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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
63/914

         弐


 張任side──


“直ぐに戻る”と言いわれ散歩に出られた子和様だが半刻程しても戻られず…

泉里達が焦れて騒いだ結果“捜索”を提案。

華琳様の判断で私と思春が選ばれた。

私達二人が“感知”精度が高い為だ。

私達は二手に分かれ捜索を開始した。


結果は私の方が“当たり”だったが…溜め息が出る。

見付けてみれば見知らない女性達と賊らしき男達。

男達は全員倒されている。


状況は“いつも”通りだと物語っている。


取り敢えず、主の名に傷を付けてはならないと名乗り様子を見る。

子和様が“何方ら”の名を名乗るかは興味が有ったが本名を告げられた。


“此処”が既に華琳様──曹家の治める領地であると考えるべきか。

或いは…と考えていると、子和様と目が合う。



「儁乂、彼女達を案内して先に合流を」


「子和様は“後”を?」



笑顔で頷かれる。

まあ、それは仕方無い。



「仲達達が戻られない事に焦れていますから御早めにお願いしますね?」


「ん、判った」



本当に自由な方だ。

華琳様に改めて尊敬の念を抱いた私は間違ってないと言いたい。



「では皆様、私共の本隊に御案内致します

現状で人員・荷等は揃っていますか?」


「其処の茂みの先に私達の荷馬車が停めて有ります」


「そうですか

では、確認が済み次第出発しましょう」



文若殿の話を聞いて直ぐに行動を促す。

子和様の“後始末”の邪魔にならない様に。




彼女達を連れ現場から離れ皆の所へと向かう。

街道への山道を進んで行く途中に前方から気配を感じ探って見ると知った者。

思春が姿を現す。

警戒した彼女達に手振りで“大丈夫”と伝える。



「儁乂、子和様は?」


「彼方の先に居ます

私は彼女達を連れ合流する様にと言われましたから、子和様をお願いします

“くれぐれも”一人きりにだけはしない様に…」


「はぁ…了解した」



私の言葉で理解した思春が溜め息を吐く。

つい、苦笑を浮かべる私も“慣れた”ものだ。



「では、お願いします」


「其方も気を付けてな」



互いの役目を全うする為に背を向け、歩を進める。


ふと、私は思った。

もしかしたら、私達は違う道を歩き、違う主を仰いで敵対していたかもしれず、出逢う事すら無かったかもしれない。


“たられば話”と子和様は言われるだろう。

けれど、これだけは確か。

私達は、華琳様が仰られた様に子和様が居てこそ。


だから、感謝します。

その出逢いに。



──side out



 甘寧side──


子和様を探し、見付からず合流予定の場所で葵を待つ事にした。

だが、近付いてくる気配に氣を探って視れば複数。

その内の一人が葵。


何事かと向かってみれば、“また”子和様の悪癖──いや、自分達もその御陰で現在に至る為、強く否定は出来無いが──それにより助けられた者達だろう。


内一人は中々の気配。

他は皆、文官の様だが。

今までが一人か二人だった事も有り珍しく感じる。


葵は彼女達を連れ華琳様の方に合流するらしい。

場所が場所だ。

妥当な対応だろう。


葵達と別れ、子和様の居るだろう方向へと駆ける。

そう時間も掛からず気配を見付け、その場所へ。


着いてみれば、賊と思しき男達の屍が転がっていた。

何が有ったかは先の一行の存在を踏まえれば、想像に難くない。



「興覇、御苦労さん

提案者は仲達辺りか?」



地面に掘られた穴の中から顔を出し、そう訊いてくる子和様は苦笑している。

此方も判り易い事か。



「はい、焦れてしまい…

華琳様の判断で、私と葵が探しに来ました」



そう答えた後、視線を賊に向けて訊ねる。



「何人か“生かして”あるという事は…何か?」



転がる四十程の屍の中に、生きた氣が五つ。

子和様が“討ち漏らす”と思えない。

ならば、答えは一つ。

何かしら気になる事が有り“尋問”する為だろう。



「大した事じゃないさ

ただな…“此処”は曹家の治める地だ…

彼奴が統治する場所なのに匪賊“程度”が平然と居る事に違和感が有ってな」



そう言われてみると確かに子和様の仰る通り。

