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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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4 飛ぶ鳥の影


空を見上げれば淡い黄色に輝く月が瞳に映る。



「本当に行くのか?」



そう心配そうに訊ねるのは華佗だった。



「ああ、お前や村の好意は有り難いが少しばかり急ぐ用が有ってな

余りのんびりしてる時間は無いんだ」



そう答えるが──嘘だ。

いや、“急ぎの用”が有るのは本当だ。

余裕が無い事も。


正確には“用が出来た”と言うべきだが…

説明する訳にもいかない。



「だが、日も落ちた

山中に限らず、この辺りは入り組んでいるから夜道は危険でしかないぞ

聞いた話だと野盗や山賊も居るらしい

せめて…明朝まで待って、出発したらどうだ?」



心配してくれている事は、素直に嬉しい。

それに華佗にしてみれば、今日の誤診が多少なりとも堪えており、不安が有るのだろう。



「俺もそうしたい所だが、そうも行かなくてな

お前は数日は村に留まって経過を看るんだろ?

なら、どの道此処で別れる事になる

村の事も、お前が居るなら心配無いしな」



華佗も理屈では納得するが心情としては納得出来ない様子。



「それに夜目は利く方だ

まあ、迷子の俺が言っても説得力は無いがな」



そう言って肩を竦めて見せ冗談粧す事で話を流す。



「そう言えば…まだ名前を聞いてなかったな」


「色々有って濃密な一日を過ごしたからな

すっかり失念していた」



“今更だな”と互いに苦笑する。



「今は訳が有って、本名を隠して旅をしている

“伏せ名”という訳だが、構わないか?」


「俺も似た様な物だ」


「…そうだったな」



そう言って笑うが、僅かに胸が痛む。


出逢って間もないが華佗は迷い無く“朋友(とも)”と呼べる相手だから。



「俺の名は“飛影”──

“世界”を何処までも己が翼で飛び行く鳥の影跡って意味だ

次に会えた時には、本名を告げられると良いがな」


「そうか…なら、その時を楽しみにしてるさ」



何方からと言う訳でもなく互いに右の拳を突き出し、軽く当てる。


別れの言葉は不用と笑い、華佗に背を向け歩き出す。


だが、数歩して立ち止まり振り返る。



「華佗、一つ憶えて置け

命は決して平等ではない」



一瞬、呆然とするが此方の眼差しを受け、何か意味が有るのだろうと察したのか華佗は頷く。



「また会おう、朋友よ」



そう、声を掛けて歩む。

振り返る事無く、前へと。




華佗と別れ、山中を歩く。

人為的に造られた“闇”と比べれば“闇夜”など暗い内には入らない。


移動しながら華佗の言った氣の鍛練を行ってみる。


丹田で氣を練ってみるが、然程難しくなかった。


扱う物こそ違えど“術者”ならば“似た感覚”を既に知っている。

それこそ“熟知している”と言える程に。



(ま、此処までは想定内

肝心なのは此処からだな)



華佗の言っていた次段階、氣を“勁道”へ流し巡らす訳だが…



(………無理か)



巡らすイメージは出来ても“勁道”が判らない。


“道”が無い以上、流れは生まれず氣は滞る。

闇雲に“突貫工事”出来る訳でもない。



(華佗の言う様に慣らして自然に開くのを待つか…)



出来れば、少しでも早く、“手札”を増やしたい所。


医術・薬術も其の一つ。

この先、何が有るか現状で判らない以上、可能な限り備えておきたい。



(“術”なら系統は違えど同じ“魔力回路(パス)”を使えたんだが…)



そう考えた所で足を止め、立ち止まる。


“練氣”は魔法力の生成と酷似した感覚。

分類的には神通力に近いと言えるのかもしれない。

勿論、別物では有るが。


ただ、今重要なのは類似点である。


氣を扱う感覚と、魔法力を扱う感覚が酷似しているのならば、その“巡環路”も似ている可能性が有る。


となれば、早速試してみる価値が出てくる。


丹田で氣を練り上げると、“魔力回路”へと導く。


自分の仮説が正しければ、氣は全身へと巡る。

間違っていれば…激痛位は有るかもしれないが。


氣が“魔力回路”の一つに入って行く。


違和感は──無い。

心身共に異常も無い。


氣を全ての“魔力回路”に流し、全身へと巡らす。


丹田を起点とする循環。


“懐かしさ”を覚えるのは“術者”としての感覚。

扱う物は違えど、“力”の根源の一つに違いはない。



(…これなら、応用も利く

手始めに“身体強化”か)



