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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
695/915

       拾伍


遠き日の出逢い。

其処から紡ぎ続かれている二人の友情(絆)。

それは進む道が違う程度で失われはしない。


寧ろ、より一層に深まる。

互いに譲れない志(想い)、引けない信念(理由)の為。

真っ向から打付かり合い、示し、伝え合う。

お互いを理解し、尊重し、それでも尚、進む為に。


──倒させて貰う。


そう、重なり合う眼差しがはっきりと語り合う。



(…アカンな、これは…

こんなん、どないしようもないやんか…)



自分は別に戦闘狂といった訳やないし、武人武人した価値観も持ってへん。

偶々、ちょっとばかし武の力量が一般的なそれよりも高かったっちゅうだけ。

大層な大志も有らへんし、主義・主張も無い。

ただな、譲れん物だけは、ウチにも有る。

それだけの事。

ただそれだけがウチが戦い続けとる理由や。


それやのに──これや。

この身体の奥底から物凄ぅ熱ぅなって、どうしようも無い位に高揚しとる。

まるで、風邪を引いた時に熱に侵されとるみたいに。

せやのに、思考は冷静や。

冬、外に雪が降っとる中に立っとる様な感じに。

物凄ぅ“見えとる”んや。


今なら、理解出来る。

“武人の性”っちゅうのがどないな物なんか。

ただ純粋に強い相手を求め戦いたくなる。

そんなんとは全く別物や。

それは、要は自分にとって“特別な闘い”っちゅう事なんやってな。



(…凪以外の相手やったらウチは今こんな気持ちには為っとらんやろな…)



他の曹魏の軍将が相手なら必死に戦うかもしれんけど“何か”を見出だす事は…多分、有らへんやろな。

学ぶ事は有るやろうけど。

そういうんやなくて。


もし、于禁やったら。

確かに、幼馴染みっちゅう事だけやったら同じや。

けど、凪と于禁。

二人の存在の価値はウチの中では全く違ぅとる。

“何方を取るか?”なんて訊かれたら──凪を迷わず選べる位には、や。



「む〜…二人とも沙和の事忘れてるのーっ!

今は二対一で、沙和も相手なんだからねーっ!」



──と、放置していたから仲間外れにされたと感じたみたいで于禁が騒ぐ。

やっぱ、怪我とかはしとる感じは有らへんな。


その様子に“空気読めや…今、自分が入ってくる所とちゃうやろ?”と非難する意思を込めた視線を送るが気付いてはいない。

…まあ、気付く様なら今は割り込んでけぇへんしな。


それはまあ、置いといて。

一時的に思考は逸れても、滾る熱は冷めてへん。

寧ろ、更に激しく盛る様に燃え上がっとる。

気が狂いそうな位にな。



「…さてと、ほんならま、ぼちぼち始めよか?」


「…ああ、そうだな」


「覚悟するのーっ!」



于禁は放っといて。

ウチは愛槍を構える。

今度は凪も昔から遣っとる戦い方──体術で構えた。

“さあ、本番だ”と。

その眼差しが語り掛ける。

なら、応えんとな。

歓喜を以て。



──side out。



 于禁side──


まさか、という展開。

こんな風な再会が有っても良いんだろうか。

そう思ってしまうのは仕方無い事だと思うの。

だって、こんな予想なんて誰もしないんだもん。


でも、それだけ。

確かに驚きはしたんだけど遣る事は変わらない。

此処で倒さないと私達には何も残らなくなる。

全部終わっちゃう。

だから、私達が勝つ。



(それに此処に居る相手が関羽さんとかじゃあなくて良かったの!

な──楽進が相手だったら勝ち目は十分に有るの!)



