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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
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3 スライムは…


華佗が薬の調合を行う間に先程の山へと向かう。

病状に対し足りない薬草を揃える為だ。


患者の症状から細菌感染性胃腸炎だと判断。

まだ軽度なので薬は十分に間に合うだろう。


水分補給が重要になるが、患者用の飲み水は一度沸騰させ除菌する必要が有る。



「医者の真似事をする事になるとは…」



厄介事の中でも珍事だ。


だが、今更愚痴っても既に首を突っ込んだ後だ。


自分で言った以上、責任はきっちり果たす。


取り敢えず、華佗を拾った場所まで戻った。


上りだが、勾配自体は麓に近い分緩やか。

二十分程で到着した。


華佗には悪いが…

他人に“合わせて”走るとどうしても遅くなる。

“道案内”して貰ったから本人の前では言わないが。


本業の医者が調達していた場所らしく植物が多い。

早速、周囲を見渡し目的の薬草を探す。



「──有ったか」



五分程で目的の薬草の内、一つ目を発見。

群生し易い種なので採取も楽で助かる。


背負ってきた籠を下ろし、薬草を入れてゆく。



「どんな知識も手を出して置くべきだな…」



痛感しながら染々と呟く。


“現代”では科学・医療の技術の進化と共に、薬草の知識は必要性を狭めた。


勿論、医者や薬剤師、薬や病の研究者達には必要だ。


しかし、一般人にとっては馴染みが薄い。

農家などは別にしても。


病院、薬局等に行けば楽に手に入れる事が出来る。

多種多様な抗生物質という便利な薬を。


それは悪い事ではない。

技術の進歩に伴い、知識の有用性や基準は変わる。


“現代”に於いても同じ。


薬草の代わりに“薬剤”の知識が必要なだけの話。


故に薬草の知識は一般的な価値基準を下げた。


しかし、“術者”にとって薬草は古来から術の一端を担う要素である。

全てではないにしろ。


薬草の知識も、その延長で身に付けたに過ぎないが、今は大いに役立つ。



「まあ、“現世”に於いて“擦り合わせ”が必要では有るだろうがな…」



今回は、偶々、その知識が通用する場合だっただけ。


仮に、病状から病気を判断出来たとしても、治療法を知っているとは限らない。


自分の持つ知識は飽く迄も“現代”の物。


“異世界”──“現世”と同じ保証はない。

油断・過信は禁物だ。



(聞く事が増えたな…)



華佗への質問攻めを決め、薬草の採取を続けた。




治療に必要な薬草が揃い、籠の方も一杯になった。


薬草を探す内に山の奥へと入って来た為、帰りは多少時間を要するだろう。


──そんな事を考えていた時だった。



「おいおい、お嬢さん

こんな所に一人で居るたぁ無用心だねえ〜」



ガサッと音を立て茂みから現れる男──否、男達。



「そうそう、危ねえって」


「俺達が“優しく”案内をしてやるよ?」



そう言いながら、取り囲む様に俺達は姿を現す。


数は──十七人。


身形は“盗賊”の敵モブのコスプレその物。

賊と考えていいだろうが、少ない気がする。



「ウヒョ〜♪

お姉さん美人だね〜」



その内の一人が近寄って、左腕を回して肩を抱こうとしてくる。



「あら、嬉しいですね

でも──貴方方は好みではありません」



笑顔で答えながら男の手を右手で取って身体を捻る。


油断しきっている男は宙を舞って地面に叩き付けられ痛みに顔を歪めた。



「──っ痛えええーっ!?」



一瞬の静寂。

男達は呆然となり、直ぐに仲間が倒された事に気付き敵意を向ける。



「──この野郎っ!」



反射的に出た言葉だろうが見事に正解だった。



「手前ぇ、赦さねえっ!」


「覚悟しろ、この女っ!

