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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
672/915

        弐



「…まあ、気になった事が有るのは確かだけど…」



皆からの注目を集めながら話すかどうか、悩む。

内容自体は大した事はない違和感程度の物だ。

しかし、その違和感の事を説明する点で、小さくない疑問を孕んでしまう。

それを訊ねられる事の方が俺としては困る訳で。



「祐哉、貴男の言葉を疑う者は此処には居ないわ

だから、話して頂戴

きっと、貴男の感じた事は私達には必要だと思うの」



逡巡している俺の気持ちを見抜いている様に、雪蓮は背中を押してくる。

…いや、逃げ道を塞ぐ、と言うべきなのかもな。

まあ、こうなったら諦めて話すしかないか。



「…はぁ…判った」



俺は一つ溜め息を吐いて、雪蓮の要求に従う。

…流石に大袈裟か。

どの道、何人かには聞いて確認するつもりだったから同じ説明をする手間も省く事が出来るしな。

前向きに考えよう。



「俺が感じたのは違和感だ

但し、劉備じゃない

北郷──“天の御遣い”に対してだ」



久しく孫家内でも話題にも上がらなかった言葉。

それを聞いて雪蓮は勿論、皆が一様に眉根を顰めた。


紳や康拳達にも俺の事情は簡単に話をしてある。

件の北郷の事は勿論だし、曹魏の高順の事も。

だから、今更詳しい説明は必要とはしない。

その点は楽だと思う。

まあ、今に至るまでに数を熟しているから、慣れてるという悲しい事実は有るが気にしたら負けだよな。



「…なあ、雪蓮

雪蓮から見て、今の北郷はどういう風な印象だ?」


「…“黄巾の乱”を含め、何度か私も直に見てるけどこれと言って特に変わった様子は無いと思うわね

まあ、正直な所、其処まで注意を払ってもいないから何と無くだけどね

まあ、繋迦に遣られた傷は別としてもね」



そう返す雪蓮の言葉に皆も小さく頷いている。

雪蓮にしてみれば、大体が曹操という存在が居たから意識は其方に割かれるのは仕方が無い事だろうな。

無視も油断も出来無い相手なんだからな。


同意する気持ちは、俺にも理解出来無い訳ではない。

皆と同じ立場なら、俺自身違和感なんて感じる必要は無かっただろう。

しかし、嬉しくはないが、皮肉と言うべきか。

同じ“天の御遣い”だから気になってしまった。



「ああ、その通りだと思う

俺自身は雪蓮に比べたら、回数は少ないけど…

北郷は、黄巾の乱の時から身体付きが変わった様子が見られない

まるで“成長していない”みたいに、だ」


『──っ!!!!!!』



そう俺が言うと、雪蓮達は驚きを露にした。

無理も無い事だと思う。

場合によっては“不老”と受け取れなくもないんだ。

其処から“不死”を連想し畏怖を懐いたとしても何も可笑しくはない。

だから驚かない筈が無い。


勿論、そんな事は無いと、俺自身は思っている。

ただ、違和感は拭えない。

だからこそ、気になる。

今の北郷の状態が。




場の空気が重くなった。

それも仕方が無い事か。

だが、気にし過ぎても良い事には為らないのも確か。

なら、“気にしない”事も良い選択肢の一つだと俺は思っている。

まあ、今回は考えて置いた方が良さそうだけどな。



「正確に言えば、少しだけ違ってるかな」


「…と言うと?」



皆の肩の力を抜くつもりで軽い口調で言ったら、俺の意図を察した雪蓮が直ぐに合わせてくれる。

“自己完結(想像)”の中で勝手に終わらせてしまうとどんな影響が出るかなんて判らないからな。

出来れば、不安要素となる要因は摘んで置きたい。



「例えば、身長だな

僅かとは言え、以前よりも伸びているみたいだ

髪も長めに為っている

なら、爪だって伸びている筈だろうからな

“全く成長しない”のならこれらは有り得ない事だ

だから、北郷が“不老”の類いだって可能性は無いと思うって事だよ」



身長は1〜2cm程かな。

髪に関しては伸びたのか、伸ばしているのか定かではないんだけどさ。

兎に角、そういう意味での成長はしているって判る。


因みに、俺も身長は6cm程伸びていたりする。

流石にもう止まったのかと思っていたから、ちょっと驚きだったりする。

…生活環境が変わったのも要因なのかもな。

ほら、魚とかでも飼ってる水槽等の大きさが変わると大きくなったりするし。

あんな感じなのかも。

俺は詳しくは判らないから説明は出来無いけどね。



「それじゃあ、さっきのはどういう意味な訳?

