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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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37 未来への歩み


━━尚草庵


宿に着くと真っ直ぐに皆の集まっていた部屋へ向かい説明を行う。



「──と、言う訳で劉曄を娶る事になった」


「いや、判んないからっ!

何も言ってないしっ!」



俺の言葉に公明がツッコミを入れるが、周りは反応が今一薄い。



「…公明、お前は変わってくれるなよ?」


「飛影様…」


「意味が判らないわよ…」



無意味に雰囲気を作るが、孟徳が呆れていた。

まあ、前振りはこんな物で良いだろう。



「詳しい話は許昌に着いてからになるが、俺は孟徳と正式に婚礼を行う」


「許昌という事は曹操殿の本拠に行く訳ですか?」


「そうなるな

お前達も孟徳の──曹家の家臣になる…どうする?」



一応、確認する。

返る答えは判っているが。



「貴男に仕える事を誓い、私達は此処に居ます」


「それは御結婚されても、変わる事は有りません」



興覇、公瑾が皆を代表して意志を告げる。

揺るぎない、真摯な態度で俺を見詰める。



「出来れば、私達も娶って頂ければ嬉しいですね」



その中で漢升が頬に右手を当てながら笑顔で言う。

その一言で照れながらも、期待を込めた視線を皆から向けられる。

余計な興言いやがって。



「ふふっ、大変ね?

貴男の“甲斐性”は何れ程なのかしら?」



此奴も面白がって追い打ち掛けてくるし。



「俺の味方は無しか…」


「…曹操殿、貴女は私達が彼を慕っていても…その、構わないの?」


「ええ、問題無いわよ

“漁色”する質でもなし、見境無い訳でもないもの

“その気”にさせる者なら反対はしないわよ」



俺を無視して仲謀が孟徳に訊ねるが、気にする様子も見せずに俺の台詞を言う。



「まあ“それ”が何よりも難しいでしょうね

協力はしないけれど応援はしてあげるわ

皆、頑張って“落として”見せなさい」


『──はい!』



俺の前に、お前達が孟徳に“落とされて”どうする。

通じ合う所が有る女同士は理解し合うのが早いな。

男には理解し難い事だ。



「…まあいいか

四日後には劉曄を加えて、許昌へ向けて発つ

それまでに御忍びで劉曄が挨拶に来るらしい…

同じ臣下となる身だ

変に気を遣う必要は無い」


「…そう言われても…」


「…ねぇ?…」



儁乂と義封が困った表情で顔を見合わせる。

直ぐには無理だろうが後は成る様に成るか、と考えて洛陽での予定を話した。




皆と分かれ、孟徳の部屋に二人きり。

まあ…“自分の”部屋でも有る訳だが。

俺の部屋を取らずに同室にしようとか企むから。

結局、孟徳が“妻”権限で俺を引き取った。



「何を黄昏てるのよ?」



その声に振り向けば寝衣に着替えた孟徳。

濃紺の地に濃淡の有る桜が描かれた襦袢。

白の帯と共に彼女の白い肌が引き立つ。



「…いや、よくも飽きずに騒げる物だと思ってな」


「そう?

“いつも”あんな感じだと思っていたけど?」



見惚れ掛けたのを見抜いた様で態とらしく“しな”を作って下から顔を覗き込み見詰めてくる。

遣りおるな。



「それで?

“此方”に来たのなら何故私の所に“一番に”会いに来なかったのかしら?

フラフラして、色んな女を口説く暇は有ったのに?」


「無茶言うな…

気付いたら“此方”に居て何処だか判らないし…

“お前が居る”かどうかも定かじゃなかったんだ」


「その割りには私を見ても驚かなかったわね?」


「お互い様だろ?

一目見れば“お前”なのか“別人”か判るさ」


「…っ…まあ、いいわ」



睨んで来る瞳を見詰め返しながら言い切ると、照れて誤魔化す様に顔を伏せる。

更に揶揄いたいが倍返しが怖いので止す。



「それに“時流”も違う様だしな」


「…貴男“十年振り”だと言ってたわよね?」


「お前の歳で、な

“前”と“方法”は違うが間違ってないだろ?」


「それは女の敵よ…

貴男の方はどうなの?」


「約五年、だな」


「そう…不公平だけれど、仕方無い事よね…」



俯いた孟徳の身体を両手で優しく抱き締める。

そっと背中に回された手がきゅっ…と服を掴む。


存在する時の流れが違えば募る想いも違う。

愛しさも、恋しさも…

切なさも、寂しさも。


けれど、過去より未来に、未来より現在に…

共に在るのだから。


感じ合い、分け合い…

紡ぎ、育んで行こう。

“これからは”一緒に。



「…さっき“気付いたら”と言ってたわよね?

