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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
59/907

         弐


一週間の後が、一ヶ月。

一ヶ月の後が、二ヶ月。

二ヶ月の後は──現在。


前回の“逢瀬”から数え、既に三ヶ月の月日が経とうとしている。


妙に切りが良い事を思えば“何らか”の意思や意図を感じずには居られない。

ただ、そうなると“次”はそろそろか…

前回の倍、一ヶ月先か。

法則が有る訳でもないので断定は出来無いが。



「…にしても、“此方”は相も変わらずだな…」



リビングでソファーに座り眺めるのはテレビ。

耳に入ってくる聞き慣れたアナウンサーの声。

報じられる時事ニュースの内容は珍しくもない。

人の世など、いつも時代も似たり寄ったり。

実に下らない。


右手に持ったカップを口に運びコーヒーを一口。

ゆっくりと芳ばしい香りと程好い苦味を楽しむ。



「…意味の無い“議論”と形だけの“回答”を続けて“何”の為なのか…

是非とも訊きたい物だ…」



ふと、思い浮かぶ。

彼女が現代に来て、政情を知ったらどうするのか。

想像して苦笑。


国会に殴り込むか、経済戦でも仕掛けて乗っ取るか、世界大戦でも起こすか。

まあ、革命する為に動く事だけは確かだろう。



「“覇王”だからなぁ…」



“曹操”だからではない。

彼女自身の才器・性質が、可能性を秘める。

“王者”たるの心で立ち、“覇者”たるの志で望む、そんな彼女だから至れる。

“道”さえ見誤らなければだが…大丈夫だろう。

“釘”は刺したし。



「俺には無理だなー…」



左手を目の前のテーブルに伸ばして、皿に乗っているサンドイッチを一つ取り、口へと運ぶ。

レタスのシャキシャキ感とトマトの酸味、カリカリのベーコン、濃厚なチーズが味覚を楽しませる。


誰に急かされるでもなく、特に大事な用も無い。

“仕事”も今日は無い。

…現時点では、だが。


しっかり咀嚼して飲み込みコーヒーを一口。

一息吐いて、時計へ視線を向けると午前十一時前。



「“普通”の子供…学生は平日の昼間に、こんな事をしてたら問題だよな…」



まあ、今更学校へ通おうと思わないが。



「…“彼方”に教育制度を敷くなら少しは“実情”を知らないと困るか…」



ワイドショー等に出てくる問題は氷山の一角。

実際の教育問題は根が深く簡単には改善出来無い。

時代によっても変わる。



「…時間作って一ヶ月位は頑張ってみるか…」



いざ実行するとなると憂鬱でしかない。


取り敢えず、食べ終えたら昼寝でもしようと決めた。




 曹操side──


これまで幾度も重ねて来た“逢瀬”の時。


けれど、今──

私は“初めて”の経験に、戸惑っている。

──いえ、驚き…呆然。

目の前に居る彼も同様に。


その表情を見る限りでは、私と同じ“事情”が有り、同じ事を考えている筈。

ただ、言いたく無さそうで視線を明後日の方向へ。

“無視”する様ね。

そう思うと、まだ私の方が受け入れている。

なら、仕方無い。

私から切り出そう。



「…ねぇ、雷華…」


「………何だ?」



お互いに歯切れが悪い。

覚悟はしても本能的に拒絶したいのだろう。

私も口にしたくはないが、訊かずには居られない。

それが、どれだけ不愉快で“認めたくない”事でも。



「…貴男の世界では現在は“夜”よね?」



そう訊くと、表情を含めて石像の様に硬直。

その後、錆びた扉を開けるみたいな鈍い動きで此方へ顔を向けた。



「………俺の思い違いじゃなければ……真っ昼間だ」



苦虫を噛み潰した様な彼の表情を見て察する。

これまで私達が信じていた“前提条件”は実は無意味だった、と。



「……“其方”も?」


「ええ…私の記憶が確かと言うのなら、太陽が中天を過ぎて一刻程の筈よ」



私の言葉に彼は大きく深い溜め息を吐いた。

気持ちは痛い程に解る。



「…“昼寝”も有りか…」


