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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
405/915

       伍


 郭嘉side──


雷華様に揶揄われながらも何とか耐え抜き持ち直す。

いえ、状況さえ違ったなら迷わず“雪崩れ込む”場面なのですが。

ええ、その点に関しては、非常に残念無念です。


雷華様の腕から抜け出して一つ咳払いをする。

腕ずくで捕まえられていた訳ではないので楽ですが、後ろ髪を引かれないという訳でも有りません。



「戦力的には予想通り、と言えるでしょうか」


「まあ、そうだな」



仕切り直そうとしていると然り気無く伸ばした右手で頭を撫でられる。

…本当に狡い方ですね。

この場を本気で放り出して己の欲求に素直になろうと考えてしまう。

それでも、出来無いという事を理解した上で。

妻として、軍師として…

己が責任を放棄する事など有り得ない。

遣ってしまえば、二度とは妻にも軍師にも戻れない。

こんな時にまで隙を突いて不意打ちで試される。

まあ、“常在戦場”を体現されている方ですからね。

これ位は日常茶飯事。

私達も慣れてはいます。

ただ、慣れてはいますが、気持ち的には別です。

その“意地悪”に対しては後々“償い”を要求しても構わないでしょう。


そう、自己完結した一方で視線は敵軍を見詰める。

袁紹軍だと一目で判別する事が出来る派手な金飾。

その隣に繋がり並んでいる灰銀の帯が有る。

それは袁術の軍勢。



「流石に袁紹の所に比べてしまうと数は落ちますね」



ぱっと見た限りでも帯状に並んだ長さは約五倍。

太さは同じ位だとしても。

実際に数へと直してみれば差は如実に判る。

袁紹軍、約二十二万。

袁術軍、約四万。

後々反感を買う事を考えて徴兵を抑えた袁術と違い、此処に全戦力を注ぎ込んだ袁紹の方が多くて当然。

この戦に懸ける意気込みが違うのだから。



「当然と言えば当然だな

互いの領地の規模が違うし何より荊州は“南半分”が実質的に孫策の領地だ

徴兵で用意出来る兵数には差が出るのは必然だ

まあ、袁術に外部に対して伝手が有ったり、内外への影響力や人望が有ったなら話は違っただろうがな」



まあ、そうですよね。

とは言っても袁術の器では高が知れていますが。



「それに…幾ら頭数だけを揃えた所で意味が無い

なぁ、そうだろ?」


「ふふっ…そうですね」



悪戯が成功する瞬間を頭に思い浮かべている子供。

そう言い表すのが正しいと言える雷華様の笑顔を見て私も思わず笑む。


これまでの数々の実体験が自然と胸を高鳴らせる。

この戦もまた後世に於いて語り継がれる事でしょう。

そうなる確信が有ります。


私の双眸に映る笑顔。

それこそが物語っている。



──side out



 張勲side──


隣に陣取る袁紹さんの軍。

その気迫漲る様相は正しく大決戦と言うべき物。


冀州・幽州・并州。

“河北三州の覇者”なんて自信満々に言ってましたが微妙に響きが悪いですね。

曹操さんが青州を獲らずに居たのなら“河北四州”で様に成ったんですけどね。

──なんて事を言ったから益々気合いが入った様で、キィイー!、キィイー!、と喚いて居ましたね。

お猿さんの方が可愛くて、見ている気になりますけど年増の行き遅れを見てても仕方無いですから、適当に軍議は終わらせてさっさと帰ってきましたけど。



(でもまあ、これ位はして貰わないと困りますしね〜

そうでないと勝てる可能性なんて見えませんから…)



視線を向けた先。

其処には左右に森林を持つ小高い丘が有る。

その丘に陣取っているのは紫紺の軍旗に“曹”の字を刻み込んだ一団。

曹魏の軍勢。


実際、今天下一と言っても過言ではないのが曹魏。

はっきり言ってしまったら絶対に戦いたくはない。

先ず、単独の勢力で勝てる人なんて居ませんよ。

だって、あの呂布ですらも打ち倒して捕虜にした様な軍勢なんですよ?

