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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
443/915

         参



「先ず、反乱の規模だけど江南の郡全てが貴女に対し反旗を翻したわ

その上で、反乱軍の全てを鎮圧・降伏させて終了よ

それじゃあ、張勲の番ね

其方の説明をして頂戴」



──と、実に簡単な報告を告げて張勲に説明を促す。

そんな私の限度に対して、張勲は一安心していた顔を驚きに変えて慌てる。

勿論、そうなる様に此方が意図的に仕組んでいるから更なる“追撃”も用意して有ったりする訳よ。



「ちょっ!?、それって簡単過ぎませんか!?

もっとこう詳しく──」


「袁術ちゃん、私の活躍の自慢話聞きたい?」


「聞きたくないのじゃ」


「──という事よ」


「お嬢様ーっ!?」



裏切られた訳ではない。

寧ろ袁術の性格を考えれば当然の事だと言える反応。

長年傍に居る張勲であれば判らない筈が無い。

但し、今の状況での発言は考えてからして欲しいのが張勲としても本音よね。

何の考えも無しに発言して状況を悪化させる様な事は止めて貰いたい筈だもの。

まあ、それを理解出来たり察する事が出来るのならば袁紹と同盟を結ぶ事なんてしないでしょうけどね。



「…ねえ〜、早く説明してくれないかしら?

私達も暇じゃないのよ?」


「…うぅ〜…それは〜…」



私達だけでなく袁術により逃げ道を塞がれた張勲。


抑、難癖付けてきただけで敗戦の責任を私達に対して問えるだけの理由は無い。

仮に無理矢理にこじつけてしまおう物なら、矛盾点を指摘されて立場が悪くなる一方だったりする。

当然、張勲も判っている。

だからこそ無理難題を言う場合には袁術に言わせて、私を挑発する様に運ぶ事で小蓮の存在等の“奥の手”を意識させて従わせる形で抑えて来たのだから。

そして、その“奥の手”は既に使えない状態。

つまりは手詰まりな訳よ。



「…ん?、待つのじゃ孫策

先程“江南の郡全てが”と言わなかったかのぉ?

それはつまり、お主の居る長沙郡もという事か?」



──と、意外な所で袁術が私の言った事実に気付き、張勲が突破口を見付けたと言わんばかりの表情をして私を睨み付けて来た。



「孫策さん、どういう事か説明して貰えますか?

貴女は自分の居る長沙郡は大丈夫と言った筈ですよ?

まさか、お嬢様にあんなに自信満々で言って置いて、実は反乱が起きてました〜なんて言いませんよね?」



追い詰められた事で今にも泣き出しそうだった表情が一転して獲物を追い詰めていたぶる様な顔をする。

それに対して私は北叟笑みながら口を開く。



「ええ、言わないわよ

だって、江南の郡領で反乱なんて最初っから起きてはないんだもの」


「……………………え?」



思いもしなかった返答に、張勲だけでなく袁術までが呆然となった。





「…………はい?…え?、あの…え?、ええっ!?

ちょっ!?、ちょっと待って貰えますかっ!?

それってば一体どういう事なんですかっ!?」


「どうもこうも無いわ

今言った通りの意味よ?」


「だからそれが──っ!?」



突然の急展開だったけれど流石に張勲も参謀としての経験が長い訳ではない。

私の言葉の意味する事実に気付いて息を飲んだ。



「どういう事じゃ孫策っ!

まさかお主っ!、妾に嘘を吐いておったのかっ?!」



対して状況を理解出来無い袁術は単純に私に騙されたという事実に怒る。

でも、それは少し違う。



「正確に言えば、私は嘘を吐いてはいないわね

だって貴女に対して反乱が起きたのは事実だもの」


「ならば一体何故、お主は先程反乱が起きていないと言ったのじゃっ?!」


「え〜…此処まで言っててまだ判らない訳〜?

ん〜…面倒だし、張勲

私の代わりに袁術ちゃんに説明してあげてくれる?」


「七乃、どういうじゃ?!」


「そ、それは〜…」



私の言葉に即座に張勲へと振り向き訊ねる袁術。

丸投げされた張勲は慌てる様子を見せるも覚悟を決めゆっくりと口を開く。



「…お嬢様、いいですか?

