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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
73/914

7 探し物は何ですか?


※益州建寧郡テン池→槇




許昌に入って一週間。

日課の鍛練の前に皆を集め話をする。



「──という訳で一週間程留守にするんで、宜しく」


「いやいやっ!、全く以て判りませんからねっ!?」



公明よ、良いツッコミだ。

右手の親指を立てて見せ、“良い仕事だ”と示す。

公明も同じ様にして返し、嬉しそうに笑う。



「で?、どういう事なのか説明してくれる?」



だが、華琳を始め他の者は知らん顔か呆れ顔。

何事も無かったかの様に、話を進める。

もう少し心に“ゆとり”を持とうよ。



「くだらない事に付き合う位なら他の事に時間を使う方が良いわ」



そういう華琳に頷く面々。

お笑い文化は偉大だぞ。

大衆娯楽にもなるんだ。

笑いは大切なんだからな。



「御託は要らないから早く言いなさい」



というか、平然と人の思考読んでくるな。


愚痴と一緒に一息吐いて、思考を切り替える。



「まあ、単純に言うとだな“愛馬”を探そうかと」


「“愛馬”?

栗花が居るでしょ?」


「栗花は可愛いよ?

でもな、絶影も含めてだが“俺の”相棒としては少し物足りないんだよ」



それに、せめて“愛馬”は男──牡馬が良い。

共に戦場を駆ける相棒は。



「…はぁ…一週間ね?」


「ああ、流石にそれ以上は留守に出来無いからな」



遣る事も色々有るし長期は此処を空けられない。

一週間が今の上限だ。



「判ったわ」


『華琳様!?』



華琳の許可に数人が驚き、声を上げる。

祝言の準備中だから無いと踏んでいたんだろうな。

甘い甘い。



「許可するのは一週間

もしも、それを過ぎたら…

…そうね

この娘達を“側室”として娶るというのはどう?」


『──っ!!』



…おい、何だその俺無視のペナルティは。

というか、お前等食い付き過ぎだろうが。



「子和様にも相応しい子が必要ですよね」


「ええ、そうですね」


「子和様、留守は御任せを

御安心して“ゆっくり”と行って来て下さい」



何奴も此奴も…好き勝手に言ってくれるな。

下心が見え見えだぞ。



「宛は有るのかしら?

