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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
54/913

        弐


 曹操side──


彼に出逢い、知った。

私は“三國時代”と呼ばれ一国を築く“英傑”となる人物の器だと。


それは、私自身が以前から抱く“大望”と同じ。

その“果て”と言える。

例え異なる世界で有っても喜ばしい事実だ。


しかし、同時に思う。

今の私には其処に至る迄の“力”は無い。

知力・武力・権力・財力・兵力・地力…何一つも。


だが、その中で知力と武力ならば手に入る。

彼という“師”の下で。



「…何故“力”を望む?」



そう問われ──考えた。

彼に“好印象”を与える為ではない。

私自身、悩んだからだ。


我が“大望”の為の力──それは嘘ではない。

しかし、それだけではない事を本能が悟っている。


だとすれば、私が望む理由とは何だろうか。


彼の“隣”に立つ為に──それも有るだろう。

いや、一番とも言える。


でも、そうではなく──



「──“力”を望む理由、それは単純よ」



そう、彼との出逢いにより学んだ事だ。

それが、私の理由。



「──後悔したくない」



そうしたら、こうしたら、ああすれば、こうすれば、そんな“たられば”話などしたくはない。



「私は私の全てを背負い、命の限りに生きる…

その為の──“力”よ」



“過去”に囚われる事も、“未来”に溺れる事も無く“現在”を生きる。


彼と出逢い、“恋”をして私が感じた意志。

“生きる”という意志。



「…それは生半可な覚悟で貫く事は出来無いぞ?」


「生半可な訳が無いわ

言った通り、私の命の有る限り貫き続ける意志よ」



真っ直ぐに彼の双眸を見て自分の意志を告げる。

心を見透かし、真偽を試す様な鋭い眼差し。

けれど、私は臆する事無く退き下がらず向き合う。


暫しの沈黙。

ふっ…と彼が微笑む。


思わず、見惚れた。

気付かれは──しなかったとは思うけれど。



「そうか…ふっ、ふふっ…

ははははっ♪」


「──ぇ?」



唐突に笑い出す彼に呆然としてしまった。

先程までの──いや、多分“初めて”見る素顔。

そう直感的に思った。



「…色んな人間を見てきた

でも、俺と同じ“価値観”を持った者は初めてだ

良いぜ、教えてやる

“生きる”為の“術”を」



そう言った彼は本当に私の意志を喜んだ。

“同じだから”ではない。

同じ“生きる”意志に。


お互いが、共に在りたいと見初めたからこそ。

私自身も、歓喜した。



──side out



一時間程すると眠っていた彼女が身動ぎした。



「……ん……」



小さく息を漏らし、起きる気配を感じる。

寝返りを打つ様に此方へと身体を向ける。

必然と、頭を撫でる左手は彼女の顔に。

その手を両手で掴み頬擦りしてくる。

“いつも”の事なのだが、実に“猫”っぽい。

彼女の気性的には雌獅子が妥当だろうが。

“獲物”にならない様に、気を付けないとな。



「…懐かしい、と言う程に経ってはいないけれど…」


「…“夢”を見た?」


「ええ…師事の、ね…」



まだ微睡みの余韻に浸り、身体を猫の様に丸めながら気怠そうに呟く。

決して寝言ではない。



「“夢”の中で眠り…

更に“夢”を見る…

不思議な場所よね…」


「本当にな…」



“夢”の筈が現実同様──いや、それ以上に意識上に影響力が有る。

普段の“日常”の記憶より“此処”での出来事の方が鮮明に焼き付いている。

勿論、互いにとって相応の“価値”が有るからだとも言えなくはないが。


得た知識や経験だけでなく今の様な何気無い会話まで一言一句、違える事も無く記憶している。

そして、思い出せる。

それは“異質”と言っても過言ではないだろう。


実害が有る訳でもないので大して問題は無いが。



「……ねぇ…」


「ん?」


「…貴男は私が“其方”の曹操と同じ様に歩む事を…

どう思っているの?」



俺の左手を握り締めたまま枕代わりに掌に顔を乗せて訊いてくる。

隠す必要の無い事だが…

