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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
71/913

        弐


太史慈に案内されたのは、街の東に有る宿。

まあ、人目を避ける理由が有るのなら南の宿の一帯は使わないか。


階段を上り、二階へ。

そのまま歩き行き当たりの角部屋の前に。



「…此処で御待ち下さい

文挙様に御話しして可否を御伺いしてきます」


「突然の事ですからね

出直す位は幾らでもします

勿論、良い返事を頂ければ幸いですが…」



やんわりと此方には諦めるつもりはないと伝える。


すると眉根を顰めた。

本人は隠している気だろうけれどバレバレだ。

もう少し“演技”が上手くならないとな。


一礼すると太史慈は部屋の中へ消えて行く。


氣を探れば“人材”探しも楽では有るが…

それでは面白くない。

ただ集めれば良いと言う物ではない。

だから、基本的に本人との対面が無い限りは氣を探る事はしない。

勿論、警戒したり戦略上で必要な時は別だが。



(“先入観”を持ってると眼が曇るからなぁ…)



ただでさえ“歴史”という“予備知識”が有る。

知識というのは一度得ると消す事は難しい。

そして、日常的に価値観や思考に影響する物だ。



(何事にも“良し悪し”が有るって事だな…)



待つ間、そんな事を考えて小さく苦笑する。


──と、此方へと近付いて来る気配を扉越しに感じ、話が着いたと予想。


扉が開いて、太史慈が姿を見せた。



「…中へどうぞ

文挙様が御会いになられるそうです」


「有難う御座います」



笑顔で返しながら中へ。

椅子に座り、卓に置かれた茶杯を両手で持つ女性。


椅子の脚に届く程の長さの雪原を思わせる白銀の髪。

後ろ側で二つに束ねていて長い揉み上げも有ってか、“巫女”の様な印象。

ゆったりとした服装の為、判り難いが…漢升並みか。


ただ顔色や血色を見る限り健康そうに思える。



(…思い違いだったか?)



そう思いながら歩を進め、対面の椅子の側へ。


其処で彼女の赤桃色の瞳が此方を見た。

──と、同時に感じ取った違和感が有る。



「突然の来訪にも関わらず御会い下さり、誠に有難う御座います

私は曹子和と申します」



非礼を謝り、感謝を示し、名乗っての一礼。

その動作を敢えてゆっくり行って確かめる。



「私は孔文挙です

どうぞ、御掛け下さい」


「失礼致します」



孔融に促され椅子に座ると太史慈は茶杯を出す。

実に、そつが無い。


太史慈に礼を言いながらも孔融を見て──確信する。

彼女の抱える問題を。




 孔融side──


部屋で静かに休んで居ると彩音(あやね)が戻って来て私に“会いたい”と客人が来ていると言った。


今の私には客人が来る宛は殆ど無い。

昔の知り合いが街で見掛け訊ねて来る位だろうか。

それ程に付き合いは少なく限られている。



「その方の名は?」


「…も、申し訳有りません

訊ねるのを忘れてしまい…その…まだ、です…」



言い難いそうな彩音。

普段の彼女からは想像する事が出来無い失態。

それ程に焦った相手なのか或いは…相手が巧みか。



(この娘の性格からすると後者でしょうね…)