たっ──っぷり可愛がってやるからよおっ!」



三下の台詞を吐きながら、腰に凧いていた剣を抜いて包囲を狭めてくる。


この状況で尚、“脅し”が通用すると思っている辺り熟雑魚らしい。



「スライムは作品によって愛らしさが有るけれど…

人の底辺は何処であっても変わらないですね…」



つい、溜め息と共に呟く。



「ああっ!?、手前ぇ何訳の判んねぇ事言ってんだ!?」



声を荒気ながら近付く男。


最初に姿を現した男だ。

恐らく“此処に居る中”のリーダー格なのだろう。



「判り易くて助かる」


「ああ?」



相手の声は無視。


先程投げた、足元に転がる男の首へと右足を落とす。



「──っ゛あ゛…」



ゴギッ…と鈍い音と共に、男の短い断末魔。


反射的に伸ばされた右腕は力無く地面に落ちる。



「さて、躾のなっていない憐れで馬鹿な愚者達よ…

たっぷりと“可愛がって”あげましょう♪」



楽しそうに笑顔で告げると男達の顔から血の気が引き恐怖に青ざめてゆく。


彼等は胸中で後悔する。


己が愚かさ、己が賎しさ、己が浅はかさを。


谺する“死の音”と共に。




薬草を“無事に”取り終え村に戻ると、華佗に渡して調合を指示する。


その間に患者の子供達から話を聞いて、家族や村人に生水の使用に関して注意を促し、初期症状が出た際の対象法を教えた。


こう言っては何だが…

雑菌の中で生活する彼等は“現代人”に比べて遥かに免疫力や抵抗力が高い。


医療技術が発達した弊害と言えなくもないが。



「凄いな、アンタは」



改めて感心した様に華佗が声を掛けて来る。



「偶々知っていただけだ

実際に彼等を治療したのは他の誰でもない

華佗、お前だ」



“自信を持て”と言う様に華佗の胸に右手の拳を軽く当てて笑う。


此方の言いたい事を理解し華佗も頷いて応える。



「改めて礼を言う

助かった、ありがとう」



華佗は自身と村人、両方の事を言っているのだろう。



「お互い様だ」


「ん?、どういう事だ?」



頭を動かし、人気の少ない方へと移動して手頃な岩に腰を下ろす。



「単純に言えば迷子だ」



そう言うと華佗が驚く。



「ま、近道だと思って森を突っ切ったら山中で迷って麓へ向かっている途中で、お前を拾った

だから、お前は俺にとって天祐だって事だ」



“つまり、道案内だな”と付け加えて苦笑する。


華佗も納得したのか苦笑を浮かべている。


多少“脚色”されているが事実には変わりない。



「でだ、迷子の俺としては色々聞きたいんだが?」


「俺に答えられる事なら、遠慮は要らない」


「助かる」



本人の許可を得た所で早速質問に入る。



「先ず、此処は何処の辺りなんだ?」



敢えて“辺り”と付け加え大凡の地理を知っていると錯覚させる。



「此処は永安の北だ

益州と荊州の州境で益州の方に属している

俺達が居たのは大巴山脈の一部だな」



やはり、根が真面目なのか丁寧に答えてくれる。



「この辺りの有力な領主は知っているか?」


「仕官するのか?」


「いや、知っておいた方が“面倒”を避けられる」


「…成る程な」



思い当たる節が有ったのか直ぐに納得する。

やはり、“旅人”に対して良い状況ではない様だ。



「山脈の北側、漢中郡なら州牧の次男の劉璋だ

此処を含む巴郡は韓玄

州境を挟んで面する南郡は東隣の江夏郡と共に州牧の劉表が治めている

南の武陵は蔡瑁

北の南陽なら袁術だ」




華佗の挙げた名前を聞き、静かに思考する。


劉表、袁術は史実と同じ。

蔡瑁に関しても恐らく劉表麾下だろうから判る。


気になるのは劉璋と韓玄。


先ずは劉璋。

益州牧の次男という事は、父は劉焉だろう。

ただ、史実では三人兄弟の少子(末っ子)だった筈。

献帝(劉協)に仕えていた事自体は時期的な問題か。


次に韓玄だ。

韓玄と言えば黄忠と魏延に深く関わる存在だ。

共に韓玄の部下に当たり、劉表の麾下になる。

だが、居るのは益州。

漢中郡なら東が後々荊州に加わるから判るが…

何故、巴郡なのか。



(此処で深く追及するのは流石に怪しまれるか…)



取り敢えず次の質問へ。



「華佗、確かお前の医術は“五斗米道”だったな?」


「ああ、そうだ

お前、発音が良いな

大抵言い間違われるが…」



愚痴られそうなので直ぐに話を元に戻す。



「なら…張魯、字は公祺

この名に心当たりは?」


「なっ!?