言葉は選んだ方が良いか。

或いは、素で言うか。



「そうだな…正直に言えば“どうでもいい”、かな」


「あら、つれないわね?」



不服そうな、拗ねる様な、そんな言葉だが、声色には揶揄う様な気配。

多分、返る言葉も予想済みだからだろう。



「例え、同じ様に見えてもお前の歩みはお前だけの、お前自身が紡ぐ物語だ」


「…ふふっ、そうね」



嬉しそうに、楽しそうに、声を弾ませる。

なので──不意打ち。



「どんな道を歩もうとも、俺は“華琳”を愛してる」


「──っ!?」



ビクッ!、と身体を震わし“不意打ち”だと気付くと掴んでいる左手の掌と甲を両手で恒ってくる。

…うん、地味に痛い。


けれど、これでも覚めない辺りが“此処”の仕様。


それに──“百年”処か、千八百年越しの“恋”だ。

この程度で覚めはしない。

何が有っても、だ。




 曹操side──


全く…彼は狡い。

此方の予想通りかと思えば“不意打ち”をする。

油断している時にも。

…後者は私もするけれど。



「まあ、同じ様にと言ってみても“違う”結末になる可能性が高いだろうが…」



小声で言ったつもりだろうけれど“此処”に居るのは私達二人だけ。

“聞くな”と言う事の方が無理な話だ。



「…それは私が“貴男”と出逢った事に因って?」



“在る筈の無い事”により道筋から外れてしまう。

そう言われれば判る。

そして“過去”を消す事も変える事も出来無い以上はどうしようも無い事だ。



「いや──ああ、うん…

それも無くはないか」



否定し掛けて、私の言った可能性を肯定する。

“その手”の事に疎い私が考え付く位だから少し意外だったけれど。



「“違い”を生む事になる理由や要因を挙げて行けば切りが無いんだが…

“根本”的な問題としてはお前の年齢──生年だ」


「私の生まれた年?」



彼の言葉に首を傾げる。

膝枕した状態だから大して変わりはしないが。



「元号と年数は?」


「…延熹、九年よ」



釈然としないが答えないと話が進まないので教える。

それで何が判るのか。



「…やっぱりか」



そう言って溜め息を吐く。

此方は訳が解らない為に、つい睨んでしまう。



「…“此方”の曹操はな

永寿元年の生まれだと云い伝えられている」


「永寿元年って…私よりも十一年も前なの!?」



思わず大声になってしまうのも仕方無い事。

てっきり、同年だとばかり思っていたから。



「…ちょっと待って頂戴

なら、以前貴男が言ってた“其方”の曹操の話は…」


「まあ…飽く迄も可能性の域を出ないって事だな」



…肩透かしね。

多少なりとも活用出来ると期待していただけに。



「とは言っても、確定した訳でもないけど…」


「…と、言うと?」


「“其方”の現状を詳しく知る事が出来れば“歴史”上の出来事が起こるか否か判断出来るかもしれない」


「…“かも”、なのね」



彼が悪い訳ではない。

寧ろ、可能性を知れるだけ有意義では有る。

そう考えれば知って於いて損は無いだろう。



「いいわ、私に答えられる事なら何でも教えるわ」



だから、教え頂戴。

“此方”の世界の一端を。

私の“戦場”の事を。



──side out



てっきり“未来の事なんて知りたくも無いわ”とか、“私の道は私が決めるわ”なんて言うと思っていたが随分と“柔軟”になったと感心してしまう。


“自尊心”だけで歩む事は愚の骨頂だと理解したからだろう。

彼女の“大望”の成就には覚悟が必要だ。

“自己満足”の為ではなく“結果”を求める事。

その為には手段を選ばず、時に非情になれる覚悟が。


勿論、“外道”になる事はしてはならないが。

彼女なら心配無用だろう。



「訊く要素は多々有るが…

先ずは現皇帝の事だな」


「現皇帝は劉宏、字は伯壮

歳は…確か、二十七

子は前皇后・劉虞との間に長女・劉曄…

歳は私と同じよ

次に現皇后・何梁との間に長男・劉辯、今は四歳…

最後に側室・王茗との間に次男・劉協が今年誕生…

現時点では三人よ」


「…今の元号と年は?」


「熹平四年ね」



スラスラと答えられる事は素直に感心するが…

内容は頭痛しかしない。


劉曄が長子で皇女?

