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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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         拾


──さて、どうするか。


そう考えたのが懐かしい。

実際の所、考える必要すら無かった訳だが。

既に“禍”本体には前回でマーキングしてある以上、繋がってさえいれば簡単に引き摺り出せる訳で。

本体を叩いてしまえば別に分断されていようとも特に関係無かったりする。

異空間と一緒に消滅をする可能性は有るが、その場合“纉葉”に有る保護機能が自動的に起動する。

そして、発信される信号を掴んで引き寄せれば済む。

それだけの話だからな。


──という訳で、遣る事は自分の仕事に専念。

其処に落ち着く訳だ。

それに向こうも俺に対して強い警戒心を懐いてはいるみたいだからな。

まあ、派手な歓迎を受けてお兄さんは御機嫌ですよ。



「ただまあ、この程度じゃ俺を本当に楽しませるには足りないんだけどな」



“それは貴男だからよ”と華琳の声が呆れている顔と一緒に脳裏に浮かぶ。

そして“うんうん”と皆が大きく頷く姿も。

そんな奥様方に言おう。

“お前達も同類だ”と。

…え?、“そうしたのは、貴男でしょう?”

…はい、その通りです。


がっくりと項垂れて地面に両手両膝を付く。



(フッ…禍に屈する事など無い我が、高が人間の娘に敗れさろうとはな…)



“何処の魔王よ、貴男は”と冷たい視線を向けて来るドSな覇王っ娘さんが──あっ、御免なさいっ、俺が悪かったからマジで止──ちょっ、其処はっ、待てっ話し合えば──と、脳内の展開でも尻に敷かれている自分に苦笑する。


尤も、今の俺の姿を端から見たら、“…ねえ、あの人大丈夫?”と心配されても可笑しくないけどな。


気を取り直して立ち上がる頃には周辺に散乱していた禍が寄越した歓待部隊──ではなく、分体の残骸達は綺麗に消滅していた。

一応、質より量で消耗戦を仕掛ける選択は間違ってはいないと思う。

人間で有る以上、戦い疲れ消耗すれば弱るのは必然。

彼等からしてみれば無理に短期決戦に持ち込む理由は基本的には無い。

冷静に搦め手で、じわじわ真綿で首を絞める様に攻め消耗させれば良い訳だ。

ただ、相手が悪いだけで。

だから、早く仕留めたいと思考を働かせる訳で。



(まあ、俺達に対し懐いた恐怖が故に、自ら主導権を放棄しているだなんて全く考えもしないんだろうな)



