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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
392/915

         弐


──十二月五日。


群雄割拠の開幕戦となった袁紹vs公孫賛。

客観的に見て袁紹の勝ちは揺るがない。

そう思う者が殆んど。

そして、その通りに戦いは“袁紹の勝利”という形で決着した。

──表向きには、だが。



「まあ、内容的に考えれば煮え湯を飲ませた公孫賛に軍配が上がるだろうな」


「ええ、そうでしょうね」



俺からの報告を聞きながら華琳は楽しそうに笑む。

まあ、殺したい程鬱陶しい存在の袁紹の実質的な敗北となれば面白くないなんて事は有り得ないからな。

本当、楽しそうだ。

因みに、そんな華琳の事を若干の怯え気味に見詰める将師の一部。

華琳程ではないが当然だと納得する者も一部。

桂花達数名だな。

華琳に負けず劣らずの良い笑顔を浮かべている。

全く興味が無い為、他人事として聞く者も一部。

…あと、何故か俺を見詰め目を輝かせる者が一部。

俺は大して関係無いぞ?

裏で梃子入れはしたが。



「…では、雷華様、幽州の方は予定通りに?」



華琳が悦に入っているので放置して話を進める為に、冥琳が訊ねてくる。

こんな状態でも情報収集はきっちり遣ってるんだから華琳も大概だけどな。



「ああ、予定通りだ」


「そうですか…

と言うか、本当に両陣営共全く気が付いていなかったというのは問題では?」


「そうでもないだろ?

