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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
436/915

         陸


何故か急に、袁術の未来が心配になってしまった。

確かに袁術とは敵対関係に間違いは無い。

けれど、その…母性とでも言うべきなのかしら。

袁術の事が無防備な子供に見えてしまって考えるより早く身体が動いていた。



(…宅って背がちっちゃい娘が多いしねぇ〜…)



他人事に思えないからこそ反応してしまったのかも。

そう考えれば納得出来無い事でもない。

…真実は判らないけどね。



(んー…まあ、袁術自身を鬱陶しく思った事は数える事自体馬鹿馬鹿しくなる程有った訳だけど…

どうしても殺して遣りたいって程じゃないのよね〜)



殺す可能性は否定しない。

正直、その辺りは最終的に流れと乗りで判断する事になると思うしね。


そんな事を考えている間も張勲は必死に袁術に対して弁解をしていた。

ちょっと見苦しい事も有り私は聞く気は無いけどね。

取り敢えず、袁術の信用を回復出来たらしく、張勲が安堵の息を吐いているので話を元に戻す事にする。



「そろそろいいかしら?」


「うむ、大丈夫じゃ」


「どうぞどうぞ〜♪」



袁術よりも、張勲の態度に苛っとくるが我慢する。

さっきの事を踏まえてから有る事無い事言って袁術の信頼を失わせて遣ろうかと思ってしまう。



(…あれ?、それはそれで意外と有りじゃない?)



張勲を袁術の傍から遠ざけ事実上失脚させてしまえば──いえ、駄目だわ。

そうなったら袁術の側役に袁術からは私が指名される可能性が高くなる。

そうなれば色々と不都合。

今の状況が生まれる前──最低でも黄巾の乱以前なら悪くなかったでしょうけど現状では歓迎出来無い。

中々に難しい物よね〜。



「それじゃ、続きだけど…

先ず一つ確認させて頂戴

袁紹は曹魏との開戦の日をどの辺りに考えている訳?

その日数次第で出来る事と遣らないといけない事とが変わってくるしね」


「確かにのぉ…七乃」


「はいはい〜♪

え〜と、ですね〜…ああ、そうそう、そうでした

確か、十二月二十日です」


「……………………は?」


「あらら〜?、もしかして聞こえませんでしたか〜?

それはひょっとして〜…

孫策さん耳が遠くなったんじゃないんですか〜?」



先程の仕返しでしょうね。

言外に“歳を取り衰えたんじゃないんですか〜?”と嘲笑う様な口調と表情。

物凄〜く腹は立つけど──今はそれ所ではない。



「十二月の、二十日なの?

一月の、じゃなくて?」


「間違い有りませんよ?

何なら彼方から届けられた書状を見せましょうか?」


「…そうね、お願いするわ

その方が早いし」


「判りました

それじゃあ、ちょっとだけ待ってて下さいね〜」



そう言って部屋を出て行く張勲を見送りながら、私は“平静を保つ様に”と己に繰り返し言い聞かせる。




張勲が持ってきた袁紹から送られた書状を読み終えて──思わず、破り捨てたい衝動に駆られた。

勿論、遣らなかったけど。

それ位に私としては予想を覆された事実だった。



(巫山戯てるでしょっ!?

何よ、これっ!?

“十二月二十日開戦”って馬鹿でしょっ!)



あの春蘭ですら思った程に馬鹿としか言えない。

現実って物語の中の様には上手くも都合良くも運ばず無情で不条理な物よね。


まあ、起きた事を今更私がどうこう言った所で何一つ変わる訳でも無いんだし、切り替えないとね。


開戦する事自体──つまり曹魏と事を構える事自体は袁紹達の自由だから私達は一向に構わない。

けど、袁術は私達の戦力を計算に入れている。

恐らくは袁紹もね。

そうじゃなかったら袁紹が裏側で火花を散らしている袁術に同盟を申し入れる訳有る筈無いもの。

より確実に勝つ為ではなく万が一にも敗北しない為に私達の戦力を欲した。

──といった所が袁紹側の本音でしょうね。



(…これは多分、白蓮との一戦が原因でしょうね…)



