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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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       弐拾玖


それは兎も角としてだ。

今回の狙いは何なのか。

相手に合わせた、と言えば確かにそうなんだろう。

相手の動揺を誘う、という意味も含めてな。

しかし、それだけにしては私達、今まで所在を隠して行動していた面子を此処で出してしまうのは偶然とは言い難いだろうな。

だとすれば、私達が此処で表舞台に出る事に何かしら意味が有る筈だ。

…まあ、私達の成長の為の舞台の可能性も有るが。

それは私に関しては微妙。

凪や流琉は判るけどな。



(…今回は、桂花を中心に私達に任されているけど…

全く何にも“入れ知恵”が無かったとは言い難いのが宅だからな〜…)



何しろ、表向きには異なる理由や意図が用意されて、それに嘘偽りは無くて。

でも、裏には別の思惑等が隠されていて。

それに気付いて納得しても更に裏が用意されている。

そういう事が、事有る毎に行われているんだ。

嫌でも疑り深くなるさ。

…まあ、そう為ったら逆に疑心暗鬼を利用されるから主導権なんて握れないのが私達の“普通”だけどな。

まあ、誰が相手か、なんて今更言う事でもないけど。

本当、高くて遠いよ。

普段は物凄い近いのに。

と言うか、子供っぽい所も多々有るからな。

…色々と狡い人だよ。


さて、本題なんだが。



(私達の事は勿論だけど…

孫策の所への意識付けって事なのかもなぁ…)



秋蘭・凪・流琉は宅に居る事は公表している。

…あっ、後、愛紗もだな。

それから、月と恋だ。

特に恋に関しては雷華様が堂々と降して見せた。

月に関しては、両陣営共に察している様だしな。

この辺りは既知だ。

となると、私と蒲公英。

或いは、蓮華の存在。

この二つが孫策達にとって大きな意味を持つ筈だ。

流石に蓮華を出すのには、まだ早いんだろうけど。



(んー…でも、私達の事は楔としては弱いよな?)



繋がりは浅くはない。

が、それを言ってしまえば秋蘭達とて同じだ。

孫策達に敵対させない為の楔としては弱い。

と言うか、それが楔として有効だったら、あの時点で雷華様が秋蘭達を合わせる事はしなかった筈だ。

何しろ、孫策達には此処で対峙して貰う事が当初から考えられていた訳だし。

下手な真似をして躊躇って友好的に為られる過ぎては困るのだから。

そうは為っていない以上、私達の関係等は楔としては弱いと考えていい。

無意味・無価値ではないが国・勢力的に見た場合には理由には為らない。

少なくとも、私情を理由に大局を見失う様な主君ではないのだろうから。

雷華様から認められている孫策はな。



(…はぁ〜…止め止め…

考えてても仕方が無い

今は、自分の遣るべき事に集中集中っ!)



