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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
466/915

         陸


※越スイ郡→字が無い為、 “雋”を当てます。




 劉備side──


──十二月二十七日。


ご主人様の提案から皆との鍛練を始めてから三日目。

あの後、私と朱里ちゃんはご主人様に意図を訊ねて、その考えを聞いて納得。

成る程と思った。


鍛練は朝と夕に行われる。

私は朝の鍛練にだけ参加、その後は朱里ちゃん達との勉強とお仕事になる。

まだまだ覚える事遣る事が沢山沢山有るから大変。

貂蝉さん達の指導は本当に容赦が無くて厳しい。

私の場合には剣術が中心の内容になるんだけど…

先ずヘトヘト・フラフラで息がゼェゼェ…と成るまで走り続けさせられる。

準備運動って貂蝉さん達は言ってるけど…それだけで十分な気がする。

だけど、そんな風に考える気持ちが有るからこそ。

ご主人様が言っていた様に自分では越えられない所に踏み込めるんだと思う。


で、クタクタになってから剣を握っての手合わせ。

初日は振る事がやっとで、手合わせとは呼べない位に本当に酷い物になった。

夜には今までに感じた事が無い位に疲れて、気絶するみたいに眠っていた。


二日目──昨日は少しだけ増しになったら良いな、と思っていた。

前日の夜、眠る前は。

でも、そんな淡い期待とか綺麗さっぱりと撃沈。

急な鍛練に身体が追い付く事が出来無くて、その結果全身筋肉痛になった。

正面に動く事も出来無い。

それは私だけじゃなくて、ご主人様と沙和ちゃんにも言える事だった。

その点、星ちゃん達は流石だって思った。

疲労は有っても筋肉痛には成っていないもんね。


三日目の今朝は、筋肉痛が更に悪化していた。

それでも無理矢理に動かし鍛練をしていると痛みとか不思議と軽くなっちゃうんだよね〜。

慣れちゃうのかも。


…でも、ちょっと…かなり辛い事には間違い無い。

疲れて勉強中・お仕事中に眠たくなるんだもん。

寝ない様に、寝ない様に、必死に抵抗して頑張る。

だから、ちょっとした暇が出来たら即寝ちゃう。

そうしていないと集中して勉強もお仕事も出来無い。


ご主人様も似た様な感じで読み書きの勉強以外の時は寝ちゃってるみたい。

沙和ちゃんはお仕事の時が辛いみたい。

普段から人一倍、お洒落に気を遣う沙和ちゃんだけど昨日今日はそれが出来る程余裕なんて無いみたい。

髪の寝癖とか凄かった。

…まあ、私やご主人様にも言える事なんだけどね。


こうしてみて、星ちゃん達武を修める人達って本当に凄いって改めて思う。

日々の鍛練──積み重ねがどんなに大切なのかも。


そして、考えさせられる。

理想の実現の為の努力。

それを私はどれだけ遣って来たのだろうか、と。


曹操さん、孫策さん。

理想の実現へと向けて進む彼女達との大きな差。

それを、思い知った。




ご主人様達との鍛練に続き朝の勉強を終え、執務室で今日のお仕事を熟す。

…眠気と戦いながら。


そんな所へ急に遣って来た朱里ちゃん。

慌てて“だだだ大丈夫!、ちゃんと遣ってるよ!?”と言い訳した私は悪くはない…筈…と言いたい。

…うん…うん、大丈夫。

眠ってた訳じゃないしね。


──と、私が自己簡潔する間もずっと、朱里ちゃんは朱里ちゃんで慌てながらも何かを話そうとしてて──噛みまくっている。

…うん、しかも、言ってる事が全然判らない。

だから、取り敢えず深呼吸して貰って落ち着いてから説明して貰う事にした。


人が慌ててるのを見ると、不思議と自分は落ち着く。

何でだろうね〜…。



「…すー…はー…はいっ、もう大丈夫でしゅ!」



──あ、噛んじゃった。

自分でも判るからだよね。

朱里ちゃんの顔が真っ赤になっちゃう。

ご主人様や星ちゃんが居て見てたら多分、朱里ちゃん泣いちゃってるかも。

気にしてるもんね。


なので、私は気にしないで朱里ちゃんが気持ちを切り替えるのを待つ。

…でも、何でこんなによく噛んじゃうんだろ?

