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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
53/907

3 儷びて響く 壱


出逢いから約二ヶ月。

今日迄の日々は早く感じ、とても充実している。


以前に比べて“現実”での日常が楽しい。

正確には“此処”で過ごす時間が、だ。


それも全ては彼女の存在が有るからだと言える。

本人に面と向かっては絶対言えない事だが。



「──はあっ!」



ガンッ!、と音を立てて、打つかり合うのは木棍。

そのまま鍔迫り合いになり深青の双眸が睨み付ける。



「貴男ね、闘いの最中に、考え事なんて、余裕ね?」



そう言って怒りを露にする彼女を見下ろす形。

強気な物言いの割りに息が上がっているのは仕方無い事だろう。



「悪い悪い、つい──」



一度言葉を切る事で注意を引き付け、興味を持たす。

そして焦れて何か言おうと口を開き掛けた瞬間に顔を近付ける。



「お前に見惚れたんだよ」


「なっ──っ!?」



歯の浮く様な台詞で一瞬の隙を作り出し、攻撃。

鍔迫り合いの状態から力を抜いて受け流す様に木棍を引いて体勢を崩す。

前のめりになった所を合気の要領で掬い投げた。

何も出来ず、彼女は落ちて受け身を取る。

“砂”の上で。



「はい、終わり」



手に持つ木棍を彼女の首に当てて、勝敗を告げる。

“残心”から睨んで来るが無駄と悟ると、大きく息を吐いて力を抜いた。



「…この女誑し…」



拗ねた子供の様に呟く。

負けず嫌いか、意地っ張りなのか微妙な所。

…何方もか。



「へぇ…なら、お前は俺に誑かされたんだな?」


「──っ!?」



ボンッ!、と漫画やアニメならば効果音が付きそうな見事な瞬間沸騰。

本当、可愛いねぇ〜♪。



「〜〜〜〜〜っ!!、っ!!」



声に成らない抗議の意志を口をパクパクさせながら、足下の砂を両手で掴み取り投げてくる。

勿論、当たりはしないが。



「かっかっかっ♪

何とも愛い奴よのぅ〜♪」


「何処の悪党なのよっ!」



悪代官風に揶揄っていたら予想外に的確なツッコミを受けて驚いた。

変な電波拾ったかな?、と割りと本気で思ったぞ。


そんな戯れ合いも、今では二人の日常風景。


我ながら、ここまで自分が苛めっ子気質だとは思いもしなかった。

まあ“師匠”の影響も少し位は有るんだろうが。



「待ちなさいっ!」


「追われれば逃げるのが、生物の本能っ!」


「ああ言えばこう言うっ!

良いから待ちなさいっ!

逃げるなっ!」



年相応な表情と言動を晒し逃げ回る俺を追っ掛け回す彼女が疲れて止めるまで、暫くは続く。




 曹操side──


無様にも、ぜーはーと息を乱して仰向けに倒れる私。

──恥はどうしたか?

そんな物、疾うの昔に捨て去ったわよ。



「ささっ、華琳ちゃん♪

沢山掻いた汗を、拭き拭きしまちょうね〜♪」



──御免なさい。

やっぱり有ります。

直ぐに拾って来ます。

だから、止めて頂戴。

お願いだから!。



「いい加減、素直に甘える事に慣れような?」



そう言いながら、私の頭を持ち上げて自分の膝の上に乗せる彼。

顔には汗拭き──タオルと言うらしい──を掛ける。


息も絶え絶えなだけに声も満足に出せない。

基本、目で訴えるだけ。

それでも彼には伝わる。

察するのとは少し違う。

お互いに理解し合っているからだと思う。

確証も、証拠も無い。

でもね、信頼や愛情なんて全部そうだから。

“想い”を形にして見る事なんて殆ど出来無い。

そういう物だから。



「“子供”位だよなぁ…」


「──っ!?、ごほっ!?

