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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
601/915

13 波高く、空曇り 壱


 劉備side──


──五月十一日。


漸く、南蛮──族長である祝融さんとの会談も終了。

成都に向け帰路に付いた。



「意見や主張が対立したり揉めたりせずに長引く事も無く、話し合いで解決する事が出来て、取り敢えずは良かったですね、桃香様」


「うん、そうだね

朱里ちゃんが上手く話して纏めてくれたお陰だよ♪

ありがと、朱里ちゃん」


「い、いえ、しょんな事は有りましぇんよ……はぅ…また噛んじゃったよ〜…」



照れていた朱里ちゃんが、噛んだ事に落ち込む。

その姿を見て、ニヤニヤと物凄く嬉しそうにしている星ちゃんは意地悪だよね。

でも、ちょっとだけ。

本のちょっとだけだけど、その気持ちは判る。

こういう時の朱里ちゃんて普段のしっかりした印象と差が有って可愛いから。

ご主人様の話だと、それが“萌え”なんだとか。

天の世界でも、可愛い物は可愛いって事なんだって。


そのご主人様だけど今回は成都の方で、お留守番。

一緒でも良かったんだけど私達も益州の全てを治める事が出来てはいない。

…曹魏の領地は除いても。

だから、いざという時でも対応が出来る様にと全員で来る事はしなかった。


ご主人様、音々音ちゃん、鈴々ちゃんの三人が成都に残る事になった。

決して、交渉には不向き、という理由ではない。

偶々、そうなっただけで。

他意は無い…筈。

そうだよね、朱里ちゃん?

そういう事は無いよね?


…あ、ほら、麗羽さん達も居るからだよね?

ちょ〜っと自由にされたら心配だからだよね?

そう思いながら肩を落とす朱里ちゃんを見る。

だって…ね?、その人選は朱里ちゃんだったから。



「にしても、臣従ではなく従属扱い、とはな…」


「ん〜?、それって何処か問題が有るの〜?」



星ちゃんと、沙和ちゃんが会談の件の話をしていた。

無事、何事も無く、交渉も纏める事が出来た。

私は、そう思っているけど星ちゃんは違うのかな?

そう思って耳を澄ます。



「臣従であれば、戦争時に参戦を命じる事も出来る

だが、従属関係の場合には強要する事は出来ん

もし強要して反抗されでもすれば自ら敵を増やす事に為ってしまうからな」


「あ〜、それは確かに〜…

でも〜、それってそんなに気にする事なの〜?

