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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
703/915

       弐拾参


ズガンッ!、ドゴンッ!、ボグァンッ!!、と。

普通では聞かれない様な、轟音を響かせて季衣の持つ巨大な鉄球が次々と地面に大きな凹みを生んでゆく。

多分、一般的な人々ならば“何が起きているっ!?”と驚愕し恐怖を懐いても全然可笑しくはない事。

ただ、私達にとってみれば昔から馴染みの有る光景。

“怪力”な私達には。

…まあ、自然破壊だとか、土木工事だとか言われても仕方が無いんですけど。



「あぁーっ!、もうっ!!

チョロチョロするなーっ!!

大人しく当たれーっ!」


「嫌よ!、痛いでしょっ!

当てたかったら、頑張って当てなさいよ、ねっ!」


「──くぅっ!?」



実に自分勝手な文句を言う季衣の攻撃を躱し、反撃の一撃を放つ。

それを鉄球から延びる鎖を手繰り寄せて二重に束ねた紐の様にして防ぐ。

──が、しかし。

受け切れなかった為、足は地面から離れてしまう。

そのまま、後方に向かって押し飛ばされる様に季衣は私から遠ざかる。


季衣の体勢は崩れている。

追撃するのなら好機。

普通ならば迷いはしない。

前に出るべき場面。

でも、私は移動はせずに、その場にて体勢を整えつつ距離を取る事を選ぶ。

その理由は一つ。

私は、知っているから。

季衣の一番恐いと思う所は“窮地な状況に有る程に、底力を発揮する”から。

だから、迂闊に飛び込めば返り討ちに為り兼ねない。

季衣は追い込まれてからが最も強いのだから。


そういう意味では、季衣を安全に倒そうとするのなら先手必勝・短期決着。

闘いを長引かせてしまうと季衣に力を発揮させる為の時間を与えてしまう以上、それが最も効率的であり、効果的だと言える。


だけど、そうはしない。

そんな勝ち方をしても何の意味も無いのだから。

全力の季衣に勝たなくては意味が無いのだから。



(…私達って本当に色々と似てるよね…)



戦い方とか、適性とか。

そういう部分が特に。

得物が球形なのは必然か、単なる偶然なのか。

それは判らない。

ただ、大きは季衣の鉄球の方が三倍近いけど、一点に掛かる威力という点でなら私の球鎚に分が有る。


後は、私の方が鉄球も含め使い方・戦い方への経験が多い事だろうか。

昔から、季衣は駆け引きが上手いとは御世辞にも言う事が出来無かったし。

でも、季衣の真っ直ぐさは美徳だと思っている。

駆け引きには向かないけど“心を動かす”には本当に適しているのだから。


だから──私は季衣の事が羨ましかったんだと。

離れみて、端から見て。

漸く、気付いた。

本当は私にとって、季衣は太陽ではないのだと。

眩しいけれど、違う。

活力をくれるけど、違う。

羨ましいけど、違う。


季衣──許仲康とは、私の前に立ち塞がる壁。

乗り越えるべき試練。

過去(わたし)を縛り付ける鎖の様な物だと。


今だから言える。

必然だと。

望んでいたと。

この闘いを。




勿論、だからと言って私の朋友である事は変わらず、大事な幼馴染みでもある。

それは決して変わらない。

変わる理由なんてない。

例え、仕える方が違っても属する国や勢力が違っても歩む道が違っていても。

それはそれ、これはこれ。

私達の関係を断ち切るには至らないのだから。


ただ、私自身が先へと進み高みに至る為には。

私は超えなくては。

それは季衣を、ではなく。

彼女への憧憬を懐いていた過去(私自身)を。

追い掛ける事しか出来ず、何処かで諦めていた。

そんな弱い自分を。

私は超える。

これは、その絶好機。

今を逃してしまえば二度と叶わないかもしれない。

千載一遇ではない。

恐らくは、唯一無二。

今しか無いのだ。



(…二度は必要無い

今、此処で出来無いのならどんなに機会が有っても、同じ事だから…

ううん、そうじゃない…

この一度きりだからこそ、それだけの意味が有るの)