ごほっ、ぅっ、ごほっ…」



的確な一言に噎せる。

汗拭きを右手で掴み上げ、吸い込まない様にする。


思考まで伝わるとは私でも言わない。

これは彼の“読み”による推測の結果。



(というか、そんなに判り易いのかしら、私って…)



ちょっとだけ凹む。

一方で、其処まで私の事を理解してくれている事実に喜んでもいる。



(…惚れた弱み、だなんて本当に上手く言った物ね)



何が有っても、喧嘩しても絶対に“嫌い”になんて、なれはしない。

忘れる事も、消し去る事も絶対に不可能。


私には──私達の中には、互いが刻み込まれている。

深く、深く、果てし無く、“深い処”にまで。



(…本当に、どうして…)



──どうしてなのか。

私達は、どうして異なった“世界”に生まれたのか。

どうして、一緒に生まれて来られなかったのか。



「それでも、今、此処に、俺達は一緒に居る」



一切の躊躇いも、戸惑いも無く言い切る。


出逢いから今日に至る迄。

何度、救われたか。

何度、勇気付けられたか。

何度、教えられたか。

彼の一言に、存在に。



「…ええ、そうね」



祈っても、願っても…

叶わないかもしれない。


けれど、“絶つ”事もまた出来はしない。



『そして──これからも』



私達は繋がっている。

いつまでも──ずっと。



──side out



年齢的に、というよりかは彼女の反応の方が“普通”なのだろう。


自分の場合、怪奇や不思議なんかに物心の付く前からどっぷり浸かっていた。


だから“別離”の可能性を最初から理解している。

理解した上で何度も何度も“逢瀬”を重ねている。


それは純粋な欲求。

俺が彼女を欲している為、求めている為だ。

彼女に辛い思いをさせても俺は欲求を満たしたい。


それがどんなに残酷でも、軽薄でも、自己中でも。

俺は止められない。

止めるつもりもない。



(──っと、危ない…

一緒に居る所で考えてると悟られるからなぁ…)



お互い様とは言え出来れば余計な不安は与えない様に気を付けないとな。



「…それにしても、随分と“此処”にも慣れたな」



感慨に耽る様に言い彼女の思考を逸らす。

自分の思考を逸らす為でも有ったりするが。



「そうね…最初は小石一つ造り出して維持するのにも苦労したわ…」



懐かしむ様に呟く。

確かに苦労してたな。



「簡単に遣ってた貴男には判らないでしょ?」


「いやいや、俺だって別の経験が有ったから応用して出来てただけだからな?

完全に初体験なら簡単にはいかないって…」



俺は“天才”なんて部類の人間じゃあない。

寧ろ、努力で成り上がったタイプの人間だ。

それに何方らかと言えば、彼女の方が順応度も理解も高いと言える。

“流石は曹操”なんて事は絶対に言わないが。



「そう?、まあいいわ…」



俺の言葉に納得──満足をしたのか休む事に専念する様に横向きになった彼女の頭に左手を伸ばし、静かにゆっくりと撫でる。


顔を上げ、景色を見る。

青い湖と白い砂浜が有り、周囲を木々が囲む。

宛ら避暑地の様だ。


“此処”は実に面白い物で“夢”なのだから、疲れる事はないと思っていても、実際には疲弊する。


“夢”だからと無意味だと思っていた事も、実際には無意味ではなかったり。


肉体的な成長は望めない。

しかし、知識・技術に加え経験は得られる。


限定的では有るが修練には持って来いだ。

いや、ある意味俺達位には理想的だとも言える。


肉体の成長を妨げる事無く技術や経験を積める。

怪我や疲労は“現実”には影響しない。

死ぬと判らないが。


それが判ったから、彼女に稽古を付けている。


“覇王”を志す彼女が──道を誤らぬ様に。




 曹操side──


こうして彼に膝枕をされて休むのも幾度目か。

慣れたと言えば慣れたが、やはり気恥ずかしさだけは拭いきれない。


それは“無様な姿”を彼に見られる事──ではなく、会話の最中に彼の方へ顔を向けた時、見上げる位置で見惚れてしまうから。

普段とは違う角度。

“許された”者にしか見る事の出来無い表情。

自然と脳裏に焼き付け様と見詰めてしまうから。



(これで男、なのよね…)