正面に戦おうなんて考える時点で、お馬鹿決定です。

もう、そんなに曹操さんと戦いたいのなら一人勝手に遣って下さい。

そう、言いたい。


ただ、それでも、です。

お嬢様から“妾が新たなる皇帝になるのじゃ!”とか言われちゃたりしたら──私としては、頑張っちゃうしかないですよね〜♪。

って事で、袁紹さんからの同盟のお話に乗っかって、こうしているんですけど。


正直、“早まったかな?”なんて今更に思います。

だって、あのお猿さんってお馬鹿ですから正面な話に成らないんですよね。

だから、面倒なんで適当に話を聞き流して、同盟だけ結んじゃったんですよ。


まあ、実際に署名したのはお嬢様な訳なんですけど。

お嬢様も私と似た様な物で話は聞いていません。

半分、寝ていましたから。

ええ、それはもう口の端に涎の跡が残っていた位に、ぐっすりと眠っていましたからね〜。

袁家の主導権争いの渦中の相手を前にしての居眠り。

流石は、お嬢様です♪。


尤も、彼方側の軍師陣には睨まれていましたが。

気付いてない以上、威圧も全くの無意味です。

私も知らん振りして外方を向いていましたしね。

残念でした〜♪、と言ってあげたかったです。

言ったら言ったで面倒事に成るので言いませんけど。





(…んー…それにしても…奇妙なんですよね〜…)



自陣の本営の天幕に戻らず途中で足を止める。

見詰めるのは曹魏の陣営。

丘の上、という事も有って正確な様子は判らない。


何と無く視線を向けたのは袁紹軍の陣営──の上。

空を見上げる様に顔を上に向ければ視界に映り込んだ巨大な影が有る。

高々と聳えるのは物見櫓。

その上には長い長い梯子を登った兵士達の姿が豆粒の様に見えている。



(彼処からなら彼方の事もよく見えるでしょうね〜)



陣形や兵数を窺える筈。

ただ、その巨大さのあまり相手にも丸見えですけど。

だから、曹操さんも森林を利用している筈。

つまりは、目に見えている数よりは確実に多い。

それは確かでしょうけど。



(同盟な訳ですし、敵軍の情報位は教えてくれたって良いのですけど…)



まあ、仕方無い事ですね。

同盟とは言っても表向き、名と形だけの物。

今でも、両陣営に寄生する狸さん達は互いの首を狙い隙を窺っているでしょう。

それを知らないのは両派の長である二人のみ。

私は面倒なんで参加せずにお嬢様の傍に居ますけど。

だって、化かし合いよりも足の引っ張り合いですし。

意味無いですからね〜。


まあ、それは兎も角として今は曹操さんですね。

手の内を隠す、というのは普通に考えられる事ですが妙に静かなんですよね。



(抑、あの厄介な壁の外に易々と出て来ますか?

私だったら籠城をしながら返り討ちですけどね)



誘き寄せて叩く。

楽ですから良いですよね。

此方が有利ですし。


まあ、曹操さんの気性から考えると外側に出て来ても可笑しくはないですが。

それっぽい挑発文辺りとか送れば反応してくれそうな気がしますからね。


でも、それにしては兵数が少ない気がします。

勿論、森林に隠れていると仮定は出来ますが。

それでも森林自体は大きくないですから、隠れられる兵数は限られます。

その事を加味して考えても──凡そ、二万。

圧倒的に少ないですね。


…もしかしたら、少しだけ交戦してから壁の内に退き此方側に引き付けて置いて冀州の各地を落とす、とかでしょうか。

ただ、それを遣るとすると兵数よりも割く将師の数が重要になってきますね。

それだけの人数が居るかは判断し難い所です。



(でもまあ、そうだったら一気に攻め立ててしまえば押し切れるでしょうけど)



その自信が、仇になる。

よく有る事ですからね。





「お嬢様〜、只今軍議から戻りましたよ〜」


「……うみゅ?…おぉ〜…七乃〜、遅いのじゃぁ〜」



天幕に入ると椅子に深々と座ったままで、気怠そうな緩慢な動きと声音で此方を見て来るではないですか。

ああっ、お嬢様っ!

お嬢様は私を悶絶死させるおつもりなんですか?