こう言っては何だけど…

絶影は勿論、栗花達だってかなりの名馬よ

それを“物足りない”とか言ってる様だと…」


「ああ、判ってる

探すのは“汗血馬”だ」


「…武帝が西域を征服して手に入れたと云う…

貴男は実在すると?」



華琳の言葉に対して俺は、不敵に笑って見せた。




━━益州


許昌を出て、約三時間。

益州の南方──“南蛮”を訪れて居たりする。


理由は二つ。

一つは“涅邪”に関しての情報収集。

建寧郡・槇池に集落が有り一族に接触出来た。

結果としては、予想以上の成果は得られなかった。


先ず“龍瞳”は一人として居なかった。

黄色または黄橙の眼の者は何人か見られたが。

言葉自体は伝わっているが“勇敢な猛者”の眼差しを形容する物に変わっていて意味が無い。

今は獣の装飾と女系だけが特徴と言える。


また一族の起源や由来等も綺麗さっぱりと消失。

“過去を振り返らない”と言えば聞こえは良いのだが此方にとっては困った事。

結局は不明のままだ。


せめて文献や伝承の一つ位残せと言いたい。

…今更言っても仕方の無い事だけどな。


そして、もう一つ。

ある意味で“本命”の事。

その為に今、横断山脈へと踏み入っている。



「…氣を使えないと凍死は免れない所だな…」



“現代”の同じ場所よりも厳しい環境だ。

寒さも積雪量も段違い。

余程慣れた者でなければ、行動は不可能だろう。


それでも──いや、だから来るだけの価値が有る。



「この辺りで良いか…」



周囲を見渡せば山ばかり。

地図上で見れば益州の西の山中の辺りになる。


地面──積雪の上に右手を置いて自分を中心として、氣を地中に向けて放つ。

続けて、もう一度放つ。


第一波は“鉱石”に同調し少しの間宿り停滞。

第二波は、第一波を受けた“鉱石”を感知。

これを交互に、一定間隔で半径1kmの範囲内に渡って放ち続ける。

要は金属探知機。


そして感知した“鉱石”を同じ範囲域に広げた“影”へと取り込む。

抜けた部分には、土と石を混ぜた物を入れ替える形で“影”から排出。

地盤沈下や崩落を防ぐ為の処置は忘れない。


探している“鉱石”は少し特別な代物で、氣を纏わせ易い性質を持つ。

名を“烏紫鋼(うしこう)”と言う。

烏の濡れ羽の様な漆黒に、紫色の波紋線が入っている滅多に見られない鉱石。


華佗の針も“烏紫鋼”から作られている。

純度ではないが氣の通度で質に優劣が有り、稀少度が変わり通度の高い物は中々出ないらしい。



「…ま、俺には関係の無い話だけどな」



好きなだけ採取出来るし、“副次品”も有る。

実に“良い”仕事だ。


開始から約二時間。

漸く気付いて止めた。

“遣り過ぎた”と。




━━禄福


採取活動を終え、本格的に“愛馬”探しを開始。

涼州に向かい情報収集して現在は酒泉郡の小さな町。



「火の無い所に煙は立たぬ

“何か”は有るだろうと、期待してたんだがなぁ…」



騎馬民族の性質と言えるのだろうか。

“身内”には親切なのだが“余所者”には素っ気ない態度だったりする。

勿論、全ての者がそうとは限らないだろうが。



「もう少し位は“愛想”が良くてもいいだろうに…」



おまけに、此処まで来ても禄な情報が無い。

“架空”だとは言われるが“アハルテケ”とする説も有るから、良い子が居ると踏んだんだが。



「宛が外れたかなぁ…」



町の外れで岩の上に座り、空を仰いで黄昏る。

…まだ昼前だけど。



「蛮族だぁーっ!」


「出てけぇーっ!

此処から出てけぇーっ!」


『出てけぇーっ!!』



台詞は物騒だが、言ってる声から察するに子供。

“官軍ごっこ”か鬼追いの類いだろうか。

ただ“蛮族”という一点が気になって顔を向ける。



「──」



視界に映った光景に思わず目を見開き、絶句する。


文若位の身長の鼠色の髪の薄汚れた傷んだ服の少女が子供達に石を投げ付けられながら歩いている。

よく見れば、左頬に出来た“赤”の一筋。


その癖、周りの大人達には助け様とする様子は無い。

それ所か“汚い物”を見る様な冷たい侮蔑の視線。

渦巻く感情は嫌悪と憎悪。

少女を助け様とする意志は全く見受けられない。



「蛮族めぇーっ!」


「このぉーっ!」


「殺っちゃえぇーっ!」


「殺せぇーっ!」


「──っ!?」



一人の少年が投げたのは、その掌より一回りは大きな石だった。


反射的に動き、少女を庇い左手で抱き寄せる。

投げ付けられた石は右手で少年の足元に弾き返す。



「うわっ!?」


「だ、誰だお前っ!?」


「邪魔すんなよっ!」


「そうだそうだっ!」



石を投げた少年は予期せぬ事に驚き尻餅を付く。

突然割って入った俺に対し子供達は騒ぎ立てる。

…可愛げも無いな。


周りの大人達も不可解且つ怪訝な表情をしている。

本当に理解していない様で救い難い連中だ。

自然と怒りが沸いてくる。



「己を恥じろ、下衆共が」


『──っ!!??』



言葉と共に俺の放った殺気──一応は加減はした──に気圧され老若男女問わず腰を抜かしたり息を飲み、茫然と此方を見る。




助けた少女も状況に理解が追い付かない様で腕の中で呆然としている。



「よ、余所者が何を…」


「“余所者”だから判る

貴様等がこの娘を“迫害”している事がな…

その理由も察しは付く」



三十半ば位の男が恐る恐る言って来た。

“蛮族”で簡単に経緯位は想像が付く。

珍しい話でもないしな。



「だが、この娘に何の罪が有ると言うのか?

“血”が罪になると?」


「や、喧しい!

アンタに何が判る!?」



逆ギレか、馬鹿馬鹿しい。

少し思い知らせてやるか。



「判りたくもない…

それより覚悟は良いな?」


「な、何がだ!?」


「“余所者”に手を上げて“無事”で済むとは露程も思っていないだろう?

貴様等全員、この場で死ぬ覚悟は出来ているな?」


『──っ!?』



念の為に、用意しておいた量産物の直剣を右手で抜き鋒を足元の少年に向ける。



「アンタに俺達が何をしたって言うんだっ!?」


「何を、だと?

笑わせてくれるな…

この孺子は石を打付けた

そして貴様等はこの孺子と同じ“血”を持つ…

“血”は罪なのだろう?」


『──っ!?』



漸く理解したか。

子供は別にしても。



「安心しろ

“一人残らず”送ってやる

さあ、誰から逝く?」



殺気で威圧して身を竦ませ逃げられなくした上で死を宣告してやる。



「──ん?」



──と、胸元で服を引かれ視線を落とす。

少女が恐る恐る顔を横へと振っている。



「…殺すなと?」



そう訊ねると、コクコクと何度も頷く少女。

迫害を受けても、此奴等を助け様とするのか。



「…死にたくないか?」


「……へ?」


「“死にたくないか?”と訊いている

…死にたいのか?」


「い、いや!