それはつまり貴男の意志に関係無く、此処から消えてしまう可能性も有ると?」



胸元に顔を埋めた形のまま訊かれる。

正直、難しい質問だ。



「現状では“無い”とは、断言は出来無い」


「………そう…」



重い、受け答え。

だが、嘘は言わない。


“世界”の在り方を見ると限り無く零に等しい。

しかし、零ではない。


甘い虚偽より、辛い現実。


俺達は現に在るのだから、目を逸らしてはならない。




洛陽での一夜が明けた。

あの後は抱き合ったままで互いに眠った。


寝起きが見た目以上に幼く感じたのは、意地っ張りな性格が邪魔で出せない素の彼女だったからか。

──って、痛っ!?

足を踏むな、踵でっ!



「…誰の所為よ…」



ボソッ…と拗ねた様に溢す一言は照れ隠し。

素直に甘えれば良いのに。器用だか、不器用だか。



「皆様、改めてまして…

姓名は劉曄、字は子揚…

真名を(ゆい)と申します

不束な者では有りますが、宜しく御願い致します」



そう言って目の前で皆へと一礼する劉曄。

…もう子揚で良いか。



「…ぅぅ…予め、言われてなかったら気絶してます」



仲達が貧血でも起こしたと思える様に崩れ落ちる。



「同感だな…生き長らえた筈の寿命が縮む所だ…」



公瑾が仲達の右肩を叩き、互いを慰め合う。


──というか、俺か?

お前達は、俺が悪いと暗に言いたいのか?



「明確に、貴男でしょう」



心を読むな、孟徳。

其処、頷いてんじゃねえ。



「それにしても随分と早く出て来れたわね?

昨日の今日でしょ?」



此方を無視して話を進める孟徳に悪戯──仕返しをと背後から横腹へ向け両手を伸ばすが…叩かれる。



「御父様の計らいで…」



困った様に恥ずかしそうに苦笑する子揚。

それを見て、満場一致。



「親馬鹿な皇帝だな…」



そう呟いた俺の一言に対し子揚が顔を真っ赤にして、俯いてしまう。

じと目で皆が見てくる。

それに苦笑しつつ、右手で子揚の頭を撫でる。



「何も悪い事じゃない

我が子の──最愛の妻との一人娘の幸せを願う…

親として当たり前の事だ」


「気にする必要は無いわ

貴女の意志を尊重しての事でしょう?

だったら、素直に感謝しておけば良いのよ」


「…はい♪」



俺と孟徳の言葉を聞いて、子揚は笑顔で頷く。

それを見て、俺達も笑顔を浮かべる。


その後は、恒例行事。

自己紹介や、俺の遣り方を説明したりした。

“娶る”なら子揚の真名も預かるべきだが…保留。

皆と同じ条件にした。


昨日の時に開き直っていた孟徳は勿論、公明や義封は早々に馴染んでいる。

順応性が高いな。


気付けば他愛ない会話に。

“ガールズトーク”発展は勘弁して欲しいが。

気兼ね無く過ごせるのならそれに越した事はない。




洛陽に着いて三日目。


今日は皆、自由行動中。

また孟徳は連れて来ていた護衛の兵士二十人に対し、先に戻る様に指示。

その出立を見送りに外門に行っている。


他は各々に甘味処や服屋・書店等を巡っている様だ。


さて、俺はと言うと──

“人払い”を使いながら、洛陽内を飛び回る。

勿論、怪しまれない為にも十分程しか使用しない。

目的は大量の情報。

所蔵された書や簡だ。

それらを全て自分の脳内へ記憶していく。

王城、官の邸宅、商家…

“有りそう”な場所全てを手当たり次第に。

序でに“色々”と頂く。

“表”に出せない物を。


その過程で判った事。

現在の年号は“光和”──霊帝・劉宏の代の三番目の元号である。

只今、光和七年。

西暦なら百八十四年頃。

今日は八月二十九日。

逆算すると俺が“此方”に来たのは八月一日だ。


“歴史”的には時代の節目“黄巾の乱”の起こる年。

“この世界”で起こるかは“確定”ではないが。



(まあ“芽”は十分過ぎる程に有る…

“病”の一部だからな)



条件・要素は揃っている。

後は確かな“起点”だけ。



(張角と太平道なんだが、必ずしも“それ”だとは、限らないしな…)