絶対的だと錯覚し勝ちな、非常に優位な立場に有ると主導権を握り続けるという事が当たり前だと思い込み疑う事すら無くなる。

赤子の様に一から学習する禍でさえ──否、それ故に人間よりも容易く陥り易い思考の落とし穴だろう。

思考の死角でも良いが。


実に、皮肉な物だ。

生命の理を外れながらも、存在として死を怖れる点は同じなのだから。

それが無ければ、こうして俺達に追い詰められる事は無いのだからな。




予想していない現状。

それでも、直ぐに何か手を打たないと“詰む”事実を察している。

故に、致命的な隙が生じる事に為ってしまう。


次の刺客を送り込もうと、空間を繋げた。

それを見逃しはしない。

“呪印”の発す氣の波長を探り──掴み取る。

同時に呪印に仕込んでいた縛鎖呪式を解放。

逃がさない様に絡め取ると“鏡面世界(ここ)”へと、強引に引き摺り出す。


そんな事態を想定してすらいなかっただろう禍本体は姿を露にする。


──と、同じタイミングで俺の右背ろに生じる空間の歪みを感知。

奇襲──をしている余裕が有るとは思えないが、一応警戒しておく。

…が、直ぐに必要は無いと理解する事になる。



「──此処は…雷華様!」



反射的に閉じていただろう目蓋を開けた愛紗の視界が俺を映すと、即座に焦点を合わせた様だ。

…条件反射、だろうな。

ただ、ぱあっ…と、表情を輝かせた愛紗を見たら何も言えなくなるが。

もしも尻尾が付いていたらブンブンッ!と風切り音を激しく鳴らしている様子が簡単に想像出来てしまう。


そんな事を考えていると、左後ろにも歪みを感知。

愛紗は警戒するが、先程と同じだろう。

姿を現したのは、翠。

愛紗と同じ様に反応し──愛紗からの視線に気付くと無言で睨み合う二人。

二人の視線の会話の内容が理解出来てしまうが直ぐに思考から破棄する。

下手に関わると火傷程度で済まないからな。


──と、三度の歪み。

俺の真後ろに──睨み合うど真ん中──ではなくて、俺に近い位置に当然の様に現れたのは螢。

愛紗達も一時停戦し、螢の存在を確認する。

実力的には問題無かったと思ってはいても、三人共に無事で合流が出来た事には素直に安堵する。


──と、思っていると螢が真っ直ぐに俺に突っ込んで来たので、振り向いて螢を抱き止める。

すると、螢がぎゅ〜っ…と俺に抱き付いてきて顔を、身体を、すりすりすりっとマーキングをするみたいに擦り付けてくる。


久し振りに飼い主に会えた愛犬か愛猫みたいだな。

…そんな現実逃避を考え、視線を向けるか悩む。

かなり、真剣に。

それでも仕方無いと諦め、視線を向けると愛紗と翠が凄く悔しそうにしながらも螢が相手という事で我慢し感情を抑えていた。



(…今夜は荒れそうだな)



螢の頭を右手で撫でながら安易に予想の出来る展開に胸中で苦笑を浮かべる。


…え?、禍の本体?

置いてきぼりにされたからなのか、大人しいです。

…済みません、嘘です。

何か結構足掻いてますけど縛鎖で縛ってますから。

そんなに簡単に破れられる様な手抜きはしてません。

だからさ、もう少し空気を読んで静かにしてなさい。

これが済んだら直ぐにでも始末してあげるから。




駄々を捏ねる子供みたいな禍の本体は、呆気ない程に簡単に討滅されました。

…俺に、じゃないですよ?

ええ、何故か知らないけど珍しく本気で怒る螢と共に不機嫌且つ、苛立っている愛紗と翠によって、だ。

…うん、見てて可哀想だと思ってしまう程に一方的な蹂躙だったよ。

出番?、下手に手を出すと後で拗ねられそうだから、静かにしていましたとも。


…ああ、因みに。

禍の本体の姿は、芋虫的な下半身にスカートみたいに巨大な触手が十本。

上半身は四方を睨み付ける様に四頭八腕の獅子。

全ての腕に剣か槍が有り、四頭は炎を吐き出す。

触手の先からは第一接触で対峙した死神や歓待部隊の骸骨兵が産まれ落ちる。

空間創造と移動能力を持つ強敵だと言えた。

全く能力を発揮する余裕も無かったけどな。



「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」



…取り敢えず、螢さんや。

一旦、離れませんか?

