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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
508/915

        参


さて、話を戻そう。

…羞恥心?、そんな物など恋愛の前では無意味だ。

……すみません、嘘です。

だから、話を蒸し返そうとするのは止めて下さい。

御願いしますから。



「“知りませんでした”の一言で片付け様とはせず、自ら進んで相手の事を知り理解しようとする姿勢には素直に感心するが…」


「…が?」


「今回の件に関して言えば知らない方が良い」



ちょっと…少々……いや、結構、意外な一言なだけに私も翠も螢も驚く。

思わず大声を上げる類いの驚きとは違う。

こう…肩透かしを食らった様な感じの方の驚きだ。


普通であれば、雷華様から“怠慢”を容認する類いの言葉を聞く事は先ず無い。

“肩の力を抜く様に”とは華琳様や私や冥琳達辺りは以前から言われているが、それとこれとは別物。

意味合いが全く違う。

だからこそ、驚いてしまう事は仕方が無い。

…いや、寧ろ、私達だから呆然としている程度の事で済んでいると思う。

もしもこれが泉里や桂花、或いは珀花や灯璃だったら各々違う理由で声を上げて訊ねている所だろう。

特に後者は、騒がし過ぎて冥琳達から説教されている姿までが頭に浮かぶ。

かなり、はっきりとだ。



「確かに事前知識・情報は必要な事が有る

しかし、それが有るが故に“自然な反応”が出来無いという弊害も生まれる

特に、お前達みたいに素直過ぎて、嘘や演技が苦手な者の場合だとな」



そう言われて翠達と思わず顔を見合せる。

…確かに嘘や演技は下手な面子だと思う。

私も翠も感情的に為り易く先ず見破られるだろう。

寧ろ、そうなる自信の方が有る位だ。

…まあ、翠よりかは幾等か私の方が増しだとは思うが結果的に見れば同じに為る可能性が高い。

そういう意味では些細な差なんて無意味な訳だ。


螢は初見では感情の機微を読み取り難いとは思うが、判らない訳ではない。

嘘か否か、その程度の事は老獪な輩ならば見抜く。


だったら、最初から余計な知識や情報を与えず素直な反応をさせた方が良い。

そういう雷華様の御考えは理解出来るし、正しい事と私自身も納得が出来る。


──と、其処まで考えて、一つの疑問が浮かんだ。



「……あの、雷華様?

それでは何故、今回の件に不向きな私達を同行させたのですか?」



そう、もっと他に適任者が居る事は明白だ。

少なくとも私達より確実に上手く出来る。

逆に言えばだ、私達である必要性が判らない。



「まあ、言いたい事は判る

これが“曹魏として”なら別の人選だったが…

今回は立場が違う

それに適した人選の結果、お前達を選んだ訳だ

だから、お前達は変に深く考えなくて良い

有りの侭で居てくれれば、それだけで十分だ」



そう言って微笑まれる。

…誤魔化されている、とも考えてしまうが…狡い。

“そういう事ならば…”と納得してしまう。

…惚れた弱味、ですね。



──side out。


当然と言えば当然と言える愛紗の質問には、内心ではちょっとだけ焦る。

この三人…特に翠なんかは知ってしまえば、先ず演技出来ずにバレるだろう。

それはもう、確率的に見てかなりの高さで。

それは絶対に避けなければならない事なのだが…

だからと言って、その事を教えてしまっても反応には“不自然さ”が滲む。

そう為らない様に三人には表向きの言い方をする。

…だったら最初から演技が出来る面子を選べ?