反董卓連合の際に直に見た袁紹は“目立ちたがり屋の自分勝手で我が儘な大人に成りきれない大きな子供”という印象だった。

それを基本として考えれば曹操に噛み付くだろう事は想像に難くない。

しかしだ、それは飽く迄も袁紹個人だけの場合。

実際には袁紹に仕えている家臣達が居る。

曹魏は基本的に不明だから外すとして──他の諸侯の中では領地も領民も家臣も最大なのは袁紹で間違いと私でも断言出来る。

勿論、飽く迄も数や量だけ見た場合で、の話よ。

質は無関係でね。


だから、袁紹の性格ならば同盟なんて組みはしない。

自分の下に付き家臣となる場合なら有り得る事だけど“対等な立場”で組む事は彼女は嫌うでしょう。

それでも、そうしなくてはならなかった理由が袁紹に有るとすれば、それは多分“恐怖”だと思う。

白蓮により垣間見せられた自身の死に対する恐怖心が袁紹に臆病さを与え慎重な運びを決断させた。

その結果の今回の同盟。



(…はぁ〜…まあ、一応は判ってはいたんだけどね…

袁紹は馬鹿なんだって…)



私も愚かだったって事ね。

慎重になったと言っても、頭や眼が良くなったという訳ではないもの。

普通の慎重さを求める事が抑の間違いなのよね。




取り敢えず、一息吐いて、書状を張勲に返す。



「正直、信じたくないけど本当みたいね…」


「ん?、孫策、それは一体どういう意味なのじゃ?」



私の愚痴の様な呆れ気味の一言を袁術が聞き逃さずに拾い上げた。

まあ、そうなる様に興味を引く言い方をしたんだけど──九割本音でもある。

付け加えるのなら袁術達は立場上の事も含め、互いに弱味や失態を探し求める。

ついさっき袁術に対して、そういう類いの話を振ったばかりだからね。

目敏く反応しても不思議な事ではないと言える。

寧ろ、そうなる方が自然と言ってもいい位だもの。



「どうもこうもないわよ

今日は何月何日?」


「十二月十六日じゃろ?」


「ええ、その通りよ

で、開戦が二十日な訳よ

前日には予定地に移動して待機している必要が有るし実質的な準備期間は僅かに二日って所かしらね」


「そうなりますね〜」



他人事の様に言う張勲には敢えて視線は向けない。

もし向けたら怒気と殺気を抑える自信が無いから。

絶対に睨み付ける。

其方の方が自信が有る。



「私はね、一ヶ月は有ると考えて提案した訳よ…

それが何?、後二日?

そんなのは自殺行為としか言えないわよ」



──と、逆ギレした態度で呆れた様な口調をしながら袁術に対して“無理よ”と言外に感じさせる。


まあ、実際問題ね、曹魏を相手にするのに一週間すら無い準備期間で何をすれば勝てると言うのか袁紹達に訊いてみたいわ。

と言うか、生き残れるかも怪しいでしょうに。

それなのに元々仲が悪くて敵対関係に有る袁術と組むなんて何処に利点が有ると思ったのかしら。

私達の戦力云々がっていう話じゃないわよ。

連携自体無理でしょうに。

最低限二週間は準備期間を設けなさいよね。

只でさえ厳しい相手なのに自分達で更に難しくして、一体何がしたいのかしら。

本当、馬鹿よね。


…それに気付かずに平気で同盟を結んだ袁術も袁術と言わざるを得ないけど。

…あ〜…いえ、違うわね。

袁術ではなく張勲ね。

傍に付いていて気付かずに締結させた事は大失態。

それにすら気付いていないみたいだけどね。



(でもまあ、予想外だけど利用出来る事なのよね〜)



予定とは違う流れ。

だから私の即興になるけど上手く運べるとは思う。

これを使えば一気に袁術を追い込めるしね。

さあ、頑張り所よ、雪蓮。





「なっ!?、何じゃとっ!?

それでは妾は一体どうなるというのじゃっ?!」


「…言っても良いの?」


「だ、駄目じゃっ!」



見放された──と言うより捨てられた様な眼差しで、私を見詰める袁術。

ついつい、苛めたくなって切り返したら、泣きそうな顔で睨まれた。

まあ、あんまり苛め過ぎて臍を曲げられても困るから話を進めましょうか。



「はぁ〜…兎に角もう一度確認するわよ?

荊州内の反乱を鎮圧して、袁紹との同盟にも参加…

それが貴女の希望ね?」


「そ、そうじゃ!」


「うん、それは無理よ」


「早過ぎじゃろ!?