一撃必殺を信条とする者は使用しないが…

“術者”にとって近接戦は鬼門と言ってもいい。

故に大抵の系統には自身の身体を強化する術が有る。


要は其の感覚の応用だ。


“強化”も多種多様だが、判り易い“膂力”が対象。


循環させる氣を強化対象へ集中させる。


先ずは右腕、次いで左腕、右脚、左脚、胴体、頭部と一点から始め、効果範囲を拡大していく。




氣が全身の内側で“熱”を生み出す様な感覚。

同時に、四肢に漲る活力。


“術”の感覚と類似。

“身体強化”は成功したと考えて良いだろう。


右足の爪先で軽く、地面を蹴って前へ。

歩幅を越える移動距離。

着地と同時に左足の爪先で同じ様に地面を蹴る。

右、左、右、左…と連続し回転速度を上げる。

同時に加速に耐える為に、皮膚と呼吸器系を強化。

視界を確保する為の眼も。


木々の間を高速で駆け抜け疾走する。

スピード・ガンで測れば、100km/hに達した位か。


最後に右足で地面を大きく蹴り弾き、縦へ。


視界は木々の緑から一転、月光と星の海が広がる。


頂に達し、一瞬の無重力。白金の髪と服の裾が翻る。


直ぐに身体は引力に引かれ落下を開始する。



(さて、上手く行くか…)



着地時の衝撃に備え身体を強化し、同時に別の試み。


“現代”では氣は衰退し、扱う者が居なかった。

それでも、人間の創造力・想像力は豊かで様々な事を考え出す。


氣も然り。

その中でも最も困難と位置付けられる“軽気功”。

自らを木の葉の如く軽くしあらゆる衝撃を受け流すとされている。

だが、気功は“軽功”から生じたとされ、“軽功”は身体を軽くする事によって疾駆したり、崖を駆け登るなどと云われる。


“強化”が筋力等を活性化させるのならば…

“密度”を“変化”させて体重を増減する事も可能な筈である。


落下する中、冷静に体内で氣を循環させ、操作する。


自身の全細胞が空気の如く軽くなるイメージ。


“術”に於いても、結果をイメージする事は重要。

イメージ・トレーニングやシミュレーションは成功へ繋がる一欠片だ。



(己を信じて疑うな…

想像は──創造出来る!)



広がる木々の海。

視界に映る剥き出し地面。

恐怖が身体を縛る。

その恐怖を信念で喰い破り自らを信じる。


接地、そして──衝撃。


足の裏から脳天へと、走り抜ける衝撃。

一瞬遅れて追い掛ける様に広がる“痛み”に顔が歪み脂汗が流れた。



「──っぅ〜…

これ位は仕方無い、か…」



足下には自分を中心にして半径で1m程の凹み。

所謂クレーターだ。


完全には軽化出来なかったものの、衝撃は予想よりも遥かに小さかった。

そう考えれば上出来。


何よりの収穫は──

“軽気功”は実用化可能と判った事。




優先の技法を確認し終え、意識を“周囲”へ向ける。



「──な、何だ?

何なんだ手前ぇっ!?」



声を張り上げながら剣先を此方へと向ける男。

品性の欠けた口調…

薄汚れた格好と容姿…

昼間の賊と同類。


虚勢を張っているが剣先は小刻みに震える。


無理もない。


“空”から“人”が降って来れば大抵は我が目を疑い理解に苦しみ呆然となり、次いで“恐怖”から威嚇し自分を守ろうとする。


目の前の男──否、男達は剣を構えながら、取り囲む様に距離を取る。


誰も彼も…虚勢を張るが、顔に、身体に恐怖が有る。


実に滑稽。


“弱者”相手に“強者”の力を翳し好き勝手してきた屑共が、今は目の前に居る“未知”に対し怯える。



「な、何が可笑しいっ!?」



恐怖の震えを、苛立ちだと思い込む様に叫ぶ。


気付かぬ内に自然と口元に笑みを浮かべていたらしく勘に障った様だ。



「いえ、此処まで愚かだと哀れみを通り越し愉快だと思いまして、ね…」



そう言って微笑む。

“あの時”と同様、彼等の表情が青ざめる。


笑顔とのギャップから来る訳ではなく、放たれる殺気から“死”を感じた為。



「獣以下に落ちた其の命…

我が“力”の“糧”となり“価値”を得よ」



宣告と同時に動く。


氣を操り、今出せる最速の一撃を手近な者に繰り出し絶命させる。


賊達は未だ何も判らない。

反応すら出来無い。


彼等が仲間の死を認識し、リアクションを取るまでに十七の命が潰えた。



「──こ、この野郎っ!」



恐怖に負け、力差を知らず刃を振り翳し向かって来る賊達の姿は惨め。



(せめて、命は“有益”に“使って”やろう…)