“成長していない”けど、そういう成長じゃないって訳が判らないわよ?」



雪蓮の疑問は御尤も。

他の皆も同意する様にして頷いている。

別に、なぞなぞを出してる訳でもないんだけど。

こういうのって説明しないままだと判らないよな。

逆の立場だったら俺も皆と同じだと思うしな。



「んー…そうだな…

簡単に言うと、アレかな

鍛えていると腕とか脚とか太くなるだろ?

筋肉の量が増えるんだから当然の事だし、逆に鍛練を怠ると筋肉は減っていって細くなってく物だ

…まあ、肥えて大きくなる場合も有るんだけど、今は無視して置くとして…

普通、死にそうになったらどうしようと思う?」



そう皆に訊ねる。

けど、間を置くだけ。

皆から答えが返るのを待つつもりはない。

飽く迄、考えて貰う為の、その為の質問だから。



「俺だったら大きく分けて選択肢は三つだな

一つ、二度と戦場に立つ事なんてしないし、それらに一切関わらない様にする

二つ、それが出来無い場合常に強い誰かの傍に居る様にするか、誰かを傍に置く様にする

三つ、その何方らでもない

“自分が”強くなる、だ」





俺が何を言いたいのか。

何処が焦点なのか。

皆、気付いたらしく、口を“あっ…”と言うみたいに小さく開いている。

実際には声を漏らした者は居なかったんだけど。



「…そう言われてみれば、確かに北郷の身体付きって変わった気がしないわね」



そう言いながら雪蓮は俺の身体を頭の先から爪先へと視線を移動させる。

他の皆も同じ様に。

…何かこう、擽ったいが、今は我慢して置こう。

変なリアクションをしたら話が逸れてしまうからな。



「…“天の御遣い”という括りでなら、俺と北郷とは“同様の存在”になる

高順に関しては容姿自体が不明だから除外するけど…

そうだとしたら、何方等が“成長していない”なんて印象を受けるのは変だ

少なくとも俺は鍛練をして身体付きは変わってる

まあ、成長期とかの違いも有るんだろうから、一概に同じだとは言えないけど

それでも、不自然に感じる事は否めない」



此処で言う身体付きとは、筋肉面での意味が強い。

容姿──骨格や体毛・爪の成長は含まない。

飽く迄も、身体の筋肉的な成長と変化の話だ。


事前の身体検査では北郷が腰に剣を佩いていたという事を聞いている。

それを考えれば、繋迦との戦いに敗れてから、強さを求めて鍛練をしていた。

その可能性は高いと思う。

勿論、向き不向きや成果が必ずしも目に見える形へと為るかは判らない事だが。

遣っていないとは考え難い状況ではある。

だからこそ、可笑しい。


これは“原作”という物が事前に知識として有るからなのかもしれない。

そう思わなくもない。


実際問題、筋肉面で見ても雪蓮達は特に変化している印象は受けない。

と言うか、基本的に筋肉の増減が見えません。

でも、強さは増してます。

そういう意味では雪蓮達は特別なのかもしれない。

或いは、そういう体質だと考えるべきなのかもな。


しかしだ、全く無いという訳でもないんだ。

雪蓮達の場合は女性らしい身体付きが目立つだけで、きちんと筋肉は有る。

季衣の様に体躯に不相応なパワーを発揮出来る理由は“氣”位しか、心当たりは無いんだけど、使えているという訳でもない。

其処は不思議な所だ。

そういう物を持つからこそ“英傑”だと言うのなら、そうなのかもしれないが。

はっきりとは言えない。


とは言うものの、雪蓮達と北郷が“同質”であるとは思えないのも事実。

もしも、“天の御遣い”がそういう存在なんだったら俺自身も、そうでなければ為らないのだから。

また、仮に北郷自身が同じだったとするなら、繋迦に敗北した事が変だ。

それだけの資質が有るなら“此方”に来る以前から、北郷は頭抜けた存在として活躍していた筈。

そうではないから、北郷は“御輿”役をしていた。