確かに探っても悟られる程温い仕事はしてないが…

抑、意識が向いていない

特に袁紹陣営はな」


「…まあ…確かに…」



そう言って冥琳が見たのは他でもない華琳。

目下、袁紹が見ているのは華琳だけだからな。

他は二の次だ。

だから、楽に事を運べた。


公孫賛の方は多少は此方で意識を逸らしたからな。

尤も必要不必要に関係無く念の為、だが。

世間──と言うか、諸侯の評価程、俺は公孫賛を下に見てはいないからな。

ある意味、当然の事だ。



「…仕事が楽な事は大変に喜ばしいのですが…

張り合いが無さ過ぎます」


「贅沢な悩みですよね…」



愚痴る泉里に頷きながらも雪那は苦笑する。

複雑な心境だろうな。

軍事的に仕事が少ない事は本来喜ぶべき事。

ただ、世が世だからな。

“疼く”物が有るって事。



「しかし、本当に気付かず戦い始めるとは…

危機感が無いのか?」


「まあ、公孫賛殿の場合は判りますけどね…

長い間抑えて来たからこそ“大丈夫だ”という自信が有るのでしょうから」


「それ、慢心・過信・油断じゃないの?」



思春と紫苑の会話を聞き、当然の様に訊いた灯璃。

それには二人だけでなく、数名が苦笑を浮かべた。


お前は間違ってはいない。

ただ、少し空気を読め。

公孫賛が可哀想だから。

居たら凹んでる所だぞ。




 周瑜side──


確かに世は群雄割拠。

それは間違い無い。


しかし、それは“漢王朝”だった領内での話。

実際には、更に“外敵”が存在している。

匈奴を筆頭として、烏桓・鮮卑・羌・柢・高句麗等。

また外だけではなく内にも越・山越等の抵抗する勢力は存在している訳だ。

互いばかりを意識している諸侯は気付いてはいない。

漢王朝が終焉を迎えた時、長きに渡り彼等を抑え続け牽制していた“漢”という大国の圧力は消えた事を。

そして、今にも隠す爪牙で襲い掛かれるという事を。

全く、理解していない。

それ所か“未だに“漢”の威光が利いている”という勘違いをしている始末。


…尤も、そう思い込ませる様に仕向けては有るが。

全ては、曹魏の掌中。


先程挙げた“外敵”だが、実は全てが曹魏・曹家への帰服を決めている。

だから、動かなかった。

種明かしをしてしまえば、何と言う事は無い。

当たり前の事だ。


だが、諸侯等に気付かせず事を運ぶ事が出来たのは、雷華様と隠密衆に因る所が大きいと言える。

勿論、私達将師も同行して交渉等を行ってはいるが。



「まあ、兎に角だ

公孫賛軍は袁紹に対しての無血降伏を実行し、袁紹もそれを承諾した」


「王門という前例が有る為迂闊には公孫賛の家臣達を登用・重用はしない…

加えて離反・謀叛を怖れて宅との決戦にも投入しない

残る選択肢は北の“抑え”として今まで通り…

結果、私達は決戦に於いて気兼ね無く戦える訳ね」


「そうなるな」



何時の間にか、“戻って”来られていた華琳様が話の纏めに入られる。

何と言うか…流石ですね。

あの状態でも話を聞き逃す事が無いのですから。



「并州の方も袁紹の布告に対しての無血降伏を条件に匈奴・鮮卑を理由に戦争の不参加を提示させた

言わずもがな、并州の方は有名な(めぼしい)人材とか居ないからな

あっさりと承諾したよ」


「ふふっ、でしょうね

早めに并州に手を伸ばして置いて良かったわ」



雷華様の言葉に楽しそうに微笑まれる華琳様。

ただ、会話の内容としては少々陰険だが。


しかし、華琳様の仰有った様に并州は疾うの昔に──それこそ黄巾の乱より前に曹家の手が入っていた。

抑、皇帝陛下が存命中には既に并州は水面下で完全に曹家の実質的な領地となり目立たない様にしてきた。

この群雄割拠の中で正式に領地となれば、準備万端の政策等が始動する。

忙しくはなるが、個人的に楽しみで仕方無い。

童心に返った様にな。



──side out



 曹操side──


袁紹の実質的な惨敗。

それは私個人にとって凄く愉快な事だった。


まあ、雷華が公孫賛の将の王門に“入れ知恵”したのだから当然と言えば当然。

それでも、州境での一戦や南皮への進軍、界橋戦での最後の決め手。

これらは間違い無く彼女、公孫賛自身の功績。

臣兵達が有ってこそ、とは言ってもだ。

その人材を使い熟してこそ当主・主君という立場では評価されるのだから。



(…そういう意味で言えば公孫賛は不遇よね…

中央に居たなら間違い無く今よりも高い評価を受けて台頭していたでしょう…)



そう考えて──否定する。

そうではない。

幽州に居たからこそ彼女は現在の実力を身に付けた。

彼女を今に至らしめたのは幽州の環境なのだから。

それに恐らくではあるけど中央に居たなら台頭の前に彼女自身が潰れてしまった可能性が高い。

性格的な面も含めてね。


非凡な才能は有る。

けれど、“器”が平凡。

公孫賛は臣下という立場に居る方が花開くでしょう。

そういう意味では私的には欲しい人材ではある。

まあ、それは雷華にしても同じ意見でしょうけど。

政策方針の“大前提”上、仕方無い事よね。

華雄や張遼にしても同様の理由からだもの。



(けれど、熟思うわね…

環境次第で、良くも悪くも如何様にも人は変わる…

そういう意味で私達は実に恵まれている訳よね…)



それは、雷華というたった一人の存在では有るけれど何物にも代えられない。

雷華無しに今の私達は先ず有り得ない、至れない。


──ふと、考えてみた。

もし、私以外の下に雷華が現れていたとしたら。


孫策は私に近いでしょう。

孫家と江東の民が第一。

蓮華は勿論として、思春や冥琳達も今と同様に一緒の可能性が高い。


劉備は徹底的に変えられて教育されているわね。

先ず別人でしょう。

或いは、雷華が見限るか。

雷華の一番嫌いな質なのは変わらないもの。


他には…そうね、公孫賛。

………何故かしら?