「せめて“白昼夢”とでも言ってくれない?」


「それだと“妄想”と同じ扱いも含むだろ…」



“妄想”とは言いたくないという意志は解る。

私も“逢瀬”をそんな風にしたくはない。

そう考えると反論出来無くなってしまう。



「因みに、私は鍛練後で、休憩していた所よ」



間違っても“料理の”とは言わない。

今の彼なら気付く可能性は低いとは思うけれど…

念には念を入れての先手。

絶対に知られたくない。



「貴男は何をしてたの?」



だから、話を振って思考を強要する。



「…昨日は仕事が有って、遅めの朝食、早めの昼食を摂って昼寝してた…」


「…それは…どうなの?」



予想外の返答に呆然。

仕事で遅くなる、朝帰りは仕方無い事だけど…

“普通”と違うと言っても随分とだらしない。



「…良い、天気だったな」



遠い目をする彼。

自分でも“怠惰”な事だと自覚は有る様ね。

私は小さく溜め息を吐き、苦笑を浮かべた。



──side out



“夢”の中で現実逃避。

夢なら当然なんだが。

…まあ、それ位に考えたくないって事で。



「事実を見なさい」


「…はい」



“現実”とは言わない所が的確で賢明だ。

…にしても、適応が早い。

“女性だから”とは言いも思いもしないが。



「良い妻になるな」


「ありがとう」



…あれ?、やけにさらっと流された様な…

いつもなら少し位は慌てる素振りを見せるのに…



「“少女”は“恋”をして“女”になるのよ」



普通に、俺の思考を読んで決め台詞の如く、ドヤ顔で言い切る。

腹が立ちそうな場面なのに思わず彼女に見惚れたのは“贔屓”だろうか。

…贔屓なんだろうなぁ。



「はぁ…拒否しても変わる訳でもなし、か…」


「そういう事よ」



本当、“良い女”だよ。

揶揄う楽しみが消えるのは寂しい限りだ。

まあ、その“上”を行って揶揄えば良いだけだが。



「“夢”で有る以上は必ず“眠る”事が前提条件…

だから二人揃って眠る筈の“夜”が当然と思ってが、単に眠ってるだけで良いと思わなかったな…」


「その場合だと私達が共に眠って居れば時間帯なんて関係無い事になるわね…」


「全くだ…」


『…はぁ…』



二人揃って溜め息を吐くが無理も無いだろう。

眠て居れば良いのならば、夜と昼、朝と夜、昼と朝…そんな組み合わせも有りになってくる。

それに何より──



「…もしかして、時間帯を変えれば“逢瀬”の間隔も変わるのかしら?…」



ポツッ…と漏らした彼女の言葉が問題だった。


新たに出てくる可能性に、“希望”を抱くのも無理は無い事だが…甘くない。

“現実”は非情だ。



「…その可能性は低い」



彼女の抱く“希望”を俺が砕く事になるのだから。

それをしなければならない事が胸を締め付ける。



「“此処”は二つの世界の“狭間”であり、一方では“融合世界”でも有る」


「…何方らでも無いけれど何方らでも有る、ね?」



彼女の言葉に首肯。

“此処”は相反した特性を有した矛盾を抱く世界。

その“誕生”が未だ不可解である以上は“未知”だと言わざるを得ない。



「俺達の“逢瀬”の間隔が開く事は“此処”の存在が揺らいでいるからだろう」



その事実が意味するのは、“此処”の存続出来る時が残り僅かだという事。

“逢瀬”の──“最後”が近いという事だ。




 曹操side──


“此処”の存在が揺らぐ。

それは生命で言う“死”に等しい事なのだろう。

そして、“此処”が消滅は“逢瀬”の終わりが来る事を意味する。


私が気付く位だ。

当然、彼も理解している。


何時か来る事は判っていた事ではあるけれど、互いに口にしなかったのは現実になる事を恐れて。


それでも、今、私達は目を背けてはならない。

“未来”へと繋ぐ為に。



「…あと、何れ位だと?」


「…間隔が一定でもなく、規則性もない…

“次”が有るのか否かも、定かじゃない…」



それは私の予測と同じ。

…いいえ、抑、彼は最初に言っていた。

“此処”は本来なら存在もしない筈の“世界”で…