其処に他にも加わる事も、全く異なる場合の可能性も有り得る。


抑、現時点で太平道の影も形も見えない。

地に潜っているとしても、それでは信者数を拡大する事は難しい。

“口コミ”で広がる程度で反乱を起すには届かない。

出来ても厳しいだろう。

宗教や信仰等が“起点”に関わる場合には一定以上の公的認知・知名度が必要と言ってもいい。

無名の地下組織では及ぼす影響力は高が知れる。

よって、数年の活動実態が必要となる。


しかし“歴史”とは異なり“此処”では太平道の名は全く知られていない。

これでは蜂起する事など、夢のまた夢。



(尤も、それを可能にする“何か”が有れば話は別、可能性が確実性になる)



そして、俺には“何か”に心当たりが有る。

“澱”“対器”“龍族”…

そういった存在だ。


其れ等、或いは其の類いに属する存在が絡んでくれば短期間での影響力の拡大も不可能ではなくなる。



(…後で彼奴からも情報を聞いておかないとな…)



立場上、情報は多い筈。

今は少しでも情報を集め、把握する必要が有る。


“此処”は“歴史”に有る過去ではない。


“歴史”を紡ぐ“現在”に生きるのだから。




洛陽滞在五日目。

八月三十一日。


朝一で宿に子揚が来た。

これは予定通り。

早朝なら皇女が単独で外へ出るのも目立たない。

一応、“人払い”も施し、道も作って置いた。

直接に挨拶した者以外には知られていない筈。

数日で知られるだろうが。


今は旅支度も整え、俺達の部屋に集まっている。

並んだ俺達の対面する形で皆が並んでいる。



「一応、通過儀礼だからな

面倒臭いが…」



気怠そうに仕方無く言うとつい本音が出る。

隠す必要は無いが。

呆れたり、苦笑したり皆の反応はいつも通りだ。


コホンッ…と一つ咳払いし孟徳が雰囲気を変える。



「既に貴女達からは真名を預かったけれど私達からはまだだったわね

私の名は曹操、字は孟徳、真名は華琳よ

曹家の当主として貴女達に言う事は唯一つ

公的には私が当主だけれど実質は子和だという事よ

子和無くして私も貴女達も今に至り得ない…

その事を忘れない様に」


『はい!』



迷惑な事を言うな。

俺は当主になるつもりは、微塵も無いぞ。

というか、期待した視線を向けるなお前等。

小さく溜め息を吐きながら皆に向き直る。



「伏せ名である“飛影”は孟徳との再会までの意味で願掛けした物…」



そう言うと隣の誰かさんの気配が揺れる。

同じく、期待に息を呑んで次の言葉を待つ一同。

それに応える。



「つまり、果たされた以上伏せる必要は無い

我が名は曹純、字は子和、真名は雷華(らいか)だ」



俺が自ら真名を口にした為皆が驚愕する。

その表情に満足し、笑みを浮かべて続ける。



「俺の真名を呼ぶか否かはお前達に任せる

だが、俺はお前達の真名を呼びはしない…」



言った直後は寂し気な顔を見せるが俺が言いたい事を察したらしく、拗ねた様に睨んでくる。

それを見て口角を上げる。



「だから、呼ばせたいなら惚れさせてみろ

俺が“自分だけのもの”にしたいと思う“良い女”になってな」


『はいっ、必ずっ!』


「楽しみにしてるよ」



確固たる意志の籠った瞳と返事に笑顔で返す。


そう簡単に落とされる気は無いが…楽しみだ。

これから起こるであろう、“未知”なる日々が。






 世界は廻る──


   過去から未来


    ──現在を繋ぎ




    一章 逢遇ノ伝

         了





姓名字:劉 曄 子揚

真名:(ゆい)

年齢:18歳(登場時)

身長:155cm

愛馬:清影(せいえい)

   月毛/牝/三歳

髪:深緑、膝までの長さ

  ストレート

眼:橙色

性格:

基本的に礼儀正しく清楚でお淑やか。

だが、意外と好奇心旺盛で行動力も有る。


備考:

父・劉宏…第十二代皇帝。

母・劉虞…前皇后(故)。

現皇帝の第一子・長女。

前漢・後漢の両方の正統な皇族の血統。

母は一歳の時に病死。

異母弟に劉辯、劉協。

幼少時より病弱で自室から出る事も少なかった。

世間知らずは否めないが、非常識ではない。

会話や読書が何よりの娯楽だった事も有り知識は高く頭の回転も早い。

内包する氣の総量は別格。

身体能力は未知数。

家事能力も同様。


◆参考容姿

時雨亜沙【SHUFFLE!】




◎予備設定

劉皇后…劉虞。

 真名は比奈衣(ひない)

何皇后…何梁(かりょう)

王美人…王茗(おうめい)

劉辯…13歳。

劉協…9歳。

 ※年齢は劉曄の登場時。




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