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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
439/915

         玖


さて、確認も出来た事だしこれ以上意地悪する必要も無いから改めて自己紹介を始めようと口を開く。



「私は──」


「──ね〜、蒲公英〜?、周々達見付かった〜?

──って、お姉様っ!?」



──と、名乗るよりも早く何処かに潜んで現れる機を見計らっていたかの様に、此処に来た目的の人物──シャオは現れた。

まあ、その驚き様からしてそういう可能性が無い事は確かなんだけどね。

間は良いんでしょうけど。


反射的に身構えた馬岱。

でも、驚いているシャオとついつい苦笑してしまった私を見て馬岱は僅かばかり呆然として──気付く。

自分が試されていた事に。

そして、あっと言う間に、耳の先まで赤くした。

緊張感が有ったからこそ、言えたり出来たりする事は普段では恥ずかしいという事実は意外と多い。

特に想いが強く大切な事に関係している場合にはね。


だから、馬岱が涙目をして拗ねた様に睨んで来た事を私は甘んじて受け止める。

咎めたりはしない。

彼女はそれだけ真摯な志に示してくれたのだから。



「本当にお姉様っ!?

何で何で何でーっ?!

──って、周々待ってっ!?

今甘えちゃ駄目ぇーっ!」



私達の事なんか気にせずに普段通りにシャオを見たら甘えついていった周々。

勿論、今の状況でシャオが平然と周々を構ってあげる事なんて難しい。

ただ、しゅん…としている周々の姿を見てしまうと、可哀想になった様で馬岱が代わりに慰める様に周々を撫でてあげている。

…善々?、あの子は普通に私の後ろで“我関せず”の態度で座っているわ。

ある意味、大物よね〜。


──なんて事を考えながら目の前で戸惑っているけど嬉しそうに笑顔を浮かべて私に向かい飛び付いてきたシャオを抱き止める。



「久し振りね、シャオ♪

元気そうで安心したわ

だけど、相変わらず子布を困らせてるんじゃない?」



抱き締めながら、私の顔を見上げてくるシャオに対し少しだけ反省をさせる為に注意する意味でも一言だけ付け加える。

その瞬間、スッ…と視線をシャオが外した。



「むー…お姉様酷い!

そんな事無いもん!

シャオだって、もう立派な大人の女なんだからね?」



頬を膨らませながら言う、その台詞を合わせて見れば一見すれば拗ねて不機嫌になった様に思うでしょう。

だけど、それは間違い。

そうじゃないのよ。

そういう態度を取って見せ誤魔化そうとするシャオの常套手段なのよ。

まあ、昔っから母様や私が甘やかしてきた結果だし、唯一厳しかった蓮華が家を離れちゃったから注意する人も減ったしね。


子布は後で労うとしても、今後の事を考えれば少しは厳しくしないと駄目ね。

シャオ自身が言った通り、もう子供じゃないんだから責任を持たせないと。





「ねえねえ、お姉様は今日どうして此処に居るの?」


「ああそれはね…」



シャオに理由を訊ねられて口答しようとして考える。

どうせ証拠でもある書状を見せる事になるでしょうし最初から見せてしまう方が話が早いと結論を出す。

右手で懐から書状を出してシャオに手渡す。


突然の事に首を傾げつつも受け取った書状を開く。

当たり前の様に馬岱が傍に来て覗き込み一緒になって読み始める姿を見ていると二人の繋がりが単なる主従という訳ではなく、互いに良き友人としての関係でも有るのだと判る。


その事を嬉しく思う。

だが、同時に少し羨ましく思ってもしまう。



(そういう相手って私には居ないものね〜…)



気心の知れた相手、という事でいいのら祭や穏辺りが居るし、もっと深い意味で言えば祐哉が居る。

でも、その関係とは違う。

そういう関係ではなく──敢えて言うなら好敵手。

友人で有りつつ、誰よりも負けたくない相手。

そんな感じの存在。

春蘭や霞・白蓮辺りならば近いのかもしれないけど、まだまだ日が浅い。

その上、三人との関係では主従の方が強くなる。

だから、シャオ達みたいな関係には中々慣れない。


それは勿論、私とシャオの立場の違いや性格的な事も要因では有るでしょう。

私達姉妹の中ではシャオは特に社交性が高いしね。

私の場合は結構好き嫌いがはっきりしているから顔や態度に出てしまい易いから単純な友好関係を結ぶのは意外と下手だと思う。

戦って認め合って──って事なら大丈夫なんだけど。



(シャオがもう少し経験や場数を重ねて成長をしたら外交関係の仕事を任せても良いかもしれないわね〜)