落ち着いて聞いて下さい

先ず、孫策さんの言う通りお嬢様に対する反乱自体は起きています…

ですが、長沙郡での反乱は起きてはいません…」


「ならば、江南の郡全てでというのも嘘じゃな?!」


「…いいえ、違います

違うんですよ、お嬢様…」



理解出来ていないからこそ自分の置かれた今の状況に気付かず憤慨する袁術に、張勲は弱々しく首を振って真実を語る。



「…お嬢様、今回の反乱はお嬢様に対する物です

それは江南の郡全てによる反乱──いえ、独立の為の隠れ蓑だったんです…

ですから、最初から南では民の間での反乱は起きてはいなかったんですよ…

そして、その首謀者こそが此処に居る孫策さんです」


「な、何じゃとっ!?」


「だから、嘘を言ってなどいないんですよ…

ただ、私達が誤解する様な言い方をしただけで…」



そう言いながら、袁術から視線を私へと移すと張勲は悔しそうに顔を歪めて私を睨み付けてくる。

“そうですよね?”という張勲の眼差しに対し、私は漸く素顔を晒す。

口角を釣り上げて、獰猛な笑みを浮かべる事で張勲の言葉を肯定する。





「えぇいっ!、何が何やらややこしいのじゃっ!

要するに孫策は妾を騙して反乱を企てておったという事なんじゃなっ?!」



右手を突き出し人差し指を私に向けながら、“全てを見破った”とか言いた気な態度の袁術を見詰めながら私は肩を竦めて見せる。



「あら、私は一言も反乱に関与していないとは言った記憶が無いわよ?

もしそう思っていたのならそれは単に貴女達の勝手な勘違いって事でしょ」


「何じゃとーっ!?」


「抑、“お主は反乱に対し関与しておるのか?”とか貴女が訊けば済む話よ?

そうしなかったのは貴女の責任じゃない

私の所為にしないで頂戴」


「…ぐぬぬぬぅ〜…」



当然の事を言い返されて、袁術は顔を憤怒に染める。

その表情を見て、長かった不遇の時に積もらせていた悪感情が薄れてゆくのを、私は確かに感じる。

…恐らくは祭達も、ね。



「孫策っ!、お主っ!

妾に対してこの様な真似を働いて無事に済むと思って居るのかっ?!

絶対に赦さぬからなっ?!」



──と、感傷に浸っていた所を邪魔する袁術。

全く…このお馬鹿は。

少しは空気を読んで欲しい所なんだけど。

まあ、無理な相談なのかもしれないわね。



「…はぁ〜…あのね〜…

貴女、自分の置かれている状況が判ってる?

絶対に赦さない?

笑わせてくれるわね〜

今、貴女が立っているのは一体何処かしら?

貴女の治める荊州の領地?

いいえ、違うわ

此処は私達“孫家の領地”なのよ?

つまり、この場に居る兵達以外に貴女に従う者なんて唯の一人も居ないわ

寧ろ、全ての者達が貴女の敵だと言えるわね

ねぇ、判るかしら?

貴女はもう、威張る事すら出来無い、喰われるだけの憐れな“小猿(えもの)”になっちゃったって訳よ」


「──っ!!??」



捲し立てる様に言いながら最後に不敵に笑って見せ、その立場を認識させる。

すると袁術は顔を強張らせ身体を小さく震えさせる。


まさか此処まではっきりと言わないと判らないなんて思わなかったから、流石に呆れてしまう。

もう少しは理解出来るかと思ってたけど──いいえ、そうじゃないわね。

結局、この急展開に袁術は付いて来られなかった。

だから、理解する事なんて出来る訳が無い。

…この辺りは私達の方でも読み間違えていたわね。

袁術の事を実際能力以上に考えちゃってたみたい。

本当、熟袁家の馬鹿さには驚かされるわ。





「さてと…貴女達、他にも何か言って置きたい事って有るのかしら?」


「…お、お主は妾達を一体どうするつもりじゃ?」



“主張は有るの?”という意味で訊いたんだけど…

ちょっと意外だったわね。

この状況をすんなり袁術が受け入れるって事は。

もう少し駄々を捏ねるかと思っていただけに。



「そうね〜…貴女には色々好き勝手された訳だし〜?

どうすると思う?」


「ひいいぃいぃぃっ!!??」



ニマァ…と狡猾で嗜虐的な笑みを浮かべて見せれば、袁術は悲鳴を上げて張勲に抱き付いてしまう。

年齢的には十分大人なのに中身は本当に子供ね。



「おおお願いしますっ!