根が正直で、嘘を吐くのが下手な娘だ。

本人は覚られていない事と思っていても判り易い。



「どの様な方です?」


「髪は“日輪”を思わせる美しい白金で、瞳は宝玉の様な真紅をした女性です

歳は私と同じ位かと…

高い洞察力と知性を言動に感じます」



この娘が其処まで評価する事も驚きだが、そうさせる相手に“会いたい”という衝動が湧く自分にも。



「…判りました

御通しして下さい」


「畏まりました」



彩音が案内の為に向かうと小さく深呼吸して対面する為に備える。


少しして、件の客人が中に入って来て挨拶されたので私も返し、席を勧めた。


感じた印象は彩音の例えた様に“日輪”と言える。

けれど、優しいだけでなく“苛烈さ”を秘めていると直感が訴える。

“油断”は出来無い。


“曹”の姓を聞いて現在の豫州刺史を思い浮かべた。

“彼女”と何かしら関係が有るのかもしれない。

一番は親族だろうか。

髪の色も近い様だし。



「御存知かと思いますが、私は官職を退いた身です

その私に一体どの様な御用なのでしょうか?」



少し意地悪な言い回しだが“無駄”な腹の探り合いはしない方が賢明。

御互いに理解している事と私は思う。



「…そうですね

“御互いに”承知の上では無意味な事…

率直に言います

曹家に──曹孟徳に仕える気は有りませんか?

勿論、其方らの貴女も」



“彼女”の名をはっきりと言われて予想が正しかった事を理解する。



(…私は兎も角としても、彩音にとっては良い話…

此処は受けるべきですが…

素直に聞き分けるか…)