そうではないから、北郷は自らが戦場に立って前線で戦う事はしていない。

北郷の言動こそが何よりも彼を語っている。




勿論、“此方”に来てから資質が目覚めたというのも考えられなくはない。

飽く迄、可能性としてはの話でしかないが。


実際には、そうだとしたらもっと早くに頭角を現して活躍していたと思う。

そういう意味では高順には当て填まるかもしれない。

…推測の話だけどな。



「違和感を感じたって事は理解出来たけど…

本当にそれだけなの?

祐哉の感じる違和感って、私の“勘”みたいに当たる事も有るから、私としては結構気になるんだけど…」



理解はしたけど、納得する所までは到っていない。

だから、消化不良のままでモヤモヤしている。

そう、雪蓮の眼差しが俺に訴えてきている。



「…まあ、違和感を感じた要因自体は其処なんだけど何と無く気になったのは、“自分が成長していない”或いは“自分が成長したと感じられない”と北郷自身気付いている筈だ…

それなのに、何故、北郷は自分から此処に来た?

それも再び“天の御遣い”という呼称付きでだ」



そう他人の俺が感じる事を当事者である北郷自身が、周りの劉備達が気付かないというのは可笑しい。

仮に、鍛練をしていないと仮定すれば有り得る訳だが俺達の前に出て来た時点で無い事だと思う。

劉備達は全員が全員事実を知っているとは限らないが少なくとも趙雲辺りなら、知っているとは思う。

鍛練相手として考えるなら劉備達の中では趙雲が最も適任者だろうからな。

その趙雲が北郷から離れた位置に立っていたのだから更に可笑しい。


“天の御遣い”の呼称にも同じ事が言えるだろう。

既に鍍金は剥がれ落ちて、価値を失っているのだ。

今更になって、再び名乗る事に何の意味が有るのか。

その意図も判らない。


つまり、北郷が居る時点で何処か釈然としない訳だ。

北郷が居る事自体が全てに違和感を感じさせている。

はっきりとしないまま。

燻り続ける火種の様に俺は感じてしまう。





「言われてみれば、確かに可笑しいわね…

最初は飽く迄も過去の物に為ったとは言え、民の心を引き付ける要因だったから“箔を付ける”意味でって思ってたけど…」


「ああ、今は逆に多勢力の民には悪印象しか与えない

当然、宅も例外じゃない」



それなのに、だ。

仮に“天の御遣い”として劉備と共に交渉の席に着き話すというのなら意図的に考えられなくはない。

だが、実際には立っているだけだった訳で。

不自然さしか感じない。



「…もしかして祐哉の事に気付いたとか?」


「それは無いと思う」


「どうして?

寧ろ、今まで自分以外には居ないって感じだった方が可笑しい位よ?

普通なら、他にも複数名が存在する可能性を少し位は考える筈でしょう?」


「そうだろうな

で、普通なら“帰る為に”情報の収集や共有の意味で協力関係を築くと思う

ある意味、北郷が御輿役を遣っていた理由の一つには“自分以外の可能性”への判り易い呼び掛けだったと言えると思う

“自分は此処に居る”と、“同じ境遇の者が居るなら出て来て欲しい”と…

…まあ、俺も高順も各々の道が有るし、理由も有って“天の御遣い”として表に立つ事はしていないから、北郷が自分以外は居ないと思っても可笑しくはない

だから、他の勢力に探りを入れたりはしていない

厳密には遣る余裕が無いんだろうけどな…

もし、俺に──孫家内にも“天の御遣い”が居る事に気付いたなら、劉備の方が探りを入れてる筈だ

それが無かったし、今回の劉備達に必要以上に此方の様子を窺う様な素振り等は見られなかったからな

まあ、絶対に無いとは言い切れないけど…

可能性は低いと思うよ」


「…それもそうね…」





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