それじゃあ駄目なんだよ。

欲しいのは“自然な反応”という信憑性だからな。


勿論、三人を同行者とした理由は他にも存在する。

それは追々判る事だが。


今は兎に角、愛紗達を納得させられた事に安堵する。

…と言うか、愛紗達よりも鴉洸達の方が鋭く、意外と察していたりする。

賢過ぎですよ、貴女達。

頼りになりますけどね。



「取り敢えず、予定通りにコーカンドを目指す」


「コーカンド、ですか…

実際には用いる文字が違う事も有り、彼方の表記では読めないのでしょうね」


「仕方が無い事だけどな」



それを深く掘り下げた所で大した意味は無い。

現時点では判らなくても、将来的に判れば良い。

今回の事に関してはな。


華琳達にも言ったが大宛を獲る気は俺には無い。

現状、“彼方”での現代で言う所の中華人民共和国の国土の内、宅が手に入れた領土は北緯30度前後から北の領地になる。

其処に加えて、モンゴル・大韓民国・朝鮮民主主義人民共和国の領地を丸々含みロシア連邦の南東の一部を統合している。

但し、西側に関しては逆に敦煌から西、崑崙山脈から北の領地──まあ、現代の新疆維吾爾自治区から北は西域諸国のままだ。


西涼の同盟とは似ているが其処までの一体感は無い。

だが、部分的に削り獲る訳にもいかない。

獲るなら西涼と同様に丸々全てを獲る必要が有る。

そうなると更に西や南側に居る面倒な勢力と接する事になるのは明白。

だから、獲りたくはない。

西域諸国には“緩衝材”の役割を期待している。

まあ、それらの勢力に敗れ西域諸国が無くなったなら仕方が無い事だが。

その時はその時で考える。

今は不必要な干渉を出来る限り避けたいからな。




 other side──


目の前には生まれた時から見続けている景色が有る。

風が吹けば視界を奪い去り油断すれば迷わせる。

ただただ、無駄に広がった広大な砂漠が其処に在る。


ジリジリ…と、照り付ける日差しは容赦が無い。

しっかり膚を隠さなくては一日と持たず、赤く腫れて眠れぬ程に痛む。

そんな場所に、国に、誰が好き好んで生まれたいか。

そう、好き好んで生まれた訳ではない。

だから、此処から出て行く事もまた可能な話だ。


だが、そうは出来無い。

そうする者も居ないという訳ではない。

ただ、それにはどうしても越えなければ為らない壁が存在している。

“言葉”という壁が。


東へも、西へも、南へも、何処へでも行ける。

己の意思で自由に行ける。

しかし、それ故に先の事を誰も助けてはくれない。

会話すら儘ならない地で、どう遣って生きてゆく。

手段など限られている。

言葉など一切必要としない糧を得る術など。

そして、その果てに待つ、愚かな結末もだ。


未だ見ぬ異国の地。

其処に“幸福(みらい)”は存在してはいない。

だからこそ、其処を目指し離れる者は先ず居ない。


そして何より──結果的に“同じ事”を遣るのならば自分に利の有る此処の方が良いに決まっている。

それが、今も俺が、俺達が此処に居る理由だ。


だが、現実は非情だ。

此処の東に栄えていた国が滅びてしまった事により、此処等を通って往き来する商人達が激減した。

西と南は大丈夫そうだが、俺達にとっては簡単に行く事が出来無い場所になる。

“移住”する事も難しい。


ならば、その滅んだ国へと向かったらどうか。

そう考えて、口にする輩も少なくはない。

だが、実際に実行した輩は二度と戻っては来ない。

それ所か、既に生きてすらいないのだから。

決して、東に行こうとする馬鹿は居なくなった。


国が滅んだからと言っても必ずしも、弱っているとは限らないのだからな。

寧ろ、その逆になる場合が実際には多いだろう。

いつだってそうだ。

旧き時代の終わりは常に、新たな時代の始まりを告げ歴史を紡ぐのだからな。



「──頭っ!、人影だ!」


「…よし、全員に伝えろ

逃がすな、必ず仕留めろ」


「おうっ!」



久し振りの獲物だ。

稼ぎが少なくなっている今絶対に逃しはしない。

恨みは無いが…俺達の為に糧に為って貰うぞ。



──side out



 馬超side──


こんな風に雷華様と一緒に旅が出来るなんてな。

正直、出来ても十数年位は先の事だと思っていた。

だって、色々忙しくなるし子供達が出来たら子育ても大変だろうからな。

母親は沢山居るけど父親は雷華様一人な訳だし。