私に対する恩で身の回りの世話をしてくれて助かっているけれど彼女には自分の将来を考えて貰いたい。

心からそう思う。




静かに瞼を閉じて考える。

持ち掛けられた話を彩音に振っても私に従うと言って終わるだけ。

それならば、私が受ければ済む話──



「──所で、孔融殿

貴女の“眼”に、私は一体“どう”映っています?」


「──っ!?」



思わず、膝に置いた両手を握り締める。

嫌な汗が首筋を伝う。

けれど、動揺も感情も一切出さずに瞼を開ける。



「“どう”とは?」


「言葉のままですよ」



そう言って御茶を口にし、“態”と間を置く。

やはり、相当に“強か”な相手と言える。

そして、気付いている。



「…失礼ですが、どういう事でしょうか?」



彩音が焦れて会話に入って来た事は拙い。

此処で私が追い出す訳にはいかない。

後で訊かれるだけだ。

もう…覚悟するしかない。



「…どうして、御気づきになられましたか?」


「…文挙…様?」



私の言葉に彩音が戸惑いを覗かせている。

仕方の無い事か。



「…些細な事です

私が此処に入って来た時の貴女の視線、それが最初の違和感でした

貴女に挨拶をした際に態とゆっくりと動く事で確認をしました

貴女の眼は私の姿を“像”としてしか見ていない…

つまり殆ど焦点の合わない状態だと言う事です

…加えて言うので有れば、単に視力の低下だけでなく色彩も失われている…

今の貴女には、世の全てが色褪せて見えるでしょう」


「御慧眼、畏れ入ります」



全く言い訳の出来無い程に見抜かれている。

残念で仕方が無い。

その姿を、顔を自分の眼で一目見たかった。



「…不躾ですが、御願いが御座います

この娘──太史慈を曹家の臣下として迎えて頂けないでしょうか?」


「せ、雪那様っ!?」


「私はこの様な身です…

御役に立てはしませんが、この娘は違います

この娘の未来を私の所為で潰したくは有りません…

どうか…御願い致します」


「…雪那様…」



椅子を立ち、床に跪いて、彼女に頭を下げる。

戸惑う彩音。

でも、“彼女達”ならば、決して彩音の事を悪い様にしないだろう。



「それは聞けません」


「──っ、其処を──」


「孔文挙、どうやら貴女は勘違いしている様ですね」



断られた事に動揺する私に彼女は静かに言う。



「…勘違い、ですか?」


「私は、貴女達“各々”に意志を問うて居ます」



そうはっきりと言われて、判らない筈が無い。

私は恥じ入るばかりだ。




私が願い、聞き入れられて仕えたとしても彩音自身の忠誠が生まれる訳ではなく良い状況になるとは露程も思えない。



「…仰有る通りです

子義、貴女はどうしたいと思っていますか?」


「…私は…」



彩音にも伝わった筈。

彼女には私に囚われずに、歩んで貰いたい。



「“恩を返す”事、或いは“恩に報いる”事は色々な考えが有るでしょう

その人が“誇り”に思える自分に成る事も一つの形…

間違いでは有りません」



彩音に諭す様な言葉。

後押ししてくれる筈。



「ですが、今直ぐに焦ってその“答え”を出す必要は有りません

ゆっくり、考えなさい」



しかし、意外な言葉。

思考が軽く混乱する。



「孔融、先ず貴女の返事を聞かせて貰えますか?」



そう訊く彼女の声には全く揺らぎは感じられない。

本気だと言う証。



「…私はこの様な有り様、御役に立てるとは…」


「治せば良いだけです」


「…簡単に仰有れますが、それは不可能です

私は彼の名医・華佗と縁が有りました

“老師”から医術・薬術を学び自分の症状が“普通”ではなく治療法が無い事を理解しています

如何なる名医でも不可能な事は有ります…

私を必要として頂けた事は光栄ですが、己が恥を晒す真似は出来ません」



“色”を失い出した時から覚悟している。

恥を晒す位なら私は──



「──死を選ぶ、と?」


「はい」



本当に鋭い方だ。

心の淵まで見透すかの様。


けれど、私の意志を感じて彼女は溜め息を吐く。

納得してくれたのか。



「“華佗”との縁なら私も有ります

そして私は彼の流派の技を会得しており、単純な実力だけで見れば私が上です

“先代”の力量は判らない事ですが、貴女の“眼”は十分に治せます

信じられないのならば先に治しましょうか?」



そう、何気無い様に彼女は驚愕の事実を口にする。



「…本当…ですか?…」



訊ね返す声が震える。

ただでさえ見え難い視界が歪み、色が滲む。



「出来無い事を口にする程愚かでは有りませんよ

貴女が“未来”を己が眼で見る事を望むので有れば、諦めないのなら──」



私の左頬に触れ、包み込む力強く優しい温もり。



「私が貴女の闇に“光”を灯しましょう」



改めて私は思う。

この方を見たいと。

この方と見たいと。



「姓名は孔融、字は文挙…真名は雪那です…

“未来”は貴女と共に」



──side out



どうにか孔融を“口説き”臣従させられた。


残すは太史慈。

一緒に釣れそうでは有るのだけれど。



「さて、次は貴女の返事を聞かせてくれますか?」


