

抑え切れなかったわ。

──と言うか、もしかして私を笑死させようと考えた策謀だったりする訳?。

だとしたら、大した物だと言わざるを得ないわね。

雷華と灯璃の漫才よりも、遥かに笑えるわ。

尤も、愛嬌は微塵も無い、滑稽さだけの笑いだけど。



──side out。



 Extra side──

  /小野寺


本当に、訳が判らない。

いや、曹操と王累の話は、何と無く理解は出来る。

“説明しろ”と言われると無理なんだけど。

ある意味、そういう知識は宅の皆──“この世界”の人達よりかは多い事も有り納得出来てしまう。

勿論、曹純の意図や目的が何なのかは判らないけど。


──とか思っていた矢先に曹操が大爆笑しだした。

さっきの狂気感を纏ってた嗤い方とは違う。

本当に、素の大爆笑。

“…アレ?、これって実はかなりレアじゃね?”とか暢気に言ってる俺が居る。

それには激しく同意だけど今は触れない様にする。

だって、相手が曹操だし。

物凄く、怖いんだもん。



(…だけど、こんな反応を曹操がしてるって事は…

王累の“時間稼ぎ”説って無いって事だよな?)



多分、曹操大爆笑の理由は“王累のドヤ顔っぷり”に堪え切れなくて、だろう。

確かに可笑しいんだけど、俺には笑う度胸は無い。

だって、この状況だよ?、笑える訳無いって。

そういう意味でも曹操って半端無い存在だよな。



「…暢気な物ね〜…」



そう囁いてきたのは雪蓮。

この状況に紛れて俺の傍に来てくれた様だ。

雪蓮が傍に居てくれる。

それだけで、落ち着けるし勇気が湧いてくる。

本当は逆なんだろうけど。



「…ねえ、祐哉は此処で、どう動くべきだと思う?…

…率直に言って頂戴…」


「…事が終結するまでは、傍観と自衛に徹底する…

…余計な手出しは曹操達の邪魔に為るし、王累からの標的にされかねない…

…卑怯だけど、“蛙”真似作戦が一番かな…」


「…“蛇”を相手には自ら動くべからず、ね…

…明命、気付かれない様に祭達に伝えて頂戴…」


「…了解です…」





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