私達三人の中では、確かに彼女が一番強かった。

それは間違い無い。

でも、勝てない程に絶対的強さって訳じゃあない。


関羽さん達みたいに絶対に勝てない相手じゃない。

勿論、関羽さん達にだって勝つ方法は有ると思う。

だけど、今の様な状況だと無理ってだけの話だから。

其処が大事だから。

だって、どんなに強くても関羽さん達だって人なのは私達と一緒なんだもん。

個人としてなら弱点とかは絶対に有る筈なの。

其処を突けば、勝てる。

戦いとは非情な物なの。


──それは兎も角として。

現状を見る限りでは此方は真──李典と二人。

二対一という状況。

これは物凄く大きいの。

二対一なら勝てる。

昔だって、そうだった。

一対一で遣ったら、勝てる気が全くしなかったけど。

二対一なら半分以上勝った記憶しかない。


そう、勝ているのだ。

彼女の才能は本物なの。

だけど、世の中には上には上が沢山居るの。

それと比べたら。

十分に届く強さなの。


寧ろ、部隊を率いてた方が私達には勝ち目が無かったかもしれないの。

朱里ちゃんも曹魏の軍勢の凄さって、兵の質の高さと統率力だって言っての。

そう考えても、こうやって個人戦に出来たのは物凄く有利な状況だと言えるの。



(勝機は我に有るのー!)



後は、焦らずに。

でも、素早く終わらせる。

劣勢になって曹魏の兵達が助けに来たら勝てる戦いも勝てなくなっちゃうの。

だから、短期決戦。

それしかないの。


愛用の二剣を構えながら、しっかりと見て隙を窺う。

──と、その視線が私から外れたのを見逃さない。

李典が横に動いたのを追い掛けたみたい。

でも、絶好機。

この瞬間を逃さない。



「先手必勝なのーっ!」



一気に駆け出して、彼女に向かって真っ直ぐに疾駆。

殺さない様に、なんて甘い事は言わないの。

勝つ事が全てだから。

だから──



「───────っ!!??」



視界の中で、彼女は一瞬も私を見る事は無かった。

気付いていないみたいに、全く此方を見なかった。

視界の中で、距離は確実に縮まっていた。


それなのに──どうして。

どうして、私が倒れるの。


霞み、暗く染まる視界。

見ていた彼女の姿は消え、何も無い土の地面を見詰め意識は途切れる。

一人きりで。



──side out。



 李典side──


いざ──と思うたんやけど正直に言ぅたら、横に居る于禁が邪魔なんよ。

ウチとしては凪と一対一で闘りたいんやけど。


一応、同盟関係やしな〜。

流石に“邪魔やから彼方に行っといてんか”とかよう言われへんわ。

…ウチが于禁の隙を突いて気絶させるっちゅうのも、ちょっと問題有るし。

一番良ぇんは于禁が空気を読んで、自分から何処かに行ってくれる事やけど。

…見た感じ無理そうやな。


チラッ…と、向けた視線の先では、顔を若気させとる于禁が凪を見詰めとる。

その表情から大体の考えを読み取れる程度には、一応付き合いが長かった。

まあ、ウチ等が于禁の事を読めても逆は無理やけど。


自分も于禁の事を偉そうに非難は出来へんけど。

于禁も大志とかを持って、この乱世に戦う事を選んだっちゅう訳や無い。

流れで、何と無く。

上手くいっとったから。

その程度でしかない。

本人の口から聞かんでも、理解出来る程度には性格を知っとるからな。


于禁は基本的には一般人。

臆病者やし、泣き虫やし、面倒臭がりやし、人見知りやったからな。

…人見知りは直ったんかもしれへんけど。

他は変わってへんやろ。

せやけど、于禁はお調子者やからな。

悪い方に考えんかったら、性格も悪い面が出難い。

極端な話、調子に乗っとる時は馬鹿みたいに明るくて前向きやからな。



(──ほんでもって、必ず遣らかしよるんや…)



程々にしとる内は、大きい失敗とかはせぇへん。

せやけど、今みたいな時は必ず遣らかしよる。

調子に乗り過ぎて、周囲も自分の事もよう見えん様に為るんは誰にでも経験した事は有るとは思う。

普通は、一回調子に乗って遣らかしたら反省する。

そんでもって、同じ過ちを繰り返さへん様に意識して自重したりするもんや。

けど、于禁は調子に乗ると過去の失敗も、学んだ事も忘れてまう。

調子に乗り過ぎて全く他の事が判らん様に為るんや。

視野・思考の狭窄っちゅう程度の話やない。

危なっかしいっちゅう度を越えてしもぅとるしな。

しかも、一度そうなったら失敗し切るまで止まらんし気付きもせぇへん。

厄介な事、この上無いで。



(…まあ、今の状況からで大体は想像付くけどな…)



大方、昔──まだウチ等が子供やった頃、凪の鍛練の相手をしとった時。

二対一で勝っとった事でも思い出しとるんやろな。

確かに、勝っとった。

それは間違い無い事や。


けどな、于禁。

そんなは、ウチ等が離れて各々に仕える主を見付ける五年以上も前の話や。

凪が──曹魏の軍将が。

そんな昔のままやなんて事有る訳無いやろ。

当然、成長しとる筈や。

自分の想像を遥かに越える“高み”にな。




尤も、今の状態の于禁には気付けっちゅうんが無理な話やろうけどな。


ウチは成長したって言える自信は有るけど。

于禁、自分はどうなんや?