愛紗達の視線と表情が何か凄い事に為ってるんで。

それはもう、笑おうとして我慢しながらも抑え切れぬ感情の起伏が表情を動かし強張りながら柔らかくする努力をしてもいるのか。

“表情筋って、そんな風に動かせるんだな…”と思い感心してしまう位に。


そんなこんなで、暫し。

三人が落ち着いたので先ず分断されていた間の各々の置かれていた状況を確認。

愛紗と翠は問題無かったんだけどな。

螢の時に、ちょっとな。

どうして、ああ為ったのか理解は出来た。

ただ、同時に対応に困った事は言わずもがな。

愛紗達でさえ、先程までの状態が嘘の様に気不味気に顔を逸らしていた。

その辺りの追及はしない。

再び、螢の感情を刺激する事に為るからな。



「まあ、その件に関しては戻ってからだな

螢の記憶を見せて貰えれば可能性も有るからな」



そう言うと嬉しそうにする螢に抱き付かれる。

何と無く、ではあるが。

螢の祖先が“龍族”に縁が有ったのも頷ける気がして納得出来てしまった。

“其方等”側の存在と心を通わせられる。

そういった資質や才能等を持ち得るのであれば、な。



「…さてと、流れとしては予想外だったが、結果的に最善の形に為った事だし、これより帰還行動に移る

さあ、御土産を買うぞ!」


「はっ!」


「おう!」


「…はい!」



そして、俺達は挑む。

仁義無き、非情な最終決戦(おみやげえらび)に。


無難に定番か、ネタ物か、敢えて攻めるか。

嗚呼っ、本当に強敵だ。




 other side──


晴れた空を見上げる。

だが、別に空を眺めたい、という訳ではない。

それは“その方向”のみが意味を持っている。



「…ふん、役立たずめ」



その空の下に存在していた気配が消失したのを感知し思わず口から溢れた一言。

特に気にしてはいない。

しかし、愚痴ではあるか。

態々、辺境の地に足を運び目覚めさせて遣ったのに、こうもあっさり敗れる様な使えない奴ではな。


尤も、あの程度では仕方が無いのやもしれんな。

“望映鏡書”に比べては、という話になるがな。



「やはり、あの程度の場で使うべきではなかったか…

今更ではあるが、な…」



望映鏡書を孵化させるには時期が重要になる。

単なる戦争では糧と出来る餌が不十分だからな。

戦争未満で有りながらも、大陸を焼き焦がさなくては意味が無い。

それに最適なのが内乱。

それも施政者と民とのな。


我が目覚めを待っていては時期を逃してしまう。

孵化の直前で抑えて封印し維持──眠らせておく事が出来るのであれば。

そうする事も可能な事ではあったのだがな。

一度、その孵化が始まれば我でも止められぬしな。



「龍族であれば封印自体は可能であろうが…」



その場合、折角喰らい得た孵化の為の糧は浄化され、失ってしまうだろうがな。

まあ、その忌々しい奴等も既に耐えた様だしな。

風は我に吹いておるわ。



「…だが、思っていたより厄介な連中よな…

彼奴等の様に暗愚であれば容易いのだが…まあ、良い

漸く叶った我が復活の為の血の祝いには丁度良い余興となるだろう…」



その相手の居る空を見上げ口角を上げる。

今頃、連中は我との戦いに備え様々な手段を模索し、実行している頃だろう。

だが、連中は全く思ってもいないであろうな。

既に運命は決していると。



「…ククッ…連中の必死に足掻く様子を見られぬのが残念ではあるだが…

それも、後の愉しみとして残しておこうか…」



我が定めし運命は破滅。

その軛より抜け出す事も、抗う事も適わぬ。

何人たりとも。

如何なる存在も。

我が掌の内で果てるのみ。

その命の灯火と共に。

絶望の音色を叫び奏でて。



──side out



──五月九日。


久し振りの我が家。

久し振りの寝室。

うむ、落ち着きますな。



「──で、折角買ってきたそれは何かしら?」


「彼方の民族衣装だ」



眉根を顰めている華琳へと見せているのはフェルガナ──の祭事にのみ使用する衣装で…まあ、ビキニ風の際どい踊り子風の衣装。

嘘は言っていない。

これも立派な民族衣装だ。


ただ、布地の面積は紐だと言ってもいいが。

そして、慣れてしまったが何故か無駄に高い洋裁技術によって作り上げられた、超薄手のシースルーっぽい上着は透け感を纏う事で、チラリズムを刺激するのか妙に艶かしく見えるという優れた逸品である。


尚、購入に際し愛紗達には見付からない様にと細心の注意を払っている。

…何故か?、愛紗達ならば似合うだろう。

それはもう、男としてなら本能を刺激されて、理性が持たないかもしれない。

だが、こう言うと愛紗達に悪いのだけれど。

今は華琳が恋しいので。



「……で?、貴男はそれを私にどうしろと?」


「着て、踊って欲しい

そんな華琳が欲しい」


「──っ!!」



素直に、ド直球に言ったら傍らに有った枕を掴み取り投げ付けてきた。

それはもう、回避出来無い位に素早く。

…枕だからダメージ的には控え目なんだけど、華琳の一撃だから威力が高い。

顔面に走った衝撃からして赤く為るのは確かだな。

流石に鼻血は出ないが。



「…〜っ………ばかっ…」



顔を真っ赤にさせながらも俺の手から衣装を破らない様にしながらも引ったくり浴室の方に消えていく。

華琳も満更ではない様で、俺としても嬉しくなる。

…其処で着替えないのか?

それでは楽しみが減る。

否、それをされると衣装に着替える前に…だな。

まあ、その辺りは我が奥様だけあって、理解している訳なんです。

伊達に夫婦としての経験と関係を重ねていません。

我慢は毒だしね。




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