華琳様は子和様の妻であり最も影響を受けた方だ。

匪賊共の暴挙を見逃すとは考え難い。



「…政治的背景が?」


「それを確かめる為だ」



そう言って、浮かべられた笑みは子供の様に無邪気で──同時に飢えた獣の如き獰猛さと冷酷さを秘める。

子和様の“野性”とでも、言うべき一面。



「…程々にして下さい」


「善処する♪」



実に楽しそうに答える姿に葵の懸念が当たったと思い諦めて溜め息を吐く。


“玩具”を貰った幼子。

そう例えればしっくりくる笑顔を見て密かに苦笑。


取り敢えず、直ぐに合流が出来る程度の事で済む話で終わる事を切に願う。



──side out



儁乂が来て、荀或達を連れ華琳達の所へ向かった。

──と思っていたら、入れ替わりに興覇が来た。

…俺は迷子か何かか?

子供じゃないんだぞー。



「そう思うのなら真っ直ぐ戻って来て下さい」



ついには興覇にまで読まれ始めたか。

穴から出て、賊徒共の屍を放り込もうとした矢先の事だけに、ちょっと遣る気が殺がれ掛けた。



「…何故、判るんだ…」



膝から崩れ落ちそうな心を懸命に奮い立たせる。

立つんだ、俺ーっ!。



「普段から判る訳ではなく“偶に”表情や雰囲気から感じるだけです」


「…自慢じゃないが真意を覚られる程、判り易い性格・言動じゃないと思うが…

そんなに判り易いか?」


「“愛、故に”でしょう」


「…“女の勘”って絶対に男には解らない事だな…」



軽くスルーしたら、興覇が外方を向いた。

“拗ねた”訳ではない。

彼女の耳が赤くなったのは見逃さなかったが、揶揄う事は諦めよう。

早く済ませて戻らないと、“第二陣”が出そうだ。



「さっさと片付けるか…」


「そうして下さい」



即座に平静を装う辺りは、流石だと思う。


中断していた作業を再開し屍を穴に放り込み、峰打ちした賊の頭らしき男を含む五人を縛り上げる。

そして──蹴り着ける。



「…っがぁ…な、何が…」


「お目覚めかな?」


「て、手前ぇ──っ!?」



此方に気付いて、叫ぼうとするが自分が縛られている事を認識する。

他の四人も同様に。



「さて皆様、左手側を御覧下さい♪」



添乗員風に営業スマイルで右手を挙げて視線を誘導し“それ”を見せる。



「其方らに見えますのは、“愚か者”達の“末路”に御座います♪」



穴の中に積み重なった仲間の屍を見せつつ、朗らかにそう言ってやると、案の定五人共に息を飲み、顔色を青くしていく。



「皆様が愚かではない事を期待致します♪」



此方へ意識を向けさせて、恭しく一礼して見せる。

“愚か”という事が何かを想像し印象付けさせる。


その上で、部下の一人へと顔を向ける。



「では、御訊きします

貴方方は“何”が目的で、此処へ?」


「し、知らねぇ…」



視線を泳がせ、吃りながらしらを切る男。

まあ、我欲を満たす為とは言えないだろうな。



「そうですか」



笑顔を崩さず、声色も一切変える事無く、右手に持つ翼槍を一閃。

男の首を刎ね飛ばした。




首を失った身体がゆっくり後ろへと仰向けに倒れる。


そして思い出したかの様に血が吹き出す。



「なっ──」


「ヒィッ!?」



それを見て、驚愕と恐怖に顔を染める四人。



「“知らない方”には用は有りません」



そう呟きながら、次の男に顔を向ける。



「貴方は如何ですか?」


「…知ってる

知ってるから、先ずは俺を自由にしてくれ」



中々度胸が有る──よりは単に諦めが悪いだけ。

暗愚な悪足掻きだ。


小首を傾げながら、笑顔を浮かべ──一閃。


首を刎ね、俯せに倒れ込む身体を見ていた残る三人が恐る恐る此方を見た。



「“嘘を吐く者”にも用は有りませんから」



ゴクッ…と息と唾を飲み、冷や汗を流す三人。

変わらない態度で三人目に顔を向ける。



「貴方は?」


「………」



外方を向いて視線を外し、黙り込む男。

“悪事”を働いていた事の自覚が有るのだろう。


話せば死、偽れば死…

ならば“沈黙”するのみ。

当然と言える選択。


しかし──“愚か”だ。

容赦無く翼槍を一閃。

頭を失った身体は右横へと倒れて血を吹き出す。



「“口を利けぬ者”にも、用は有りません」



残るは二人。

どう“命の選択”をするか楽しみだ。



「さて、貴方は──」


「お、俺達は兄貴の命令に従っただけだっ!