まあ、そうなったとしたら“お目付け役”から色々と苦情や愚痴なんかが絶えず上がって来そうだけどね。

教育係の子布は特には甘いという訳ではない。

寧ろ、厳しい方だ。

私や蓮華も幼かった頃には子布から勉強を教わった。

蓮華は基本的に真面目だし頑張り屋だったから子布も楽だったと言っていた。

私は………まあ、あれよ。

天真爛漫だった事も有って室内で勉強しているよりも外で武術の稽古をした方が良いだろうって事で子布が勧めてくれたのよね。

…ごめんなさい、嘘です。

本当は“手に負えません”みたいな感じで母様直々の指導に代わりました。


仕方無いじゃないの!

だって子供だもん!

遊びたい盛りなんだもん!

勉強が嫌で抜け出して何が悪いのよ!

無理矢理勉強させるなんて暴力と同じよ!


──って、母様に言ったら私が泣いて謝るまで戦場の最前線を引っ張り回される事になったんだけど。

私も若かったわよね〜。





「……え〜と、お姉様?

これって本当の事なの?」



書状を読み終えたシャオが顔を上げて半信半疑のまま私に訊ねる。

馬岱も同様の意見らしく、コクコクと隣で私を見詰め頷いている。

二人の気持ちはよく判る。

多分、私が二人の立場なら同じ反応をしたでしょう。

蓮華が離れる時みたいに。


そういう意味で言ったら、あの一件は私自身にとって一つの成長の糧になったと言えるのでしょうね。



「ええ、勿論本当の事よ

と言うか、袁術が騙す様な真似をすると思う?」



──と言うのは表向き。

一応、袁術側の細作が居る可能性を考えての言葉。

私がシャオ達に接触すれば必ず言動を監視する目的で動く輩は居る。

袁術──というよりは古参連中からの褒美が目当ての密告者達がね。

本職じゃないから実は結構厄介だったりする。

下手に疑心暗鬼になっては此方の信頼や結束が乱れ、崩れてしまい兼ねないから堂々と会話する様に私達は徹底している。

因みに、今私が言った事を本音に直せば“あの袁術に私達を騙すなんて事出来る訳無いでしょう?”という感じになるわね。

シャオは勿論、馬岱の方も多少なりとも袁術に関する風評等を知っているらしく“あ〜…確かにね〜…”と言う様な顔をする。



(まあ、もう別に言っても構わないんだけどね〜…)