別に従属関係でも良い様な気がするの〜」


「南蛮だから、だな

南蛮の戦力は我々にとって無視は出来無い

それは良くも悪くもだ

味方としては計算(あてに)出来るのだけの戦力だ

同時に、敵対勢力としては脅威でも有る

敵対されて互いに消耗する事は悪手でしかない以上、彼方の要望が従属であれば飲まざるを得ない

と言うのが、我々が軍師の本音であろうな」



そう言って星ちゃんが顔を朱里ちゃんへと向ければ、苦笑している朱里ちゃんの姿が有った。





「…難しい話なの〜…」



星ちゃんの話に顔を顰める沙和ちゃんに対して、私はこっそりと同意する頷きを胸中でする。

流石に此処で表立って頷く勇気は私には無いから。



「星さんの言う通りです

一番良かったのは涅邪族の桃香様への臣従でした

ですが、無理強いした場合長期に渡る停滞状態に為る可能性が高いでしょう

…厳顔さんも言っていたと思いますが、祝融さんなら無意味な戦闘をしなくても話し合いに応じてくれます

でも、だからと言って必ず此方の望み通りに運ぶとは限りませんから…

今は少しでも早く、益州の全領地を統治する事…

それが最優先ですので」


「臣従はせずとも統治上は従属領として加わる

これは今の我等にとっては決して小さくは無い事だ

此処で欲を掻いては痛い目では済まなくなるだろう

そういう意味でも、彼方は上手かった訳だな」


「“落とし所”を理解して先手を打たれましたから…

とは言え、武力行使以外に臣従させる術は無い以上、私達に出来る譲歩の範囲内でも有りましたからね

…こういう時、知識よりも経験の有無が大きいのだと改めて思い知らされます」



そう言って、朱里ちゃんは俯いてしまう。

励ます言葉は出せる。

でも、それは説得力の無い軽い言葉だって事は、他の誰よりも私自身が一番理解してもいる。

ご主人様の言葉だったら、きっと朱里ちゃんも元気を出せるんだろうけど。

その辺は、ちょっと自分の力の無さが情けない。



「決して南蛮の森を荒らす真似はしない事…

侵略行為はしない事…

それらが厳守される限り、涅邪族は我等に対し敵対・侵攻は行わない…

要は、自分達に必要以上に関わらなければ此方からは何もする気は無い、と…

そういう条約だったな

まあ、孟獲達数名とはいえ臣従してくれた事は好材料ではあるがな」


「美以ちゃん達に関しては祝融さんも自己責任という事でしたからね…

色々と教えないと困るとは思いますが、頼もしい事は確かですしね」



祝融さんは美以ちゃん達の臣従に関しては特に問題が有るとは言わなかった。

とは言え、臣従した人数が少なかったというのも要因なんだとは思う。

実際、敗北は受け入れても臣従しよう、という意思を見せたのは少ない。

その事を考えれば、彼女達涅邪族は祝融の言った様に“祖先より受け継いだ地を森を護る事が我等の使命”という事なんだと思う。


その点に対し害を為す事が無ければ、彼女達は無闇に戦闘行為には及ばない。

“事前に知っていれば…”と思わなくはない。

でも、知っていても私達の出せる譲歩は変わらない。


それに、南蛮の地は広大で未開拓地ではあるけれど、簡単には開拓出来無い。

色々と不便でも有るし。

そう考えると南蛮の地への不干渉を保証するだけで、彼女達と手を取り合えた事は大きいのだと思う。



──side out。



 Extra side──

  /北郷


桃香達が“二度目”の南蛮遠征に経って数日。

特に問題も無く、のんびり過ごしていたりする。


いやね、男としては嬉しい状況では有るんですよ?