殺した賊の持っていた剣を左手で拾い上げ、右の掌を前に突き出し氣を操る。


華佗から聞いた氣の特性で“身体の外”には出難いと言っていた。


つまり“氣弾”の様な技は初心者には無理が有る。

“初心者”には、だ。



(これも要は“魔力弾”を撃ち出す感覚に近い筈…)



掌へ氣を集中、真球の型に固定・収束させる。


そして、形成された弾丸を内側の氣を撃鎚として操り“撃ち出す”──


火花の様に撲つかり合った氣が瞬き、掌の先に有った“氣弾”が飛ぶ。


物体の移動に伴って生じる大気の流れは小さな突風。


正面に居た賊の腹に命中し後方の仲間を巻き込んで、視界の一角を拓いた。




“氣弾”と言っても漫画やアニメ・ゲーム等の様に、爆発する訳ではない様だ。



(“魔力弾”とも違うな

宛ら昔の大砲と言う所か)



まだ鉄球を撃ち出していた時代の大砲と同じ。

“氣弾”も現状は氣の塊に過ぎないらしい。



(まあ、氣自体が生命には猛毒も同じだしな

直接の効果は一人でも他は巻き込めば十分か)



“氣弾”の軌道の先に有る折り重なった屍の山を見て威力の確認をする。


同時に次の準備も行う。

拾った柳葉刀に氣を纏わすイメージで操る。


非生命体だからか、理由が他に有るのかは判らないが柳葉刀自体には氣を流せず纏わす形を取った。



(“破壊”は出来るみたいなんだが…要研究だな)



そんな事を考えながらも、攻撃の手は緩めない。


“氣弾”に茫然としている賊達を氣を纏わせた刃にて切り裂いて行く。


得物の切れ味は今一だが、氣の刃は抜群。

人間を楽に輪切りに出来る程の威力。

己の“強化”も併用すると無双状態になる。



(ゲームをリアルにて再現する事になるとは…

これで、“三国志”の時代だったら完璧だな…)



他愛も無い事を考えながら木偶と化した賊徒を蹂躙し“試し斬り”を続ける。






━━凡そ三十分後。


五百人程居た賊の根城には自分以外の生者は無く…

血と屍が散乱していた。


“片付け”が面倒なので、根城毎埋める事にする。

が、その前に“戦利品”の確保を行う。

旅にも“先立つ物”が必要だから。


根城に使われていた木材を引き剥がし、簡単な荷車を作成する。

賊の使っていた武器を集め積み込む。


根城の居住スペースらしき場所は汚く、目ぼしい物は見当たらなかった。

食糧庫には酒の甕が二つ、米俵が一つ有った。


最後に倉庫らしき場所へと足を運んだ。

中に入って見れば有るのは空の木箱と残骸…そして、錆び付いたり、折れたりし鉄屑と化した物だけ。


落胆し掛けた時だ。

それが眼に映ったのは。


それは全身を錆び付かせた一振りの槍。


鳥が飛翔する姿を模す刃を持った翼槍。


右手を伸ばし──掴む。

そして、感じる。

その内に宿る鼓動を。



「共に往こう──」



氣を籠めると槍は応える。

氣を源に“炎”を生み纏い錆びを落とし、自らを朱く染め上げる。


朱に輝く“炎”の槍。


主を得て、再び煌めいた。





伏名:飛影(ひえい)

本名:不明

所属:不明・自称旅人

武器:翼槍(後入手)

年齢:不明

身長:不明

髪:白金、腰元に届く位

  ポニーテール

眼:真紅

備考:

“異世界”から召喚された“術者”の少年。

術は使用不能な状態。

戦闘に於いても高い実力を垣間見せる。

女性と見間違われる事など日常茶飯事な美人。

服装の印象も一因か。


出現時の服装:

◇黒革のトレンチコート

◇黒装束

 忍者的なデザイン。

◇黒のコンバット・ブーツ

絳鷹(コウオウ)

 サンクト・ペテルブルク式の型の 真紅のカソック。

 “浄化の秘力”を宿し、 どんな攻撃(術含む)でも 傷付かず、決して穢れる ・汚れる事も無い。

 裁縫・洗濯要らず。

 但し、傷付く事(破損)は 絶対に無いが“衝撃”は 防ぎ様がなく“衝撃”を 吸収・拡散・消滅させる 術との併用が基本。

 “魂”に宿る“力”故に “異世界”でも通用。


所持品:

◇呪符 数十枚

 今は紙切れ同然。

◇小刀 十数本

 儀式・投擲用で黒塗り。

 全長15cm(両刃10cm)。

 術的な効果は消失。

 今はナイフ代わり。

◇朱色の翼槍

 氣を源に“炎”を生む。




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