女から見ても綺麗だと思う端麗な容姿。

年齢的には可愛いと思える時期なのだろうが、そうは殆ど感じない。


彼の大人より成熟している精神の所為か。

凛とした、覇気を思わせる雰囲気を纏っている為か。

思い当たる理由は多々有り断定は出来無い。


いや、そういう事が幾つも合わさった結果か。

今の彼を形成する全てが、そう在らせるのだろう。



(…中々に、遠いわね…)



彼の半身として、その隣に儷び立つ。

それが私の一番の目標。


“世界”の違いに──否。

それを“言い訳”にして、現実逃避してしまう様では夢のまた夢。

そんな甘ったれた性根では追い付ける筈が無い。


彼は歳上だからと言って、私よりも“高み”に居る訳ではない。

才能も素質も有ったにせよ弛まぬ努力によって研鑽を積み重ねた結果。

其処に甘えも妥協も無い。

ただ貪欲に、高みを目指し只管に己を研磨する。

今までも、これからも。



(逃げれば、直ぐに遠くに行ってしまう…

眼を逸らせば、直ぐに姿を見失ってしまう…

大変な“(みち)”だわ)



けれど、充実している。

簡単に手に入りそうなのに全く届きそうにもない。

でも、確かに其処に在る。

だから、諦められない。

決して、諦めない。


私は彼を欲している。

私は彼を求めている。


狂いそうな程に。

強く、激しく、尽き絶えぬ私の裡の欲求が。



(だから覚悟しなさいね)



誰にも渡さない。

誰にも譲らない。

彼の“隣”だけは。


そして、その為なら自分の“痛み”さえ利用する。


“女の涙”は飾りではなく武器だと母は言った。

“人の情”は繋がりであり鎖だと祖母は言った。


いつかは“世界”が二人を別つ時が来る。

それは避けられぬ必然。

抱く“想い”もまた。


ならば、私はその“想い”さえ有効に活かす。

そうして彼を魅了する。

忘れられぬ様に。

欲し、求めずには居られぬ程に魅入らせて。


それを“悪”とするのなら喜んで受け入れよう。

私の“想い”は何人にも、邪魔はさせない。



──side out



疲れて、寝息を立て始める彼女の頭を左手で撫でたり髪を梳いたりする。


最初は擽ったそうにしたり照れて嫌がっていた。

今は止めると起きる。

起きて──睨む。

“寂しい”と言えない事の裏返しにも思えるが…

多分、彼女なりの甘え方と思っていいのだろう。

器用なのか、不器用なのか判らない娘だ。

まあ、そういう所も含めて可愛いんだけど。



(…しかし、改めて考えてみても不思議な所だな…)



最初の出逢い──接触した経緯は判らない。

それは“此処”が生まれた真相でも有り、未だに何の手掛かりも無い為。

なので今は放置。


二度目は1週間後。

三度目は五日後に短縮

四度目は四日後に。

それ以降も短縮され──

今では二日に一度。

中には連日の時も有る。



(…俺達のお互いを求める“想い”に比例して頻繁になっている?)



その可能性は有るだろう。

“最初”の事は別にしても“此処”の特性を考えれば引き合う力、要因となる。


しかし、だとするのならば世界に与える影響は小さくない筈だが、今の所は何の変化も見られない。



(…このまま、なんて事は考えられない

何より、俺達以外に同様の状況下に有る者が居るとは思えないしな…)



複数の“楔”が存在すれば世界の“結合”も可能。

影響は計り知れないが。


まあ、それ以前に複数人が“此処”に居られるのなら既に居るだろう。

つまり、当初の予測の範疇からは出ない。

それが現時点での見解。



(…ただ、どういう原理か解らないのが、なぁ…)



探究心という程に熱心にはならないが、不可解なまま過ごすのは不快だ。

考えても解らない。

だが、思考は放棄しない。


“此処”へ来る間隔が短くなったのに対し…

“此処”で過ごす時間が、“長く”なっている。



(体感だと最初は数時間…

だが、今は丸一日から二日にまで及ぶ事も有る…)



今の様に彼女が“此処”で“眠った”としても現世に戻る事はない。

疲労の回復も現実より早い事も確認済み。



(…“此処”は一体何なんだろうな…)



結局は振り出し。

いつか、解る日が来る事を期待するしかない。




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