目的も何も知らねえっ!

仲間も全員殺されたっ!

全部知ってるのは兄貴しか居ねえんだっ!

た、頼むっ!

命だけは──」


「──我欲を満たしたのは己自身でしょう?」



仲間を売っても助かろうとする男に事実を突き付け、口籠った瞬間に一閃。

乗った頭目──“兄貴”に向き直る。



「その“目的”とは?」


「…手前ぇ、一体何も──ぐあぁっ!?」



賊徒達が持っていた直剣の一つを男の左の太股に突き刺し地面に縫い付ける。



「質問に答えなさい」


「ぐぁ…くっ…も、目的は“人拐い”だ…」



やはり、か。

しかし、それは“端から”判っていた事だ。

高が賊が危険を犯してまで“此処”へと侵入して来た理由なんて欲に塗れた事に決まっている。


この男も“三下”とは言え平均よりは上の力量。

だが、百人にも満たない、“小物”の一党の頭。

謀略を巡らせるには役不足だと言わざるを得ない。


つまり“誰か”が裏に居て糸を引いている筈だ。



「“買い手”は?」


「………っ…じ、汝南の、商人…単硅(たんけい)…」



黙ろうとした所へと殺気を当ててやれば、あっさりと吐いた。

もう少し頑張って欲しいと思うのは不謹慎か。




事前に“視て”いた訳だが懐に有る“物”は約定書の類いだろう。

無用心だが、此方としては証拠が有るのは有難い。



「この辺りに“同業者”は居ますか?」


「…潁川には居ねえ…

刺史と太守の目が厳しくて割りに合わねえからな…

…俺が知ってるのは長江の南に多いって事だけだ…

まだ一度もしてねえ…」



“初心”な事は“商品”に手を出そうとした時点で、察しが着いていた。

大して驚く事ではない。



「“割りに合わない”事と判っていて“此処”に来た理由は同業者が居ない──では有りませんね?

“誰”に言われました?」


「──っ!?」



そう訊くと、目を見開いて明らかに動揺する。

どうやらそれなりの立場に有る者の様だ。



「“捨て駒”で終わるのか“道連れ”にするのか…

どうしますか?」



選択を出せば悩む男。

だが、尽くす“忠誠”など持っていないだろう。



「……魯国の相・陳逸…」


「その者も同じ“末路”を辿る事でしょう」



そう笑顔で言い翼槍を一閃して首を刎ねた。

傾き行く男の身体を右足で蹴って仰向けにし、左手で懐を探り書簡を取り出す。


書簡を懐──の“影”へと仕舞い、静観していた興覇へと向き直る。



「今聞いた事は全て皆には内密にな」


「…動かれないので?」



“内密”と聞いて“放置”だと思ったらしく、不満を表情が物語っている。



「いや、動くよ

但し、俺が“裏”でな…

何より今は表立って曹家に“火種”は持ち込めない

子揚の事も有るしな」



デリケートな時期だけに、慎重さと気配りを欠かす訳にはいかない。

子揚もそうだが宅の面子は“色々”有るしな。



「俺とお前だけの秘密だ」


「──っ…判りました」



平静を装う興覇だが動揺を見逃しはしない。

まあ、変に揶揄って機嫌を損ねて華琳に報告されたら困るので何もしないが。



「さあ、片して戻ろう」


「はい」



男の屍を穴に放り込むと、翼槍の鋒に炎を生み出すと穴の中へと放つ。

その火力は桁違いで数秒で全てを灰塵と化す。

掘り出した土を被せて埋め興覇と共に、その場を後にした。




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