蒲公英に言った通りに。

余計な事は今は考えない。

その裏側に、どんな意図が有ったとしても。

それが私達にとっての悪い結果には為らない。

だから、後回しだ。



──side out。



 馬岱side──


──何故、どうして。

“そうは思わなかった?”と訊かれたら。

私は本の少しだけ、言うか迷うとは思うけど。

“思った”と答える。

嘘は吐きたくないから。

だから、其処は正直に。


──お姉様と戦う。

そんな事、私は全く考えて無かったんだもん。

それはまあ、鍛練とかなら手合わせした事なんてのは多々有るんだけど。

そういう事ではないし。

寧ろ、そういう意味でなら大歓迎──とは言い難いんだけどね〜。

出来れば、遣りたくない。

お姉様、段々手加減するの忘れてっちゃうから。


…それは兎も角として。

いざ、そうなった時。

戸惑うとか動揺するとか。

そんな程度じゃない。

混乱してたって言っても、全然可笑しくない。

予想外もいい所だもん。


だから、仕方が無いよ。

だって、従姉妹とは言え、私達は今の世界に、たった二人だけになってしまった一族の生き残りで。

その血と意志と誇りを宿す存在なんだから。

そんな私達が戦うだなんて想像する理由が無いもん。


これがもし、後継者争いや派閥抗争みたいな事が有る中でだったら判るけど。

そんな事は絶対に無いし。

お姉様は勿論、私も権力や地位には固執してないから起きる気はしない。

と言うか、馬一族は自体にそういう考えが無い。

抑の話として、馬一族って王朝に対しては忠誠なんて誓ってはいない。

天子──皇帝を仰ぐけど、それは個人を見定めて。

だからこそ、私達馬一族は国ではなく天子に仕える。

故に、馬一族の間で称する“天子”とは皇帝に非ず。

仕えるべき、支えるべき、馬一族が武智(槍)を託すに値する存在を指す。


だから、勘違いされる。

勘違いをした馬鹿な皇帝と不仲となり、対立した事は一度や二度ではない。

その歴史を紐解けば幾度も有った事だったりする。

その度に馬一族は勝利し、認めさせてきた。

馬一族とは、従わせられる存在ではない。

馬一族が認めた者にのみ、忠誠を誓う存在なのだと。

馬一族に認められた者こそ真に“天子”なのだと。


だからこそ、馬一族の長の責任は皇帝を越える。

礼の有無ではない。

血の濃さではない。

兵の総数ではない。

位の高さではない。

馬一族の長が、“天子”と認めるか否か。

それが全てなのだから。


そんな重責を背負う立場に好き好んで為りたいなんて私達は思わなかった。

まあ、お姉様は継ぐべき人なんだけどね。

当の本人の望む望まないは別にしても。

一族が長として認める。

それもまた大きな要因。

だから、一族は纏まる。

血族は大事だけれど。

必ずしも、長の子が次代を継ぐという訳ではない。

皇帝等とは違う。

血だけでは為れない。

認められない。

それが馬一族の在り方。

貫き続けた生き方。


だから──想像もしない。

お姉様と戦う事なんて。

敵対する事なんて。




だから、思ってしまう。


落ち着いて、話し合おう。

話せば判る筈だから。


しかし、それは不可能。

…ううん、可能性で言えば出来る事なんだけど。

それには条件が有るから。

それは、私が、小蓮様への恩義を捨てて、一族の事を最優先にする事。

その場合にしか、話し合いなんて成立しない。


冷静になって考えてみれば判る事なんだけど。

この状況で、お姉様の方が話を聞いてくれるなんて、都合が良過ぎる事だって。

そんな事は先ず有り得ない事なんだって。

もし、話し合いたいなら、私が愛槍を捨てて投降して初めて出来る事だって。


だって、ほら。

今の私達は曹魏から見たら不審者──って言うよりも明らかに敵対者だもん。

劉備達との同盟なんてのは全然関係無い。

仮に、曹魏は調査目的での出兵だったとしても。

それを襲撃している時点で何方等に非があるのか。

そんな事は子供でも判る。

…まあ、それを捻曲げて、屁理屈とかで誤魔化したり押し切るのが大人だけど。

時には、そういう遣り方も必要なのが政治。

私達馬一族みたいに特殊な立場だと縁遠い事だから、中々理解し難いけどね。

…私?、私は…まあ…一応理解してる、かな。

あんまり気にしてないって言うのが正しいかも。

お姉様も…あー、うん。

今は、判らないかな。

昔のお姉様だったら絶対に“そんなの知るか!”って言ってそうだけど。



「──死っ!」


「──ひゃわあっ!?

ちょっ!?、お姉様っ、今の本気だったよねっ?!

って言うか!、“疾っ!”じゃなかったよねっ?!

“死ね!”っていう意味で言ってたよねっ?!」


「…何を今更甘ったれた事言ってるんだ?

私達の立場を考えろ…

この闘いが鍛練や手合いの範疇の訳が無いだろ?

“死合い”なんだよ!」


「尤もなんだけど!

今っ、間が有ったよね?!

何か考えてたよね?!

──その本音はっ?!」


「何か、ムカついたっ!」


「酷っ!?、何それっ?!

全然尤もらし──いのかもしれないけど、酷いっ!」


「煩い!、馬鹿っ!