“矛盾”している。

故にいつまで“存在”しているかも定かではない。

だから、“次”が有るかは判らない、と。


それでも私は──私達は、“再会”を望んだ。

“次”を願った。


その“結果”かは判らないけれど、“逢瀬”は成り、今迄に続いた。


それを“当たり前”だとは思ってはいない。

ただ、“終わり”が来ない事を望んでいただけ。

ただ、それだけの事。

ただ、それだけを思い願い意識しなかった。


ある意味、当たり前の事と言えるのかもしれない。


誰しも“幸せ”なら長く、永く、いつまでも続いてと願う事だから。

自ら“終わり”など望むは有り得ない事だから。


けれど、“終わり”が来たならば向き合わなければ。

それが、どんなに辛い事で有ったとしても。



「…恐らく、間隔が一年を超える事は無いだろう…

一年以上も不安定なままで存在し続ける事も難しいと考えるのが妥当だ…」


「…という事は…」


「今より間隔が縮まる事は先ず無いと思う…

だから、最短で四ヶ月後、最長で十二ヶ月…一年後

それが“最後”に成るかは判らないけどな…」



彼が口にした一言。

それは“覚悟”の証であり避けられぬ現実と向き合う事の意志の現れ。


同時に私に言わせない様に配慮してくれたのだろう。

そういう人だから。



「…“次”が有るかどうかなんて“後”にしましょう

今は先ず──」



そう言いながら私は大鎌を造り出し、右手に掴むと、大鎌を我が身の一部の様に軽々と振り回して構える。



「私と“踊り”ましょう」



私の双眸が見据える存在は唯一つ、唯一人だけ。


“此処”は私達だけの──“双華”が咲く夢園。



──side out



“過去”を胸に抱き…

“未来”を見詰め…

“現在”を前へと進む。


彼女と交える刃に忍ぶ心が意志を伝える。



「また考え事、かしら?」



ギィンッ!、と大鎌同士が打つかり火花を散らすと、鍔迫り合いで押し合う。


考え事──確かに。

今、俺は考えている。


“幸福”で有れば有る程に人は“終わり”を望まず、“永遠”に続く事を願う。

それは当然の事だろう。


しかし、世に“永遠”など存在しない。

──いや、正確に言うなら“不変”が、だろう。


“不老不死”等が代名詞と言ってもいい。

人が追い求める“幻想”…

それが“永遠”だ。


しかし、現実に在るそれは“死”に他ならない。

“死”こそが“不変”で、“永遠”である。

“不老不死”は“永遠”を生きる事ではない。

何故ならば“生きる命”は“死”が有る事によって、意味を成すのだから。


だから、人々は求める。

“永遠”たる“死”を。

それが、矛盾した事だとは気付く事も無く。



「…なぁ、華琳…お前は…“永遠”を望むか?」


「…さあ、どうかしら…」



俺の問いに対し彼女は目を逸らす事無く返す。



「私が望んだ“永遠”なら考えもするでしょうね…

でも、何だか解らない様な“永遠”は要らないわ

“誰か”に与えられるなど真っ平御免よ

私は“永遠”を生きるより“未来”へ“私の意志”を伝え遺す方が良い…

与えられる“永遠”よりもずっと、ね…」



そう言った彼女の瞳に宿る輝きは眩かった。

彼女は無意識に感じ取って居るのかもしれない。

意地っ張りな癖に、自分の直感には素直だから。



「………何よ?」



余計な部分を感じたのか、拗ねた様に睨んでくる。

その仕草も愛しい。


“幸せ”が、続く事を願いながら、人は更なる幸福を求めてしまう。

故に“終わる”のだろう。

俺達は望んでいる。

共に在り生きる事を。

そして、それは“此処”で叶う事ではない。

“夢”ではなく“現実”へ至る為に。


“終わり”は来る。

しかし、それは“次”への“始まり”へと繋がる。

“次”の二人の“幸せ”を実現する為に誓う。



「“夢”は“終わり”て、“現”は“始まる”…

まだ、これからだ、華琳」


「──っ…ええ、そうね

まだ、これからよ、雷華」




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