それも不思議だよね〜。



「…桃香様、落ち着いて、聞いて下さいね」



“私より朱里ちゃんの方が落ち着いてね?”と思わず言いそうになる。

勿論、私は言わないよ。

星ちゃんや沙和ちゃんなら言いそうだけど。

ああ、鈴々ちゃんもだね。

結構容赦無いから。



「…実は先程、李異さん、王連さん、杜瓊さんからの使者が参りました」


「え〜と…その人達って…確か…あ〜…えと…」



朱里ちゃんが口にした名に聞き覚えは有る。

有るんだけど…今一ピンと来てくれない。

疲れと眠気で頭が回らない事は確かだし。

…本当に誰だったかな。



「越雋郡太守の杜瓊さん、健為郡属国を二分し治める李異さんと王連さんです」


「あっ、うん、そうそう!──って、ええっ!?

ちょちょっ、ちょおーっと待って朱里ちゃんっ!?

えっ、本当に?、本当〜にその人達からの使者さんが来てるの?」



思い出しはしたけど思わぬ来訪者に慌ててしまう。

取り敢えず、落ち着こうと朱里ちゃんに確認して間を置く事にする。

…あ、別に朱里ちゃんの事疑ってる訳じゃないよ?

ちゃんと信じてるからね。


兎に角、今の内に深呼吸し慌てている思考と気持ちを落ち着かせる。



「本当です──あ、いえ、正確に言うと“来ていた”になりますね」


「…え?、あれ?、え?」


「彼等の使者の方達は既に帰られましたので…」



落ち着こうとしていたけど一転して茫然となる。

と言うか、慌てながらでも抱いてた緊張感の遣り場が無くなって戸惑う。

…何なんだろうね、これ。




何と無く、“えー…”的な空気が室内に漂う。

肩透かしもいい所だよね。

…あ、でも、応対しなくて済むのは嬉しいかな。

今の状態で対面して難しい話とか出来無いし。

何処かで大きな失敗をする気しかしないもん。

と言うか、自信が有る。

そんな事に自信が有っちゃ駄目なんだけどね。


取り敢えず、コホンッ…と一つ咳払いして仕切り直しキリッ!とした表情をして朱里ちゃんを見詰める。



「…説明して貰えるかな」


「はい、彼等の使者さんは桃香様への書状を渡したら帰って行かれました」


「……あの…え〜と……」


「桃香様の戸惑う気持ちは理解出来ます…」


「…うん…ありがとう…」



理解されると少し泣きたくなってしまった。

だってほら…ねぇ?

ちょっとだけ虚しくなる。


まあ、此処で落ち込んだら朱里ちゃんを困らせるから切り替えないとね。

話も全然進んでないし。



「…それで、その書状には何て書いて有ったの?」


「多少の文句の違いなどは有りましたが…

最終的な内容として見れば何れも同じ物です」



そう言って、朱里ちゃんが一呼吸置いた。

それと同時に私も反射的に息を飲んでしまう。

こんな時、ご主人様が傍に居てくれると心強いのに。

そう思ってしまう。



「桃香様が益州の統治者に成られた際には、皆さんは直ぐに桃香様の家臣として臣従して下さる、と…」


「…………え?、ええっ!?

そそそそれって本当にっ!?

あっ、いやっ、そう書いた書状が有るんだから本当の事なんだって判るんだけど何て言うか、そのっ…」


「…何と無く、判ります」



そう言って苦笑を浮かべる朱里ちゃんに感謝。

上手く言えない事を察して貰えるって助かるよね。


でも…うん、これって多分凄い話なんだよね。

だって、以前の活躍してた頃とは状況が違うもん。

簡単には私達の事を認めて貰えないと思ってた。

だから、物凄く吃驚した。

戦って、勝って、そうして示すしか無いって。

そう思ってただけに。


戦わずに済むんだったら、それが一番なんだから。

…甘いって言われても私は出来る限り戦う事をせずに話し合いで解決したい。

今も、そう思ってるから。





(…あれ?、でも何で急にそんな事になったのかな?