死にたくないっ!

頼む!、何でもするっ!

だから助けてくれっ!」



声を掛けた男は必死になり懇願して来る。

浅ましく、愚かな連中だ。



「全ての住人を集めろ

貴様等が迫害してきた者は大恩人になった

地に頭を擦り付けこの娘に謝罪し、感謝しろ

それが“見逃す”条件だ」


「わ、判りましたっ!」



そう言って男は転びそうになりながら走って行く。



半刻程の後──

凡そ一万の住人が一ヶ所に集まり平伏。

あたふたしている少女には苦笑してしまうが。


心から感謝しているのかは別としても溜飲が下がる。


見届けた後、少女を連れて少女の家へと向かった。




少女の家に到着。

怪我は歩きながら治療。

ただ、思っていたよりも、古傷や痣などは無かった。

不幸中の幸いだろう。


少女の家は──御世辞にも“家”と呼べる様な物では無かった。

朽ちた物置小屋と言う方が正しいだろう。

雨漏り、隙間風は当然。

衣食も一体どうしていたか気になって仕方無い。


その中で少女は迷う事無く寝床だろう筵を捲る。

更に床板を外すと地面には穴が有り、其処には木箱が置かれている。

それを取り出し──俺へと差し出して来た。



「…これは?」


「…お、御礼…です…」



微風に消えそうな声。

仕方無く“眼”を見て確認しようとしたのだが少女は恥ずかしがって俯く。

ただ、手を引っ込める気は全く無さそうだ。



「…な、何も…無いけど…

…家の…か、家宝だって…

…お母さんが…言ってた…

…だ、から…これ…」



一瞬吃音症かと思ったが、単に慣れていないだけか。

…いや、人見知りか。

兎に角、違う様だ。



「家宝を貰うのは悪いよ

その代わりに、と言っては失礼だが…」



そう言って少女の頭を撫で意識を逸らして顔を上げる様に誘導する。

途中で言葉を切った事で、気になって顔を上げた所を逃さずに言う。



「家に来る気はないか?」



そう言うと硬直。

暫くして我に返ると周りを確認する少女。

小動物宛らの愛くるしさ。

是非、持って帰りたい。



「君に言ってるんだよ

家に仕える気はないか?」



少女の視線と同じ高さまで屈み、真っ直ぐに向き合い再度訊ねる。



「…ど、どうして?…」


「世の中には色んな考えや価値観が有り…

多くの“強さ”が有る

でも、その中で大切な事は“自分”を見失わないで、信念を貫ける“強さ”だと俺は思ってる

だから、君が欲しい」


「──っ!?」



ボンッ!、と音が聞こえて来そうな勢いで顔を真っ赤して踞る少女。

…台詞が悪かったか。

そう思い、小さく苦笑。



「………」


「ん?」



本当に、僅かに聞き取れた“音”が声だと判ったのは事前に知っていた為。

でないと無理だ。


そして辿々しくも真っ直ぐ心を込めて少女が紡ぎ出す言葉を受け取る。



「…せ、姓名は、姜維…

…字は…は、伯約…

…え、えと…真名、は…

(ほたる)…です…」





姓名字:姜 維 伯約

真名:(ほたる)

年齢:17歳(登場時)

身長:150cm

愛馬:弥漉(みろく)

   鹿粕毛/牝/三歳

髪:鼠色、膝に届く位

  三つ編み・御団子

  前髪は鼻先に届く位

眼:左:茶/右:深緑

性格:

大人しく、内気な性格だが気弱という訳ではない。

意志を強く持ち、貫き通す気丈さを内に宿す。


備考:

血縁は無く、天涯孤独。

父は匈奴族。

母は姜冏。

祖母は蔡炎(エンは別字)。

姜氏は“天水郡の四姓”と呼ばれる豪族だった。

だが、姜維が産まれる前に先代である祖父の戦死等で没落した。

その後、姜冏が酒泉郡にて姜維を産むが、それ以前の足取りは不明。

母から父親が匈奴族である事は聞いている。


母から学術は習っており、かなり優秀な下地を持つ。

運動神経は悪くはない。


無口なのは内気な性格と、長年の迫害に因る人見知りだけではなく“自分の才を託すべき方に仕えなさい”という母の遺言を守っての生活の結果。


家事能力は優秀。

但し、大掃除とかになると手際が悪くなる。

サバイバル能力が高い。



◆参考容姿

ディアナ/鮎川天理

【神のみぞ知るセカイ】




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