既に書状は私の手の中だし万が一知られても細作から袁術の耳へと届くまでには時間が掛かる。

それは私達が自領へと到着する程度には十分な位は。

つまり、追い掛けられても手遅れであり、問題無い訳だったりする。

ただ、不必要に袁術に対し反意を見せるよりは従順な振りを続けて、予定通りに動いて貰う方が良い。

その為の配慮に過ぎない。


事の流れが予想外の方向に進んでしまえば、何処かに此方の想定の範疇を越える取り返しの付かない大きな“穴”が出来兼ねない。

それは後々、致命的な物に成る可能性も有るしね。

此方の手の中で操れるならそれが一番理想的。

そう、諸侯等を巧みに操り現状の勢力図を築き上げた曹魏の様にね。





「──とまあ、そういう訳だから直ぐに引っ越しする準備を始めて頂戴」


「え?、今直ぐに?」


「そう、今直ぐによ」



私の言葉にシャオは物凄く面倒臭そうな顔をしながら軟禁監視生活(げんじょう)から漸く解放される事実を優先して邸内へと引き返す為に私に背を向ける。

それに続こうとした馬岱を見て直ぐに声を掛ける。



「ああ、馬岱は後少しだけ残って頂戴、話が有るの

それから引っ越しする事を子布に伝えて置いてね」


「は〜い」



気怠そうに返事をする姿に苦笑を浮かべてしまう。

蓮華が居たなら間違い無く雷が落ちている所よね。


そんなシャオとは対照的に先程の事を思い出したのか馬岱は緊張の色が濃いのが一目で判る位に堅い表情で私を見詰めていた。



「そんなに緊張しなくても大丈夫だから安心して

責める訳じゃないから」


「その…申し訳有り──」


「──ああ、別にいいから

普通に話してくれても私も気にしないわ」



出来無いという訳ではなく“慣れてはいない”という意味で違和感を感じるから普段通りの話し方をすれば良いと促す。

その意図を理解した馬岱はシャオと同様の可愛らしい笑顔を浮かべて見せる。



「…え〜と…それじゃあ、その、遠慮無く…」


「ええ、それで良いわよ

それじゃ、改めて訊くけど貴女は何者なのかしら?

此処での立場とかではなく貴女自身の出自に関しての意味で、ね…

貴女、それなりに良い所の生まれ育ちでしょ?

しかも、中々武の腕も有るみたいだから親や親族には官吏が居るんじゃない?」



そう笑顔で訊ねると馬岱は“何で判ったのっ!?”って言わんだかりに驚いた。

寧ろ、判らないと思う方が私には不思議なんだけど。

…ああでも、普通は馬岱の歳の頃位だったら政治的な腹の探り合いなんて滅多に経験しないでしょうから、判らなくても無理は無いのかもしれないわね。

バレたり、気付かれたりはしない様に気を付ける事は意識出来ていても。



「どうなのかしら?」


「はぁ〜…実は私、西涼の馬一族の者なんですよ〜」


「西涼の馬一族って言えば馬騰の…もしかして貴女、馬騰の娘なの?」



馬騰と言えば母様と並んで東の虎・西の狼、だなんて呼ばれていた稀代の英傑。

確か、娘が居たという話を何処かで聞いた気がする。



「それはお姉様──従姉の馬超の事ですね

私は伯母様の姪ですよ」


「…それでも十分に血筋は濃い所じゃない」


「えへへ〜♪」



笑い事ではない気もするが踏み込み過ぎても無粋だし程度は意識しておく。

必要最低限に止めると。




若干、遠慮気味の言葉遣いである事は仕方無い。

慣れてくれば自然と普通に話してくれるでしょう。

それよりも今は確認すべき問題が有る。



「馬一族という事は貴女は西涼の“お姫様”よね?

何でこんな所に居る訳?」


「お姫様なのはお姉様で、私は違うんだけどね〜…

伯母様が亡くなって一族で残ったのは、お姉様と私の二人だけだったんだけど…

そのお姉様は伯母様の形見でもある愛槍を探しに旅に出ちゃったの

その後暫くは一人で西涼に居たけど、退屈だったから私もお姉様の後を追う形で旅に出たんだけど…

途中で行き倒れちゃって…

死に掛けた所をシャオ様に助けて貰ったんだよね〜

結局、お姉様には会えないままなんだけど〜」


「何をしているのよ…」


「えへへ〜」



何気無い事の様に話すけど馬岱の言葉に対して思わず深い溜め息が漏れた。

笑い事ではないでしょう。

多分、従姉の馬超は馬岱の行動を知れば怒る筈。

それは“姉”としての立場だからこそ理解出来る事。

…ああ、でも三人以上だと蓮華みたいに間の子は色々苦労するんでしょうね。

…うん、今度会った時には蓮華に感謝しよう。

そう、密かに心に誓う。



「…はぁ〜…それで?

今後はどうするつもり?

また馬超を探しに旅に出る予定なのかしら?」


「ん〜…今、はっきりとは言えない事ですね

でも、今の所シャオ様への恩返しも含めて離れる気は無いですよ」



“将来的には一族の復興の為に離れる可能性は…”と言う様な眼差し。

声にこそ出さないけれど、彼女の立場ならば仕方無い事かもしれない。

私達姉妹にだって似ている部分は有る訳だしね。


まあ、その時はその時。

そうなる頃には今と状況は変わっているでしょうし、各々の道がどうなるのかも定かではないしね。

私達が進み、目指す未来は変わらないとしても。


取り敢えず今は思い掛けぬ新しい仲間の存在を歓迎し遣るべき事を進める。

それを優先しないとね。




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