もう少し悩む位は考えても良いのではないかっ?!」


「じゃあ、もう少し考えて…………やっぱり、無理」


「無理以外にじゃっ!」


「え〜…もう仕方無いわね

──張勲、任せたわ」


「そうじゃ七乃っ!

何とかするのじゃっ!」


「──はいっ!?、ちょっ、ええっ!?、私ですかっ!?」


「そうじゃっ!

何とかせんか七乃っ!」


「む、無理ですっ!

無理無理無理無理無理無理絶対に無理ですってばっ!

お嬢様無理ですっ!」


「ならばお主は妾に死ねと言うのじゃなっ!?」


「そうは言ってません!

…確かにそうなる可能性が高いのは事実ですけど…」


「聞こえたぞ七乃っ!

その時はお主も妾の道連れじゃからなっ?!」


「そんなっ、お嬢様っ!?

それは──あれ?、うん?

ええまあ私はそうなっても構いませんけど…」


「けど…何じゃ?」


「あの〜…お嬢様?

それなら、もう最初っから一緒に逃げた方が良い様な気がしませんか?

と言うか、袁紹との同盟を無視しちゃえば死ななくて済むと思いますよ?」


「それは嫌じゃっ!

それではまるで妾が負けたみたいではないかっ!」


「え〜と…それは…その…

…みたいって言うか確実に負けになりますよね?…」


「それだけは…それだけは絶ぇ〜っ…………対にっ!

嫌なのじゃあぁーーっ!!」



──なんて感じで、真桜がこの場に居たら嬉々として参加していそうな袁術達の遣り取りを静かに見ながら話を纏める為の機を窺う。

事前に袁術の袁紹に対する対抗心を煽っておいたのは正解だったわね。

しかも偶然だったとは言え張勲が“旅立ってた”から口も挟まれなかった上に、私の説明も聞いてなかったみたいなのも大きい。

これだけ有利な状況ならば此方の狙いは成功する筈。




勿論、最後まで油断せずに進めないとね。

話が纏まり、実際に動いて覆せない状況になって漸く成功と言えるのだから。


息を切らしながら肩を上下させている袁術を見詰めて小さく溜め息を吐く。

袁術が気付く様に態と。

そう遣って私の方に意識を集中させる。



「…賭けになってもいいんだったら、一つだけ方法が無くもないわ」


「…賭け、というのは一体どういう事じゃ?」


「先ず言って置くけど…

長沙郡はね私達が居るから今のままでも問題無いわ

だけどね、それは飽く迄も長沙だけを守ればの話…

他まで抱え込むと守るのは現状ではかなり難しいわ

加えて短期間で鎮圧して、同盟への合流となれば先ず不可能と言えるわ

当然、鎮圧に戦力を割けば同盟へ参加可能な兵数にも大きく影響するでしょう

そうなれば曹魏との決戦は敗北が濃厚になるわ

袁紹が助けてくれるなんて思えないしね」



此処で一旦、話を切る。

少し間を置く事で袁術達に具体的な想像をさせる事で私の言葉を信じさせる。

但し、間が長くなり過ぎてしまうと危険。

効果が薄れるけど短い方が増しでしょうね。

尤も、伊達に袁術達と長く付き合ってはいない。

二人共に有効な絶妙な間は理解しているわ。



「だから、優先するのなら反乱の鎮圧なのは確かよ」


「うぅ〜…じゃが妾は…」


「判ってるわよ…

だから、此処からが賭けの部分の話よ

先ず、貴女達は出せるだけ戦力を率いた上で、袁紹の待つ予定に向かいなさい

荊州内の反乱の鎮圧の方は私達が受け持つわ」


「…大丈夫なのか?」


「孫家の全戦力を集めて、本格的に反乱が起きる前に叩く事が出来れば、ね」


『…おぉ〜…』



そう言うと二人から小さな歓声が聞こえた。



「…ん?、今の話の何処に賭けが有ったのじゃ?」


「一つは私達が抑え切れる範囲の内に動けるか、ね

これは貴女の決断次第よ

遅くなればなるだけ勝機は低くなっていくわ

今此処で決断してくれればそれだけ早く動けるわ」


「そういう事なら簡単じゃ

妾が許可する!

孫家の全戦力を集結させて反乱を鎮圧するのじゃ!」





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