私達、此処で厳顔さん達に負けちゃったのに…)



冷静になって考えてみると理由が全然判らない。

そんな悩む私の事を見て、朱里ちゃんが苦笑する。

“そうなりますよね…”と言いた気な表情。

やっぱり、朱里ちゃんから見ても予想外の事みたい。



「今回の書状のお話自体は私達にとって物凄く有難い内容だとは思います」


「うん、凄く良い話だよね

出来れば実現したいもん」



戦わなければ、戦いで出る犠牲は確実に避けられる。

避けられるなら避ける。

兵の皆は駒じゃない。

命は私達の道具じゃない。

だから、犠牲は出ない事が一番良いに決まってる。

そう出来るんだから遣る。

遣らない理由は無いから。



「…ですが、その成立には私達だけの力で益州州牧の劉璋さんの勢力と戦って、勝たなくてはいけません」


「…っ、そう、だよね…」



朱里ちゃんに指摘されて、それを実現させる為に先ず解決しなくちゃあいけない問題を思い出す。

“益州の統治者に成れば”なんだもんね。

でもまあ、何方等にしてもそうしないと始まらない事自体は変わらない訳で。

私達が遣らないといけない事は結局は同じなんだし。

悩むだけ時間の無駄。


…うん、大丈夫大丈夫。

迷う必要は無いもんね。



「朱里ちゃん、頑張ろう

大丈夫、出来るよ

私達なら絶対に出来る!」


「桃香様…はいっ!」



朱里ちゃんと二人、笑顔で力強く頷き合う。


本当は私も、ご主人様にも相談してから決めたい。

だけど、この前厳顔さんに言われたばっかり。

…曹操さんにも言われた。

私が、決める。

それが大事なんだって。

それが、理想を掲げて歩む私の背負うべき責任。



(…ご主人様も私を支える為に頑張ってくれてる…

だから、私も辛いからって逃げ出さない!

全部、ちゃんと受け止めて進んで行かなくちゃ!)



厳顔さんに言った様に。

私の“悲願”は至難の事。

それでも叶えたいんなら、こんな事で挫けて躓いたら絶対に無理だもんね。


私は強くならくちゃ。

武や知も大事だけど兎に角気持ちを、覚悟を鍛える。

もっと、もっと、もっと、もっと強くなる。

ちゃんと背負える様に。



──side out



 諸葛亮side──


急な事で驚いたのは確か。

でも、直ぐに決断をされた桃香様の姿は今まで以上に大きく頼もしく見えて──ちょっと泣きそうです。

…実際は恥ずかしいですし桃香様に変に重圧を感じて欲しくはないので此処では泣きませんけど。

後でこっそり泣きます。

勿論、嬉し泣きですよ。



「…あ、でも、どうして?

何で急に、こういう考えに成ったのかな?」



肝心な部分を思い出して、口に出す桃香様。

そうなるのも当然の事で、誰だって気になります。

…有耶無耶にするのは無理みたいです。

出来れば言いたくはないのですけど…こればっかりは仕方有りませんね。



「恐らく、ですが…

厳顔さんの存在が大きいのだと思います」


「厳顔さんが?

え、でも、厳顔さんはまだ私達を認めてくれたって訳じゃないよね?」


「それは私達の問題です

周囲には関係有りません

端から見れば、厳顔さんの立場よりも、厳顔さんから桃香様に健為郡の統治権が移った事の方が重要です

それは厳顔さんが桃香様を認めた様に見えますから

厳顔さんは正式な官位での統治者では有りません

それでも、兵や民は勿論、周囲の諸侯から認められる存在ですからね

その動向は常に周囲からの注目を集めています

私が他より健為郡の獲得を優先した理由も厳顔さんを納得させられたなら周囲に大きな影響を齎す事が可能だと思ったからです」



特に、桃香様こそが新しい“主君”に相応しいという事を周囲に示す為に。


勝負には敗れましたけど、それは良い意味での私達の糧に成りました。

ご主人様の提案した様に、私達が成長する為にも。

諸侯や民に桃香様の存在を強く印象付ける為にも。

…内容が内容なので大きな声では言えませんが。

と言うか、普通に言わない方が良い事ですしね。



「う〜ん…ちょっと複雑な気分だけど…結果的に見て良い事なんだし気にしなら駄目だよね〜…」


「はい、経緯はどうで有れ素直に喜びましょう」


「…うん、そうだね

これで戦わなくても二つの郡と人達が加わるんだし

良い事だよね♪」



その笑顔に本の少しだけ、胸の奥が痛む。



──side out



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