何で師匠の名をっ!?」



驚きが大き過ぎたのか立ち上がって叫ぶ華佗。


しかし“師匠”と来たか。

どうやら“五斗米道”とは深く関わっている様だ。



「直接の面識は無い

飽く迄、聞いただけだ

師弟になるのか?」


「あ、ああ…そうだ

師匠は先代の“華佗”だ」


「“先代の”?」


「“華佗”は継名でな

代々“五斗米道”の当代が受け継ぎ名乗っている

今は俺が“華佗”で次代が継ぐまでは本名を秘匿するのが慣習になっている」



其処で華佗が言葉を切る。



「俺は師匠が亡くなる時に名を継いだ…

だから、師匠の本名を誰かから聞くのは初めてだ

少なくとも五十年は華佗と名乗っていた筈だからな」


「それはまた…長生きな」



現役で約五十年。

二十歳で継いで七十歳。

この時代なら長寿だ。



「百歳まで生きたからな」


「…長過ぎだろ」



予想の斜め上も上だ。

だが、話が逸れてくれた。



「お前の話だと一子相伝と思っていいのか?」


「ああ、そうだが…

それがどうかしたのか?」



「流派の技術は仕方無いが“氣”の使い方を教授して貰えれば…と思ってな」


「何だ、そんな事か

それ位なら御安い御用だ

“華佗”の名は渡せないが“五斗米道”の技も教えて構わない」


「…良いのか?」


「他でもない、お前ならな

まあ、流石に奥義や秘伝は無理だが…」



そう言って笑う華佗。

此方も笑顔で応え、感謝の言葉を告げた。




上半身裸で座禅をする形で華佗と対面し、静かに瞼を閉じる。



「氣を扱う為に必要なのは認識出来る事だ

認識出来無いなら氣を扱う才能は無い

これは鍛練では習得不能な天賦に因る」



そう言いながら華佗の手が腹部──丹田へと触れる。



「今から俺の氣を当てて、お前の氣を呼び起こす

氣を感じられたら成功だ」



成る程、感じられないなら諦めるしかない訳か。

この辺は各“術”の適性と同じ様な物だ。



「…いくぞ」



華佗が静かに告げた。


触れている華佗の掌の熱が僅かに増した様に感じる。


いや、熱とは違う。

所謂、生気・精気に近い。

“氣”を生命エネルギーと考えれば類似か。


一旦、思考を中止し華佗の氣に意識を集中する。


合わせた様に華佗の氣が、身体の奥へと入り込む。


何かが染み込む様な感覚。


それを辿って行くと異なる熱を感じる。

恐らく、此れが俺の氣。


華佗の氣に比べれば微弱。

目覚めたては、こんな感じなのだろう。


華佗の氣が俺の氣を捕え、手を引く様に導く。


行き先は丹田。


丹田は生体の中核。

必然とも言える場所だ。


丹田へと辿り着くと華佗の氣が身体から離れた。

これで終了だろう。


ゆっくりと瞼を開ける。



「氣は感じられた様だな」


「御陰様でな」



膝立ちになっていた華佗は腰を下ろす。



「鍛練の仕方だが…

最初は氣を使うというより丹田で“練る”事だ

内から引き出した氣を集め強くする事で認識し易くし使用に繋げる

それが出来たら氣を身体に巡らせる様にする

氣が巡る血管の様な場所を“勁道”と言う

最初は閉じているからな

焦らず、広げて馴染ませる事が大切だ」



華佗から氣の説明を受け、質疑応答を繰り返す。


五斗米道、医術、薬術等、話題は続いた。


鳥兜の根を使った強心剤の作り方には感嘆された。

此方にとっても擦り合わせ出来て大いに助かった。


尤も、服装に関しては少し困ったが。

コートは珍しいだけだが、“絳鷹”はカソックの型をしていたりする。

カソックの説明など宗教も関わるし面倒だ。

だから“故郷の民族衣装”だと言った。

納得してくれたが、華佗の将来が不安になった。


そうこうしている内に外は夜の帳が降りていた。





◇“氣”について


当作品内では“氣”に関し以下の設定を適用。



“氣”は才能・資質・総量により決定します。


◇才能

氣を認識する事です。

