表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫三國史  作者: 桜惡夢
673/915

        参


大きく溜め息を吐きながら雪蓮が背凭れに背中を預け緊張感を緩める。

“あれね、何だか真面目に考えてるのが馬鹿馬鹿しく為ってきちゃったわ…”と言いた気な態度に内心では苦笑を浮かべる。

一応、自分が中心に為った話題なので真面目な態度は崩さない様にする。

…まあ、肩に力なんて全く入ってないんだけどね。



「となると…実は深い意味なんて無かったとか?」



暗に、“祐哉の気にし過ぎだったって事?”と雪蓮が訊いてくる。

別に、俺が“聞いて欲しい事が有るんだ”とかって、始めた訳じゃないんだけど今更言ってもなぁ…。

批難とかはされなくても、愚痴られそうだ。

でも、全くの無意味って訳じゃあなかったとは思う。

と言うか、“気のせい”で済ませるのは早計かな。



「んー…可能性としては、有り得そうだけど…

抑、今回の会談に北郷って必要だったと思う?」


『要らない』



俺の言葉に一切の躊躇無く皆が“不要だ”と断じた。

その…自分で訊いておいて何なんだけどさ、当事者がこの場には居なくて本当に良かったって思うよ。

流石に、ちょっとは彼にも同情したくなったから。


まあ、それは兎も角。



「この会談は互いにとって重要な事は当然…

宅にしても、大国となった曹魏との将来的な関係上で立場を左右する事になる

曹魏を敵に回す位だったら劉備達を敵にして倒す方が遥かに容易いだろうし…」


「まあ…そうでしょうね

はっきりと言ってしまえば高順と呂布…

この二人だけでも、十分に宅を壊滅させられるわ

下手に兵を率いているより彼等が単騎で戦う事の方が戦力的には脅威だもの」



“確かに…”と頷く面々。

康拳と丐志は知らないから実感は無いんだろうけど、話は聞いている。

それに他の皆の反応を見て“それ程なのか…”という印象を感じている様だ。


実際問題、曹魏と正面から事を構えれば、100%で宅は敗北すると思う。

雪蓮は言わなかったけど、曹魏の戦力は二人だけではないんだからな。

考えれば考える程、勝率は絶望的だったりする。


それでも、劉備達と組んで曹魏と戦う理由は有る。

そうでなければ今回の話を受けたりはしない。



「会談が始まる以前から、宅の優位は決まってた

お互いの戦力や領地が拮抗していたんだったら、話は違っていたんだろうけど…

今回の事に関して言えば、劉備達にとって是が非でも宅との協力・同盟の締結は必要不可欠な事だ

だから、最初から“可能な限り不利にならない範囲で条件を飲む”事は決定事項だったと思う

逆に宅は、“可能な限り、利の有る条件を飲ませる”事を念頭に置いてた

勿論、欲張り過ぎない事も重要だけどね

だからこそ、無駄な弱みや不安要素は排除して臨む

それが当たり前だと思う

だったら、北郷が居る事は何方に転ぶのか…

俺でさえ判る事を諸葛亮が判らないとは思えない」






「…そうね、そう考えれば無意味って事は無いわね」


「既に剥がれている以上、同じ手が通用するだなんて考えてもいない筈だ

となれば、北郷が居るのは宅との協力・同盟の締結を勝ち取れるだけの何かしら“切り札”を持っていると考えた方がいいと思うんだ

それが何かは判らないけど北郷が居るって事は、北郷自身でなければ為らないと言っているのも同じ…

少なくとも情報や物である可能性は低いと思う」



端的に言えば“能力”的な何かじゃないかな。

“氣”という線も無いとは言えないんだけど、此処で下手に具体的な事を言うと他の可能性を排除しそうで怖いから言わない。

はっきりしないからな。



「…つまり、あまりに宅が一方な条件を突き付けたら立場を覆す為って事?

でも祐哉?、それだったら最初っから見せちゃって、お互いの立場を改めさせた方が良いんじゃないの?