今も“過去の結果”にしか勝機を見出だせてへん。

そんな自分は“成長した”って言えるんか?

…なあ、于禁。

自分、気付いとるか?

ウチ等が対峙しとるんは、曹魏の軍将なんやで。

あの曹操に認められとる、曹魏の重臣なんやって。



(…取り敢えず、移動やな

このまんま于禁と横並びになっとったらるとウチまで巻き込まれ兼ねんしな…)



そう思い、ゆっくりとした動きで凪を警戒しながら、于禁から離れていく。

…連携せぇへんのか?

無理や無理。

はっきり言ぅて于禁よりも凪と連携した方が遥かに、遣り易いわ。

特に今の于禁とはな。

自滅するん判ってて一緒に破滅しようとは思わん。

幾ら同盟や言ぅても所詮は別の主に仕えとる身や。

劉備の為に捨てる命なんかウチは持ってへんよ。

死にたかったら一人勝手に死んで逝きぃ。

ウチは全然止めも惜しみもせぇへんから。



(──って、何や?

どういうつもりや、凪…)



ウチの移動に合わせて凪が此方を見続ける。

于禁から完成に視線を外し“其処には誰も居ない”と“警戒する必要も無い”と言わんばかりに。

完全に無視している。

于禁から見れば隙だらけ。

だが、それ故に怪しい。

怪し過ぎる事だ。


それはまあ、凪も知っとる訳やからな。

于禁が自滅するん判ってて一々相手にするんは無駄や思うてるんやろうけど。

流石に露骨過ぎやで。

そないな単純な“誘い”に引っ掛かる様な馬鹿なんか流石に居らへんやろ。

幾ら何でも于禁かてな。



「先手必勝なのーっ!」



……アカン、居ったわ。

綺麗に引っ掛かっとるのが今ウチの目の前に居る。


ちゅうかな、こんなでよう劉備の所で軍将なんて真似遣っとれるな。

…劉備の所やからか。

せやな、そうやったわ。




于禁は凪に向かい真っ直ぐ猪の如く突撃する。


さっきまでの手合いは小手調べに過ぎひん。

互いに様子見やった。

──筈なんやけどな。

ウチの目が可笑しいんか。

于禁が、えろぅ遅い。

隙を突くんやのに自分から声を上げるとか。

有り得へんやろ。

自分、何がしたいねん。

攻撃するのを相手に教えてどないすんねん。

それともアレか?

ウチに“合わせろ”とでも言ぅとるつもりなん?

無理やからな、于禁。

凪はしっかりとウチを見て目を離しとらんから。

隙なんて出来へんて。


──とか、思っている間にあっさりと終わった。

凪の左拳の裏拳。

その一発を鳩尾に受けて。

于禁は地に倒れ伏した。



(…えげつないで今の…)



観ていたから判る。

凪は全く于禁を見る事無く右前の半身に構えてからは動いてもいなかった。

──が、最後だけ違う。

于禁には動いていない様に見えていた筈や。

せやけど、于禁の間合いの一歩外に達した瞬間。

凪は自分から間合いを詰め一瞬で距離を殺した。

せやから、于禁には目測を誤ったっちゅう認識すらも有らへんやろな。

動いてへん対象に向かって全力で真っ直ぐに走って、最後だけ詰められる。

しかも体勢は変わらへん。

近付いたら視野狭ぅ為るし全く同じ格好のままやから動きにも気付けへん。

その認識に隙が生じた所に必要最小限の一撃や。


実際に遣られたら、躱せる気はせぇへん。

逆に遣ろうと思うても先ず出来へん。

端から観とると単純やって判るんやけどな。

同時に物凄い事やともな。

ホンマ、怖い位や。


せやけど、口元には自然と笑みが浮かぶ。



──side out。



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