こんな事を貴女に言うのは虫がいいって事は判ってはいますが、どうかっ!

どうか命だけはっ!」



袁術を胸に抱き締めながら庇う様にして頭を下げて、助命を求める張勲。

自分達が遣ってきた行いに対しての自覚が有る辺りは袁術とは違い、意識をして遣っていた事の証よね。

それで助命を求めるのって本当に虫がいい話だわ。



「どうしようかしら…

そうね〜…それじゃあね、こうしましょうか?」



張勲の嘆願を聞き入れると思わせて注意を引く。

張勲だけでなく袁術も顔を上げて私を見詰める中で、私は笑顔で続ける。



「貴女達の内何方らか一人だけ見逃してあげるわ」


「…え〜と、それはつまり何方らかは…」


「ええ、死ぬって事ね」


「ぴいぃいいぃぃっ!!??」



助かると思った矢先の死刑宣告に袁術が再び叫ぶ。

本当、面白い反応よね。

もう少し弄って遊びたい所なんだけど、そろそろ話を進めないとね。

葛藤している張勲の答えも気になるけど、残念。



「──とまあ、冗談はこれ位にして置いて…

安心しなさい、この場では貴女達を殺しはしないわ」


「な、ならば、何処で殺すつもりなんじゃ?…」



素直に言葉を受け取ったが故の袁術の質問。

そう解釈出来てしまうから思わず苦笑してしまう。

相変わらず、すんなりとは話を進めさせてくれないんだから困るわね。



「安心しなさい、貴女には一つ“借り”が有るわ

それを返してあげる

だから、嘗て貴女が私達に対し手を差し伸べてくれた様に、私も貴女に手を差し伸べてあげる

貴女達を孫家の客将として迎え入れてあげるわ」


「な、何じゃと!?」



予期せぬ言葉に対し袁術は思いっ切り驚く。

でも、この状況でまだ元の状態に戻れると思う辺りは彼女らしいわよね。





「妾にお主の部下になれと言うのかっ?!」


「ええ、その通りよ

私の下で、私の意のままに扱き使ってあげるわ」


「ふ、巫山戯るでない!

お主は先程、借りを返すと言ったではないか?!」



激昂する袁術。

だけど、巫山戯ているのは貴女の方なんだけどね?

張勲は判ってるわよ?

選択の自由は無いって。



「あら、当然でしょう?

だって、貴女が私達にした事を“そっくりそのまま”返してあげるんだから

貴女達の意思や希望なんて聞く必要無いもの

貴女がそうした様にね?」


「その様な返し方が有って堪るものか!

もっと妾に相応しい返し方を考えるのじゃっ!」


「じゃあ、名門の者らしく潔く散りなさい」


「──っ!?、わわわわ妾が悪かったのじゃーっ!

じゃが、妾は…妾は〜…」



死にたくはない。

だけど、私の下に付くのも受け入れられない。

本当、只の駄々っ子ね。



「全く、我が儘ね〜…

だったら仕方が無いわ

もう一つの選択肢を貴女に出して上げるわ」


「…そ、それは何じゃ?」


「今残っている貴女の兵を連れて“孫家の領地”から直ちに出て行きなさい

此処からだと西へ行く方が近いでしょうね

そうすれば嘗ての恩に報い命だけは見逃してあげる

それが嫌なら、私の下僕か死ぬかになるわ

他に選択肢は無しよ

好きな物を選びなさい」



これ以上の妥協はしない。

そう態度で示し、選択肢を突き付けて選ばせる。

まあ、何を選ぶのかは既に判っているんだけどね。

と言うか、それを選ぶ様に選択肢を出したんだから。



「うぅ〜……こ、此処から出て行くのじゃ…」


「そう、判ったわ

一応、数日分は持つ程度の糧食は用意して有るわ

貴女達が出る所まで此方の部隊が見送ってあげる

但し、途中で反抗等したらその場で斬り捨てるわ

それと最後に一つ…

もしも、次に私の前に姿を現した時には──言う必要無いわよね?」


「わ、判ったのじゃっ!」


「判りました〜っ!」



そう言って睨み付けると、二人は半泣きで了承。

本心は兎も角、取り敢えず言質は取ったわ。




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