…そう考えると、雷華様が“時期”を考慮してるのも納得出来るな。


まあ、個人的な事を言えば早く欲しいと思いながら、もう暫くは夫婦水入らずで居たいとも思う。

雷華様の事だから、子供が出来たからって夫婦関係を疎かにする事は無いな。

ただ、華琳様が言っていたみたいに、育児を任せたら表舞台には絶対に上がって来なくなるだろうな。

育児を口実にして。

その辺りは私達妻の間での共通問題だと言えるな。


──と、それは置いといて雷華様との旅だ。

二人きりだったら尚良いと思っているのは愛紗も同じだろうけどな。

螢は…多分、違うと思う。

性格的に考えても。


実際、雷華様と三日以上、二人きりで旅をした経験が有るのは思春と螢のみ。

螢の時には私が助けられた事も有って短い。

だから、ある意味、一緒に旅をしていたのは思春だけだとも言える。

…正直、羨ましいよな。

遠征とかは有ったけどさ、少人数でっていうのも結構貴重だったりする位だし。

雷華様の立場とか考えたら仕方が無いんだけどな。


だからさ、今回起きた件は不謹慎では有るんだけど、嬉しい誤算だと言える。

私達四人だけって考えれば少しの間だけど三人だけで雷華様を独占出来るし。

砦で待機する彩音と鈴萌が私達に向けた嫉妬と羨望の眼差しも理解出来る。

逆の立場だったら、私達も同じ様に思うだろうから。


寝る時だって三人ってのが意外に大きな要素だ。

四人だと左右で腕枕しても内側と外側が出来る。

でも、三人だと左右各々と“上”で行ける。

まあ、体格とかを考えると私と愛紗が左右、螢が上に為るのが一番だろうな。

…雷華様だったら体格とか気にしなさそうだし、私が上でも大丈夫かな?

ああいや、でも万が一にも“重いな”って思われたら嫌だしなぁ…。

でも、ちょっとこう…さ、憧れたりもする訳で。

腕枕は普通に有るんだけど上っていうのは先ず滅多に出来無い経験だろうし。

遣りたいとも言えないし。

こういう時とかじゃないと難しいんだよ、意外と。



「──っ!」



──なんて考えていたら、感知領域に捕捉する反応。


…全く、何奴も此奴も。

もう少しは空気を読めって言いたくなるよな、本当。

言ったって仕方が無いって判ってるんだけど。

それでも言いたくなるのが乙女心ってもんだよな。



──side out



のんびりと…って思ってる矢先に出て来てくれる辺りある意味“お約束”だって判ってるのかもな。

…そんな訳無いけどな。



「…どうしますか?」


「大した数じゃ無いんだし手早く済ませれば予定には支障無いと思うけどな〜」



俺に訊ねる愛紗。

それに続く形で先に意見を出してくる翠。

翠にしては珍しいな。

…久し振りの遠出って事も有るから邪魔をされた様に感じてるのかもな。

まあ、愛紗も一応、指示を訊いてはいるが本音的には翠と同じだろうな。

本人は気付いてないけど、そういう時の不機嫌なのが表情に出てるんだよね。

要するに一種の癖だ。

因みに、それは左の眉尻がピクッ…と上がる。

それ意外の時は基本的には冥琳と一緒で眉根を顰める反応を見せるからな。

多分、気付いてるのは俺を含めて数人だけだろう。

愛紗も何気に意地っ張りでそういう表情を見せる事を良しとしないからなぁ。


まあ、それはさて置き。



「攻撃は一切しない

少しずつ此方と差を詰めて来られる位の速度を保って只管逃げに徹する」



“逃げる”という指示には愛紗と翠が不満を見せる。

今度は判り易い表情で。

まあ、無理も無いか。

普段の俺だったらさっさと片付けている所だしな。



「螢、何方に進む?」


「…彼方、です」



俺の意図を理解し、即座に探知を開始していた螢。

左手を上げて、人差し指を一方へと向ける。

それに俺は首肯で返す。


その遣り取りを見て二人が小さく睨んでくる。

少々拗ねたみたいだ。



「今の俺達は商人なんだ

下手に武力を見せる事態は避ける方が良いからな」


「…それは…まあ…」


「…判りました」



二人とも説明が表向きだと理解しているんだろう。

“また隠してる…”と目が訴えているからな。

“ちゃんと後で説明する”という苦笑を返すと小さく溜め息を吐いて切り替え、指示に合わせて動き出す。




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