しかも彼女と同じ歳。

加えて母親が劉虞と来た。

何だ、その血統は。

前後両漢の正統な皇帝筋の末裔じゃないか。


まあ、それは置いといて…

熹平四年──西暦で見れば百七十五年になる。

劉辯の歳は誤差二年だが、劉協は六年も早い。

劉宏も歳が違う。



「…皇帝は建和二年か?」


「そうなるわね」



皇帝の歳を基準に考えると“前倒し”になる。

だが、彼女を基準にすると“後ずれ”だろう。

“何方ら”が正しいのか…

これだけでは拙い。



「前皇帝──桓帝の代から使われてきた元号は建和・和平・元熹・永興・永寿・延熹・永康・建寧・熹平で合っているか?」


「ええ、順番もね」


「劉宏の即位は何時だ?」


「建寧元年、八年前よ

即位時には結婚されていて皇女も生まれていたわ」



元号は“歴史”通りか。

建和二年生まれで熹平四年現在で二十七歳なら年数も同じだろう。


追加情報も何気に有益。

つまり、劉宏は若くは有るだろうが幼くはない。

政治的影響力は違う訳だ。



「…“売官”は有るか?」



この一点の有無で、後事の状況は大きく変わる。



「…有るわ」



重い雰囲気を纏わせるのは意味を理解するが故。

やはり、既に“種”は世に蔓延しているか。



「飽く迄も可能性だが…

“歴史”上の出来事は世に起きるだろうな…」



即位前なら“変えられた”だろうが。

“種”が有る以上“芽”が出るのは必然だ。




 曹操side──


“売官”の事を訊かれた時“ああ、やはり…”と私は納得した。

同時に進む道が──志した大望は間違いではないと。



「…時期は定まらずとも、世は乱れるのね?」


「…先ず、間違いない」


「…そう…」



互いにの口が重くなるのも仕方無い事。

判っていても避けられず、防ぐ事も儘ならない。

“世の乱れ”とは短期間で起こる事ではない。

長期に渡る“積み重ね”の果てに生じる事。


そして、その“火種”たる要因は存在している。


身体を起こし、彼の方へと向き直って見詰める。



「私は“覇王”となるわ」


「…“後の”民の為に自ら“悪”を背負うと?」


「必要と有れば幾らでも」



私の意志を試す様に彼から放たれた言葉に躊躇無く、即答する。



「時代が乱世となるならば私は“覇道”を往く…

“力”を以て世を治めるわ

喩え、その果てに有るのが“孤独”だとしても…」



──貴男を想う心さえ有るのなら何も怖くない。

そう続く言葉は“弱音”と考え、呑み込む。



「……はぁ…やれやれ…」



暫し、私を見詰めると彼が苦笑を浮かべた。



「…何よ?」



その態度に何と無くムッとなった私は悪くない。

誰だって一世一代の決心を苦笑されたら立腹する。



「“覇道”を歩むだけなら“覇者”だろうが?

そんな初歩的な事を間違う奴が大丈夫な訳無いだろ」


「──っ、そ、それは…」



揚げ足を取りつつ、隠した心を的確に見透す。

無駄の無い“口撃”を受け言葉に詰まる。



「“覇王”を目指すのなら“覇道”と“王道”を共に成してこそだ

それとも何か?

単に──自信が無いか?」



ニヤニヤと挑発的な笑みを浮かべて言う彼。

“真意”を悟ってしまう分知らないより厄介だ。

でも──心を満たす。

“不安”を消し去る。



「誰に言ってるつもり?

自信が無い?

ふふっ、面白い冗談ね

私は“王道”を歩まないと言った覚えは無いわよ?

それとも貴男には幻聴でも聞こえたのかしら?」


「それはそれは失礼を…」



意地を張る私と謝る彼。

態とらしい遣り取り。

でも、大丈夫。


これでもう──

私は“誤る”事は無い。


“覇王”の“道”を。

私の“志”を。



──side out。



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