もしも、十回遣れば九回は成功する自信が有る。

だから、失敗するとすれば一回目か二回目だけ。

二回目に失敗するとしたら一回目は偶然で、私は何も理解出来ていないから。

だから、二回目は失敗する事に為るんだと思う。

勿論、偶然が続く可能性も一回目が単なる偶然だったとしても、理解をする事は出来る可能性は有る。

その事は否定出来無い。

故に、失敗しない可能性も考えられなくはない。

どんなに僅かだとしても。


けど、そうじゃない。

この闘いが終わらない限り機会は存在する。

でも、この闘いでなくては為らない事は確か。

この先、幾度も季衣と闘う機会が有ったとしても。

それらは全て、違う。

“何が?”と訊かれると、答えられないけど。

そう感じている。

これまでに積み重ねた物が私に教えてくれる。

今、この時だと。



(雷華様が言ってた様に…

私は、咲いてみせます!)



今も追い掛けている。

それは同じ。

でも、全然違う。

季衣(憧憬)ではなくて。

遥かな雷華様(高み)を。

覚悟を持って、追い求め、並び立ちたい。

似ているけど、異なる。

その想いの在り方も。

求める想いの強さも。


だから、掴み取る。

絶対に逃さない。

“雷華様の隣(其処)”へと辿り着く為に。

此処で、超えるんだ。



「…人、世に逢わずして、別るる事は無く…

…別れ無くして、命という尊さを知らず…

…命、死を知らず理解する事は適わず…

…死を経て、生きるという事を理解するに至る…

…志、命を懸けず理解する事は適わず…

…怠慢と惰弱という誘いに惑えば、得る事は無し…

…時、それは悠久であり、何よりも儚い…

…今を無為にすれば二度と戻る事は無い…

…生、人が命で志を時へと刻み込みし轍…

…其、故に無二と成る!」



深呼吸しながら詠み上げた“生謌(せいか)”。

詠うと共に天へと示す。

私の“咲花”を。



──side out。



 許緒side──


自分の役目を邪魔してきた敵の隊長っぽい奴。

腕が立つのは…何と無く。

うん、何と無く判った。


其奴と戦い始めたんだけど──ボクの知ってる流琉と同じ様な動きをした。

最初は流琉の部下か何かと思ったんだけど、あまりに似過ぎてるから腹が立って“お前は誰だーっ?!”って怒鳴り付けてやった。


そしたら、呆れたみたいに溜め息を吐きながらボクに顔を見せたんだけど…。

其奴は自分が流琉──典韋だって言ったんだ。

確かに、髪や瞳の色は同じだったし、顔付きも似てる気がしたけど。

でも、信じられなかった。


だってさ、ボクの知ってる流琉はボクと“同じ”位の背格好だったんだもん。

それがさ、本のちょっと位見ない間にボクよりも全然成長してたんだもん。

判る訳無いし。

抑、ずっと二人で同じ様に成長してきたんだもん。

ボクが殆んど変わってない状態だったのに、流琉だけ成長してるだなんて事。

考えられる訳無いもん。

だから、仕方無いよ。

ボクの目の前に居るのが、本当に成長した流琉だって認めたく(判ら)なくても。


…まあ、それは兎も角。

流琉が結婚してるだなんて全然知らなかった。

確か、“曹魏の主要な重臣関連の情報って殆んど手に入らないのよっ!”って、詠ちゃん達が叫んでたし。

だからボクが知らなくても可笑しくはないと思う。


でもさ、ボクと流琉ってば幼馴染みってだけじゃなく朋友なんだしさ。

それ位は教えてくれたって良かったのに。

そう思っちゃうよね。


けど、流琉に言われた事が嫌でも理解出来た。

流琉が悪い訳じゃない。

ボクの所為でもない。

それが、当たり前なんだ。

そうしなくちゃいけない。

ボクも、流琉も。

二人だけの関係は昔と全然変わらなくても。

その立場は変わったんだ。


そう望んだ訳じゃない。

結果的に、そう為っただけなんだけど。

そう言う事は簡単な事だし全くの間違いでもない。

偉くなりたいとか。

人の上に立ちたいとか。

そんな事は考えてないし、望んでもいない。

でも、自分に出来る事を。

自分の遣りたい事を。

遣ってきた、その結果だ。

だから、逃げちゃ駄目だ。

ちゃんと背負わないと。

それが、今のボク達の立つ場所なんだから。



(でもさ、狡いよ!

流琉ばっかり成長して!)