これが無ければ始まらず、基礎となります。


氣の認識法は主に二つ。

使用者による外部覚醒と、瀕死による内部覚醒です。



◇資質

“氣”の適性を決める要素であり、大きく三つに分類されます。


◎強化系

自身の肉体や機能を高め、俗に内功とも呼ばれます。

身体能力や治癒力の強化が代表的な例です。

氣を扱う者の内、約七割が占めるとされます。


◎放出系

氣は本来、器となる肉体の外には出ない性質を持ち、器の外では霧散します。

よって、この資質が無いと不可能です。

氣弾が典型的な例です。

外功とも呼ばれます。

全体で見て一割に満たない稀少な資質です。


◎操作系

文字通り氣を操作・変化・変質させる資質。

単体では効果が無く基本は前の二つと一緒に有って、初めて意味を成します。

複合作用が真価なのですがこの資質が有ると氣を扱う精度が高い傾向に有り。

全体では約二割。


※注意事項

資質には絶対値が存在し、個人が有する数値は最大で10となります。

これは完全に先天的な物で増減は不可能です。

また、各系統にも最大値が存在し、各10です。



◇総量

氣を扱う上で一定以上必要となります。

氣を扱えない成人(二十歳)でも量は持っています。

その量を10とした場合、使用には最低でも20程は必要となります。

これは生命活動の維持に、必要な最低量を除いた量が使用可能な量であり、生命活動の維持に必要量の倍の数値が最低使用量に当たる為です。


氣は生命エネルギーであり“命”に直結します。

その為、消耗し過ぎた時は本能が強制的に意識を奪い気絶します。

しかし、氣を扱える場合は意思により“一線”を越え死に瀕する事も有る為に、注意が必要です。


基本的に年齢と共に増減し変化します。

ただ、個人差が大きく特定するのは難しいです。

誕生時には等しく1ですが成長に伴う増加率・速度・減少率は様々。

グラフで言えば──

緩やかに山を描く者…

晩年にピークが来る者…

若年でピークに至る者…

緩やかに下降する者…

急激に衰える者…

ピーク後直ぐに衰える者…

持続期の長い者…

──と、多種多様です。




◇総括

氣には才能は当然ですが、莫大な総量を有していても資質が無ければ無意味で、どれだけ資質が高かろうが総量が足りなければ無駄と言う事になります。


資質の“割合”としていた基準は個人が最も多く有す資質を指します。


また“例外”的に資質値が異常な者も居ます。

例えば──“異世界人”の様に元の“存在の原点”が“世界”の“理”と異する場合です。

勿論、絶対とは言えませんので悪しからず。



◇五斗米道

五斗米道では三つの資質を持つ事が必須で有り総量もかなり必要とします。


自身の氣を鍼に乗せて患者へと撃ち込むので、放出は絶対に必要です。

また氣は個人により性質が異なります。

基本的に自分以外の氣は、有害でしか有りません。

ですので、患者の氣に変化させる必要が有り、操作も必要になります。

強化は自身ではなく患者の治癒力を一時的に高める為必要となります。

勿論、一人を治して終わりでは話にならない為、量も十分に求められます。

最低条件は以下の通り。

 強:1 放:5 操:2

 総量:500(一般人:5)



例:華佗

 強:3 放:5 操:2

 総量:700


華佗は放出系です。

患者の治癒力を高め治療を行う事に長けいます。

逆に細かな治療法を苦手としています。

これは作中でも有りますが“疫病や毒”に対し効果が無い事に繋がります。

勿論、“細菌”の類いにも弱い為、薬を併用する事で治療を行っています。


また強化・放出の資質値が高いので本来なら戦闘にも応用出来ます。

しかし、医者としての矜持から使う事は有りません。



この様な感じで本作は氣を定義しています。

尚、後々作中にて補足説明する事も有りますが仕様と御考え下さい。




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