「…私は、文挙様に大恩が有ります

今の私にとって仕える主は文挙様です」



まあ、そうだろうな。

根っからの生真面目な質はこれまでで十分に判るし。



「文挙様が御仕えするなら私にとっても主君です

ですので仕える事に異議は有りません」


「…子義…」



複雑そうな孔融。

仕方無い事では有る。



「…ですが、先程御二人の仰有られた事も理解だけはしています

まだ、自分の中でも考えが纏まらないのですが…

それでも、一つだけ言える事が有ります

貴女に仕えてみたい

その気持ちに嘘偽りは一切有りません」



不器用な迄の真っ直ぐさ。

“愚直”とさえ言える。


ただ、それも含めて彼女の在り方は好ましい。



「“今は”それで十分

その先は此方次第…

それに主従関係で見れば、仰ぐ主が同じ家の中に一人増えるだけの事

大した問題ではない」


「…私が言うのも変ですが貴女は“二君”を抱く事を良しとするのですか?」



ふむ、尤もな意見だな。

まあ、家は華琳と俺という“二君”体制だしな。

今更な事だ。



「別の家や勢力の者ならば議論の余地は無いですよ

“もしも”の話ですが…」



スッ…と目を閉じると纏う気配を変える。

一瞬だけ殺気を放つ。



『──っ!?』



気圧されて身を硬くして、息を飲む二人。

元の気配に戻して太史慈に笑みを向ける。



「曹家を、孔融を裏切れば容赦はしません」


「…は、はい…」



ちょっと遣り過ぎたか。

怯えさせたみたいだ。



「ただ、筋を通した上なら離れる事も認めます

見限られるのは、主として至らぬ為の結果ですから」



少し軽い感じの声で言って雰囲気を変える。

重いのは疲れるし。

言ってる事に嘘は無いから問題も無い。



「…若輩者ですが誠心誠意仕えさせて頂きます

姓名は太史慈、字は子義、真名は彩音…

いつか必ず私の“答え”を御伝え致します」


「楽しみにしています」



笑顔で“志”を受け取り、“未来”を思う。


その日は、そう遠くはないだろう事を。





姓名字:孔 融 文挙

真名:雪那(せつな)

年齢:24歳(登場時)

身長:169cm

愛馬:彗月(すいげつ)

   銀糸青毛/牝/五歳

髪:白銀、尻に届く位

  後ろで二つに束ねる

眼:赤桃色

性格:

物静かで厳格な性格だが、面倒見は良い。

しっかりしている様だが、意外と“天然”な一面も。


備考:

孔子の第二十世の孫。

豫州魯国の出身で今は亡き母・孔抽(チュウは別字)は先々代の豫州刺史。

十歳の時に青州へ移る。

十七歳で北海国の県令へと任命され、十八歳で相に、二十歳で青州刺史となる。

しかし、二十三歳になる頃辞任して旅に出る。


縁が有り、妹の様に大事にしている太史慈にも話していないが、実は両の視力が急激に低下している。

見聞を広めるというのも、本当は太史慈に世情を見せ“巣立ち”を促す為。


武の腕は中々の物。

但し、視力の関係で実力は発揮出来無い。

文官としては名実共に高く優れている。

先代の“華佗”を縁が有り医術・薬術にも明るい。


家事能力は高い。

だが、やはり視力の関係で太史慈を頼っている。


◆参考容姿

グレイフィア

【ハイスクールD×D】


※銀糸青毛は独自設定で、

 実在はしません。




姓名字:太史 慈 子義

真名:彩音(あやね)

年齢:20歳(登場時)

身長:165cm

愛馬:梦傳(むてん)

   青佐目毛/牝/三歳

髪:鶯茶、肩に届く位

  ストレート

眼:濃灰色

性格:

真面目で一本気。

寡黙と言う程ではないが、無駄話はあまりしない。

無愛想に見られてしまうが悪気は無い。


備考:

亡き母が孔融に助けられた事が切っ掛けで知り合い、母の死後も色々世話になり母の事も含め、彼女に対し恩を抱き旅に同行。

普段は主従の様に振る舞うけれど実は姉の様に尊敬し慕っている。


我流では有るが中々の武を身に付けている。

弓に関しては孔融に手解きして貰った。

指揮経験は無いが賊退治は何度か経験有り。

但し、二〜三十人程の少数相手である。


家事能力は亡き母や孔融の世話をしているだけ有ってかなり高い。


◆参考容姿

リンド

【ああっ女神さまっ】




姓名字:朱 治 君理

真名:李珀(りはく)

年齢:47歳(登場時)

身長:173cm

髪:灰白、尻に届く位

眼:赤紫

備考:

珀花の母、朱家の現当主。

現淮南郡太守。

娘は淮南郡の生まれだが、自身は丹陽郡の生まれ。

また、朱家は呉郡に於いて“四姓”と呼ばれた名家。

自身の母・朱桓が丹陽郡の都尉になった際に移住。

一族に連なる者達や家系は今も尚忠誠を誓う。


普段は温厚な人柄なのだが怒らすと凶暴になる。

娘や冥琳には甘い。

冥琳の病の事は聞いており心配している。

尚、娘に対する評価は意外にも厳しい。


家事能力は片付け以外なら問題無い。

片付けようとすると何故か余計に散らかる。

周異とは幼馴染みであり、娘達同様に仲が良い。


◆参考容姿

文【おまもりひまり】




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