少なくとも、その方が宅は提示する条件を緩めないといけなくなるもの」


「…そうでもないわ」


「…詠?」



此処までは黙っていた詠が不意に会話に入って来た。

別に悪い事ではない。

寧ろ、今まで聞きに徹して色々と考えていた筈。

その上での予想が出来て、入って来たんだろう。



「確かに、締結させる為の条件だけを見れば最初から優位に立ちたい筈よ

けど、将来的な事を考えて関係を築こうと考えるなら敢えて自分達を下に見せ、“切り札”を後で切る事で警戒心と恐怖心を煽って、“敵に回す事は脅威だ”と深く印象付けた方が後々の主導権を握れるわ

勿論、祐哉の言った様に、あまりにも不利な条件だと切ってきたでしょうけど…

今回は、劉備の変化という突発的な事態が起きたし、その事も踏まえて劉備達に不利過ぎない条件の内容で纏まったわ

だから、出番が無いままで終わったというだけ…

実際、此方が出した条件は劉備達の意向を尊重して、締結させる訳だから当然の事だって言えるわ

それを不服だと言うのなら最初から会談なんて面倒な真似は遣らない筈よ

今回の会談を利用して宅に近付いて、主力を排除して領土や戦力を奪い取る位の事を遣ってくるわよ」


「あー…確かにね〜…」


「もう一つ付け加えるなら北郷の“切り札”は脅威的なんだけど絶対的じゃないって事だろうな

絶対的なら、詠の言う様に協力・同盟なんて面倒な事必要無い筈だから」



どの程度かは判らない。

けど、何かしらの制限等が有るのは確かだと思う。

無尽蔵で理不尽で無敵なら劉備達が単独で曹魏を倒し天下を獲っている筈。

そうは為っていない以上、万能でも絶対でも無い事は確かだと言えるだろう。




諸葛亮が“切り札”として使えるのだと判断した以上当然、侮れはしない。

寧ろ、警戒すべき事だ。

しかし、警戒し過ぎた結果“見えない影”に翻弄され自滅する事も有り得る。

其処は注意しないとな。



「話を纏めると…

北郷の“切り札”が何かは具体的には判らないけど、曹魏との一戦でも使用する可能性は十分に有って…

それを私達に見せる事でも将来的に主導権を握って、自分達の理想を実現しようとしている、と…

そういう事な訳ね?」


「んー…そんな感じかな」



改めて思うんだけど。

劉備達って、言ってる事と遣ってる事が矛盾し過ぎて面倒臭いよな。

しかも、自分達の為に民を“使い捨てる”事を劉備が自ら肯定したし。

質が悪いっていうレベルを超えてる気がするけど。

…気にしたら負けかもな。



「なら、取り敢えず、宅は予定通りに行きましょう

下手に勘繰って自滅したり突け入る隙を作ってしまう事が無い様にね

その“切り札”の見極めは孰れ出来るでしょうし」



そう言うと雪蓮は穏と詠を見て意見を求める。

二人は互いに顔を見合せ、小さく頷き合う。



「異論は有りませんね〜」


「此方としては十分な利を見込んでの締結だったし、余程不用意な真似をしない限りは大丈夫だと思うわ」



「じゃあ、そういう事で…

何か、質問とか有る?」



穏達の承諾を得ると雪蓮は最後に他にも気になる事が有るのかを訊ねる。


当然と言えば当然の様にも思える事なんだけど。

実は結構珍しい事らしい。

普通は会議等の場合だと、報告を聞いて終わり。

或いは必要最低限の事しか話をしないそうだ。

こんな風に、話し合い形は主君の居ない場所で事前に行われる事が殆んどらしく“それもそうか…”と納得出来てしまう。

まあ、俺個人は今みたいな形の方が好ましいけど。


そんな事を考えている中、丐志が静かに手を挙げる。

隣に居た康拳の“変な事を訊くなよ?”という厳しい眼差しにも、紳の“御願いだから穏便に済ませて”と縋る様な眼差しにも大して反応しないでマイペースな様子の丐志。

…ああいや、訂正。

康拳の眼差しには若干だが興奮しているらしい。

康拳からは、見えない方の口元が緩んでいるから。

うん、流石だな。



「丐志、何かしら?」


「はい、私は劉備達を直に見るのは初めてですが…

あの諸葛亮という少女?、彼女は祐哉殿が警戒する程凄い人物なのですか?