黙って殺られろっ!」


「絶対に嫌ーっ!」



叫びながら、お姉様の放つ苛烈な攻撃を凌ぐ。

何とかして隙を見付けては反撃を試みる。

けど、悉く対処される。

遣ってる事だけを見てると昔の鍛練風景なんだけど。

お姉様から感じてる闘気と殺気は本物に間違い無い。

だから、これは言葉の通り“死合い”が正しい。


…正しいんだけど。



「何か理由が子供っぽくて負けたくないっ!」


「負けず嫌いなんてのは、大概子供っぽいんだよ!」


「じゃあ、お姉様もだ!」


「よしっ、死ねっ!」


「ほら!、やっぱりっ!」



何故か、緊張感を感じない会話が続いている。

会話の雰囲気とは正反対に攻防は結構真剣だけど。

…これも私達が受け継いだ馬一族の血なのかな。

全然、嬉しくないけど。




槍を交え、言葉を交わし、交々心が響き合う。


その中で、気付く。

昔から、そうだったと。


お姉様と私では才器なんて比べるまでもない。

お姉様が百年に一人なら、私は五年に一人が精々。

それですら過大評価だって自分でも思ってしまう。

凡人だとは言わないけど、群を抜く存在ではない。

お姉様が英傑だとしたら、私は少し腕が立つ兵士。

それ位には差が有る。

だから、所詮、そんな程度でしかない私が“お姉様に追い付きたい”だなんて。

考えてはいけない事。

子供の憧憬を、夢を。

否定しようとは思わない。

それは純粋で、真っ直ぐで無垢なのだから。

其処に悪意や打算は無い。


けど、だからこそ。

夢想は夢想のままで。

綺麗な思い出にすべき。

それを掴めるのは。

叶えられるのは。

本の一握りなのだから。


成長し色々な事を知れば、嫌でも理解してしまう。

自分は“一握り(其処)”に入ってはいないのだと。

叶わない願望(ゆめ)だと。

気付いて、傷を負う。

思い出す度に、ジクジクと鈍く嫌な痛みを伴う。

癒える事の無いまま。


特に、私は早かった。

もしも、もう少しだけ長く無邪気な子供のままで居る事が出来ていたら。

辛さは減っていたのに。

そう思った事は少なくとも百を越えている。


──それなのに。


お姉様は私に対してだけ。

鍛練等を厳しくする。

手合いの時にも、そう。

“こら、真面目に遣れ!”

“しっかり集中しろっ!”

“まだまだ遣れるだろ!”

“お前なら出来る!”──なんて言うんだもん。

嫌になっちゃう。


──嬉し過ぎて。


その一言が、その激励が、その眼差しが。

私に向けられている。

私だけに、私の為に。

お姉様が私を見てる。

私を見てくれている。

そう感じる事が出来るから遣る気に為ってしまう。


だから、嫌いだ。

諦めきれない、愚かなまま追い掛け続ける私が。




──そうだったのに。


お姉様は変わらない。

本当に、変わってない。

でも、不変なままだなんて有り得ない事。

生きている限り、誰だって変化しているから。

成長も、老いも、生き方も変わってゆく物だから。

不変が有るとすれば。

それは死だけ。

死んだ存在にだけ。

訪れるんだって思う。


だから、お姉様だって絶対変わっている筈。

それなのに──どうして。


そう考えた時。

ふと、思い出す一場面。


それは、まだ皆が居た頃の何気無い日常の中。

お姉様が言った一言。




「誰だって変わりたいって思わなきゃ変われない

出来る様に為りたいなら、出来るまで遣るしかない

人は完璧なんかじゃない

でも、成長は出来る

だから、変われるんだ」




そう、あれは…確か。

書き仕事を遣らされ始めて逃げ出す口実として何かを始め様としていた。

それを正当化しようとする言い訳だったと思う。

その後、拳骨と説教を沢山貰っていたのは懐かしい。


──だけど。



(…うん、そうだよね…

お姉様が、変わってない訳じゃないんだ…

私が、変わってない…)



言い訳ばっかりして。

傷付く事を怖がって。

お姉様に失望されたくない一心で縋り付いて。

でも、変わってなくて。


だから、今、此処で。

私は、お姉様に示す。

本の少しで構わない。

結果なんて考えずに。

私は“愚弱”なままの私を越えてみせる。


だから──しっかりと。

見ててね、お姉様。

お姉様の望んでくれていた蕾(私)の咲く姿を。



──side out。



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