ただ、それはそれ。

これはこれ、だと思う。

正直に言って流琉の成長が羨ましい。

結婚してるとかは…まあ、御目出度い事なんだけど、ボクには判らないから。

その点は流琉を祝福したら終わりってだけ。

でも、成長した事は別。

流琉ばっかり、狡い。

少しは分けて欲しい。

ボクだってさ、何時までも子供扱いは嫌だもん。

ボクも、雪蓮様達みたいに成りたいもん。




そんな気持ちを。

この鉄球に乗せて。

流琉に打付ける。

これでもかと。


…地面?、そんなのボクの知った事じゃないし。

抑、此処って宅の領地でも曹魏の領地でもないもん。

だから、気にしない。

雪蓮様も“暴れられる時に思う存分暴れとかないと、後になって胸の中が物凄くモヤモヤするのよね”って言ってたしね。

こういう時は、彼是考えず思いっ切り遣らないと。

後でモヤモヤしたくないし後悔もしたくないもん。


でも、流琉が避けるんだ。

それはもう、見事に。

あっ!、でもね、全部って訳じゃないよ。

有効打は入ってないけど、流琉に防御はさせてる。

…殆んどが、受け流すか、逸らされてるけどね。

流琉、防御の仕方が上手く為ってるな〜。

逆の立場だったら、ボクは流琉と同じ真似は出来無い方に自信が有るよ。



(性に合わないしね〜…)



チマチマと正確に攻撃する精密な技術の精度は無い。

防御しながら、隙を窺って見逃さずに突く。

攻めてくる相手の力や技を利用して〜等々。

戦い方にも色々有るけど。

うん、そういうのは無理。

春蘭様も言ってたしね。

“こう…グッ、と構えて、ブワッ!、と攻め込んで、シュバッ!、と決める!

それが戦いの全てに通じる基本にして全てだ”って。

確かに、その通りだよね。

余計な事は必要無い。

攻めて、攻めて、攻めて、攻め立てて。

只管に攻め抜くだけ。

攻め貫けば──勝利!。

それだけなんだから。


…まあ、だからと言って、部隊の指揮とかは基本的に別物なんだけどね。

大事な仕事なんだし、凄く責任も有るんだけど。

はっきり言うと遣りたくはないかな。

…つい、そう呟いちゃった雪蓮様が詠ちゃんに襟首を掴まれて消えたけどね。


今、そんな事は考えないで済むから楽だけど。

だから、集中集中っ!。

ガンガン行かないとね。



──side out



 典韋side──


再開した闘い。

──けど、変わらない。



「──っしょおぉーっ!!」


「──くっ!」



攻めて、攻めて、攻めて、只管に攻めるだけ。

駆け引きなんて無視。

子供の喧嘩みたいに。

愚直に攻めてくる。



(少しは考えなさいよ!)



思わず、胸中で叫ぶ。

声に出さなかっただけでも私は自分を誉めたい。

季衣が相手だからか。

ついつい、感情のまま声を上げてしまいそうになる。

悪い事ではないけれど。

今は自重すべき時。

──なのに、自分勝手に、好き放題に遣っている。

季衣に対して苛立つ。


はっきり言ってしまうと。

こんなにも、“単純過ぎる(愚直な)”戦い方をする人なんて宅には居ない。

身体能力や技術等は勿論、多彩な駆け引きを織り混ぜ鎬を削っている。

そうする事によって私達は質の高い経験を積み重ね、自分達を高め合っている。

だから、こんな攻撃馬鹿は相手にする事は無い。

…恋さんは力押しに見えて物凄く技術も高いです。

ただ、あまりに格が違って手加減が出来無い場合には力押しをしているみたいに見えてしまいますが。

馬鹿(季衣)とは違います。



(確か、秋蘭様のお姉さん──夏侯惇さんは猪だって話でしたけど…

以前、見た時の印象では、其処までの様には…)



正直、見えなかった。

季衣に近い気はしたけど。

しましたけど…此処までの事はないと思います。

もっと、正面だと。

いえ、別に季衣の戦い方が変だとは言いませんよ。

ただ単純過ぎるだけで。

ええ、悪くは有りません。


でも、一言だけ。

それで勝てるんだったら、誰も苦労はしません!。

大変なんですよ、宅は!。




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