彼女の場合、雷華と普通に幸せな家庭を築いて笑顔の絵しか浮かばないわね。

ちょっと、妬けるわ。


袁紹は………却下。

考えるだけでも腹が立つ。

と言うか、万…兆が一にも袁紹が雷華と一緒だなんて赦せない事だわ。

やはり、さっさと始末して消すべきよね、ええ。


首ヲ洗ッテ待ッテナサイ。



──side out



 荀或side──


袁家・現当主──袁紹。

末端の、一文官という立場だったとは言え、短くとも一度は仕えていた相手。

はっきりと言ってしまえば私の汚点の一つ。

消したくても消せない事。

若かった、浅はかだった、愚かだった、では済まない過ちだと言える。

出来る事なら、当時の私に説教して遣りたい。


ただ、汚点と言う程嫌でも直接的な恨みは無い。

扱いが悪かった、と言えば間違いではないけれど。

それも視点・観点を変えて考えてみれば納得出来た。


要は袁紹に“人を見る目”なんて無いという事。

信頼しているのは自分への称賛や尊敬を見せる者で、能力等は関係無い。

主君自身が強者や万能等で有る必要は無い。

それを補佐するのが家臣。

故に主君に求められるのは“人を見る目”と人を扱う器量・才能。

その何れも、袁紹は持たぬ文字通りの“お飾り”だと判れば話は単純。

仕方無い事、というだけ。

結局はそれだけの事。


袁紹の責任ではない。

そういう者だという事を、見抜けなかった私の落ち度なのだから。

ただ、その過ちを経験したお陰で現在の私が有る事も間違い無い事実。

感謝、とはまでは馬鹿でも言えないのだけれど。


だから、公孫賛との一戦の結果は予想通りだった。

それでも、嬉しく思うのは心の中では嫌いだからだと思わざるを得ない。

まあ、好きな部分など全く無いのだけれど。

…良い様に扱える?

馬鹿を言わないで頂戴。

そんな主君に仕える事自体自分自身の恥よ。

寧ろ、そんな主君を望んだ時点で私的には軍師として終わっていると思うわね。

…………ああいや、でも、い、一度位、だったらよ?

雷華様に対してあんな事やこんな事をしたりとか…………………じゅるっ……。



「……涎、出てるぞ…」


「──っ!?」



秋蘭に耳打ちされて右手の袖で口元を拭う。

…あ、危なかったわ。

流石に会議の席で妄想して惚けては居られない。



「…今度、奢るわ…」


「…なら、今度の錦幸亭の座敷を希望しようか…」


「──っ!?」



思わず声が出そうになる。

錦幸亭(きんこうてい)とは曹家直営の料理店の一つ。

しかも最高級の。

その中でも“座敷”は完全予約制の特別室の事。

華琳様で有っても予約せず入る事は出来無い。

何しろ、雷華様の直傘で、雷華様が料理人。

金額的には問題無い。

…でも、私一人で行こうと思っていたのに。

…はぁ〜…………ぐすっ…何で知ってるのよ。



──side out



…何だろうか。

微妙に、だが場の雰囲気が混沌としている気がする。


…気のせいだったか?

然り気無く見回してみても可笑しな点は無い。

桂花が凹んでいて、秋蘭が嬉しそうな位だ。



「それで結果的に袁紹軍の被害の程は?」



考えていた所に華琳からの質問を受ける。

肝心な事でも有るから当然なんだけどな。



「先ず、戦死した兵だが…約三万といった所だな

内、州境の戦で二万四千、突破した各関で計約二千、界橋で約四千が内訳だ」


「あら…界橋で意外に多く出ているみたいね…」


「いや、騎馬相手だぞ?

しかも公孫賛の精鋭だ

宅の兵達じゃないんだから当然の結果だろ?」


「……慣れって怖いわね」



沁み沁みと言う事か。

そして、お前達も同意して頷くんじゃない。

…判らなくはないが。



「で、将師に関してだが、高幹・高覧・趙叡・呂威興・韓距子・畦元進・郭昭・郭祖・張南・韓範・呂翔と討ち取られたな」


「十一人、ね…

まあ、有能な所となると、文醜と高幹達位だったから他は討たれ様とも驚く事は無いのだけれど…

人材的には残念かしら?」


「判ってて訊くなって…

高幹達は有能では有ったが袁紹に近過ぎたからな

残った文醜と郭図も宅には降りはしないだろう」



まあ、文醜は微妙だが。

ただ、宅に欲しいとは全く思わないけどな。

文醜を取る位なら公孫賛や華雄達を取るよ。



「直ぐに仕掛けそう?」


「んー…遅くても年明け、早くても二週間後だな

中核の将達、三万の兵士、加えて袁紹自身が公孫賛に貰った“執念の一撃”…

これらを加味して再び軍の体勢等を整えるのに掛かる時間は、そんな所だ」


「流石の袁紹でも公孫賛の一撃は堪えたのかしらね」


「かもな」



無邪気な少女の様な笑みを浮かべて可笑しそうに笑う華琳を見て思う。

決戦の前に袁紹が病死でもしてくれないか、と。

相当荒れそうだしな。




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