正直、其処までの人物には見えなかった物で…

ああいえ、軍師を担う事が可笑しいと言う訳ではなく単純に宅の軍師陣の皆様の方が全然優秀な気がする、というだけの事ですよ」





丐志の意外にも正面だった質問に場は静まる。

康拳なんて我に返ったら、“──はっ!?、まさか此奴丐志の偽者かっ!?”なんて言い出しそうな雰囲気で、丐志を見ていたからな。

まあ、康拳のその気持ちは判らないでもないが。



「…だそうよ、祐哉」


「俺に振るんだな…」



再起動した雪蓮は俺の方に話を振る──と言うよりも丸投げしてきた。

面倒臭いっていうのも多分有るんだろうけど。

丐志の質問自体が諸葛亮に対する俺の評価って部分でなんだろうけど。

本人の目を見る限りでは、“後は宜しくね〜♪”って遣る気が全く無い事を俺は察してしまう。

…繋がりが深いだけにね。


まあ、それはそれとして。

さて、どう言おうか。

下手な事は言えないよな。

今更、“歴史”は当てには為らない状態だし。

“原作”に関しては言える訳が無いし、言いたいとも思わないんだけどさ。

…これ、結構難しいな。



「え〜と…そうだな…

雛里が同門だったって話は知ってるよな?」


「ええ、聞いています」


「其処で、雛里と諸葛亮、もう一人の三人が同門では頭抜けていたらしい

師である司馬徽──水鏡に特に将来を嘱望されていた存在だったんだそうだ

勿論、勉強と実戦では全く別物なんだけどさ…

雛里は旅の途中で諸葛亮とはぐれてしまって結果的に宅に加入しているんだけど諸葛亮は当初から巷で噂の“天の御遣い”を探し出し仕えるつもりだったらしく実現させていた訳だけど…

宅──雪蓮と劉備とだと、劉備に仕える事の方が道が険しかったりする

当然と言えば当然だけど、雪蓮には孫家という土台が最初から有るからな

状況的には苦しくても力は有った訳だから、劉備とは比べる事は難しいし…

それでも、“黄巾の乱”で台頭してみせた

反董卓連合では繋迦の前に敗れ去って、勢いだけではどうにも為らない、厳しい現実を突き付けられたが…

今も尚、その歩みを止める事無く劉備達を再起させ、此処まで辿り着いている

その手腕を軽く見るという事は出来無いからな

何より、失敗から学ぶ事で成長している事だろうし、油断は出来無い…

と言う感じだな」


「成る程、判りました」






「──で、本音は?」



解散し、“気晴らしに”と街に出掛けた先で、右腕を取って歩いている雪蓮から思い出したかの様に唐突に訊ねられる。

でも、驚きはしない。

丐志達は兎も角としても、付き合いの長い雪蓮達には誤魔化しは通用しないって思っていたからな。

勿論、嘘は言っていない。

理屈っぽく言えば、あんな感じになるというだけで。



「諸葛亮に関して言えば、能力は侮っていないな

穏達と比べても劣らない

本当に、そう思ってるよ」


「諸葛亮の事はいいのよ

どうせ、説明する為だけに引き合いに出しただけで、深い意味は無いんでしょ?

私達だって、諸葛亮の事は侮っていないもの」



“だから、白状しなさい”という感じで、俺の右腕をギュゥッ…と抓ってくる。

手加減してくれているけど地味に痛いから止めて。

ちゃんと話しますから。



「北郷の“切り札”は勿論気になるんだけどな…

やっぱり、俺個人としては“成長をしてない”感じが気になるんだよな…」


「…其処まで気になってる理由は何なの?

祐哉の事だから私の“勘”みたいに、本当に感覚的な物って訳じゃないわよね?

ちゃんとした理由が有って気になってるんでしょ?」



…見抜かれてるなぁ…。

俺、絶対浮気とかしたら、直ぐにバレるよね。

しようとは思わないけど。



「“天の御遣い”ってのが本当に“只の人”なのか…

それが、理由かな…」


「それは…難しい所ね…」


「本当、難しいよな…」



俺自身は一般人だけど。

高順の様な例も有る。

北郷が“一般人”かどうか明言は出来無い。


真偽は兎も角としても。

今回の会談に同席した事で小さな疑念が生まれた。

それだけは間違い無い。



──side out。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