そう、思わず問いたくなる位に可愛らしかった。

もっと言うなら即座に抱き締めて頬擦りしたいです。

まあ、流石にいきなりでは怖がられてしまいますから自制しましたけどね。

可能ならしたかったです。


あと、その様子からして、待ちくたびれて眠っていたみたいですね。

…ああっ!?、なんて事っ!

こっそりひっそりと天幕に入っていれば居眠りしてるお嬢様を見れたのにっ!

いえっ!、それだけでなく眠っているのを良い事に、あんな事こんな事そんな事出来たかもっ!

くっ…張勲一生の不覚っ!



「…七乃?、七〜乃〜?」



──はっ!?。

いけません、いけません。

ついうっかり自分の世界に落ちる所でした。


お嬢様の私を呼ぶ声を聞き我に返って、胸中で安堵。

お嬢様に知られる訳には…いえ、知られたら知られたなんですけどね?

それはそれでお嬢様に色々出来ますから。

まあ、今はまだこのままを楽しみたいんですけど。



「何ですか、お嬢様?」



動揺は一切見せず、笑顔を浮かべて訊ね返す。

大抵は誤魔化せますしね。

此処で追及されたとしても適当に躱せますよ。

お嬢様、素直ですから。



「それは妾の台詞なのじゃ

どうしたのじゃ?

他でも無い七乃の事じゃ

何かが有った事位は妾にも判るのじゃ

それとも…妾には言えん事なのかの?」



嗚呼っ、お嬢様ぁーっ!!

そんなに私の事を心配して下さっているんですね?!

ああっ、それなのに存分に反応する事が出来無い今が何よりも憎らしいです!

さっさと終わらせてお城に帰りたいですよね〜。



「いえいえ、ちょっとだけ軍議が長引いてしまって、気疲れしただけですから

大丈夫ですよ〜♪」



お嬢様は僅かに考え込んで“嘘ではない”と判断して納得してくれました。


安心して下さい。

本当に大した事ではないし問題無いですから。


そんな事よりも、です。

お嬢様が気遣ってくれた。

それだけで私は十分です。

これで、ご飯三杯はいけるでしょうからね。

気合いも入りますよ。





「おお、そうじゃった

七乃、お主宛の文じゃ」



そう言って、お嬢様は傍に有る小さな台の上に有った書状を右手で取り、私へと差し出してくる。

私宛、というのが気になる部分でしょうか。

どうせ、お仕事関係だとは思いますけど。

これがお嬢様からだったら最高なんですけどね〜。


お嬢様から文を受け取って開いて読む。

差出人は予想通りと言うか孫策さんでした。

其処に書いてある内容に、思わず溜め息が漏れる。



(あ〜…まあ、そんな気はしていましたけどね〜

こうなってしまうと此方も考えないと駄目ですね…)


「七乃?、文には一体何と書いてあったのじゃ?」



私の反応を見て気になったみたいで、お嬢様が普通に訊いてきた。

さて、どうしましょうか。

──って、考えても仕方が無い事なんですけどね。

此処は書いてある通りに、言いましょうか。



「孫策さんからなんですが間に合わないみたいです」


「何じゃと?、では此方の先鋒はどうするのじゃ?」


「ん〜…そうですね〜…」



元々、戦働きは孫策さんに任せるつもりでしたから、此方の将師は“使えない”方々ばっかり。

先ず、戦果は期待出来無いでしょうね。

となると〜…やはり此処は袁紹さんに頑張って貰って危なくなったら、お嬢様とさっさと離脱、ですね。

奇しくも先程言った一言が役に立ってくれますね。

私、運が良いみたいですし今回はもしかしたら…って期待しちゃいますよ〜♪



「取り敢えず、曹操さんの事は袁紹さんや袁家古参の皆様にお任せしましょう

で、お嬢様が美味しい所を貰っちゃうって事で♪」


「おぉ〜っ!、それは良い案なのじゃ!

うむ、では妾はゆっくりと見物でもして居るのじゃ

七乃、蜂蜜水を!」


「はい、お嬢様っ♪」



…そうですね、折角ですし“不要品”を片付けるのに丁度良い機会ですね。

袁紹さんの勝ち目も高くは無い気がしますから私達は端っこに陣取りましょう。

ただ、横取り出来そうなら動きますけどね。

其方の準備をしていないといけませんね。

ああ、忙しい忙しい。



──side out。



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