こんなに美女美少女達からモテるっていうのは。

でも、流石に連日連戦では体力的に厳しい訳でして。

…ええまあ、出発する前に桃香達には散々と搾られて干からびるかと思ったよ。

物凄く、嬉しいんだけど。

美少女ゲームなんかに出るハーレム系主人公には俺は成れそうで成れないな。

主に肉体的な面で。

持ちません、って事で。



「…にゃ?、お兄ちゃん、ど〜かしたのか〜?」



俺の太股を枕にし、一緒に庭の芝生で日向ぼっこ中の鈴々が眠そうに訊ねた。



「ん?、いや、何でも無い

ちょっと、ボーっとしてただけだからさ」


「ふんっ、いつも四六時中ボーっとしているので判り辛いのです」


「あ〜…そ〜なのだ〜…」



グハッ!、と吐血しそうな勢いで胸を抉る一言。

音々音、お前は相変わらず容赦が無いな。

そして、鈴々さんや。

そんなにあっさりしっかり納得しないで下さい。

涙が出そうなんで。


それでもまあ、この二人と一緒に居る時は個人的には気楽なんだよな。

音々音とは、そういう関係では無し、鈴々は桃香達と恋愛感が違うから。


…こういう事を考えてると年齢の事が気になるよな。

まあ、怖くて訊けないが。

その事実を知る、という事自体に対してだけどさ。

因みに、朱里に訊いた時は結局判らないままで延々と“女性に年齢を訊く事”に関する演説と講義を受ける事に為ったけど。

因みの因みに、普段は結構失言等も多い桃香ですら、この話題に関してだけは、口を固く閉ざしてしまう。

…皆、本当は幾つなんだ。

訊いてはいけないからこそ知ってはならないからこそ一歩、踏み込みたくなる。

その先に死が待っているのだとしても。



「…ああ、つい、緩過ぎて忘れる所だったのです

あの袁紹(ばか)が、時間が有れば部屋に来て欲しいと言っていたのです

確かに、伝えたのです」



そう言うと音々音は鈴々の襟首を掴んで引き摺る様に連れて行ってしまう。

…時々、思うけど不思議な光景が多いよな。

まあ、今更なんだけど。




音々音からの伝言を聞いて袁紹──麗羽の居る部屋に向かう事にする。


因みに、音々音は董卓達に対する麗羽達の行為を全く赦す気は無いらしい。

なので、麗羽達からは既に真名を預けられてはいるが決して口にはしない。

当然、自身の真名を呼べば容赦はしないだろう。

それは正に配達された荷を受け取り拒否し続けているお届け先の様だ。

…いや、其方は血生臭い事には為らないんだけどな。

まあ、音々音の気持ちも、麗羽達の気持ちも一応だが理解する事は出来る。

だから、下手に強要したり口を挟む真似はしない。

それが中立者(おれたち)の出した答えだったりする。


──で、その麗羽だが。

当初は生きている事自体が奇跡だと思えた。

傷よりも出血している方が深刻だったからだ。

当然だけど輸血なんて事は出来る訳がない。

抑、血液型の概念自体すら存在していないのだから。

正直、保護した時には俺は助からないと思った。


しかし、彼女もまた歴史に名を残した英傑の一人。

その生命力は伊達ではなく生き残る事が出来た。


尤も、そうなった理由とは貂蝉が持っていた自称秘薬を使用したから。

本当は俺達の誰かの危機の為に使うつもりだった物を俺達の総意で麗羽に使って助けた訳だ。

…決して貂蝉が褌の中から取り出したから嫌だとか、胡散臭いから、ではない。

そう、純粋な人命救助の為に使っただけだ。


因みに、俺や沙和の負傷に対し使用しなかった理由は“瀕死の者にのみ、有効”だからだそうだ。

つまり、それを使う為には俺達が更に危険な状態まで放置するか、意図的にする必要が有ったという事。

当然、その際に“絶対に、間に合う”保証は無いので遣らなかったそうだ。

要するに瀕死に有りながら踏み止まっていられないと意味が無い秘薬な訳だ。

確かに、そんな賭けをする位なら、普通に回復させる方法を選ぶべきだからな。

貂蝉の説明に納得した。


尚、麗羽には貂蝉の所有物であった事は話しているが“何処に”持っていたかは一切話していない。

本人の精神的な致命傷へと為る可能性を配慮した上で箝口令が敷かれている。

麗羽の立場に為ってみると笑えない事だからな。




そんな訳で、瀕死を脱した麗羽は暫くして目覚めた。

だが、曹操から受けた傷は肉体よりも精神に対しての物の方が深く、大きかったみたいで、麗羽は部屋から出ようとはしない。


ただ、それを駄目だと思う事は特に無かったりする。

勿論、身体が弱っていた事も有るので暫くは安静に、というのも理由に有った。

けど、それ以上に、下手に勝手に彷徨かれても此方が困ってしまうからだ。

連合軍での彼女の言動。

それを知っていれば、な。


そういった理由から麗羽の引き籠り生活は黙認され、多少の我が儘は通しているというのが現状だ。

…尤も、今の麗羽を以前の彼女を知る者が見たなら、驚くだろうけどな。


部屋の前に着くとノックしドアを開ける。



「麗羽、入るぞ」


「嗚呼っ、ご主人様っ♪

お待ちしておりましたわ」



ドアを開けて、一歩入った瞬間に抱き付いてくるのは部屋の主である麗羽。

しかし、外には出ない様に加減はしている。

それだけ、現実(そと)には行きたくないらしい。


抱き付いた麗羽は直ぐ俺にキスを強請り、顔を寄せて目蓋を閉じてくる。

それに応えて遣る。

唇が一瞬だけ触れ合う程の軽いキスでも、麗羽は頬を染め、嬉しそうに微笑む。

恋する乙女、と称する事も間違いではない反応だ。


…な?、こんな姿の麗羽を当時の姿からは想像なんて出来る訳が無い。

あの、“オーッ、ホッホッホッホッホッ!”な姿から想像は出来無い。

まあ、今は可愛いけど。

それに、以前の麗羽よりも遥かに魅力的だしな。

スタイルは桃香と比べても遜色無いんだし。



「ご主人様、どうか麗羽にお情けを下さいまし…」



そう言って俺の右手を引きベッドへと向かうと、俺を座らせて自分は俺の両足の間に入って跪く。

そして、ズボンを脱がして麗羽が始める。

それを俺は拒む事は無く、代わりに麗羽の頭を右手で優しく撫でる。

互いに愛しむ様に。

優しく、深く、激しく。

想いを交える。



──side out。



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